新年度に入りました。
 例年4月は入進学・就職など物事が始まるエネルギッシュな時期なのですが、未だ終息しないCOVID-19のため、首都圏の緊急事態宣言が解除されても、日常への道のりは遠く、先月行われた選抜高校野球も大相撲も、盛り上がり切れないまま終えた感じを受けました。桜前線も徐々に北上し、次回の本稿のときには葉桜を迎えるころになってるでしょうが、どうも今年も密な観桜は避けなければいけません。大人数でのお花見は確かに楽しいですが、宴が主となり本来の観桜がおろそかになっていることはありませんか?コロナ禍の状況を「逆手に」とって、気心知れた少人数で口数少なくゆっくり観桜するというのも、意外と「粋」なのかもしれませんね。
 さて、コロナ禍による経済活動の萎縮により、生活に支障をきたしている人が日に日に増加しています。日々生活していくうえで、衣食住に係る経費を可能な限り切り詰めていかざるを得ませんが、成熟期の女性には切り詰めようとも難しい問題があります。それは毎月来る「生理のお手当」です。少子化の現在、女性は一生涯に約500回の生理を迎えることになり、その手当に英国の調査では18,000ポンド(約243万円)を費やしているとの報告もあります。しかし5年ほど前より経済的な貧困により生理用品を購入できない、または利用できない環境下にある状態を都度都度目にするようになり、それを「生理の貧困(Period Poverty)」と呼んでいます。わが国ではこのような問題はあまり目に触れないで来ていましたが、勤労学生やシングルマザーの間では、このコロナ禍の経済状況の悪化がトリガーとなって、「生理の貧困」の問題が表面化してきました。事実高校生以上の学生さんへのアンケート調査では、過去1年間で生理用品を「買うのに苦労したことがある」と答えた人は20%、「買えなかったことがある」と答えた人は6%いました。また「生理用品を交換する頻度を減らしたことがある」が37%、「トイレットペーパーなどで代用したことがある」も27%に上りました。確かに私達産婦人科医が処方するお薬を服用すると、経血の減少を図れたり、生理周期の延長を図れたりします。しかし通院・投薬費用は生理用品代よりも高いため、現実的な解決策ではありません。なるべくコストをかけず、生理のお手当てをするにはどうしたらいいでしょう?
 1つは「布ナプキン」です。現在市販されているナプキンは接触面が化繊で、その奥に高分子吸収体がある構造をしています。でもその化繊や、高分子吸収体の飛沫でアレルギー反応を起こす方も少なからずおりますし、またアレルギーはなくとも両端のウイングにこすれて、肌を痛める方も外来で時折見かけます。そのような方には、接触面が木綿になっている布ナプキンを勧めておりました、近年のオーガニック・ブームのせいか、以前よりも吸水性が高く、市販ナプキンのようにサイズも選べるようになってきています。また自身のプライベートゾーンに使用するものなので、ハンドメイド・キットも販売されているようです。
 もう1つは「月経カップ」です。日本ではここ5年くらいに販売になった比較的新しい生理用品ですが、欧米では50年以上前より普及しているものです。材質は医療用シリコンで、ワイングラス様の形状をしています。シリコン製なので容易に折りたたむことができることから、カップが経血を受けるよう膣内に装着します。膣内に装着する生理用品としてタンポンがありますが、タンポンより奥に装着する必要はありません。ナプキンによる蒸れやかゆみから解放され、布ナプキンよりも洗浄に時間がかからないメリットがありますが、交換や洗浄といったお手当てが滞ると感染症等のリスクを高めることもなりかねないので、相応の配慮が必要になります。
 最近よく聞く言葉に「SDGs」というのがあります。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字で、貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指す普遍的な行動を呼びかけています。SDGsには17項目の目標がありますが、そのSDGsの面から生理を見てみましょう。一説には平均的な経血量の女性が生涯に使用するナプキンは、約1万2千枚・・・4畳半の部屋が一杯になる量です。世界には約35億の女性がいるので、想像を絶する廃棄量となり、その処理が及ぼす環境汚染は想像しがたいものがあります。SDGsを受けてナプキンと構造が類似している大人用おむつについては、現在リサイクルのトライアルが始まりつつあります・・・しかし生理用品では、それは難しそうです。今回は「生理の貧困」を切り口にリユース可能な生理用品についてお話ししました。今回紹介した生理用品・・・経済的な面とは別に、地球環境保護という面から興味を持っていただければと思います(2021.4.1)。

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 みなさん、こんにちは
 先月は「三寒四温」を反映したというか、翌月並みの暖かさになったと思えば、爆弾低気圧が来て気温の高低が激しいひと月でした。そのような中、東日本大震災の余震と思われるような地震があり、震災後10年を迎えるに際して、気も身も引き締まる思いをしました。今月後半には1年遅れた聖火リレーも始まる予定ですが・・・一抹の不安を感じるのは私だけではないと思います。
 さて先月の中旬からCOVID-19に対してのワクチン接種が始まりました。医療関係者から接種が始まり、当院においても先月の時点で接種対象者リストを提出いたしております。医療関係者が終了すると、高齢者、次に基礎疾患を有する方、そして一般へという順に接種するスケジュールになっています。現在のところ事前情報通り、COVID-19ワクチンだからといって副反応のリスクは高いわけではなく、今まで行われているワクチンとそう大差がないようです。マスコミでは「腫れ」「痛み」などの副反応が誇張されていますが、そもそもこのワクチンはインフルエンザワクチンなどの皮下注射ではなく、子宮頚癌ワクチンのような筋肉注射で行うタイプのものです。従いまして、皮下注ワクチンよりも腫れや疼痛は出やすいのは致し方ないところがありますので、その点をあまり怖がらなくてもいいと私は考えております。
 医療従事者の接種が終わると、高齢者施設に勤務している職員も優先接種対象ですので接種になるのですが、通院中の施設勤務の妊婦さんから「ワクチン接種はどうしたらよいでしょうか?」という質問を受けました。マスコミ等で「妊婦は接種対象者からは除外することはしない」とありましたが、ボールは妊婦さんに投げて判断せよ・・・となっても、なかなかその判断は難しいのではないかと感じるところです。先月、日本産婦人科医会が発出したレポートでは、①妊産婦の中・長期的な副反応や胎児・出生時への安全性は確立されていない。②感染リスクの高い妊産婦、または重症化リスクのある基礎疾患を有する妊婦はワクチン接種を考慮する。③接種においては胎児の器官形成期である妊娠12週まで避ける。④妊婦のパートナーは家庭内感染を防ぐためワクチン接種を考慮する。⑤妊娠を希望する女性は可能であれば妊娠する前に接種を受けるようにする。とありました。まぁ開発から接種まで極めて短期間であるため、妊婦さんや胎児への副反応や安全性まで十分確認できていないというのは当然だと思います。一方で、本邦の昨年のデータをみると、①妊婦さんだからといって感染リスクが上昇しているというわけではない(全感染者の0.4%ほどが妊婦)。②妊婦さんが感染する場は家庭内が約60%を占めている。③妊婦さんがCOVID-19に罹患したからといって重症化しているわけではない(検査陽性の約80%が無症状~軽症)し、新生児への感染も報告されていない・・・これらのデータをみますと、「妊婦さんだからワクチンをしなさい」とは言い切れないようです。ただワクチンをしないという選択をした場合、妊婦さんを取り巻く方々がしっかりワクチンをして予防することが肝要であると考えられます。
 一方でこういうデータも出ております。それは「新型コロナウイルスに感染した女性において、抗体が効率的に赤ちゃんに移行していることが示され、特に妊娠初期の感染でその傾向が強い」といことです。COVID-19に妊婦さんが自然感染した場合、抗体が胎盤を介して赤ちゃんに伝わり、ある程度の免疫がつくということです。確かにこの理論がワクチン接種に当てはまるかどうかは不明ですが、女性がワクチン接種を受けると自身はもちろん赤ちゃんにも抗体ができる「一石二鳥」になる可能性があるかもしれません。
 本邦ではまだ接種が始まったばかりですが、米国では1月末の時点で接種者のうち15,000人以上が妊娠中だったとのことです。私自身、COVID-19は従来の季節性インフルエンザと同様に、末永く?付き合っていく感染症ではないかと思っております。15,000人以上のワクチン接種をした妊婦さんのデータが解析され、より妊婦さんや赤ちゃんに安心できる情報が提供されることを願っています(2021.3.1)。

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2月に入りました。
 年末年始は天候も荒れに荒れ大雪に見舞われましたが、先月下旬にはアスファルトも顔を出し、職員駐車場の片隅には苔生すところも見られました。もう何回か寒波の山はあるかもしれませんが、雪割からの新緑を認めると、春遠からじと浮足立ってしまいますね。
さて先月でインフルエンザの予防接種も終了し、郡市の婦人科検診も終了しました。予防接種は昨年並みでしたが、婦人科検診は昨年比5割増しの増員でした。コロナ禍の中、検診受診率の低値が危惧されておりましたが、本年度の当院の婦人科検診受診数については増加しており、安堵いたしております。しかしながら昨年度の受診数は例年と比べ約100人減であったため両手を挙げては喜べません。コロナに目が行きがちな情勢でも、引き続き検診の重要性を説き続けていく必要があります。
 そのような中で、先月私たちの目を惹く論文が発表されました。それは本邦の国立がん研究センターからの、「母の子宮頸がん細胞が子に移行し肺がんを発症」という論文です。症例は2例でともに男児で経腟分娩により出生、1例は2歳前、もう1例は6歳で発症しました。がん組織に前者にはタイプ18の、また後者にはタイプ16のハイリスクHPVが検出されましたが、妊娠時の検査では子宮頸がんを前者は検出されず、後者では検出されておりました。2例ともに児の予後は概ね良好に経過しておりましたが、母のほうは重篤な経過をたどっておりました。論文では「母親のがん細胞は、羊水、分泌物、または子宮頸部からの血液に存在し、経膣分娩時に新生児が吸引した可能性がある」と指摘し、子宮頸がんの母親には帝王切開を推奨する必要があることを提言していました。非常に貴重な2症例ですから国際的な論文に掲載されたわけで、このような症例はそう巡り合うことがありません。しかしこの症例から日々の臨床に際し考えさせられることが2点ほどありました。
 1つは若年者の子宮頸がん検診です。子宮頸がん検診を含んだ婦人科検診の対象年齢は20歳以上ですが、以前の本稿で述べました通り、2009年度から子宮頸がん検診クーポンが導入されましたが、それ以前の当地域における20代の検診受診率は0%でした。今でこそクーポンを持参する20代の検診者がいらっしゃいますが、それでも心の中では「おっ、久々だな」と思うくらい、数少ないのが現状です。秋田県では妊婦健診の補助券の中に子宮頸がん検診への補助券が2011年度より加わるようになり、従来のクーポンとさらに若年者の検診数の増加を促すアイテムとなりました。直近の平成30年度のデータでは、妊娠初期の子宮頸がん検診で要精検と指摘されたのは対象人数約3,000人のうちの約2%で、精密検査の結果多くは経過観察で済むものでしたが、数例は手術が必要な程度まで進行しているものも認めました(ただし子宮全摘まで至る病変ではありませんでした)。論文の症例で1例は妊娠初期の子宮頸がん検診では陰性とのことで、加えてタイプ16のハイリスクHPV陽性ということもあり、分娩後に急速に悪化したことも否定できません。しかしあくまでも仮定の話ですが、もし妊娠前に検診受診が常態化していたのならば、このような結果になる前に何かしらのサインがくみ取れたのではないかとも考えてしまいます。
 もう1つは子宮頸がんワクチンの問題です。2症例はタイプ16と18のハイリスクHPV陽性という、初期の接種で採用された2価ワクチンでも十分対応できるものでした。上で肺がんを発症した児の予後は良好と述べましたが、共に児が乳児の時期にタイプ18陽性の母はがんの多発転移をきたし、またタイプ16陽性の母は死亡に至っております。子宮頸がんワクチンに関しましては昨年末から市町村から接種に関するお知らせが発出されるようになったことで、当院でも雨だれのごとくの頻度ですが接種に訪れる女子生徒が来院しています・・・でもでもまだまだ少数なのが現状です。もしこの2症例の妊婦さんが子宮頸がんワクチンを接種していたならば、今もなお母児共に健やかな生活を送っていることは容易に想像できると思います。妊娠を経験せずに子宮を失うこと、児の成長を見守ることもできずに先立つこと・・・妊娠~出産を経験したお母さん方には、そのつらさが十分理解できるのではないでしょうか?そのような災いをわが子に被らせないためにも、ワクチン接種と成人以降のがん検診の重要さを女性の先輩として、自分の娘さんに説いていただきたいと切に願うところです(2021.2.1)。

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 みなさん、明けましておめでとうございます。
 振り返りますと昨シーズンは尋常じゃなくらいの小雪でした。オリンピック・イヤーで記録的な小雪・・・どんな一年になるのかと思いきや、帰省に規制がかかるという洒落にもならない年末年始になってしまいました。年が明けるとワクチン接種も具体化してくるでしょう・・・COVID-19の一日も早い鎮静化を願いたいものです。
さて正月の風物詩にかこつけた1月の本稿も、次第にネタ切れになってきました。何かひねりを加えてと・・・頭をひねったところ「餅」について思いを馳せることにしました。流通量の過多もありますが、梱包や保存方法の発達により切り餅などは通年で購入することができるようになりました。しかし私が子供のころは、切り餅などはお正月にしか食べることができないもので、加えて餅に目のない私ですから、この時ばかりと一度に16枚ほどの切り餅を食していました。さすがに今は2枚程度で、どうしてあの時にあれほどの枚数を食べることができたのか、今になって不思議に思います。
 お供えのお餅には蜜柑を載せていますが、本来は橙ですよね。冬という季節と相まって、色のコントラストが絶妙な具合です。色が生えるといえば、トマトの赤もあります。先日ウォーキングの際に聞いていたニュースで、「ゲノム編集されたトマトが食卓へ」という報道がされておりました。ゲノム編集によってGABA(ギャバ)という血圧を下げる物質を多く蓄積されたトマトを商品化して、早ければ今年の下半期には商業ベースにのせるとのことです。農作物におけるゲノム編集としては、ジャガイモの芽の毒であるソラニンを低下させるようするなど、日常摂取する食べ物から、より健康になることが期待できます。でも、「ゲノム(遺伝子)編集をした食品自体、そもそも健康には悪くないのか?」という疑問も当然ありのではないでしょうか?
 「ゲノム編集」と似たような言葉で「遺伝子組み換え」という言葉があります。へたくそな例えかもしれませんが、「ゲノム編集はA→A‘」で「遺伝子組み換えはA+b=A(b)」といえましょう、皆さんは「遺伝子組み換え大豆」なるものを聞いたことはありませんか?これはそもそもの大豆にはない「除草剤に負けない遺伝子」を本来の大豆の遺伝子に組み込むことによって、「除草剤に負けない大豆」として栽培の効率化を図るものです。しかし先ほどの「高GABAトマト」は本来の遺伝子を文字通り「編集」することによって、作物本来の「長所」を伸ばすことをするのです。言い換えるなら「ゲノム編集作物」は待てばいつかは突然変異で得られる作物ですが、「遺伝子組み換え作物」は人為的なものですので突然変異には期待できないと考えられます。
 遺伝的な重い病気に対して、受精卵のレベルでゲノム編集により病気を起こす遺伝子を機能しないように編集して子宮に戻して妊娠~出産に至らせる・・・これがうまくいけば画期的な治療法になるでしょう。しかし現在のところゲノム編集はあくまでも研究レベルで、編集した受精卵を子宮に戻すということは全く許されてはおりません。でももしかしたら~多分、ゲノム編集という技術は、確実に治療の一手段として臨床に入ってくることでしょう。生死の問題はありますが、ゲノム編集以前はマイノリティーであった方が、編集によりマジョリティーとなることができる・・・その結果、マイノリティーを理解し認め合う現在の風潮と何かそりが合っていない気が私はします。
 外来診療に特化するようになっても、診療科の特性上、人の生き死にには日々係わっています。マイノリティーへの理解・共感を深める一方で、個人的にはマジョリティーであることを担保したい気持ちもあるのか、妊娠が判明したことで出生前診断を受ける方もいらっしゃいます。さらにゲノム編集という、遺伝子レベルの人為的な介入もできるようになると、これからの医療はどこまで行くのでしょうか・・・?
 私が中学生の時に愛読した漫画は、ご多分に漏れず手塚治虫先生の「ブラック・ジャック」でした。ブラック・ジャックの恩師、本間丈太郎先生が死に瀕しての言葉・・・「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね」・・・この言葉の意味が産婦人科という仕事に就いて、また生殖医療の発展に目の当たりにするにつけ、ことさら考えるようになりました。しかし今はmRNAワクチンという遺伝子レベルに着目した今までにないタイプのワクチンが、この世界的なCOVID-19の蔓延を速やかに鎮静させることを願ってやみません(2021.1.1)。


2020
院長のcapricciosa(気まぐれ)