今年も最後の月となりました。
先月の本稿の「さわり」にも書きましたが、急に秋がやってきたせいで、連日の寒暖差が身に染みるほどになっております。しかしながら開業当初に経験した除雪が必要になるくらいの降雪に今年は全く見舞われておりません。でももう12月・・・いつドカ雪があってもおかしくないですよね。。。準備が大切です!
さて先日ニュースを見てましたら、「厚労省、出産前後の国保保険料を免除へ」やら「自営や非正規に出産後給付を検討」といった報道がされていました。前者については自営業やフリーランスなどの方が加入している国民健康保険で出産前後4カ月間の保険料を免除するとのことで、2024年の実施を目指すとのことです。後者については、自営業やフリーランス、非正規で働く人向けに、子どもが生まれた後の一定期間、現金を受け取ることができる制度で、今のところ月額2万~3万円を子どもが1~2歳になるまで一律に定額支給する方向で検討する方向にあるとのことです。でも会社員が加入する健康保険では、前者については既に産前産後や育児休業中の保険料が免除されていますし、後者についても育児休業中に雇用保険から賃金の最大67%が出ております。社会保険との格差について国民健康保険でも同様の措置を求める声が上がっており、やっと「重い腰を上げて」制度化の方向になるようです。両方の制度とも国としては「少子化対策の一環」とか、「少子化対策につなげる狙い」とか言っておりますが、果たしてそううまくいくでしょうか?
以前の本稿でもお話ししましたが、妊婦さんの経済的負担をいくらかでも軽減しようと、秋田県では2005年より妊婦健診の補助券を増発し、2017年には36週までの健診についてすべて補助券は支給され、今では産後1か月検診を含め産前の健診にはすべて補助券が発行されています。補助券が増発される前の2005年以前は妊婦健診の補助券は初期と後期の2回のみでしたが、その当時の合計特殊出生率(一人の女性が出産する子供の数)は1.5くらいで全国平均を上回っておりました。しかし2017年に36週までの健診で補助券がすべて発行されてからは1.3~1.4くらいで全国平均を下回っている状態が続いています。若い女性の県外流出の歯止めは効かないので、(出産適齢期の女性の減少)×(合計特殊出生率の低下)となれば、県の出生数が減少の一途をたどるのは明らかです。補助券による妊産婦さんの経済的支援を行っても、少子化の解消にはなかなか至らないのが実際のところで、「出産前後の国保保険料を免除」や「自営や非正規に出産後給付」をしても、それはすでに「二番煎じ」であり、社会保険給付者で少子化に歯止めがかかっていないのであれば、国民健康保険給付者に適応しても少子化の改善にはなかなか難しいと考えざるを得ません。
ネットで「少子化・解消」で検索すると、一般の方々へのアンケート結果がヒットし、約半数が「子育てしやすい環境づくり」と回答しています。当然と言えば当然ですが、「生む前の支援」より「生んでからのサポート」を望んでいるのです。胎児期よりも幼児期、小学生よりも中学生の方が子育ての経済的負担が多くなっています。いまは生まれてから私立大学まで上げるとすると2,000万円程の費用が掛かるとのことです。経済的課題も大切ですが、さらに重要なのは「余裕をもって子育てできる環境づくり」なのではと思ってます。小単位ではお父さんも育児休暇が取りやすい風通しの良い環境づくり、また育児の負担を一手に負い込まないような育児サービスへの容易なアクセス、さらに地域のみんなで子育てしていくという機運の醸成などなど、いくらでも切り込む余地はありそうに思われます。
歴史が大きく変わるターニング・ポイントには、「疫病・戦争・災害(または恐慌)」があるそうです。新型コロナ・ウクライナ戦争・豪雨災害や円安基調・・・2022年はほぼすべてがそろった1年でした。来年はどうか、ポジティブに回る1年であることを祈念して、今年のカプリを終えたいと思います。本稿も含め、今年もご愛読ありがとうございました。皆様よいお年をお迎えください(2022.12.1)。
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みなさん、こんにちは
先月はいきなり秋がやってきました。上旬は夏日に近い時もありましたが、昼夜の寒暖差が一気に進み、あっという間に紅葉も進んだ感じです。月末には最低気温が0度を下回るようにもなり、長期予報では平年並みとのことですが、今シーズンは冬の到来が早いような気がします。
さて先日ニュースを流し見していたところ、「2030年までに電子カルテの導入が100%!」という突拍子もないニュースにぶち当たりました!なんでも「医療DX令和ビジョン2030」という国の構想の1つなんだそうです。DXはDgital
Transformationの略称で「デジタル技術によって、ビジネスや社会・生活の形・スタイルを変えること」だそうで、厚生労働省の資料によると医療DXとは「保健・医療・介護の各段階において発生する情報やデータを、保存の外部化・共通化・標準化を図り、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること(一部略)」と定義しています。①受診者(医療保険者)の生年月日や住所といった個人情報や健診情報など、②医療機関のカルテ情報や処方箋情報など、③自治体が持っている予防接種情報や検診情報など、④介護事業者のケアプランなどを、1つの「箱」に入れて(その「箱」を「全国医療情報プラットホーム」といいます)。その「箱」に入った情報を互いにリンクさせて、各々の機関での業務の効率化を図るということらしいです。
この大きな「箱」に医療情報を入れるには、電子カルテの情報を入れればいいと・・・これは誰しも思うことだと思います。でも電子カルテの普及率が100%のフィンランドでは話が早いかもしれませんが、令和2年の段階でも日本での普及率は病院で57.2%、診療所で49.9%と、まだ半数近くの医療機関で導入されておりません。また電子カルテのタイプとしては、多くの機関で自施設にサーバーを置くタイプですが、この「医療DX令和ビジョン2030」で国が推し進めているのは、標準規格と言われる「HL7FHIR」に準拠したクラウドベースの電子カルテだそうです。すると単純に「うちの電子カルテの情報が、正しく標準規格のものに移行できるのか?」という疑問が湧きます。さらには今までのカルテ情報を標準規格に移行に係る費用、また新たな「標準型電子カルテ」の費用などなど、「不気味な出費」の影がちらつきます。これを国は「2026年までに80%、2030年までに100%」という目標で推し進めるとのことですが、先述したように国内の電子カルテ普及率は50%強です・・・あと8年ですべての医療機関で「標準型電子カルテを100%導入する」というのはいかがなものでしょう?
「電子カルテ」という医療機関側のお話を先にしましたが、皆さんになじみ深いのは「マイナンバーカードの保険証(以下マイナ保険証)利用」だと思います。これに関しても国は来年4月から医療機関では「原則義務化」という通知を出しました。しかしながら直近のデータでは医療機関でのオンライン資格確認の運用率は病院で48.1%(秋田県:58.5%)、診療所で27.7%(秋田県:29.7%)という状況です。一方、今年度の診療報酬改定でオンライン資格確認システムが導入されている医療機関で、①マイナ保険証を利用する場合は初診21円・ 再診12円の加算、②マイナ保険証を利用しない場合は初診のみ9円加算で、マイナ保険証を利用したほうが多く支払うようになっていましたが、先月からは①マイナ保険証を利用する場合は初診6円、②マイナ保険証を利用しない場合(従来の保険証を利用した場合)は初診12円とマイナ保険証を利用しないと負担が多くなるようになりました。このようにマイナ保険証を利用するよう、ポイント進呈に加え医療費上乗せでの誘導をしていますが、カードの保有率は直近で49.0%、秋田県は47.1%という現状(惨状?)です。当院では本年7月21日より運用を開始していますが、現在のところマイマイナンバーを保険証として利用している患者さんは、月に5人もいない感じです
現時点でマイナンバーカードの保有率もオンライ資格確認の導入率も、さらに電子カルテの導入率もほぼ5割という状況で、「医療DX令和ビジョン2030」をあと8年でどう達成するのか・・・というよりむしろ生命に関する最上のプライバシーに関するシステムを、こうも短期間に推し進めることは「誰得?」なのでしょう??利用者でもあり運用する立場としては、不安が尽きません(2022.11.1)。
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今年も4分の3が終わりました。
8月は本県が豪雨の被災を受けましたが、先月末は低速移動の台風によって沖縄~九州はては中部~東海地方にかけ甚大なる被害に見舞われました。被災を受けた方々にはお見舞い申し上げます。日照や降雨が不順な割には、今秋の果物をとても美味しくいただいております。その裏では果樹農家の皆様方の多大な努力があったものと思われます。当地域ではこれからが本格的なリンゴの時期です。今年もよろしくお願いします。
さて先月のニュースで、ある医科大学の入学試験において意図的に女子受験生の得点を減点することで入学数を抑制し差別的な扱いをしたとして、不合格だった元受験生らが大学に損害賠償を求めた訴訟の判決が下り、大学側に賠償を命じました。この事件が発覚したのが4年前ですから、一般の大学であればすでに卒業を迎える年数です。原告の人生を大きく左右したこの事案について、被告側は損害賠償以上の猛省をしなければなりません。
私が医学部入試に挑んでいたころからすでに40年以上の年月が経過しました。なので現在の医学部入試とかなりシステムが違いますので、的外れな話に始終するかもしれません。私が受験生の時は現在のような小論文や面接はあまり行われず、入学試験での得点がすべてでしたため、むしろ受験時に性差による差別は考えられないものでした。性別という面でみると、東京女子医大は女子学生のみ、防衛医科大学校は男子学生のみ(現在、防衛医科大学校は両性受験可能です)と数校で受験生の性別を指定していました。さらに性差以外に年齢による制限もあり、前記の防衛医科大学校の受験資格は21歳未満と明記されておりました。以上のように特定・明記されればある種納得もいくのですが、明らかな記載はないものの医学部受験生の間では「○○大学や××医大は浪人生が合格しにくい」という情報は飛び交っていました。現在は大学共通テストをはじめ入学試験の各種情報が公開されておりますので、年齢による差別もないものと思われますが、私の時代では学校からの情報公開がない上、予備校等の追跡調査による現役浪人比率をみますと、浪人生が際立って少ない学校は確かにあり、浪人生であった私は複雑な気持ちでいた覚えがあります。
今までの差別を逆から見ると、「医学部は現役男子学生の入学を望んでいる」ということになります。確かに医師という職業には「知力」と「体力」が富んでいるのに越したことはありません。医師としてこの仕事に就いていると、つくづくこの2つの重要さが身に沁みます・・・あくまでも「医師」としてです。
医師になるには医学部を卒業して国家試験に受からなければいけません。しかし医学部を卒業したからと言って、国家試験を受ける義務はなく、医師になる義務もありません。医学部はある種「専門学校」様で、医学部卒後イコール医師と思われがちですし、実際私の同級生のほぼ全員が臨床医の道を進みました。しかし「文学部」や「法学部」といった大学部の学部の一つとしての「医学部」であれば、卒業生がすべて医師になる必要はないと思えるのです。
私が医学生の頃には基礎医学の授業として「微生物学」と「寄生虫学」がありました。しかし現在のカリキュラムをみますと単独の「寄生虫学」はなく「微生物学」の特講として行われているようです。単独の講座としてなくなったのは日本で寄生虫病がなくなったからでしょうか?・・・そうじゃないですよね?海産物の生食でアニサキス症に罹患したり、北海道では今もなお狐などを介してエキノコックス症が根付いており、両者とも立派な寄生虫による感染症なのです。でも結局は基礎医学を希望する者がいないため、講座の存続ができなくなっています。基礎医学に医学部卒業生が多く進むようになれば、臨床的な知見もフィードバックされて講義への興味も増し、さらに基礎医学の土台の厚みも増すと想像できます。
先述しましたが、医学部を卒業しなければ医師にはなれません。でも医学部は「医師養成所」ではなく「医学を学ぶ学部」ですので、あらゆる差別なく人材を受け入れる学部であるはずです。そしてそれに加え基礎医学をはじめとした研究職に就いている方々の身分保障を丁寧に行うこと・・・これが今後も日本が世界と戦っていくのに必要不可欠なことと思うのです(2022.10.1)。
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みなさん、こんにちは
先月は記録的な大雨で、本県をはじめ北東北の各地域に大きな爪痕を残しました。当地区もかつてないほどの降雨量となり、隣接する大館市とを結ぶJR花輪線の復旧には1年を要するとのことです。この度の大雨で被災された皆様には、心からお見舞い申し上げます。
さて先日、アメリカ合衆国連邦最高裁判所は1973年に人工妊娠中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド」判決を覆す判断を下しました。この問題は銃規制と並び米国国民の注目を集めていましたが、結果は時流に抗ったともとられるものでした。判決の背景には国内の社会的・政治的問題もあるのでしょうけど、現状日本のシステムで診療を行っていますと、なかなか消化できない問題であると受け止めざるを得ません。
女性の生命および心身の健康を守るためには、人工妊娠中絶が必要な場合があります。日本では「母体保護法」という法律により人工妊娠中絶の安全が守られてきました。母体保護法は1996年に制定された法律で、2017年5月の本稿でも取り上げております。中絶手術を行う際には本人の同意はもちろんですが、①相手が死亡した場合、②相手が不明で特定できない場合、③性暴力下で妊娠させられた場合を除いて、同意書には「配偶者同意」の記載が必要になります。先日ニュース番組で、この「配偶者同意」について取り上げておりましたので、今月のテーマとしました。
番組では産婦人科医師に対して行った「配偶者同意」についてのアンケート結果を紹介しておりました。そもそもですが「配偶者同意」という文言自体、「母体保護法」の前身である1948年に制定された「優生保護法」を踏襲していますので、現代の社会情勢にはそぐわないと感じられていると思います。
Q1:未婚者の中絶手術の同意書に胎児の父の同意を・・・?(未婚なので法律でいう配偶者がいない)
→求める:32.5% 求めないこともある:62.4% 求めない:5.1%
Q2:既婚者の中絶手術の同意書の「配偶者同意」の記載には・・・? (胎児の父が配偶者とは限らない)
→配偶者:54.1% 胎児の父:18.2% 空欄にする:30.7%
Q3:強制性交要件による中絶手術の同意書に「配偶者同意」の記載を・・・?
→求める:9.9% 強制性交の確証なくとも求めない:47.1% 強制性交の確証あれば求めない:26.6% 当該案件手術は回避する:16.4%
という結果で、各質問での自由記載を見ると、それぞれの医師がイレギュラーな症例毎に、法的解釈に苦慮している実態が垣間見られました。
最近よく目に耳にする「SDGs(詳しくは2021.4.1の本稿を参照)」にともない、「SRHR」という言葉も見かけるようになりました。「SRHR」は「セクシャルリプロダクティブヘルス&ライツ」の略で、以下の4つの柱からなっています。
・ セクシャル・ヘルス:自分の「性」について、心身ともに満たされ、社会的にも認められていること。
・ リプロダクティブ・ヘルス:妊娠したい/したくない、産む/産まない、いずれにおいても心身ともに健康でいられること。
・ セクシャル・ライツ:自分の「性」のあり方を、自分で決める権利。
・ リプロダクティブ ・ライツ:産む/産まない、いつ/何人子どもを持つか、妊娠、出産、中絶について 十分な情報を得て、自分で決める権利。
「配偶者同意」の案件は、「SRHR」における「産まない権利」の「足かせ」になっていることは否めません。でも「権利」には「義務」が表裏一体にあると思うのです。私はそれが「胎児の父」が「妊娠を見届ける」義務だと考えています。「妊娠」という現象は女性にとって心身ともに多大なストレスになる一方で、ややもすると何もストレスのない男性は自身の責任で生じた妊娠を「他人事」としてみてしまうかもしれません。それゆえ「胎児の父」が中絶を選択する女性の気持ちに少しでも寄り添う証になるのであれば、法的拘束力のレベルを「努力義務」へ落としても、(記載条件を満たしていない症例では)同意書にサインしていただきたいと一産婦人科医として思っています。(アンケートの詳細は「人工妊娠中絶の“配偶者同意” 産婦人科医たちの戸惑い」 https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0029/topic082.html をご参照ください)(2022.9.1)。
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8月葉月です
旧暦の「葉月」は、木の葉が紅葉して落ちる月「葉落ち月」、稲の穂が張る「穂張り月(ほはりづき)」からきているといわれていますが、外を見渡すとまったくもってしっくりきません。温暖化の影響で南極では海氷面積の最小記録を更新し、またグリーンランドからは氷床崩壊のニュースが入っています。温暖化と電力供給の低下に対し省エネを目指しても、今度は熱中症のリスクを上昇させます。まさに「前門の虎、後門の狼」の状態で、もう何時までも手をこまねいている場合ではなさそうです。
さて先月中旬以降、COVID-19は本格的に第7波に突入しました。目を見張るのは、今までの流行並みに比べ並みのすそ野が狭くて波高・・・つまりあっという間にかなりの数の感染者が出ているということです。昨年のデルタ株の流行時と比較し、重症病床数に切迫感は出ていませんが、母集団が大きいと当然安心はできません。感染者数の急増から、保健所も従来通りの濃厚接触者の追跡は困難となり、軽症感染者は自宅療養、濃厚接触者の観察期間も短縮化・・・となると、もともとのウイルスの伝搬力が強いですから感染者数の急増は火を見るより明らかです。では4回目のワクチン接種を!・・・となりまして、私も適応があり4回目の接種を行いました。接種後発熱以外の症状はなかった(注射部の痛みはあったんでしょうけど、服薬のためはっきりしませんでした)のですが、39.2度まで熱発し自宅療養でフォローしていたCOVID-19の患者さんと「どっこいどっこい」でした(むしろ私の方が熱は高く服薬回数も多かった)。「隣の垣根・・・」じゃありませんが、「ワクチンを接種した方がどうして・・・」とも感じてしましました。
そうこうCOVID-19に振り回されていると、背後から「第2の刺客」が襲い掛かってきます。そう・・・「インフルエンザ」です!昨年、一昨年はCOVID-19の流行がメインで、インフルエンザについては無視できるほどの患者数でした。しかし今シーズンはそうはいかない・・・柳の下にはそう何匹もドジョウはいるわけではなさそうです。そこで今月の本稿は「2022シーズンのインフルエンザ」についてお話していきます。
2010.11月の本稿でもお話ししましたが、現在のインフルエンザワクチンは3価ワクチンといい、インフルエンザウイルスのA型・B型といった「株」の3種に効果があるワクチンで、通常「季節性A型」「季節性B型」「新型インフルA型」の3株について作成しますが、そのもととなる株は季節が逆である南半球における直近の流行株をもとにワクチンを作成します。一昨年・昨年とも南半球でインフルエンザの流行がなかったため本邦でも流行はなかったのですが、今シーズンはオーストラリアで4月以降、流行がみられることから、日本ワクチン学会では、今シーズンのインフルエンザ予防接種を「強く推奨する」としています。
すると最悪の場合、インフルエンザとCOVID-19の同時流行で今よりもさらに重症患者が続出して、大変なことになるのではないかという心配が高まると思います。この点について研究した論文をみますと、A型インフルエンザに罹ったハムスターにおいては1週間以上新型コロナウイルスの増幅が抑制されていたというデータが出ており、「インフル+コロナの同時感染は人類の脅威にはならない?」と推察しています。でも今の状況はCOVID-19流行下にインフルエンザが入ってくるという、「研究の逆パターン」ですので、同じ結果が成り立つと軽々と言えないかもしれません。
インフルエンザのワクチンでもう一つ興味のある報告がありました。それは「インフルエンザワクチンの接種がアルツハイマー病予防の一助に?」という米国からの報告です。65歳以上の高齢者で4年のうちに1度でもインフルエンザの予防接種を受けた方は非接種者と比べ、アルツハイマー病の発症リスクを40%に減じたというものです。報告者も、「インフルエンザワクチン接種はアルツハイマー病発症の阻止を保障するものではない」というものの、「インフルエンザワクチンの重要性をさらに高めることになりそうだ」と話しています。
今シーズンのインフルエンザワクチンも昨シーズン同様、初回出荷と2回目出荷との間に若干タイム・ラグがあるとの卸問屋さんからの情報もあります。タイム・ラグはありますが昨シーズン同等以上の供給量はあるようです。インフルエンザワクチンは不活化ワクチンですから、コロナワクチン以外のワクチンとは接種間隔制限はありません。但しコロナワクチンとはどちらが先と関係なく「中13日」の間隔をあけて接種するようにしてください(2022.8.1)。
※ 7.22の情報ではコロナワクチン~インフルエンザワクチンとの接種間隔の制限は撤廃され、同時接種でも構わないことになりました。
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7月に入りました。
今週は例年にないくらい各地で梅雨明けが早々に宣言され、40度を超す猛暑に見舞われたところもあります。これだけ暑いと6月は「水無月」と呼ばれても当然、と思いたくなるところですが、どうも「水無月」の「無」は「の」の意味で、「水の月=田んぼに水を引くような時期」とのことで「水が干上がるほど暑い時期」ではなさそうです。確かに近年の暑さは人間活動による気象変動といわれていますので、6月でこの暑さなら7,8月はどうなることか・・・今から不安と憂鬱と入り混じっています。
さて、昨年度も、そして今年度に入ってもなお、日常診療を行う上で薬の供給が不安定になっています。当院は院内処方と院外処方をしておりますが、院内処方するお薬は内服薬・外用薬合わせて120種くらい、それに注射薬を合わせますと170種類のお薬を抱えております。当院の院内在庫にある薬剤について、最近ではコンスタントに週1~2種の薬剤に対して、供給停止や出荷制限などの通知が来ています。薬剤の安定供給がなされないことは、安全・安心な医療を提供する土台を揺るがしかねない問題です。そこで今回は、「どうしてお薬の足りない事案がたびたび起きているのか?」について、お話ししたいと思います。
まずベースにある問題は「ジェネリック医薬品の供給低下」があります。ジェネリック医薬品については2008年度から積極的な使用が勧められてきました。行政の指導の下、価格が安いのに先発薬と同等の効果が得られるということで、次第に医療者側も患者さん側もその使用の敷居が低くなり処方数も増加してきています。しかし一昨年、異薬混入によって死亡例も含む健康被害が生じたり、承認外の手順で製薬したりしたことで、業務停止命令が下ったジェネリックメーカーがありました。これらの会社が業務停止になったことで他社にしわ寄せが行っても対応ができなかったり、実は業務停止になった製薬会社へ薬剤の製造を委託し自社名で販売してたりしたことが、「玉突き事故」のように不安定な供給に拍車をかけることになりました。さらにこの問題を受け、各ジェネリックメーカーが自主点検したところ、販売に至るまでのチェック項目に不備を認め、その結果出荷停止に加え既に市販された薬剤まで回収される事態にもなりました。国を挙げてジェネリック医薬品の普及を推し進めたところにこのような事件が起これば、医療者側としてはジェネリック医薬品に対する普及前の疑念が再燃し始めるきっかけになりかねませんし、処方を受ける患者さんは常用薬の欠品に戸惑い、さらにはくすり自体への不安感も招いたのではないかと思います。
上述した状況に加えて供給の不安定を悪化させる要因として、世界的な新型コロナウイルス感染症の蔓延や、ウクライナ紛争などの問題があります。つまり薬剤 の原材料の調達=サプライチェーンが機能不全を起こし未だ十分回復していない状況であることです。現在ウクライナ紛争によるエネルギー問題が注目されていますが、他の製造業同様、製薬にも燃料が必要であるのは当然ですが、原油から抽出される物質が多くの医薬品の原料にもなっています。ロシアが石油生産量の世界第2位であることは、原材料の調達がいかに深刻な問題か理解していただけると思います。
以上のお薬の問題は全診療科に共通する問題ですが、新年度に入って婦人科だけさらに別の理由での供給制限が生じています。それは不妊治療の健保適応による、ホルモン剤の保険適応拡大によるものです。今まで生殖補助医療において自費扱いになっていた薬剤が、「生殖補助医療における調節卵巣刺激の開始時期の調整」の理由で保険が利くようになり、需要が増加したことによります。生殖補助医療を受ける患者さんには朗報なのですが、それ以前から服用している患者さんには供給制限が入ったことにより薬剤変更を余儀なくされる事態も日々の臨床現場で生じています。
ジェネリックの使用を勧奨して約15年・・・国が旗振りで行った結果が「安かろう~悪かろう」では、医療者側も患者さん側も「シャレ」になりません。当院では採用していたジェネリック医薬品の一部を先発品に戻しました・・・安定供給は望めますが、そのことで結局患者さんには経済的負担をかけることになってしまいました。ジェネリックを主とした医薬品が再度医療者側、患者さん側から改めて安心して受け入れられるために、国には①安定した原材料のサプライチェーンの確保、②製造から流通までの行政による厳格な監視、③需要を見据えた適切な政策の立案が要求されるのではないでしょうか(2022.7.1)。
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早いもので今年も半分まで来ました。
2年ぶりに縛りのないゴールデンウィークの後は、どのような感染状況になるだろうと戦々恐々でしたが、どこも蔓延防止重点地域になることはなく、かといって劇的に改善するわけでもなく、COVID-19の感染が続いています。マスク着用の取り扱いが幾分緩くなりましたが、これから本格的な夏を迎え、どのような感染状況になるか引き続き注視していくことになりそうです。
日常生活が少しずつ正常化していくにつれて、リモートワークから対面に戻っている職場も多数あることでしょう。リモートワークのシステムが一気に広まったのは、COVID-19の「副効用」かもしれません。先日女性医学関係の論文で就労に関連するものがあり、興味がありましたので今回はそれを紹介したいと思います。
論文はカナダの研究者が発表したもので、「シフト勤務を経験したことのある女性は、閉経が遅れる可能性がある」というものです。研究は3,688人の未閉経の女性について3年間の追跡調査を行っています。ここでの「シフト勤務」とは、「夕方あるいは夜間の勤務、ローテーション制の勤務、不定期またはオンコールによる勤務」を指しています。シフト勤務に従事していたのは対象の約20%であり、シフト勤務がある女性では、日中に仕事をしている女性に比べて閉経が遅れており、特にローテーション制のシフト勤務が長い女性では閉経の遅れとの強い関連を認めたとのことです。私は論文の結果から読み始めたので、「定時の勤務より勤務時間に波があった方が、日々の生活への刺激になって更年期の始まりが遅れるのかなぁ」・・・なんて、のんきなとらえ方をしていたのですが、どうもそうではなさそうです。
「シフト勤務が閉経の遅延をもたらす」背景には、どうやら「体内時計」が関与しているようです。ヒトの身体にはおよそ25時間で1日となる「体内時計」が備わっており、意識しなくても日中は心身が活動状態になり、夜間は休息状態に切り替わります。この体内時計は朝の光刺激でリセットされ一定のリズムを刻みます。体内時計の中心は、脳の底の方にある「視交叉(さ)上核」という部位にありますが、その近くに松果体(しょうかたい)と呼ばれる部位があり、そこからメラトニンというホルモンが分泌されます。メラトニンは別名「睡眠ホルモン」とも呼ばれており、朝が来て光刺激が強まると体内時計がリセットされ、そこからの信号でメラトニンの分泌が低下し、目覚めてから14~16時間くらい経過すると再度体内時計からの指示でメラトニンの分泌が増え、休息に適した状態に導かれ眠気を感じるようになります。しかしシフト勤務に従事していると、夜間でも強い光刺激を受けるようになるため、体内時計が乱れてメラトニンの分泌が低下することになります。メラトニンの分泌が低下すると、排卵や生殖機能に影響する可能性が複数の研究で示唆されていることから、閉経の遅れに関与していると推察しています。
それでは閉経が遅れるとどのようなメリット・デメリットがあるのでしょう?本稿でもたびたびお話してきましたが、閉経が遅れるということは卵巣からエストロゲンがしっかり分泌されていると解釈できますので、メリットとしては脂質異常症(←肝臓での脂質代謝の補助)や骨粗鬆症(骨吸収の抑制に働きます)といった生活習慣病の発症を抑制します。一方で子宮体がんや乳がん、甲状腺がん(エストロゲン依存性に進行)、卵巣がん(排卵回数が多いとリスク)といった悪性腫瘍発症のリスクを高めるのがデメリットといえます。
今回の論文では「シフト勤務」をいう大きな枠での検討だったため、シフト勤務別の検討やその回数、またその女性について体型や喫煙などの嗜好品、また母乳育児の有無などの因子との関わりについては検討をしていません。これらを検討することにより、より詳細な「シフト勤務」による閉経への影響がわかってくるでしょう。著者は言っています「シフト勤務がなければ社会が成り立たない。しかし、シフト勤務が女性労働者の健康に与える影響を看過すべきではなく、女性自身が、この勤務形態が自分の健康に及ぼす影響を認識するべきだ」と。勤務形態も多様性のある現代、その形態が自身の健康に及ぼしうることを踏まえて、定期的な健康診断などでリスクを未然に摘むよう努めないといけませんね(興味のある方は原著論文です:Durdana
Khan, et al. Menopause. 2022 Mar 25.)(2022.6.1)。
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みなさん、こんにちは
ゴールデンウィークの真っ只中です。仕事によっては休みの取り様で10連休以上にもなるそうですが、当院のお休みはカレンダー通りとなっています。以前の本稿にも記したと思うのですが、当院は隣県の弘前市へも30分ほどで行けるところですので、GWとなると弘前公園の桜を見に出かけておりました。ただ今年はソメイヨシノの満開が例年より1週間ほど早かったようで、ベストと言える時期に訪れることができませんでした。でも種類によってはまだ楽しめるそうですし、桜まつりもGW期間中開催しているとのことですので、足を伸ばしてみようと思っております。
さて、前回の本稿では本年度の診療報酬改定について不妊症に関連にしたお話をしましたが、今回は情報通信に関連したお話をしたいと思います。最初は「オンライン診療」についてです。情報通信機器を用いたオンライン診療について、以前は「医療機関と患家との距離がおおむね30分以内」などの制約があったため、なかなか門戸が広がりづらい状況でしたが、図らずもCOVID-19の蔓延がオンライン診療を後押しする形になりました。新たな診療報酬改定では、懸案事項であった初診からのオンライン診療についても評価されるようになりました。ただお分かりの通り、実際の受診と比べオンライン診療では診察・治療する上で得られる情報が限られますので、いままでの受診歴や紹介状がない場合は、診察にあたって患者さんとの合意が得られていることがオンライン診療を行うにあたり重要になります。そしてその合意にあたっては、各医療施設の「オンライン診療計画」にも同意することが求められます。診療計画の項目は決められており、どのような機器を使用するか?急変時の対応、情報漏洩のリスクなど9項目にわたっております。今回の改定ではオンライン診療における初診料は対面診療の87%、また再診料や外来診療料は対面と同等の価格で設定されました。一見、「わざわざ病院に行かなくていい上、ちょっと割安♪」と思われるかもしれませんが、診察に係る通信費、さらに処方箋や薬剤の配送、診察費決済システムのサービスは個々の施設での自費請求となりますので、通院の手間はない分、対面診療よりは出費がかさむことも知っておいたほうが良いと思います。
次は「オンライン資格確認システム」についてです。これについては2020年9月の本稿でお話しした、「顔写真付きマイナンバーカードが保険証にもなる」というものです。昨今のコロナ禍ですべての医療施設は日常診療における感染症関係の負担やノルマが増加していますが、それはそれということで、お上は手綱を緩めず予定通り今年度末までにより多くの施設でシステム導入を図りたいようです。マイナンバーカードが保険証として利用されることによるメリットは、過去の本稿に上げましたように、保険証情報に加え、特定健診のデータや薬剤情報もオンラインで閲覧できることから、重複した検査や投薬を回避できたり、大規模災害被災時において最低限の医療情報を速やかに得られたりするメリットがあります。ただ患者さん側としては、マイナンバーカードを保険証として提出した場合、初診料に21円、再診料に12円が月1回診察料に加算されます(実際は他の項目と合算して10円未満は四捨五入)。そうなると自然にある疑問が湧いてきます・・・「なぜ便が良くなったのに診療費が高くなってしまうの?」と・・・。netの世界でもそんな意見が飛び交っていました。
まぁ確かにそうなんですが、私はこの問題は「高速道路」と同じと考えています。一般道で行くより高速道路だと時間はかからないし、歩行者のストレスもありません。その利を受けるために通行料を支払い、その通行料は建設費や維持費に充てられています。当院も遅まきながらシステム導入の準備をしておりますが、導入から運用にかかる経費は後に支給される補助金の倍額も要してしまい、その後も維持費が必要となります。それゆえ患者さんにも「受益者負担」をお願いすることになる・・・と言ってしまえばそれまでですが、マイナンバーカードより得られる医療情報は、皆様のより良い診療の一助になることは間違いありません。コロナ禍や紛争のせいで、昨今どの家庭においても経済的な負担がのしかかっていることとは思いますが、診療上の恩恵を十分ご理解の上、(当院だけではなく医療機関全体での)システム導入についての診療費負担につき、どうかご納得のほどお願いいたします。(2021.5.1)。
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みなさん、こんにちは 新年度となりました。
2月の豪雪は3月の暖気で一気に溶けて、本格的な春の到来を心待ちにさせましたが、3.11直後に再度大型地震が襲い、寒波も襲来しました。オミクロン株による感染者数は高止まりといってもいいくらいの、なだらかな右肩下がりですし、ウクライナ侵攻はいろいろな形で私たちの生活に影響を及ぼしてきています。「紛争と感染症」・・・今まで人類が幾度となく経験してきたものですが、改めて私達現代人の英知が試されている気がしてなりません。
さて今年は「診療報酬改定」が行われます。以前の本稿でもお話ししましたが「診療報酬」とは、皆様が支払う医療費の「公定価格」です。2年に1度価格の見直しを行ったり、新たな医療技術に対する価格を設定したりします。皆さんもすでにニュースなどで耳に入っていると思いますが、今回の診療報酬改定の「目玉」に、「不妊治療への保険適応」があります。前の菅内閣が一昨年に提言した政策が新年度から施行されますが、今回はそれについてお話していきます。
妊娠を望まれる方が受診されましたら、諸検査ののちにタイミング法を行い、その後排卵誘発剤などを併用してタイミングを計っていきます。ここまでが従来の保険診療で賄えられる範囲ですが、それでも妊娠に至らない場合は人工授精、さらには体外受精となります。体外受精の中には卵子の中に直接精子を注入する顕微授精という技術も含まれます。人工授精からは健康保険が適応とならず、体外受精以上の医療行為は「生殖補助医療」と呼ばれ、高額な医療費が発生します。そのため今までは各自治体が「特定不妊治療」という名目で助成金を支給していましたが、新年度からは顕微授精までの医療行為に対して健康保険が適応になることになりました。さらに今回の改定では、男性不妊に関する手術等についても保険適応されることとなりました。保険適応となることによって、今まで自治体が行っていた特定不妊治療助成金は廃止されることになります。ただ移行措置として、年度をまたいで生殖補助医療を受けられている方には、新年度に入って行う1回目の治療だけは補助金の支給対象になります。また保険適応となっても、生殖補助医療に関する年齢・回数制限等は助成金の時と変わらず、受精卵の胚移植については治療開始年齢が40歳未満の場合は6回、40歳以上43歳未満の場合は3回までとなっています。
不妊治療に保険適応がされる場合は前述したような受診者の年齢や回数の制限が示されましたが、治療する施設についても施設基準が設定されました。人工授精までの治療に健康保険が適応される施設は「一般不妊管理料」が、体外受精よりの従来の生殖補助医療に健康保険が適応される施設は「生殖補助医療管理料」を算定できる施設でなければならないとなります(治療中、一般不妊管理料であれば3か月ごと750円、生殖補助医療管理料であれば毎月750~900円が治療費に加算されます)。「生殖補助医療管理料」算定のための施設基準については、今までも産科婦人科学会の施設登録といった「縛り」がありました。しかし「一般不妊管理料」は今回の改定で新たに創設されたものです。その施設基準は以下のようなものです。①産婦人科(産科・婦人科)・泌尿器科を標榜していること、②標榜診療科につき5年以上の経験を有する常勤医師が1名以上いること、③不妊症に係る診療を年間20件以上実施していること、④生殖補助医療管理料の届出を行っている、もしくは届出を行っているほかの施設との連携を構築していること、です。
いままでも当院では不妊症で治療中の患者さんに、適応があれば自費となりますが人工授精を行っておりました。この「一般不妊管理料」が新設されたことで、改めて当院の状況をみますと、不妊症で通院されている患者さんで年間20人のラインを満たすことはできませんでした。従いまして当院で不妊治療中の患者さんに「一般不妊管理料」は発生することがありませんが、人工授精のご希望の患者さんには従来通りの自費診療ということになってしまいました。私としては「一般不妊管理」も、当地域のような地方診療所ではすべきではないといわれたような気がして、少々落胆しました。そして分娩もそうなのですが、不妊治療においても「集約化」の流れにあるかもしれません。しかしながら施設基準を満たさないからと言って不妊症の診療をやめると言うわけではありません。当院として「身の丈に合った」診療を、患者さんのニーズがある限り行っていきたいと思っています(2022.4.1)。
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3月になりました。
先月は小正月が過ぎても気温が上がらず大雪に見舞われる日が続きましたが、月末より一気に春めいてきました。冬季オリンピックというビックイベントがあったものの大雪とコロナで閉塞感に満ちていた2月でしたが、春への移り変わりとともに社会全体がポジティブに向かっていくことを願うばかりです。
一般企業と同じように私たちの業界でも、このコロナ禍の中においては学会・研究会・講習会などは対面でなくオンラインで行われております。ほぼ1年間、本稿ではコロナ関係の話題が続いていましたが、今回はオンライン研究会や講習会での話題を紹介したいと思います。
皆様もニュース等で耳にしたと思いますが、「経口妊娠中絶薬」・・・これが日本でも解禁になる方向で進んでいます。ピルや緊急避妊薬同様、諸外国では以前より使用されていたものが、3年ほど前より国内での臨床試験が行われ、昨年末に承認申請が出されました。従来の流れでは申請薬剤は1年ほどで認可されますので。本年の秋ころより「飲み薬による妊娠中絶」が行われそうです。手術から薬剤による妊娠中絶により、今までと何が変わるのでしょう?(これから紹介することは現時点での知見ですので、実際上市されたときには、変更点が出てくるかもしれません)。
●どの週数にも適応になるのか?・・・臨床試験では妊娠9週0日以内で行っていました。この週数については上市されたときに変更になっているかもしれません。
●薬局等で購入できるのか?・・・当然できません。妊娠中絶をさせる薬剤は実は以前よりあります。ただそれは妊娠12週以降の中期中絶に入院の上使用する薬で、麻薬同等に管理されています。当然経口薬も納品から服用・廃棄まで追跡できるような厳しい薬剤管理が要求され、その処方も母体保護法指定医師に限られます。
●飲み薬による処置なので手術より安くなるのか?・・・それはそうはいかないようです。予定価格を聞いて正直私もびっくりしました(確定価格ではないので提示は差し控えさせていただきます)。飲み薬というアクセスの良さはありますが、だからと言って低価格になるというものではありません。
●病院受診したらすぐに処方して飲めるのか?・・・これもそうはいかないようで、服用に際しての検査や同意書が済んでからの服用となります。経口妊娠中絶薬は妊娠の維持に大切な黄体ホルモンを遮断するミフェプリストンという薬と、子宮収縮薬であるミソプロストールからなります。ミフェプリストンを服用後、36~48時間後にミソプロストールを服用します。ミフェプリストンは医師の面前で服用後に一旦帰宅、ミフェプリストン服用時は妊娠内容物が排出するまで原則入院となります(発売して1年間は入院設備のある施設での処方となるそうです)。
●成功率と副作用は・・・ミフェプリストン投与8時間までで90.0%、24時間までで93.3%、24時間経過しても排出されないものは手術対応になります。軽度から中等度の有害事象の発生率は59.2%、よく見られるものは下腹部痛(30.0%)・嘔吐(20.8%)でした。
以上、現在までわかっている知見をお示ししました。諸外国では発売直後は1~2割で、その後は約半数が薬剤による中絶を選択しています。逆に捉えると薬剤で中絶可能になっても半数が従来の手術法を選択しているということです。その背景として、①多くが日帰り手術で完結するものが薬剤では服薬に数日縛られる、②妊娠排出物についての取り扱い・・・手術では目にすることはなかったが、薬剤によると排出物を必ず目にすることになる(今後安全性が確認されれば、入院という縛りがなくなることもありえます。そうなると自宅で排出したものを原則医療機関に提出することが求められるようです)。このことがトラウマとして心的外傷後ストレス障害PSTD等の誘因になりかねません。正しく服用することで利便性の高い薬剤であると確かに思います。しかしその選択に当たっては現状のライフスタイルと今後の自分について十分考慮する必要がありそうです(2022.3.1)。
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みなさん、こんにちは
ラニーニャ現象のため予測はされていましたが、年末からの寒波は「長っ尻」で日本列島に居座り、日本列島が低温と大雪に見舞われています。低温の大雪だと雪掻きする立場とすれば、雪が軽くて助かることは助かるのですが、でも物には限度というのもありまして、院内の駐車スペースを狭める大雪はもう勘弁してくれと、心の中で叫んでいる毎日です。融けてなくなるものにお金も労力も費やされる毎日に、誰に言うでもなく愚痴っていますが、どうにもならないですよね・・・
さて、今月こそコロナと無縁なテーマでお話を…と思っておりましたが、なかなかそうはさせてもらえません。ご承知のようにオミクロン株による感染が猛威を振るっており、連日多数の感染者が報告されております。確かにオミクロン株による感染は上気道感染が主なので、肺炎から人工呼吸器管理となる重症例はデルタ株に比べ8分の一程度とも言われています。でも分母が大きくなれば、それに伴い重症~死亡例も出てきますので、軽症例優位といっても、その感染力の強さを考えると決して侮ることはできません。オミクロン株による感染が席巻しているなか、先月妊婦おけるCOVID-19に関する報告がいくつか出されましたので、本日はそれについて紹介したいと思います。
2020.10月の本稿でCOVID-19に罹患した本邦の72人の妊婦さんの報告についてお話ししましたが、先月さらに人数を増やして187人の妊婦さんについて解析した結果が報告されました。187人の妊婦さんのうち肺炎以上の中等症~重症となったのは9.6%で、同年代非妊婦の4.9%の2倍近くとなっていました。妊娠時期で見てみますと、中等症以上になった妊婦さんは初期で6.9%、中期で34.5%、後期で58.6%と、妊娠時期が進むにつれて病状が重くなる結果となりました。その背景として、妊娠子宮が大きくなると胸とお腹の境にある横隔膜が押し上げられて、妊娠していない時と同じような呼吸ができないことが大きな原因と考えられています。
では妊娠の経過はどうでしょう。これも2020.10月の本稿では「早産率は17%で一般的な6%より高率でしたが、2例だけでしたので高率と言い切ることはできないと考えます」と書きました。先月半ばに英国から報告された87,694人の妊婦さんを対象にした研究では、早産率は16%と通常の2倍程に上り、さらに死産と合わせた新生児死亡は2%とこれも4倍程に上っていました。COVID-19は流産率には影響及ぼさないものの、妊婦の感染によって早産や死産のリスクが増大する結果となりました。
「妊娠中・後期にCOVID-19に罹患すると重症化リスクとなり、早産・死産のリスクが上がる」ということになると、予防ということに目が向けられます。最近学会から発表されたCOVID-19ワクチンについて妊婦さんへのアンケート結果を見ますと、発熱・倦怠感といった一般的な副反応は妊婦さんだからといって増加していたということはありませんでした。産科的な症状についても検討されていますが、おなかの張りや子宮の痛みは3%、出血・胎動減少・浮腫・血圧上昇・破水などの重大な症状は1%以下であり、総じて自然発生率と相違なく、今まで使用したことのないmRNAワクチンであったが、妊娠経過に影響を与えるとは言えない結果が出ました。
昨年まではCOVID-19に罹患すると入院~点滴治療という流れでしたが、今年に入り発症間もない軽症例では外来でも投与可能な経口薬が処方できるようになりました。ラゲブリオという抗ウイルス薬ですが、残念なことに妊婦さんには使用できません。そうなると頼みの綱はやはり「ワクチン」ということになります。先月半ばに学会では妊婦さんへの3回目ワクチンの優先接種の要望書を国に提出しました。「オミクロンは重症化しない」ことを過大評価せず、ワクチン追加接種による免疫力の向上、またもし接種が無理であれば妊婦さん周囲の方々がしっかり接種を行うということで、妊婦・赤ちゃんを感染から守ってください(2022.2.1)。
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みなさま、あけましておめでとうございます。
昨年はコロナに始まりコロナで終わった一年でした。本稿を振り返ってみても、語句の多寡はあれ、毎月「コロナ」や「感染」を書かなかった月はありませんでした。年末からオミクロン株の市中感染も各地で報告されており、欧米の様に感染が急拡大することも覚悟しないといけません。年が明けると3回目のワクチン接種が始まり、加えて小児への接種も開始されます。そしてワクチン接種と同時に経口薬の普及も行われそうです。現在までの情報によるとデルタ株に比べ感染力は強いですが、重症度は低いようです。ワクチンと経口薬でどの程度感染をマネジメントできるか?・・・今後コロナと「共生」していく「試金石」になりそうです。
年始の本稿は、縁起物にかけて話題作りをしていました。毎年何と何を絡めて話を進めていこうかと師走から頭をひねっているのですが、今年は案外すんなりと決めることができました。今年は「松竹梅」の「梅」を引き合いに話を進めていこうと考えたのですが、でも話の内容はどうも正月早々にはふさわしくないものでして・・・
2017年の本稿でお話しして以来、都度都度本稿で紹介しているのですが、年始早々またまた梅毒の話題を取り上げます。本稿で取り上げた2017年の秋田県の梅毒発生届け出件数は8件でしたが、その後16→28→80件と著しく増加しました。昨年末の速報値では38件と2000年と比べ半数以下にはなりましたが、東北で見ると宮城、福島に次いでワースト3という状況です。本県では減少となりましたが、全国的にみると第3四半期超の届出数が5,816例と2020年の同期に比べ1.3倍と増加し、1999年の感染症法施行以来最悪の状態となっています。年齢別で検討しますと、男性は多くが20〜54歳の各年齢群より報告されている一方、女性では20〜24歳が最も報告数の多い年齢群でした。
若年の女性層での感染拡大の背景として、長期のコロナ禍による飲食業をはじめとする多くの失職者や、学費納入も困難な学生などが経済的困窮を改善するため、比較的短期間で高額な収入が得られる風俗産業に手を染めている実態が理由として挙げられています。しかし風俗産業も他業種と同じようにコロナ窩で客足も伸びず苦戦しており、従事したからといって現状では満足のいく収入が得られない状況です。そうなると、「地下に潜って」非合法な風俗業となるわけですが、合法ではないので定期的な性感染症の検査もなく、また体調が思わしくなくても経済的理由のため受診ができないまま別の人に感染させる悪循環によって感染者数が増加していると考えられます。
梅毒は適切な診断のもと速やかな治療を受ければ、治癒する病気です。治療は抗生物質で行いますが、従来は経口薬と点滴薬しかありませんでしたが、昨年には世界的な標準治療薬である筋注製剤も遅まきながら本邦での使用が承認されました。抗生物質で治療できるといっても、COVID-19の様に梅毒にならないためのワクチンはありませんし、過去に梅毒になったからといって再度ならないようにするための抗体もないため、何度でもかかってしまう恐れがあります。さらに最近の知見では、進行期症例と言われている神経梅毒ですが、実は感染初期から神経浸潤が起きていることも示唆されています。
以前もお話ししましたが、質の悪いことに梅毒は①画一的でない多彩な症状を示す、②「痛い」「かゆい」といった症状がほとんどない、③放置しても症状は自然と消失するが病状はさらに進行する、という特徴があります。梅毒という病気がこのコロナ禍で蔓延しているということを若年女性へ情報提供することに加え、医療外からは生活基盤が安定するような強力なセィフティー・ネットの構築が早急に求められます。同時に梅毒をはじめとした性感染症にならないようリスキーな性交渉は避けるということを、性教育講座を通じて啓蒙していく必要があります。
COVID-19への対応に加え、梅毒のこと、再開した子宮頸がんワクチン、さらにはオリンピックを開催する中国では出血性感染症のためロックダウンを行ったというニュースも入ってきました。何か今年も感染症に右往左往するような一年になる予感が少なからずします。しかしながら3密を回避しマスク手洗いといった基本的感染予防対策、またリスキーな性交渉をしないという性感染症全般への対応は従来と何ら変わることはありません。一人一人が意識することで、「うつらない・うつさない」環境を一歩ずつ進めていきましょう(2022.1.1)。