早いのか遅いのか、今年も年末となりました。
 上のように書いたのは、COVID-19が猛威を振るっている間は、抑圧された感じで時間の経つのが遅い感じがしました。しかし緊急事態宣言も解除され、徐々に今までの「しめつけ」が解除されていくと、それまでに比べ時の進みが早いように感じられます。でもこれって、私だけの感覚かもしれませんね。日本では感染の減少傾向が継続していますが、隣国の韓国やオーストラリアでは、いまだ猛威が沈静化していません。国内においてはいろいろな縛りは緩くなってきていますが、世界に目を向けるとまだまだ緊張感をもって過ごしていかないといけないようです。
 さて前回の本稿では子宮頸がんワクチン接種について積極的接種を勧めることを再開する方向になってきたとお話ししましたが、先月の12日に正式に子宮頸がんワクチン接種の積極的勧奨の再開が決まりました(正確には「定期的勧奨を差し控えることを終了する」という表現です)。再開に至る8年間を振り返ると、全国のワクチン接種率は1~3%と低率でしたが、これからは接種率の上昇、ひいては子宮頸がん患者さんの減少が期待できるでしょう。
 積極的勧奨の再開の背景には、ワクチン接種による子宮頸がん抑制効果が国内外から研究成果として報告されたこともあります。これらを踏まえ、「定期的勧奨を差し控えていた期間」に接種対象者であった方々からも、公費補助による接種希望が多く寄せられていました(当然ですが現時点で接種を行うとなるとすべて自費負担になります)。この点に関し、先月の15日に、子宮頸がんワクチンの積極的勧奨の差し控えにより接種機会を逃した人への対応が検討されました。このような遅れを取り戻す対応を「キャッチアップ接種」というのですが、現時点として、対象者は最大で1997年度生まれで2021年度には24歳になる人から2005年度生まれで同年度に17歳になる「9学年」を範囲で、接種対応期間(キャッチアップ期間)は、3年程度という案が出されています。接種機会を逃した方々について非常に朗報と言えますので、是非とも接種を検討していただきたいと考えます。
 話は変わりますが、COVID-19も沈静化したこともあり、先月久々に全国学会に参加してまいりましたが、そこでも「子宮頸がんワクチンの積極的勧奨」が話題となっていました。一般の皆様も私たちもやはり「ひっかかる」のは前回の本稿でもお話ししましたが、「ワクチンが原因という科学的根拠が認められない接種後の神経症状」だと思います。そこで拝聴した講演では、「痛みの破局的思考(pain catastrophizing)」という理論が解説されてました。それは「長期にわたる慢性疼痛により、不安や抑うつ、怒りなどの感情から物事を否定的に捉えやすい状態に陥り、痛みに関する体験を否定的に捉えてしまう考え」です。これはワクチン接種に限ったことではなく、腰痛や膝痛など身近な「痛み」でも起きうることなのです。「痛み」があると「〇〇できないのは痛いからだ!」→「痛みが取れなければ何もできない!」→「痛いから〇〇できない!」→「〇〇できないのは痛いからだ!」という悪循環があり、この悪循環が何らかの修飾因子(生育環境や生活体験等)を有する人に増悪因子(周囲の人や報道等)が加わって、高まる緊張・不安・恐怖がこの悪循環を増長した結果、様々な身体の不調が出てしまうという考えです。
 ワクチン接種前の不安や緊張、恐怖というのは誰にも存在するものです。ましてや思春期の女の子に「がんのワクチン」といえば、なおさらです。しかし今、この接種前の不安等を和らげる・・・というか「麻痺させるもの」があります。それは連日報道されるCOVID-19に関する情報です。メディアからのワクチン接種の映像や、またワクチンの副作用など、いまは若干少なくなったとはいえ連日それらの情報に視覚や聴覚が晒されています。またCOVID-19ワクチンも子宮頸がんワクチンも同じ筋肉注射という形式です。連日のワクチンや注射の情報が、接種を恐れるハードルを下げる一役を担う可能性があると思われます。
  「先進国で進行子宮頸がんの手術を執刀したいのなら日本に行け」と揶揄されるまで、ワクチン事業の遅れに加え低い婦人科検診受診率のため、子宮頸がんにより多くの子宮や生命が奪われてきました。どうかこの積極的接種再開を契機に、母娘で子宮頸がんワクチン接種についてお考えいただくことを希望します。本稿も含め、今年もご愛読ありがとうございました。皆様よいお年をお迎えください(2021.12.1)。

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みなさん、こんにちは
 先月は後半から、寒さが急に加速してきた感じがありました。夜などはダウンジャケットを着てもおかしくないまでの冷え込みがあり、今年は冬が早いぞと思わせる天候でしたが、長期予報を見ますと今月は若干寒さが緩むとのことです。11月は紅葉も終わり、初雪も見られる時期でして、私的には少々苦手な時期なので、この長期予報が当たることを、少なからず期待しています。
 本稿を打ち込んでいる時点で、東京都のCOVID-19新規感染者はコンスタントに2桁台をキープし、秋田県では0~1人程度で推移しております。前回の本稿でもお話ししましたが、第5波の制圧には強力に推し進めたワクチン接種、人流の抑制、そして国民性ともいえるかもしれませんが「マスク生活」の定着があるのではないかと考えています。予測では翌年2月に第6波が襲来するといわれています。通常この時期はインフルエンザの流行する時期でもありますし、今シーズンは大流行ではと予測する意見も出ております。報道等で感染の下火が連日言われていますが、気を抜かず過ごしていきたいものです。
 先日、ネットニュースを見ていましたら、「失敗学の研究者が見た、日本人の「ゼロリスク」信奉」という記事があり、その中に「日本人の中には感情的な「ゼロリスク」信者が多く存在する。ゼロリスクは「安心」とも言い換えられる。安心の達成レベルは人それぞれで異なり、いくら説明しても絶対に安心できない人もいる」「ゼロリスクは信念であり、信者に秤は要らない」とありました。感染拡大中、メディアでは連日「安全・安心」が連呼されていました。確かに「安全」は追及していくものですが、全員の「安心」は満たせることはできません。「ゼロリスク」に固執し「リスク&ベネフィット」を秤にかけて判断していかなければ、なかなか次のステップには進めないと思うのです。
 現段階で国民の7割近くがコロナワクチンの2回接種が終わっています。先月10月1日の厚生労働省の会議資料によれば、ワクチンの副反応は0.01~0.02%、アナフィラキシーのような重篤な副反応は100万接種あたり3件前後の報告でした。短期間で臨床使用が承認された後、膨大な人数に接種され、メディアでは事細かな副反応の事例が連日報道されておりました。しかし「蓋を開けて」みますと、接種が全面禁止になるような安全性に憂慮するようなものではありませんでしたし、その効果につきましても感染者数の減少から皆さんが実感できるものではないでしょうか?日常臨床に携わっていますと、こと予防接種について「ゼロリスク信奉」を強く感じます。しかしながら今回のコロナワクチン接種は、「病気の治療ではなく予防にリスクやデメリットがあってはいけない」という国民感情に、小さいかもしれませんが、それこそブレイクスルー=風穴を開けたのではないかと感じています。
 2011年から公的補助が始まり、2013年4月には定期接種となった子宮頸がんワクチンは、わずか2ヵ月後に積極的な接種の推奨を一時見合わせることになりました。国際的にもワクチンの安全性と効果が十分確立されてはいましたが、ワクチンが原因という科学的根拠は見つからないものの、本邦での接種後に神経の異常を思わせる症状が出現したためです。ではその子宮頸がんワクチンの副反応出現のリスクはどの程度なのでしょう?比較のため前述したコロナワクチンと同様に記載しますと、2017年8月までの本邦の報告では0.09%、そのうち重篤な副反応は100万接種当たり5.3件でした。副反応出現がコロナワクチンより高率と思われるかもしれません。しかし接種対象がコロナワクチンとおよそ対極にある「思春期女子」でかつ予防接種初めての筋肉注射でしたから、直後の一時の気分不快等もカウントされていれば、この程度の差があってもおかしくないと考えますし、重篤な副作用出現頻度もコロナワクチンと大差がないと考えられます。
 昨年10月より子宮頸がんワクチン接種について、有効性・安全性に関する情報や、接種を希望した場合の円滑な接種のために必要な情報を個別に通知するようになり、先月の専門家会議では「積極的接種を勧める」ことを再開する方向になってきました。当クリニックでも昨年秋以降、接種希望者が徐々に増え、月10人以上来院されるようにもなりました。2017年12月の本稿で「ワクチンで予防できる病気=VPD」への対策の重要性についてお話ししましたが、残念ながら予防接種に「ゼロリスク」はありません。ワクチン接種においても正しい情報から「リスク&ベネフィット」を各々が判断し行動していただくことを切に希望いたします(2021.11.1)。

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 今年もあと4分の1を残すばかりになりました。
 東京オリ・パラも終わり、久々祝日のない月を迎えます(今年の10月のスポーツの日はオリンピック時期の7.23に移動したため祝日はありません・・・ご注意を!)。先月末で当地域では大規模集団接種が終了しましたが、今月末には例年同様、インフルエンザの予防接種が開始されます。COVID-19とインフルエンザを含めた他の予防接種を行うには2週間のインターバルを空けないといけませんので、ご注意ください。
 COVID-19の第5波も終息に向かい、まだ徐々にではありますが日常を取り戻しつつあります。第5波の形が今までに比べ高さがあった(患者数が多かった)ものの、幅が狭い(期間が短い)のは、やはりワクチンの効果といえるでしょう。反復する緊急事態宣言の効果が薄れる中、確かに現役世代への感染拡大という問題点はありましたが、順を考えると高齢者やハイリスク・グループへの短期間での多数接種が功を奏したと考えられます。近頃はワクチンを接種したものの感染してしまう「ブレイクスルー感染」が問題となっていますが、未接種者と比較し重症化リスクは低く、また抗体カクテル療法の登場により、早期治療により順調な回復も期待できるようになってきました。これからも変異を反復するためCOVID-19を根絶することは困難ではありますが、今後経口型の治療薬さえ登場すれば従来の季節型インフルエンザと同様な形で「withコロナ」のステージになると私自身は考えています。
 本稿でCOVID-19の話題を取り上げてから1年半が経ちました。当初は妊娠を考えている女性や妊婦さんへのワクチン接種に関していくつか「縛り」がありましたが、今年の6月中旬以降すべての希望する女性にワクチン接種が可能とし、また8月には妊娠時期を問わずワクチン接種を勧めると厚生労働省より発出されました。これを受け、マスコミでも「ワクチンで不妊になる」「ワクチンで流産する」といったものが、「デマ」「フェイクニュース」であると数多く報道されるようになりました。発信力の大きいところに、このように正しい情報を発出してもらうのは、やはり助かりますね。
 不妊についての「デマ」の根源を探ってみますと、ワクチンの薬剤情報にある「卵巣に分布する」といった一文からではないかと言われています。確かにその記載はあるのですが、その量は投与の「0.095%以下」という極めて少ない量で、最終的には「体外に排出される」のです。数値や代謝過程を入れず「卵巣に分布する」とだけ記載することにより、不妊の心配を煽っているようにしか思えません。そもそも卵子は大人になってから作られるのではなく、出生前の胎児の卵巣の中に、すでに卵胞という袋の中に卵子が入っているのです(これを「原始卵胞」といいます・・・詳しくは2020.8.1の本稿をご覧ください)。ごく微量で蓄積もしない物質が卵胞という水たまりの中に入っている卵子に影響を及ぼすというのは、今でいう「無理ゲー」なことなのです。
 同様に流産についての「デマ」の根源を探ってみますと、どうもワクチンの製造元であるファイザーの元幹部が話した?内容らしいようです。その内容というのは「子宮の中で胎盤を形成するタンパク質と、ワクチンで作らせたコロナウイルスのスパイクタンパク質(ウイルスが人間の細胞に取り入るときに使う部分)の構造が似ている。なので、ワクチンで作られた抗体が胎盤を作るタンパク質も攻撃することで不妊症になる」ということのようです。でも結論から言いますと、コロナワクチンでできた抗体は胎盤のタンパク質を攻撃しません。通常胎盤は妊娠7週ころから作られ始めますので、その頃は妊娠検査薬で既に陽性となり、皆さんが「おめでた」で受診している時期です。なので仮にその「デマ」通りに胎盤が抗体に攻撃され不幸な結果に陥ったとしても、それは「流産」であり「不妊」ではありません。すでにワクチン接種による流産率の差は認められないことは数多くの報告から明らかですので、これもまた「無理ゲー」と言わざるを得ません。
 私から見ますと、このような「デマ」や「フェイクニュース」を流す「奴ら」は、「不妊」と「流産」の定義も理解のできない、いたずらに健康不安を煽る「蔑むべき奴ら」です。どうか皆さんは信頼できる情報筋から正しい情報を得て、適切な判断をなさるよう、お願いいたします(2021.10.1)。

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 みなさん、こんにちは
 前回の本稿の掲載時期は東京五輪の最中でしたが、本稿はパラリンピックの最中にHPに上げてます。今回もリアルタイムではなく、開会式当日に本稿をまとめています。オリンピックでは日本選手団の活躍が日々伝えられておりましたが、パラリンピックではいかがでしょうか?メダルには表すことができない感動に満ちた大会になるといいですね。
 会期中、オリンピックそのものの関係者内にクラスターが頻発して競技の運営に悩まされるということはないように思えました。しかし専門家会議の尾身会長がお話ししていました通り、五輪開催そのものが、暗に人々に何かしらの意識を催し、デルタ株の猛烈な流行になったことは否めません。首都圏を中心に、適時に適切な入院対応が困難となり、罹患した妊婦さんが早産となって赤ちゃんを救命することができなかった事例は、皆さんの記憶にも新しいことではないかと思います。この事例についてはまだ詳細を理解しておりませんので、今回の本稿では触れないで現在の第5波の問題を別の側面から見てみたいと思います。
 首都圏では中等症Ⅱの患者さんも入院するまで数日待機しなければならない状況で、東京都では入院までの状況悪化を回避する目的で、酸素ステーションの運営も始まりました。現在軽症であると、ある程度の治療戦略が確立されているので、早期回復が期待できるようです。しかしデルタ株の場合、従来型と比べ入院のリスクが2.2倍、集中治療室の入室が3.8倍になるという報告があります。そうなるといくら医療施設に重症例管理病床の増床をお願いしても、既存のICU病床の対応にスタッフが寝食を削らければならないほど忙殺されているため、そう容易に対応できるわけではありません。
 重症病床が満床となり医療スタッフの疲弊も増して医療崩壊の危機が叫ばれている中、皆さんは「医師の2024年問題」というのはご存じでしょうか?早い話、今巷で言われている「働き方改革」を、医師の労働にも適用し「時間外労働時間の上限制限」を設けるという話です。その背景には皆さんもご存じの通り、過重労働による「医師の健康被害」があり、その状況を打破するために規制を設けるということです。
 一般的な時間外労働の上限は原則「年360時間以下/月45時間未満」ですが、今回の上限制限では医師の時間外労働時間は休日労働を含んで原則「年960時間以下/月100時間未満」となっています(これをA水準といいます)。しかし地域で緊急性の高い医療を提供している医療機関(B水準)や、研修医などが症例研鑽を積むような大学病院のような医療施設(C水準)では、「年1,860時間以下/月100時間未満」に規制が緩くなっています。これらの労働条件を満たすためには、イメージとして地域の基幹病院においては当直明けの医師はそのまま休むということになり、「当たり前の労働者の生活」を送ることが期待できます(それまでは当直明けも通常勤務でした)。
 産科医療は母児に予想だにしない「落とし穴」があるため、自ずと年1,860時間以下のB.C水準の医療施設扱いになります。そこで2024年問題を受け日本産科婦人科医会で調査したところ、分娩施設勤務の産婦人科医の時間外労働は月平均5.4回の当直を含め年2,034時間に及び、現状の勤務では規制水準を大きく上回るものになっていました。産婦人科という昼夜問わない分娩に携わる診療科としては、年1,860時間というハードルのクリアが非常に難しい問題であることがわかります。
 私の勤務医の頃は、「分娩100件につき医者一人」の考えで関連病院の配属がされておりました。でも私が当地に来た頃は、年間分娩220件を私一人で対応しておりました。その頃は大学より月8日の診療応援をいただいていましたが、それ以外はすべて私ということで、夜中のお産が終わっても翌日の朝から外来、午後は手術、そしてお産・・・そんな勤務の時代でした。今鹿角市の分娩数は年間120件ほどです。先の理論でいうと産科医一人で切り盛りすることになります。でも「働き方改革」に従うと2~3人増員しないと医師の労働環境は守られない・・・でもそれだけの人数となると病院としてペイできない・・・するとやはり集約化するしかない、ということはご理解いただけるのではないでしょか?ここ数か月、当地における分娩施設再開の要望の声を耳にしましたが、働き方改革の問題を見据えると、なおさら困難ではないかと私は考えております(2021.9.1)。

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 いよいよ東京五輪が開催されました
 ・・・といっても、これを書いている今はまだ開会式の数日前です。個人的にここ最近は通常診療に加え、ワクチンの集団接種や在宅当番医など、なかなか一息つける時間が取れないので、早くからカプリに取り組んでおります。4回目の緊急事態宣言のなか、開会式直前までいろいろ「けちのついた」五輪でしたが、滞りなく進行しているのでしょうか・・・?今日という未来を過去から心配しています。。。
さて、先日深夜番組を視ていましたら、道行く人がヘッドホンで聴いているコンテンツは、若者は音楽で高齢者はラジオ番組とのことでした。私も日々のウォーキングの際に耳にしているものは、前まではお気に入りの音楽でしたが、最近は専らラジオ番組になってしまいました。ウォーキングではラジオ1個でも荷物になるところですが、スマホのアプリを利用して某国営放送のニュースか、プロ野球ナイターを聴取しながら歩いています(でもオレンジ色の球団が優勢になると、自然と番組を変えてしまっています・・・)。
 偶然ある番組を聴取していましたら、興味ある書評に出くわしましたので、本日はそれを紹介したいと思います。それは澤田智洋さんの「マイノリティ デザイン」という本です。私もまだ読み込んでいないので、あくまでもラジオの受け売りになるところをご容赦ください。澤田さんの本業はコピーライターなのですが、ある個人的な理由で多数の目が不自由な方々へインタビューを行ったときに、「我々は道路を渡るとき、「勘と度胸」でわたっています」という意見に目が留まりました。バリアフリーと声高に言われている現在でも、目の不自由な方が横断する際にはまだまだ満足な音声補助はないようです。その意見をもとに澤田さんは旧知の企業に声がけして、目の不自由な人の肩に乗るようなリモートカメラを開発しました。最近の流れではカメラで得た情報はAIで解析してそれを目の不自由な人にリターン・バックする・・・と考えがちですが、澤田さんはそれらの「画像情報」を「目は見えるけど肢体が不自由な人」に届くようにして、目の不自由な人の「目」になっていただくというシステムを開発しました。目の不自由な人は話し言葉的な音声により視覚情報が得られ、また肢体が不自由な人は居ながらにして外のリアルタイムな情景を見ることができるのです。澤田さんはこのシステムを「ボディーシェアリングロボット NIN_NIN」と名付け、視覚機能と運動機能のそれぞれの機能を分け合い補うことにより、お互いにWin-Winの関係が成立すると説明しています。そしてまた澤田さんは社会的にマイナーと考えられているところに、可能性の種があるのではないか・・・と書籍の中で示唆しておられました。
 先月中旬に日本医学会は条件付きではありますが、「子宮移植」を認める報告書をまとめました。その条件とは先天的に子宮と膣が欠損している「ロキタンスキー症候群」の患者さんで、子宮を提供するドナーには提供する自由意志が確保されていること、自発的な無償提供であることなどが求められています。その背景には現状の脳死移植臓器には子宮は含まれておらず、すべて生体ドナーにならざるを得ないため、ドナー自身のモチベーションが非常に重要となるのです。また運よくドナーが見つかり子宮移植を受けても、術後は免疫抑制剤を投与し、拒絶反応が見られないことを確認したうえで妊娠を計画する必要があります。そして体外受精により妊娠が成立して最終的に帝王切開で出産した後は、移植子宮はそのまま残さず摘出することとなります。
この子宮移植の話題が出る前、生殖医療で物議を醸していたのは「精子バンク」の問題でした。精子が高額で個人売買されていたり、ドナーの国籍にミスがあった り、出生した児の出自を知る権利が不確定であったり、未解決の問題が今も山積しています。「生殖医療におけるボディーシェアリング」・・・それは「精子バンク」なのか、「代理出産における借り腹surrogate mother」なのか、またもう使わない子宮だからsingle useでもいいので、必要な方に役立ってもらう「子宮移植」なのか・・・? 当事者から見たWin-Winの関係が第三者の目から見ても成り立つものなのか・・・私たちは今後も更なる議論を深めていかなければならないのではないでしょうか?(2021.8.1)

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 早いもので、今年も半分が過ぎました。
 国内予選が始まってもなお未だ喧々諤々ですが、今月下旬には東京オリンピックが開催されます。先月上旬には当地でも聖火リレーが行われましたが、「何事もなく昨年行われていれば・・・」と思うと、盛り上がりに欠いた感が否めません。そしてどうもそのままのテンションで開会式を迎えそうです。先月の巻頭言での「ダブルスタンダード」が、政府の進めている緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置といった「引き締め」と、一方でオリ・パラ開催という「弛み」にも言えるのではないかと思います。開催が決まった大会がつつがなく進行するのを願うのはもちろんですが、加えてワクチン接種が概ね順調に進んでいる中に新たな感染のアウトブレークが起きないことを強く願うところです。
 さて年度当初の本稿で「生理の貧困」について、お話しさせていただきました。先月末に緊急事態宣言が解除されたとはいえ、雇用環境や収入などは先日お話した時よりも改善していない感がぬぐえません。この状況の中、鹿角市も先月から「ななかまどカード事業」として生理用品の提供を始めております。初回に「ななかまどカード」を受け取ると、次回からカード提出だけで生理用品を受け取ることができます(ちなみに「ななかまど」は鹿角市の「市の木」であることを、初めて知りました!)。
 「生理の貧困」の項では、それを切り口にSDGsと絡め、布ナプキンや月経カップといったリユース可能な生理用品についてお話ししました。一般的には通常のナプキンのほか、リークが心配な方やウイングに肌負けする方には履くタイプのナプキンが商品として販売されていますが、リユース生理用品にも布ナプキンに対して、「吸水型サニタリーショーツ」があります。早い話「布ナプキン一体型のショーツ」ということで、リユースという環境にやさしい商品であるのはもちろんですが、初経開始間もない月経周期が不安定な児童・生徒さんや、また身体のハンディキャップのためナプキン交換が容易でない女性に重宝するものと考えられます。当然女性が身に着けるものですから、素材やデザインが重視されるのは当然ですが、最近それらに「+α」の要素が加わっているようです。
 皆さんは「フェムテック femtech」という言葉を聞いたことがありますでしょうか?これは造語で「女性」を表す「female」と技術という意味の「technology」を組み合わせたもので、女性の抱えている身体的な悩みをテクノロジーの力で解決するというものです。この背景にはテクノロジーの進歩により、生理や更年期など女性が抱えていた悩みをデータ化し、解決策を提供しやすくなったこと。さらに少子高齢化により働き手として女性の社会進出も進む中で、女性が生き生きと働ける環境づくりが不可欠になってきたこともあると言えます。フェムテックの具体的な商品としては、「月経周期管理のスマートフォンアプリ」、「体表接着~自動計測型の基礎体温計」、「ウェアラブル型搾乳機」、「尿失禁への骨盤底筋体操補助の膣トレーニングアイテム」などがあります。テクノロジー女性の社会進出により、フェムテックの市場規模は拡大し、将来性のある業種と言え、現に2025年には世界全体で約5.3兆円と7年で約15%の増益となる見込みとのことです。
 先に提示した「吸水型サニタリーショーツ」の領域でも、開発当初はやはりその「吸水性」に重点が置かれていたようですが、そこに「速乾性」や「消臭性」といった技術を加味して、一般女性はもちろんトップ・アスリートの使用に耐えれるような商品も開発されてきています。この「吸水型サニタリーショーツ」の技術開発はすべて男性社員だったそうですが、女性スタッフから質感等の幾多の「ダメ出し」を受け、商品に至ったそうです。本邦でナプキンの黎明期においても、やはり開発は男性社員のみだったそうで、フェムテックのさらなる拡大には性差にとらわれない柔軟性が必要なのかもしれません(2021.7.1)。

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 水無月となりました
 ゴールデンウィークと同時に発せられた緊急事態宣言は、延長となり今に至っています。そのような中、先月中旬よりワクチン接種が本格的に始まりました。当院でも13日よりかかりつけの患者さんへの接種を始めております。マスコミでは、接種を促す記事と接種による副反応を強調する記事という、どちらが注目されても構わない「ダブルスタンダード」でいるようにみえます。私たちにとっても十分な臨床知見が得られないまま接種となりましたが、自院でできうる限りの副作用対策を施しつつ、粛々と接種を進めていく他ないと考えているところです(当院への接種予約は直接承っておらず、コールセンターでの受付予約となります)。
 首相の「鶴の一声」で、高齢者への接種は7月末をめどに終えるよう尻を叩かれておりますが、その後には基礎疾患を有する方の接種が始まりますので、一般の方々の接種はまだ先と言うことになります。従いましてワクチンの接種までは、現状のマスク装着、3密回避といった感染防御をしながら日々を過ごすということになります。そしてこの間は病気にならない身体づくりに心がけることも肝要です。自身に備わっている「病気と闘う力=免疫力」を落とさず、高めるためには、①規則正しくバランスが整った食事、②十分な睡眠、③定期的な運動、④リラックスする時間、といった「整った生活習慣=身体によい生活」が必要不可欠です。前回の本稿は「妊産婦のための食生活指針」でしたが、今回は「免疫力を(いくらかでも)高める食生活」についてお話ししていきたいと思います。
 すでにご承知のことと思いますが、肥満は糖尿病や心臓病、果てはがんの発症のリスクを高める要因の一つとなっていますが、最近の研究ではCOVID-19への肥満の影響もわかってきています。本稿でもたびたびお話ししていますが、体型の指標であるBMI(body mass index:(体重Kg)/(身長m)2)について、18.5~25までは普通体型で25以上だと肥満としていますが、25以上を25~30、30~35、35以上と5ポイントごと刻んでCOVID-19感染者で人工呼吸管理が必要になった割合を見てみますと、25未満の正常体型で47.1%であったのに対し、BMIが25~30では60.4%、30~35では75%、35以上では85.7%とBMIが高値であるほど人工呼吸器の使用率が高く、肥満者ほど重症化のリスクが高まることが示されています。また基礎疾患として糖尿病や高血圧を抱えた人では2~3倍、肥満の人では6~7倍にCOVID-19が重篤化するリスクが高まるとの報告もありました。一方で、中国の研究では栄養不良によるやせの体型群でCOVID-19に感染した割合が高いという報告もされています。
 未だ感染終息には至っておりませんが、西欧諸国に比べCOVID-19による死亡者が少ないことが現時点において本邦の特徴と言えます。その理由の一つとして、欧米に比べ重症化につながる高度肥満者(BMI≧35)が少ないことが挙げられています。また主食が米飯である国のほうで死亡リスクが低いという報告もあり、伝統的な日本型の食生活が死者数の減少に貢献していると考えられます。免疫力を維持し幾分でも高めるために日々の食生活で配慮するポイントとしては以下の3点があります。
 ①摂取エネルギー源をごはんから:最近の日本人の摂取エネルギー源は穀物からより脂質から摂取する割合が増えてきています。主食をごはんに据えて、そこから主菜・副菜を考えていきましょう。 ②主菜・副菜それぞれの役割を生かす:主菜からは魚・肉・大豆などでタンパク質や脂質を摂取し、副菜からは野菜・根菜・海藻などでビタミン・ミネラル分を摂るようにします。 ③発酵食品を上手に利用する:漬物などにある乳酸菌などは腸内環境を整え免疫力を高めることが期待できます。味噌・納豆なども生かしていきましょう。
 先述したように、国民全員にワクチン接種がいきわたるためには、まだかなりの時間を要します。その間、自身の免疫力で対処することになるのですが、短期間で免疫力を高め感染や重症化から身を守ってくれる「スーパーフード」というのは当然ながら存在しません。「医食同源」の言葉通り、日々の食生活への意識を高め健康を思いやると同時に、それを「ノルマ」にせず「おいしく」「楽しく」継続することが、COVID-19に負けない身体を作る近道と言えましょう。(今回のカプリは農林水産省のパンフレット「ごはん食で感染症に負けない丈夫なからだを作ろう」を参考にさせていただきました)(2021.6.1)

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 みなさん、こんにちは
 コロナ禍のゴールデンウィークです。昨年も同じような状態で賑やかさがないもので、むしろ初の緊急事態宣言下ということで、得も言われぬ緊張感がありました。しかし今年も同時期に3回目の緊急事態宣言が発出されましたが、二番煎じ?緊急事態慣れ?のせいか、人流の抑制も以前より弱く、社会全体に無気力感というか脱力感が漂っている感じがします。多分慢性的な「自粛疲れ」がその背景になるのではないのかと思っています。外に目を向けるとワクチン接種率が高い国は感染の抑制に成功しています。本邦でも希望者にワクチン接種が速やかに行われることを切に希望しています。
 さて医療に関するニュースがCOVID-19に占拠されている中、3月末に発出され先月よりネット上でもたまに見かける情報なのですが、まだ十分周知されていないようなので、今月の本稿で取り上げてみたいと思います。それは「妊娠前から始める妊産婦のための食生活指針」というものです。この指針は2006年に作成された「妊産婦のための食生活指針」の改定版で、策定から15年経過して妊産婦の取り巻く環境の変化を踏まえて改定となりました。ポイントとして、妊娠・出産・授乳にあたっては妊娠前からの健康なからだづくりや適切な食習慣の形成が重要であることから、今回の改定ではその対象に妊娠前の女性も含まれています。指針は10項目あり、2006年と同じものは(旧)、今回文言が付け加えられたのは(改)、新しい項目は(新)とつけました。
 ① (旧)妊娠前から、バランスのよい食事をしっかりとりましよう
 ② (旧)『主食』を中心に、エネルギーをしっかりと
 ③ (旧)不足しがちなビタミン・ミネラルを、『副菜』でたっぷりと
 ④ (改)『主菜』を組み合わせてたんぱく質を十分に ←たんぱく質が追加
 ⑤ (改)乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などでカルシウムを十分に ←乳製品以外追加
 ⑥ (★)妊娠中の体重増加は、お母さんと赤ちゃんにとって望ましい量に
 ⑦ (旧)母乳育児も、バランスのよい食生活のなかで
 ⑧ (新)無理なくからだを動かしましょう
 ⑨ (旧)たぽことお酒の害から赤ちゃんを守りましょう
 ⑩ (改)お母さんと赤ちゃんのからだと心のゆとりは、周囲のあたたかいザポートから ←周囲のサポートが追加
ここで⑥の体重増加に関しては★をつけました。これは項目内容が同じですが、体重増加の目安の基準が変更になったことを示しています。一言でいえば、「妊娠中の体重増加の目安が引き上げられた」のです。この背景として赤ちゃんの出生時体重が年々減少していること、また出生時に2,500gを下回る低出生体重児の割合が増加していることがあります。成長曲線より小さめに生まれた赤ちゃんのその後を追ってみると、心疾患や高血圧症、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の発症率が高めという研究結果が出ています。このことから妊娠前から赤ちゃんの健やかな発育を促す準備をする取り組みが必要で、これを「プレコンシャス・ケア(2019.8.1の本稿を参照してください)」といい今回の改定での「みそ」と言えます。では2006年と2021年での違いはどのようになっているのでしょうか?妊娠前のBMI(body mass index:体重(Kg)を身長(m)で2回割った値)からの妊娠全期間を通じての推奨体重増加を見てみます。
 ① 低体重(BMI<18.5)      (2006年)9~12Kg   (2021年)12~15Kg
 ② 普通体重(18.5≦BMI<25.0) (2006年)7~12Kg  (2021年)10~13Kg
 ③ Ⅰ度肥満(25.0≦BMI<30)  (2006年)個別対応  (2021年)7~10Kg
 ④ Ⅱ度肥満(30≦BMI)     (2006年)個別対応  (2021年)個別対応(上限5Kg)
 見てお分かりのように、低体重の場合は前基準+3Kg、また肥満の場合には具体的な数値が盛り込まれました。普通体重でも若干目安は引き上げられ、また前指針にあった1週間当たりの推奨体重増加の目安(BMI<25.0であれば+0.3~0.5Kg/週)は、今回の改定では除かれました。
 このように今回の指針では妊婦さんにとって体重増加の目安が「ゆるく」なりましたけど、それがそのまま新年度からの日々の診療に反映されるか?というと、私自身でいえばちょっとそのまま受け入れられないところがあります。それは当院で妊婦健診が完結して分娩まで受け入れていないからです。多くは32週で分娩先施設にバトンタッチしますが、妊娠後期のことを考え、体重増加の「のりしろ」はなるべく多く残して転院して頂きたいという思いがあります。当院の健診での体重指導は厳しいと苦言を頂くこともありますが、分娩を扱わない以上、なるべくコンディションの良い状態で分娩先施設にバトンタッチしたいという意図をお汲みいただければ幸甚です(2021.5.1)。

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新年度に入りました。
 例年4月は入進学・就職など物事が始まるエネルギッシュな時期なのですが、未だ終息しないCOVID-19のため、首都圏の緊急事態宣言が解除されても、日常への道のりは遠く、先月行われた選抜高校野球も大相撲も、盛り上がり切れないまま終えた感じを受けました。桜前線も徐々に北上し、次回の本稿のときには葉桜を迎えるころになってるでしょうが、どうも今年も密な観桜は避けなければいけません。大人数でのお花見は確かに楽しいですが、宴が主となり本来の観桜がおろそかになっていることはありませんか?コロナ禍の状況を「逆手に」とって、気心知れた少人数で口数少なくゆっくり観桜するというのも、意外と「粋」なのかもしれませんね。
 さて、コロナ禍による経済活動の萎縮により、生活に支障をきたしている人が日に日に増加しています。日々生活していくうえで、衣食住に係る経費を可能な限り切り詰めていかざるを得ませんが、成熟期の女性には切り詰めようとも難しい問題があります。それは毎月来る「生理のお手当」です。少子化の現在、女性は一生涯に約500回の生理を迎えることになり、その手当に英国の調査では18,000ポンド(約243万円)を費やしているとの報告もあります。しかし5年ほど前より経済的な貧困により生理用品を購入できない、または利用できない環境下にある状態を都度都度目にするようになり、それを「生理の貧困(Period Poverty)」と呼んでいます。わが国ではこのような問題はあまり目に触れないで来ていましたが、勤労学生やシングルマザーの間では、このコロナ禍の経済状況の悪化がトリガーとなって、「生理の貧困」の問題が表面化してきました。事実高校生以上の学生さんへのアンケート調査では、過去1年間で生理用品を「買うのに苦労したことがある」と答えた人は20%、「買えなかったことがある」と答えた人は6%いました。また「生理用品を交換する頻度を減らしたことがある」が37%、「トイレットペーパーなどで代用したことがある」も27%に上りました。確かに私達産婦人科医が処方するお薬を服用すると、経血の減少を図れたり、生理周期の延長を図れたりします。しかし通院・投薬費用は生理用品代よりも高いため、現実的な解決策ではありません。なるべくコストをかけず、生理のお手当てをするにはどうしたらいいでしょう?
 1つは「布ナプキン」です。現在市販されているナプキンは接触面が化繊で、その奥に高分子吸収体がある構造をしています。でもその化繊や、高分子吸収体の飛沫でアレルギー反応を起こす方も少なからずおりますし、またアレルギーはなくとも両端のウイングにこすれて、肌を痛める方も外来で時折見かけます。そのような方には、接触面が木綿になっている布ナプキンを勧めておりました、近年のオーガニック・ブームのせいか、以前よりも吸水性が高く、市販ナプキンのようにサイズも選べるようになってきています。また自身のプライベートゾーンに使用するものなので、ハンドメイド・キットも販売されているようです。
 もう1つは「月経カップ」です。日本ではここ5年くらいに販売になった比較的新しい生理用品ですが、欧米では50年以上前より普及しているものです。材質は医療用シリコンで、ワイングラス様の形状をしています。シリコン製なので容易に折りたたむことができることから、カップが経血を受けるよう膣内に装着します。膣内に装着する生理用品としてタンポンがありますが、タンポンより奥に装着する必要はありません。ナプキンによる蒸れやかゆみから解放され、布ナプキンよりも洗浄に時間がかからないメリットがありますが、交換や洗浄といったお手当てが滞ると感染症等のリスクを高めることもなりかねないので、相応の配慮が必要になります。
 最近よく聞く言葉に「SDGs」というのがあります。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字で、貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指す普遍的な行動を呼びかけています。SDGsには17項目の目標がありますが、そのSDGsの面から生理を見てみましょう。一説には平均的な経血量の女性が生涯に使用するナプキンは、約1万2千枚・・・4畳半の部屋が一杯になる量です。世界には約35億の女性がいるので、想像を絶する廃棄量となり、その処理が及ぼす環境汚染は想像しがたいものがあります。SDGsを受けてナプキンと構造が類似している大人用おむつについては、現在リサイクルのトライアルが始まりつつあります・・・しかし生理用品では、それは難しそうです。今回は「生理の貧困」を切り口にリユース可能な生理用品についてお話ししました。今回紹介した生理用品・・・経済的な面とは別に、地球環境保護という面から興味を持っていただければと思います(2021.4.1)。

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 みなさん、こんにちは
 先月は「三寒四温」を反映したというか、翌月並みの暖かさになったと思えば、爆弾低気圧が来て気温の高低が激しいひと月でした。そのような中、東日本大震災の余震と思われるような地震があり、震災後10年を迎えるに際して、気も身も引き締まる思いをしました。今月後半には1年遅れた聖火リレーも始まる予定ですが・・・一抹の不安を感じるのは私だけではないと思います。
 さて先月の中旬からCOVID-19に対してのワクチン接種が始まりました。医療関係者から接種が始まり、当院においても先月の時点で接種対象者リストを提出いたしております。医療関係者が終了すると、高齢者、次に基礎疾患を有する方、そして一般へという順に接種するスケジュールになっています。現在のところ事前情報通り、COVID-19ワクチンだからといって副反応のリスクは高いわけではなく、今まで行われているワクチンとそう大差がないようです。マスコミでは「腫れ」「痛み」などの副反応が誇張されていますが、そもそもこのワクチンはインフルエンザワクチンなどの皮下注射ではなく、子宮頚癌ワクチンのような筋肉注射で行うタイプのものです。従いまして、皮下注ワクチンよりも腫れや疼痛は出やすいのは致し方ないところがありますので、その点をあまり怖がらなくてもいいと私は考えております。
 医療従事者の接種が終わると、高齢者施設に勤務している職員も優先接種対象ですので接種になるのですが、通院中の施設勤務の妊婦さんから「ワクチン接種はどうしたらよいでしょうか?」という質問を受けました。マスコミ等で「妊婦は接種対象者からは除外することはしない」とありましたが、ボールは妊婦さんに投げて判断せよ・・・となっても、なかなかその判断は難しいのではないかと感じるところです。先月、日本産婦人科医会が発出したレポートでは、①妊産婦の中・長期的な副反応や胎児・出生時への安全性は確立されていない。②感染リスクの高い妊産婦、または重症化リスクのある基礎疾患を有する妊婦はワクチン接種を考慮する。③接種においては胎児の器官形成期である妊娠12週まで避ける。④妊婦のパートナーは家庭内感染を防ぐためワクチン接種を考慮する。⑤妊娠を希望する女性は可能であれば妊娠する前に接種を受けるようにする。とありました。まぁ開発から接種まで極めて短期間であるため、妊婦さんや胎児への副反応や安全性まで十分確認できていないというのは当然だと思います。一方で、本邦の昨年のデータをみると、①妊婦さんだからといって感染リスクが上昇しているというわけではない(全感染者の0.4%ほどが妊婦)。②妊婦さんが感染する場は家庭内が約60%を占めている。③妊婦さんがCOVID-19に罹患したからといって重症化しているわけではない(検査陽性の約80%が無症状~軽症)し、新生児への感染も報告されていない・・・これらのデータをみますと、「妊婦さんだからワクチンをしなさい」とは言い切れないようです。ただワクチンをしないという選択をした場合、妊婦さんを取り巻く方々がしっかりワクチンをして予防することが肝要であると考えられます。
 一方でこういうデータも出ております。それは「新型コロナウイルスに感染した女性において、抗体が効率的に赤ちゃんに移行していることが示され、特に妊娠初期の感染でその傾向が強い」といことです。COVID-19に妊婦さんが自然感染した場合、抗体が胎盤を介して赤ちゃんに伝わり、ある程度の免疫がつくということです。確かにこの理論がワクチン接種に当てはまるかどうかは不明ですが、女性がワクチン接種を受けると自身はもちろん赤ちゃんにも抗体ができる「一石二鳥」になる可能性があるかもしれません。
 本邦ではまだ接種が始まったばかりですが、米国では1月末の時点で接種者のうち15,000人以上が妊娠中だったとのことです。私自身、COVID-19は従来の季節性インフルエンザと同様に、末永く?付き合っていく感染症ではないかと思っております。15,000人以上のワクチン接種をした妊婦さんのデータが解析され、より妊婦さんや赤ちゃんに安心できる情報が提供されることを願っています(2021.3.1)。

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2月に入りました。
 年末年始は天候も荒れに荒れ大雪に見舞われましたが、先月下旬にはアスファルトも顔を出し、職員駐車場の片隅には苔生すところも見られました。もう何回か寒波の山はあるかもしれませんが、雪割からの新緑を認めると、春遠からじと浮足立ってしまいますね。
さて先月でインフルエンザの予防接種も終了し、郡市の婦人科検診も終了しました。予防接種は昨年並みでしたが、婦人科検診は昨年比5割増しの増員でした。コロナ禍の中、検診受診率の低値が危惧されておりましたが、本年度の当院の婦人科検診受診数については増加しており、安堵いたしております。しかしながら昨年度の受診数は例年と比べ約100人減であったため両手を挙げては喜べません。コロナに目が行きがちな情勢でも、引き続き検診の重要性を説き続けていく必要があります。
 そのような中で、先月私たちの目を惹く論文が発表されました。それは本邦の国立がん研究センターからの、「母の子宮頸がん細胞が子に移行し肺がんを発症」という論文です。症例は2例でともに男児で経腟分娩により出生、1例は2歳前、もう1例は6歳で発症しました。がん組織に前者にはタイプ18の、また後者にはタイプ16のハイリスクHPVが検出されましたが、妊娠時の検査では子宮頸がんを前者は検出されず、後者では検出されておりました。2例ともに児の予後は概ね良好に経過しておりましたが、母のほうは重篤な経過をたどっておりました。論文では「母親のがん細胞は、羊水、分泌物、または子宮頸部からの血液に存在し、経膣分娩時に新生児が吸引した可能性がある」と指摘し、子宮頸がんの母親には帝王切開を推奨する必要があることを提言していました。非常に貴重な2症例ですから国際的な論文に掲載されたわけで、このような症例はそう巡り合うことがありません。しかしこの症例から日々の臨床に際し考えさせられることが2点ほどありました。
 1つは若年者の子宮頸がん検診です。子宮頸がん検診を含んだ婦人科検診の対象年齢は20歳以上ですが、以前の本稿で述べました通り、2009年度から子宮頸がん検診クーポンが導入されましたが、それ以前の当地域における20代の検診受診率は0%でした。今でこそクーポンを持参する20代の検診者がいらっしゃいますが、それでも心の中では「おっ、久々だな」と思うくらい、数少ないのが現状です。秋田県では妊婦健診の補助券の中に子宮頸がん検診への補助券が2011年度より加わるようになり、従来のクーポンとさらに若年者の検診数の増加を促すアイテムとなりました。直近の平成30年度のデータでは、妊娠初期の子宮頸がん検診で要精検と指摘されたのは対象人数約3,000人のうちの約2%で、精密検査の結果多くは経過観察で済むものでしたが、数例は手術が必要な程度まで進行しているものも認めました(ただし子宮全摘まで至る病変ではありませんでした)。論文の症例で1例は妊娠初期の子宮頸がん検診では陰性とのことで、加えてタイプ16のハイリスクHPV陽性ということもあり、分娩後に急速に悪化したことも否定できません。しかしあくまでも仮定の話ですが、もし妊娠前に検診受診が常態化していたのならば、このような結果になる前に何かしらのサインがくみ取れたのではないかとも考えてしまいます。
 もう1つは子宮頸がんワクチンの問題です。2症例はタイプ16と18のハイリスクHPV陽性という、初期の接種で採用された2価ワクチンでも十分対応できるものでした。上で肺がんを発症した児の予後は良好と述べましたが、共に児が乳児の時期にタイプ18陽性の母はがんの多発転移をきたし、またタイプ16陽性の母は死亡に至っております。子宮頸がんワクチンに関しましては昨年末から市町村から接種に関するお知らせが発出されるようになったことで、当院でも雨だれのごとくの頻度ですが接種に訪れる女子生徒が来院しています・・・でもでもまだまだ少数なのが現状です。もしこの2症例の妊婦さんが子宮頸がんワクチンを接種していたならば、今もなお母児共に健やかな生活を送っていることは容易に想像できると思います。妊娠を経験せずに子宮を失うこと、児の成長を見守ることもできずに先立つこと・・・妊娠~出産を経験したお母さん方には、そのつらさが十分理解できるのではないでしょうか?そのような災いをわが子に被らせないためにも、ワクチン接種と成人以降のがん検診の重要さを女性の先輩として、自分の娘さんに説いていただきたいと切に願うところです(2021.2.1)。

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 みなさん、明けましておめでとうございます。
 振り返りますと昨シーズンは尋常じゃなくらいの小雪でした。オリンピック・イヤーで記録的な小雪・・・どんな一年になるのかと思いきや、帰省に規制がかかるという洒落にもならない年末年始になってしまいました。年が明けるとワクチン接種も具体化してくるでしょう・・・COVID-19の一日も早い鎮静化を願いたいものです。
さて正月の風物詩にかこつけた1月の本稿も、次第にネタ切れになってきました。何かひねりを加えてと・・・頭をひねったところ「餅」について思いを馳せることにしました。流通量の過多もありますが、梱包や保存方法の発達により切り餅などは通年で購入することができるようになりました。しかし私が子供のころは、切り餅などはお正月にしか食べることができないもので、加えて餅に目のない私ですから、この時ばかりと一度に16枚ほどの切り餅を食していました。さすがに今は2枚程度で、どうしてあの時にあれほどの枚数を食べることができたのか、今になって不思議に思います。
 お供えのお餅には蜜柑を載せていますが、本来は橙ですよね。冬という季節と相まって、色のコントラストが絶妙な具合です。色が生えるといえば、トマトの赤もあります。先日ウォーキングの際に聞いていたニュースで、「ゲノム編集されたトマトが食卓へ」という報道がされておりました。ゲノム編集によってGABA(ギャバ)という血圧を下げる物質を多く蓄積されたトマトを商品化して、早ければ今年の下半期には商業ベースにのせるとのことです。農作物におけるゲノム編集としては、ジャガイモの芽の毒であるソラニンを低下させるようするなど、日常摂取する食べ物から、より健康になることが期待できます。でも、「ゲノム(遺伝子)編集をした食品自体、そもそも健康には悪くないのか?」という疑問も当然ありのではないでしょうか?
 「ゲノム編集」と似たような言葉で「遺伝子組み換え」という言葉があります。へたくそな例えかもしれませんが、「ゲノム編集はA→A‘」で「遺伝子組み換えはA+b=A(b)」といえましょう、皆さんは「遺伝子組み換え大豆」なるものを聞いたことはありませんか?これはそもそもの大豆にはない「除草剤に負けない遺伝子」を本来の大豆の遺伝子に組み込むことによって、「除草剤に負けない大豆」として栽培の効率化を図るものです。しかし先ほどの「高GABAトマト」は本来の遺伝子を文字通り「編集」することによって、作物本来の「長所」を伸ばすことをするのです。言い換えるなら「ゲノム編集作物」は待てばいつかは突然変異で得られる作物ですが、「遺伝子組み換え作物」は人為的なものですので突然変異には期待できないと考えられます。
 遺伝的な重い病気に対して、受精卵のレベルでゲノム編集により病気を起こす遺伝子を機能しないように編集して子宮に戻して妊娠~出産に至らせる・・・これがうまくいけば画期的な治療法になるでしょう。しかし現在のところゲノム編集はあくまでも研究レベルで、編集した受精卵を子宮に戻すということは全く許されてはおりません。でももしかしたら~多分、ゲノム編集という技術は、確実に治療の一手段として臨床に入ってくることでしょう。生死の問題はありますが、ゲノム編集以前はマイノリティーであった方が、編集によりマジョリティーとなることができる・・・その結果、マイノリティーを理解し認め合う現在の風潮と何かそりが合っていない気が私はします。
 外来診療に特化するようになっても、診療科の特性上、人の生き死にには日々係わっています。マイノリティーへの理解・共感を深める一方で、個人的にはマジョリティーであることを担保したい気持ちもあるのか、妊娠が判明したことで出生前診断を受ける方もいらっしゃいます。さらにゲノム編集という、遺伝子レベルの人為的な介入もできるようになると、これからの医療はどこまで行くのでしょうか・・・?
 私が中学生の時に愛読した漫画は、ご多分に漏れず手塚治虫先生の「ブラック・ジャック」でした。ブラック・ジャックの恩師、本間丈太郎先生が死に瀕しての言葉・・・「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね」・・・この言葉の意味が産婦人科という仕事に就いて、また生殖医療の発展に目の当たりにするにつけ、ことさら考えるようになりました。しかし今はmRNAワクチンという遺伝子レベルに着目した今までにないタイプのワクチンが、この世界的なCOVID-19の蔓延を速やかに鎮静させることを願ってやみません(2021.1.1)。


2020
院長のcapricciosa(気まぐれ)