2015年も最後の月となりました。

 先月は中ほどまでは、11月とは思えないような暖かい日もあり、例年通りタイヤ交換をした私にとっては、なんかもったいない感じの日が続いておりました。しかし連休もすんで、朝な夕なに冷え込みがきつくなってきております。みなさん、お元気でお過ごしでしょうか?

 さて先日、あまり熱心にアクセスしていないfacebookに旧友から、卒業した小学校が今年度をもって閉校するという情報が入りました。私の卒業した小学校は小樽市内(そうです・・・実は北海道出身です)の中心部近くにあり、全校生徒は当時1,000人以上でした。その小学校が閉校・・・必然的に中学校も閉校の危機にさらされ、高校になると当時の女子高はすべて共学になり母校のクラス数も3分の2になっています。故郷を離れ30年以上経過しました・・・当時秋田県の人口と故郷の政令指定都市である札幌市の人口はほぼ同程度の130万人でしたが、現在札幌市はおよそ200万人-一方の秋田県は100万人と倍の拡散が生じ、あと25年後の2070年には私が秋田に来た当初の約半分の70万人の人口となります。現在喫緊の課題である人口減少社会が急速に訪れていることが、これらの事案から自分の身近な問題として突きつけられた感じがしました。

 この問題に追い打ちをかけるような2つのデータが、今年出されました・・・それは「1.42」と「30.4」です。最初の1.42は出生率(=詳しくは合計特殊出生一人の女性が生涯に産む子供の数)です。出生数は低下しつつも出生率はここ5年くらい緩やかに上昇してきたのですが、2014年の出生率が1.42と前年比-0.1とおよそ10年ぶりに低下に転じました。次の30.42014年の初産の平均年齢が30.4歳のことであり、初めて30歳を超えた結果となりました。近年女性の初婚年齢の平均がおよそ28.5歳との報告がありますので、初産平均年齢が30歳を超えてくるのは想像できるのですが、現実問題として数値として出てきますと、その衝撃はなかなかぬぐいきれません。女性が妊娠できる能力を専門用語で妊孕性(にんようせい)といい、一般には20歳半ばから後半がピークと言われています(私は外来でお話しする時は27歳位とお話ししています)。妊孕性のピークより結婚・出産のピークが高齢へシフトしていれば、人口減少社会の解決は非常に難しいとご理解いただけると思います。

 次に子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がんの婦人科がんの年代ごとのなる割合(罹患率)をグラフに示します。ご覧いただいてお分かりのように子宮体がん・卵巣がんの罹患率のピークが閉経周辺の50歳以降であるのに対し、子宮頸がんのそれは明らかに低年齢・・・それも妊孕性のピークが終える30歳前半から急激に増加してくるのです。すべての出産を終える前に・・・ややもすると未産のままで、子宮に重大な問題を抱えることになりかねない・・・この罹患率のデータは、現状の晩産化に大きな警鐘を与えるものと考えられます。

この重大で重要な問題に対し、政策的に出生率1.8を回復する支援を行うことが先日発表になりました。以前の本稿でもお話ししましたが、現状の少子化・晩産化は産婦人科医療単独でできる範疇を超えております。国家として「骨太な」政策・対応を講じていただき、私たち産婦人科医師は数値をしめしつつ現状の理解を深めていただき、より安心安全な医療を提供するよう努めたいと思います。本稿も含め、今年もご愛読ありがとうございました。皆様よいお年をお迎えください(2015. 12.1)。


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11月・・・霜月です 

 当地での紅葉の名所の八幡平も、若干初雪が早かったせいか、見頃も一気に駆け抜けた感じがあります。紅葉が終わると市内もいつ初雪か・・・?という雰囲気です。もう一気に雪化粧になってくれれば、あきらめもつくのですが・・・日も早く暮れ、路肩にできた落ち葉の吹き溜まりを寒風が荒らす様子を見ていると、「ほら、もうすぐ大雪の冬が来るぞ・・・」と、まるで真綿に首を絞められる!ような感じになるのは、もうこんな季節を50回以上も経験しているからなのでしょうね・・・

 日に日に寒くはなっていますが、衣食住がつらくなる環境にはまだ至っていません。しかし産婦人科では食状況が短期間で不良になる状態がよくみうけられます・・・ということで今回は「つわり」をテーマにお話しさせていただきます。

 妊娠することで出現する食思不振・吐き気・嘔吐などを一括して「つわり」と呼んでいます。早い方では4週(2か月)になるころから感じる方もいらっしゃいますが、多くは赤ちゃんの心拍が観察される6週くらいから立ち上がって、1216週(45か月)には自然におさまります。つわりの原因として、①妊娠成立によって分泌され、急激に上昇するヒト絨毛膜ゴナドトロピンというホルモン(妊娠検査薬は、尿中のこのホルモンの存在を調べています)、②妊娠成立で上昇~高値を継続する黄体ホルモン(プロゲステロン:このホルモンは排卵後に上昇し、胃腸の働きを弱めてしまいます)、③妊娠という一種の臓器移植(半分自己で半部非自己、つまり夫)による「拒絶反応」のひとつ、が考えられていますが、いまだ明確な原因はわかっていません。幾分でもつわりを和らげるためには、①口にできるものを小分けにして食べる・・・それに伴い食事をとる回数も3度と決めず増やして摂るようにする、②水分補給を十分にする、③空腹を避ける(胃袋に少しでも入っていた方が楽です)、④気分転換を図る、など行うことがよろしいでしょう。

 しかしこのような対応を施してもよくなるどころか、水分も受け付けない(=飲んでもすぐ吐く)、尿量が減ったり濃縮した尿となったりしている、非妊娠時の5%以上(痩せている方では3%以上)の体重減少がある場合は、「妊娠悪阻」といって治療対象になりえます。多くは一時期摂食を控えて、十分な水分量を点滴で投与するのが主体となります。補助療法として胃腸の動きを整えたりする漢方薬の服用もありますし、2014年の産婦人科ガイドラインには吐き気どめ(制吐剤)の使用の記載もあります。つわりの治療として薬物を服用することは妊娠初期ということもあり、心配される方も多いと思いますが、母体にメリットがある場合は使用も可という「妊婦有益性投与」である薬剤ですので過度に心配される薬物ではありません。むしろ食事摂取不良ということでサプリメントのビタミン剤を多く摂ることは、その中に含まれるビタミンAを過剰に摂取することになりかねません。ビタミンAについては 20095月の本稿でも述べましたが、多量摂取によって赤ちゃんの神経系に影響を及ぼすといわれていますので、注意が必要です。

 妊娠悪阻の治療につき日本のガイドラインの一部をご紹介しましたが、今年更新された米国のガイドラインでは悪阻の治療として、ビタミンB6とある種のアレルギーのお薬が第一選択薬として推奨されています。ビタミンB6は赤身の魚や藻類、ゴマやバナナなどに多く含まれるビタミンで、成人女性の栄養所要量は11.2mg、妊婦さんは1.7mgであり、後者のアレルギーのお薬については残念ながら日本では未承認薬となっています。しかしながら海外では実際2つ一緒の合剤として悪阻で悩まれている妊婦さんに安全に使用されております。先に述べましたように悪阻の原因が未だ十分解明されていない現在、安全性が担保されている薬剤でいくらかでも症状が軽減されるのであれば、早くにも国内での使用を承知していただきたいところです。そして「つわりだから我慢しましょうね」という悪しき風潮が改められ、そして安全性の高いお薬でつらい悪阻も軽くなるとい新たな風潮ができることを望んでいます(2015.11.1)。


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 みなさま、こんにちは。

 今年は秋の訪れが早いようで、半ば眠っていた半袖を引っ張り出して着ることが昨年より多い感じがいたします。気候の急激な変化のためか、先月には北関東を中心に大雨による甚大な被害がもたらされました。被災された方々には、心からお見舞い申し上げます。まだまだ台風はやってきますので、気を付けましょう。

 さて、今月19日の月曜から例年同様、インフルエンザの予防接種を開始いたします。接種ご希望の方は予約していただきたいのですが、今年の予防接種価格は若干引き揚げさせていただきました。その理由は「3価ワクチンから4価ワクチンへ改善」したからです。この「価」については2010.11.1の本稿でもお話ししましたが、簡単に言うと対応するウイルスの数が3個から4個に今年から増えたのです。インフルエンザにはA型B型の2種類あるのは御存じだと思いますが、世界での流行を見て今まではA型で2株、B型で1株のウイルスに対して対応していたのですが、今年からA.Bともに2株のウイルスに対応するようになりました。ちなみに今年の対応株はA型がカリフォルニア(HINI)とスイス(H3N2)で、B型はブーケット(山形系統)とテキサス(ビクトリア系統)となっています。対応株が増えたことにより価格も幾分上がりますが、その分接種された皆様の期待に沿うものであることを願っています。

 インフルエンザワクチンに関して先月一般紙に、「インフルエンザワクチン 乳児・中学生に予防効果な」というショッキングな記事!が掲載されました。記事の中身は以下の通りです。①対象は生後6か月から15歳の4,727人調査、②6か月~1歳未満、12歳、35歳、612歳、1315歳と5つのグループに分類。③38度以上の発熱で受診した人に、インフルエンザの予防接種をしたか? 検査でインフルエンザが判明したか?を検討。④結果、6か月~1歳未満ではA型、1315歳ではA.B型両方に発症防止効果はなかった。。。というものです。この記事をどう読みましょう??

 発症予防という点からみると、6か月~1歳未満であると免疫機能が未熟であることも推定されます。1315歳では全く発症防止効果がないという結果ですが、ポイントは「13歳以上では大人と同じ1回接種」ということです。ご存知の方も多いと思いますが12歳以下では接種は2回行います。こうして複数回接種することで、未熟な免疫機能でも予防効果の増強される現象を、ブースター効果と呼んでいます。大人とはいえ医療現場は感染のハイリスクの状態ですので、当院ではスタッフ全員にブースター効果を狙い2回接種を行っております。未だ小児科領域にある1315歳が大人と同様な1回接種でいいのかという疑問をこの報告は呈したのではないかと私は思いました。

 以上示した年齢以外では、①A型の発症防止効果:12歳は72%、35歳は73%、61258%、②新型インフルの発症防止効果: 12歳は67%、35歳は84%、612歳は90%、③脳炎などのインフルエンザの重症化の危険性が、A型全体で76%、新型では90%低下させる、④B型について発症防止効果は全年齢通して26%で、重症化予防効果も確認されなかった、という結果でした。

 インフルエンザなどの感染症は、「感染→発症→進展・重篤化」つまり「うつる→かかる→ひどくなる」というステップを踏みます。ウイルスを無毒化した不活化ワクチンという性格上、インフルエンザワクチンの感染予防効果は強く期待できません・・・なのでワクチンを打ってもインフルエンザが「うつる」ことが十分考えられます。しかし今回の結果から小児、児童に関しては、インフルエンザが「うつって」も「かるくかかる」・「ひどくならない」ということが明らかになりました。今年からのB型株の追加は、結果が芳しくなかった発症および重症化予防効果の光明になるかもしれません。また中学生に対しての接種回数によっては、効果の再検討が期待できるものと考えています。その結果が出るまで、大人を含めて予防接種の効果を期待できる周囲の者が積極的に接種して乳児・中学生にインフルエンザを伝染さないという対応の転換が必要かもしれません(2015.10.1)。


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今年も3分の2が終わりました・・・

今年の夏は記録ずくめの猛暑で、熱中症による搬送数が4,000人にのぼる過酷なものでした。残暑といえる時期も越えましたが、まだまだ油断はなりません。皆様も体調管理にお気をつけください。

 この時期は昼夜の寒暖の差が開いてくる頃で、体調もそうですが服装等々で頭の悩ませる時期でもあります。またお盆休みは終わりましたが、今月は後半に長期連休も控えております。そのスケジュールを考えるのも悩みどころ・・・ということで、今月は頭痛についてお話ししたいと思います。

 頭痛を起こす背景となる病気がないものを一次性頭痛、背景となる病気のあるものを二次性頭痛といいます。性成熟期にある女性の場合、毎月の月経のため貧血による頭痛や、更年期以降では高血圧による頭痛を来すことがあります。これらの頭痛は原則として背景となる病気を治療しない限り、頭痛薬等で解決するものではありません。特に月経が開始すると頭痛を来す方で、経血量が多い・月経期間が長いといった症状のある方は、貧血による頭痛が疑われますので、受診をおすすめいたします。

 背景因子のない一次性頭痛には主に頭の片側が脈打つように痛む片頭痛や、頭の両側や後頭部が締め付けられるように痛む筋緊張性頭痛、そして片側の目の奥がえぐられるように痛む群発頭痛などがあります。こと片頭痛に着目しますと、本邦における15歳以上の片頭痛の有病率は女性が男性の3.6倍(男性3.6% vs 女性12.9%)と女性に多く、特に2040歳代の性成熟期での有病率が高いという報告があります。その理由として、性成熟期にある女性には月経周期に関連する「月経時片頭痛」と呼ばれる病状があります。月経時片頭痛は月経の2日前から月経3日目と排卵の頃に片頭痛発作が生ずるもので、女性片頭痛患者の約半数にのぼると言われております。ではなぜ「月経の2日前から月経3日目まで」と「排卵の頃」に片頭痛発作が起こるのでしょう?・・・その発症原因には皆さんご想像の通り、女性ホルモンが大きく影響しています。

 卵巣から産生される女性ホルモンのうち、卵胞ホルモン=エストロゲンの濃度は、女性の性周期(月経から次の月経まで)の中で「2つのピーク」を有しています。1つは排卵の前、そしてもう1つは排卵後から月経前までのなだらかなピークです。そのピークから急激にホルモン濃度が減少する排卵期と月経前に一致して片頭痛発作が生じることから、エストロゲンの急激な低下が片頭痛発作を誘発していると考えられています。

 今までの本稿でお話ししてきましたように、女性ホルモン剤のピルには、ホルモンの変動を安定化する働きがあります。変動を安定化することにより、ホルモン依存性の片頭痛は軽快することが推察されます。しかしながらピルの副作用のひとつとして頭痛があり、それも休薬期間中起こりやすいといわれています。また片頭痛の特徴である予兆(目の前がキラキラしたり、細かい歯車が回ったりするのが見えるといった視覚症状)がある場合は、脳血管障害のリスクが高まるため、ピルの投与は禁忌となっています。

 近年は片頭痛に効果のある薬剤がいろいろ出ておりますので、性成熟期にある女性が妊娠もしくは授乳中に服用しても、赤ちゃんへの安全性の観点から使用できる薬剤も報告されています。一方でそれらの安全性が高い薬剤でも、更年期以降の女性で未治療の高血圧や心血管障害がある場合、重い副作用が出現する危険性もあります。以上今回は女性の片頭痛についてお話ししてきましたが、その治療においては女性特有のライフサイクルに応じて柔軟に対応する必要があるとと言えましょう(今回のカプリは日本医師会雑誌2015年8月号を参考といたしました)(2015.9.1)。

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暑い日が続いています。皆さんお変わりありませんか?

先月は台風が3つまとまって接近するとか、上陸した台風の速度が上がらず大きな爪跡を残すなど、西日本以南では風雨による大きな被害がもたらされました。当地は梅雨入りしても空梅雨状態で始まり、時に豪雨にも見舞われましたが、渇水気味で梅雨明けを迎えた感があります。被害を受けた皆様方におかれましては、心からお見舞い申し上げます。

 梅雨が明けると高校野球も甲子園に舞台を移して熱戦が始まります。若き汗がにじむ熱戦といえば聞こえがいいですが、すり鉢状になった球場で猛暑の中熱戦を続ける球児、そして声の続く限り応援する生徒・関係者の方々・・・モニターで見ている私たちも熱中症になりはしないか気が気じゃありません。

 天候をはじめとした環境ももちろん大切ですが、選手個人の体調も非常に重要であることは言うまでもありません。ベスト・パフォーマンスできるよう日程に合わせてコンディションを調整しても、何かしらのピットフォールは陥るものです。2012年のロンドン・オリンピックに出場した女性アスリート132名に「女性特有の身体的問題で競技に影響を及ぼしたと感じたことは?」と尋ねましたところ、下記のように月経に関する問題が4分の3以上を占めていました。

月経痛

月経による体調不良

月経による精神的不安

月経不順

貧血

その他

27.8

36.7

5.1

7.6

15.2

7.6

 アスリートといっても女性であることには変わりありません。本邦の調査ではトップ・アスリートの4分の1にあたる25.6%で日常生活に支障を及ぼす月経困難症で薬物を使用していますし、月経前に体調や気分変調となる月経前症候群の症状を自覚しているトップ・アスリートが70.3%に上るというデータが出ています。91%ものトップ・アスリートが月経周期と自身のコンディションの変化を自覚しており、特に55%ものアスリートが月経後数日にコンディションが良いと回答しています。コンディションというのは主観的な評価ですが、新体操など審美系のスポーツや柔道など階級制のスポーツでは、体重管理というのも重要な要素です。しかしながら月経前~月経中にかけては67.9%ものアスリートが、体重が落ちにくいと回答しています。

 以前の本稿でも何度かお話ししていますが、月経を「軽く」するものとしてピルがあります。海外の調査ではアスリートのピル使用率は、1985年には12%であったのが、2000年には55%、2008年には83%と上昇しております。しかしながら本邦では2012年のロンドン・オリンピックに出場した選手の7%しかピルを服用いたしておりません。

 アスリートというと国際大会に照準を絞った選手と考えがちですが、国内の競技会に出る選手を含めてアスリートと呼んでおります。これも以前お話ししたことですが、月経のトラブルに対応する低用量ピルはアスリートが服用する禁止薬剤(=ドーピング・リスト)には含まれておりません。むしろ生薬成分や相互作用のため、漢方薬の服用がドーピングと指摘される恐れがあります。通常服用者より発汗の機会が多いアスリートでは、ピルの副作用である血栓症にはより配慮しなければいけません。でも女性アスリートの場合、単なる精神論だけではなく、最高のコンディションを競技日に持っていけるよう科学的に調整することも、国際大会で好成績を収めるための「準備」として必要なことといえましょう(今回のカプリは日本臨床スポーツ医学会誌を参考にいたしました)(2015.8.1


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2015年も半分が終わりました。

先月は九州で長引く降雨に見舞われ、また東北では秋田市・盛岡市と短時間豪雨がありましたが、その間に位置する当地では特に戸惑うほどの大雨には見舞われませんでした。しかし豪雨により被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げます。

さて先月の上旬に厚生労働省から昨年の人口動態統計が発表されました。それによると一人の女性が生涯に産む子供の数を推計した合計特殊出生率が1.42となり9年ぶりに低下に転じたとのことでした。私が生まれた約50年前のそれは2.0を優に超えておりましたが、1974年には人口置換水準(=人口維持のための合計特殊出生率)である2.08を下回りました。そしてそれ以降は御存じのように出生率は右肩下がりに低下し、2005年には過去最低の1.26を記録しました。その後しばらくは漸増していたのですが、このたび-0.01ではありますが9年ぶりに低下しました。実数で見ましても2014年の出生数は1003532人(前年比26284人減)、本年の出生数は100万人の大台を割り込むのではと強く危惧されています。

また統計では平均初婚年齢も示されており、2014年では男性が31.1歳、女性は29.4歳まで上昇し、50年間で男女とも4歳以上 初婚年齢が上昇する結果となっています。そして初婚年齢の上昇は晩産化に直結し、2014年の初産平均年齢は30.6歳と前年(30.4歳)より上昇し、20年で3歳も上昇しています(1995年:27.5歳)。

この30歳というのが一つのポイントと思われます。なぜなら30歳までの自然妊娠率はおよそ2530%程度ですが、それ以上になると妊娠率は徐々に低下していくというデータがあります。さらに不妊治療の国際的なガイドラインも踏まえ、日本産科婦人科学会では女性がより早期に適切な不妊治療を受けることを期待して、「不妊期間」の定義を従来の「2年というのが一般的」から「1年というのが一般的」と近々正式に変更する予定です。事実、通常の営みをもって1年以内に妊娠する割合は90%くらいである一方、カップルの810組に1組は不妊に悩んでいることを考えると、不妊期間の定義を短縮することは、晩婚晩産化にある現在にあって望ましいことといえましょう。

不妊症の原因をみますと、女性因子が41%、男性因子が24%、男女両方が24%、残りの11%が原因不明といわれています。妊娠の主体はもちろん女性ですが、両性因子を含めますと不妊カップルの約半数に男性因子が存在することになります。これらを踏まえ、本年度から「幸せはこぶコウノトリ事業(秋田県特定不妊治療費助成事業)」に「男性不妊治療」に対しての助成制度が盛り込まれました。内容は特定不妊治療の一環として行う、精巣から精子を採取する手術(精巣内精子生検採取法TESEや精巣上体内精子吸引採取法MESA)等で、1回の治療につき10万円までの助成を受けることができます。

男性不妊への補助の拡充が図られましたが、来年度からは従来の女性への助成対象年齢と回数が変わります。本邦の体外受精(IVF-ET)の成績より、32歳位まで40%弱の妊娠率が、40歳では20%を割り、43歳では10%になることから、妻の年齢が40歳以上43歳未満には通算助成回数は3回まで、また43歳以上の場合は本事業の助成対象外となります(40歳未満は従来通り、通算助成回数は9回までです)。助成対象がさらに厳しくなりましたが、本事業が広く長く継続するためにも、ご理解のほどお願いいたします(詳しくは、秋田県特定不妊治療費助成事業~美の国秋田ネットhttp://www.pref.akita.lg.jp/www/contents/1137209858924/をご覧ください)(2015.7.1)。

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6月・・・水無月になりました。

今年は桜が早かったせいか、外来にいても田植え前のにぎやかさがなく、なんかすーっと田植えに移行した感じがあります。でもそれはあくまでも外野の印象なので、実際従事されている農家の方々は例年通り大変な日々を過ごされていることともいます。昨年の本稿でも書きましたが、田植え頃の田んぼの水面が広がる・・・という大好きな夜景が見られる時期でもあります。皆様いかがお過ごしでしょうか?

さて一昨年のこの時期には風疹の流行があり、昨年はみみなれない耳慣れないデング熱の発生がありました。そして今年は皆さんもマスメディアから耳にしていると思いますが、りんご病の流行が心配されています。特に妊婦さんへの感染は注意が必要といわれており、本日はそのりんご病についてお話しします。

りんご病は正式には「伝染性紅斑」といい、パルボウイルスB19というウイルスが原因の感染症です。冬から春にかけて流行する子供に多い感染症です。咳などの飛まつ感染や接触感染によってウイルスが入り込むと、1週間ほどの潜伏期間で発熱や関節痛などの風邪症状、2-3週間でりんご病といわれるゆえんの頬の発赤を見ます。発赤はレース状でまるで「ビンタ」されたかのような赤味で唇周囲には出現しません。その後、腕・大腿などに出現し、1週間ほどで消失します。この感染症の「いやなところ」は、水ぼうそうなどと異なり、主症状である「頬の発赤」が出るころにはほとんど感染力がなく、出現する前の「風邪症状」の時期に感染力を有するということです。また風疹などのようにワクチンがありませんので、妊婦さんであれば流行時にはうがい・手洗いのほか、お子さんからの感染に気をつけなければいけません。

妊婦さんが感染すると、その感染は胎盤を介して赤ちゃんに及びます。赤ちゃんがパルボウイルスに感染してしまうと、血液中の赤血球のもとである赤芽球という細胞が破壊され重症の胎児貧血になってしまいます。その結果赤ちゃんの身体全体がむくんでしまう「胎児水腫」という病気や、ひいては胎児死亡の原因となることもあります。赤ちゃんへの感染は妊娠20週未満の母体感染でリスクが高く、母体感染から2か月程度で赤ちゃんへの影響が観察されると報告されています。

でもただやみくもに恐れないで、しっかり理解していきましょう。日本女性の30%程度が、このパルボウイルスへの抵抗力(抗体)を持っているという報告があります。母体が感染しても赤ちゃんが感染するリスクは30%くらい、そして実際赤ちゃんが発症するのは、さらにその30%くらいで、発症した赤ちゃんの30%は自然寛解するといわれていますので、赤ちゃんに感染~発症して重症化するのは5%程度といえましょう。また赤ちゃんへの影響は主に貧血を介しているのであって、パルボウイルスが直接赤ちゃんに悪さしているわけではありません。事実自然寛解した赤ちゃんやパルボウイルスに感染したが無症状で経過した赤ちゃんは、何もハンディキャップなく正常児と同じ経過であることも報告されています。

 妊婦さんへの感染が疑われた場合、赤ちゃんへの影響が出るまでしばし時間を要しますので、きめ細やかな胎児超音波検査が必要になります。検査に通院している間、お母さんとしては気が気じゃないことでしょう。でも風疹等と異なり、症状が出現しても特殊な治療ではありますが、おなかの中の赤ちゃんに輸血する治療(胎児輸血)が予後を改善することも報告されております。しかしながら先に述べましたようにワクチンなど有効な予防方法がなく、また明らかな紅斑が出る前に感染することとなるので、流行期にはうがい・手洗い・マスクといった感染予防行動を行うことが重要ですし、特に同居者が感染していたり、感染流行場所(保育所・幼稚園など)にいたりする場合には、不要な接触を避けるということも大切です(パルボウイルスの抗体を確認する採血も可能ですが、通常保険外診療となります)(2015.6.1)。

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みなさん、こんにちは。

3月の中旬にはまだ除雪車が入るくらいの降雪があったのですが、今週初めには夏日となるくらい気温が上がりました。このような気候のため、今年は1週間くらい桜の開花が早い感じがします。その分例年であればゴールデンウィーク後半は桜吹雪舞う時期なのですが、今年はすっかり葉桜になっているのではないかと思っています。皆様いかがお過ごしでしょうか?

さて今はゴールデンウィーク真っただ中で、日曜日に祝日が重なることもあり、しっかり4連休が取れる並びとなっています。予想気温も20℃は下らず温暖な連休になりそうです。となると自ずと足も外に向かい、お食事も外食となることも多いでしょう。折角のお休みだから・・・といって、外食に偏りすぎてしまうと、日頃の食習慣とのギャップに連休明け戸惑うことになるかもしれません。

「衣食住」は生きていく上での3本柱ですが、その中でも食習慣は「基本の基」といえましょう。しかし不思議なことに私が医者になったころは生まれたての赤ちゃんの平均体重は男の子が3,300g、女の子が3,100gぐらいでしたが、現在では男女とも2,900g前後に減少してきています。世界から見れば飽食の日本において、新生児の出生体重は減少してきている・・・いったいどうしてでしょう? 

その原因の一つに妊娠適齢女性の食習慣の問題があります。昔服装がまだ和服だったころ、欧米女性と比べて日本の女性の体格は非常に小柄でした。その理由として、粗食な食習慣や日本家屋の生活様式、また着帯という様式(妊娠子宮を圧迫して大きな赤ちゃんを産まないようにさせる・・・産科医療が未発達のため)などがあげられます。一方現代女性は昔に比べ身長は伸びましたが、横幅が追随せず「きゃしゃ」な体型の女性が増加しています。その理由はもちろんコスメティックな点を重視して食制限をしているからにほかなりません。20代女性の必要カロリー量は1,950kcalですが、実際は1,650Kcalほどしか摂取していません。そしてその傾向は妊娠しても変わらず、本来であれば非妊娠時カロリーに妊娠中期なら+250Kcal、妊娠後期であれば+450kcal程度の付加カロリーが必要なのですが、最近の調査によれば妊娠末期においても非妊娠時とほぼ同様なカロリーしか摂取していないという結果が出ています。

妊娠中に要求されるカロリーに満たない食生活を送っていると、おなかの中の赤ちゃんの代謝も「省エネモード」になってしまい、出生時体重が低くなってしまいます。そして生後、飽食の環境で発育することによって、生まれながらの「省エネモード」の代謝経路にたくさんの「燃料」が入ってしまって、その結果大人になった時に糖尿病などの生活習慣病のリスクが高くなってしまいます。2,500g以下の低出生体重児の赤ちゃんにとって「小さく生んで大きく育てる」ことは、大人になった時に生活習慣病のリスクを負わせることになりかねないことを理解する必要があります。

一方1,000万人以上の女性を対象に調査した報告によると、40代から70代に至るまでに平均で体重は約3Kg、またウエストは6.5cm増加するという悲しい?結果が出ています。加齢に伴い基礎代謝量が落ち、熱量を多く消費する筋力も低下することによって、若い時と変わらぬ食習慣でも自然と体重増加をきたしてしまいます。その対策として①「間食を・脂質を・主菜を」減らす、②食事の「バランス・リズム・スピード」を考える、③130分は歩く・・・ことが重要です。

昔の質素な食生活の時代、現在に比べ長寿だったかというとそうではありません。わが国の長寿には栄養価にとんだ食生活の欧米化も一役かっていると思います。しかしそれは「欧米化」であって「欧米食」ではありません・・・おかずがいくら「欧米化」しても私たちは「左手に持ったご飯が盛られたお茶碗を決して手放さなかった」のです。ごはんを主食に、いろいろなおかずをバランスよく組み合わせることが、日本を世界の長寿国にまでしたといえるでしょう。主食をごはんに変えることで多様の栄養素の摂取が進んだという妊娠中期の妊婦さんでの報告や、「ごはん」をしっかり摂ることで、間食が減り原料につながる中高年女性での事例も報告されており、「左手のごはん」を中心とした「日本型食生活」を今一度見直していただきたいと思います(今回は日本医師会パンフレット「疾病予防は日本型食生活から」を参考にいたしました)(2015.5.1)。

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新年度に入りました。

先月は一度冬の台風並みの猛吹雪があったくらいで、例年に比べ雪どけも早く、私も先月内に夏タイヤへの交換を済ませてしまいました。足元が軽くなると、気持ちまで軽やかになりますね。今月末になると桜の便りも聞こえてきます。今年の冬は短かった分厳しさがありましたので、春の到来は、格別うれしいものがあります。

さて、「きゃど(道路)、ぽんぽんじぃ(粉塵舞う様)」状態になる以前より、例年スギ花粉症でお悩みの方は、すでに何かしらの対策をなさっていたことと思います。当院でも花粉症で投薬を受けている方がおりますが、例年と比べ処方を開始する時期が、今年は若干早い印象を受けています。くしゃみ、鼻水、鼻づまりに加え、目のかゆみや頭重感で、せっかくの春の到来が、憂鬱な季節の襲来に感じてしまうかもしれません。国民の4人に一人が花粉症であるといわれている現在、花粉症にお悩みの妊婦さんもいらっしゃることでしょう。そこで今回のカプリは「妊娠と花粉症」について、お話しいたします。

御存じのとおり花粉症はアレルギー反応の一種です。花粉という生体外の物質が侵入し、免疫系の反応が機能した結果生じる症状の総称です。そのメカニズムを乱暴かもしれませんが「事件」に例えてみますと、犯罪[花粉]がパトロール[マクロファージ]にみつかりますと、その情報が警察[ヘルパーT細胞]に伝わり、逮捕されると検察[B細胞]に送られ、起訴状[IgE抗体]がでる。そして裁判となり判決[化学伝達物質=ケミカルメディエーター]が出ると、社会にいろいろな反響(くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの臓器症状)を及ぼす・・・ということです。でも起訴状が出て裁判となっても無罪ということももちろんあります・・・これと同様にIgE抗体といった発症要因がある程度産生・蓄積されたからといって、必ずしも花粉症を発症するわけではありません。この概念を「アレルギー・コップ」といい、発症要因がコップからあふれるようになって初めて症状が出てくるという考え方です。なので、「去年までは大丈夫だったのに(=コップに満ちていないから)、今年から花粉症になった(コップからあふれ出た)・・・」というのも、理解いただけるのではないでしょうか?

妊婦さんの場合、卵巣からでる黄体ホルモン(プロゲステロン)が高値のため、妊娠前と比較して鼻粘膜のむくみが強くなることで、花粉症の症状がきつくなる方がいらっしゃいます。また一方で妊娠して花粉症の症状が軽くなったという方もいらっしゃいます。妊娠すると免疫機能が若干低下いたします・・・これを免疫寛容(かんよう)といい、この機能のため、半分自己で半分非自己のあかちゃんを拒絶しないようになっています(寛容がなければ流産になりかねません)。ただ妊娠中の花粉症の軽減にこの免疫寛容が機能しているか否かは、明らかではありません。

妊娠中の花粉症ですが、まず基本としてアレルゲンである花粉を避けることです。花粉飛沫が多い時期には、眼や鼻のガードをしっかり行い、長時間の外出は雨天などを狙って行う。帰宅したら衣服の花粉をなるべく持ち込まない、しっかりうがい・手洗いをする・・・といった対策が大切です。そのうえでお薬ということになりますが、2009年4月の本稿でもお話ししたように、現在の産科は「母体の健康があって、はじめて健やかな妊娠生活を過ごすことができる」というスタンスなので、病状に応じてお薬を処方いたします。外用薬には点眼薬や点鼻薬などがありますが、赤ちゃんへの薬剤移行についてはあまり重視しなくてもよいでしょう。ただ先に述べましたように、もともと妊婦さんの鼻粘膜はむくんでいるので、点鼻薬を使用しても一時の効果でリバウンドを感じる方も少なくありません。内服薬としては漢方薬や抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤などを処方しますが、それらの服用に関しては主治医の先生にご相談されたほうがよろしいでしょう。

昨年度に花粉症の治療の一つとして「舌下免疫療法」という治療が保険適応になりました。これは脱感作療法の一つで、ごく少量のアレルゲンを舌下に長期にわたって投与し、スギ花粉などのアレルゲンに身体を慣れさせ症状を軽くするという治療です。少なくとも2年以上の治療期間となりますが、最初の2週間の薬剤増量期には妊娠していないことが望まれておりますので、この治療を行う場合は、余裕をもって妊娠される前に行うのがよろしいでしょう(2015.4.1)。

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早いもので年度終わりを迎えました。

先月は中旬の旧正月の時期まで、観測記録を更新するほどの一晩で100cmを超える積雪をきたし、「真冬の台風」のような日々が続きましたが、中旬以降は温暖な日に恵まれ、アスファルトは乾き融雪も急速に進みました。大雪と急激な融雪で例年に比べ今シーズンは除雪にまつわる事故が多いシーズンでした。真冬日はないとはいっても、まだまだ油断はできません。これからも除雪中の事故にはくれぐれもお気を付けください。

さて例年年度末には、当地区医師会が主催する「鹿角の医療を考える集い」がございます。今年は今月21()の祝日に、午後2時から鹿角パークホテルで催されます。今回は県立脳血管研究センターの長田 乾先生より「今日から始める認知症予防」というテーマでご講演を賜る予定となっております(詳しくはhttp://www.ink.or.jp/~kazuno-ishikai/sub2.html をご覧ください)。市民の多数のご参加をお待ちしています。

調査によっての変動幅がありますが、65歳以上の高齢者の7人に一人は認知症といわれる現在、「がん」と同様に、いつ自分にも関わってきてもおかしくない病気が認知症です。ただ「がん」と異なる点は、がんに罹患したのは自分で理解できますが、認知症になったことを理解することは困難です。従いまして、認知症という病気の理解を深めるのは自分が認知症になった時というよりは、むしろ自分の周りで認知症になった方がいる場合のことや、また自分自身が認知症にならないことについて、知識を得ることが重要です。認知症とは「脳の神経細胞の機能が低下して、周囲で起こっている現実を正しく認識することができない病態」です。程度や順番の相違はあっても認知症に基本的に認められる症状を、「中核症状」といいます。中核症状には、①新しいことが覚えられず、ついさっきあったことも思い出せない(=記憶障害)、②現在の時刻や今いる場所といった基本的な状況を把握できない(=見当識障害)、③理解力・判断力の低下や自分で計画を立てられない(=認知機能障害)、などがあります。これらの中核症状に、不眠・抑うつ、幻覚・妄想などの周辺症状が組み合わさって、認知症の種々の病状を呈していくことになります。

認知症への理解の一つである予防については、来月の講演をお聴きになって理解を深めて頂きたいと思います。ここでは身近な人が認知症になったら・・・という内容でお話ししていきますが、これについても、書籍やネットであまた情報はあふれているので、ここでわざわざ取り上げることでもないのかもしれません。認知症の患者さんの心の根っこにあるものは「不安」と言われています。自分の記憶が薄れていく、自分自身がわからなくなる、できていたものができない、そのような病状が進行していく・・・その不安をいくらかでも和らげるために、「声掛けを多くする」、「怒らない」、「話をよく聞く」など、認知症の患者さんへの対応の根本としては「自尊心を尊重する」スタンスが大切といわれています。

しかしながら理論はあくまでも机上のことで、現実は理論通りにはいきません ・・・ 私の母も認知症でした。毎日逢っているわけじゃなかったので、逢う度に病状が進んでいくのをことさら直視せざるを得ませんでした。実の息子にも他人行儀になり、さらに不安からか徘徊するようになると、外見は母のままであるため、病状を忘れて思わず声を荒げたりすることもありました。母の場合、発症から2年も経たず他界してしまいましたが、介護は長丁場に及ぶこともあります。これだけの経験ではものも言えないかもしれませんが、「焦らず」、「せかさず」、「寄り添うようなスタンス」で、そして介護する自分の「逃げ場」もこしらえて、いざとなったらヘルプを求める潔さも必要だと思いました。そしてきめ細やかに寄り添って介護しても、意思の疎通のないまま永久の別離となる厳しい現実も認知症にはあることも知っていただきたいと思います(2015.3.1)。

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みなさん、こんにちは

年末は久しく経験しない程の大雪に見舞われましたが、先月末は雪が溶け路面が乾燥するくらいの気温の日もあり、一気に春が来たのではないかと思わせるくらい、穏やかな天候の日が続きました。しかしそうは問屋がおろさず、また最近、真冬に舞い戻った感のある天候が続いております。皆様お変わりありませんでしょうか?

先月も中旬を過ぎますと、今年度分のインフルエンザの予防接種も一段落しました。年が明けてインフルエンザが猛威を振るっておりますが、今年度のインフルエンザは例年に比べ、感染力が強い感じがいたします。ワクチン接種をされたからといって、うがい・手洗い・咳エチケットといった、基本的な予防習慣には怠りのないよう、気を付けられてください。

当院は産婦人科ですが、インフルエンザの予防接種については、専門医のもとで接種歴のある小児の皆さんにも行っております。先日、小学校高学年にも満たない女子児童から接種の後に「先生、質問があります!」と、30年近く前に学習塾でアルバイトした時と同様なシチュエーションになりました。 ・・・  私「どうしたの?」  児「どうして注射する時には消毒するんですか??」 私「いい質問だね! 本当はね、消毒はしなくていいんだよ!」 児「?!」  ・・・ ということで、今回のカプリは「注射時の消毒」について、お話しします。

その前に似たような言葉~滅菌・殺菌・消毒・除菌~の整理をしましょう。「滅菌」はすべての微生物を死滅・除去すること(微生物の残存確率が1/100万以下)ですが、生体に対しては無理なので器具などに対して使う用語です。 「殺菌」は文字通り細菌を死滅させることですが、殺す対象や程度は含まれておりません。 「消毒」は病原性微生物を死滅・除去あるいは無害化させることで、「滅菌」や「殺菌」は「消毒」の一手段といえます(煮沸消毒などもあるので)。 「除菌」は対象物における微生物の数を減らして清浄度を高めることで、学術的な専門用語としてはあまり使われません。注射時に頻用される消毒用エタノールは消毒効果としては「中水準」であり、ほとんど最近に対して効果を発揮しますが、丈夫な皮膜で包まれている芽胞(芽胞)細菌や、ノロウイルスのような小型のウイルスには効果を有しません。ほとんどの細菌やインフルエンザウイルスに対し効果を発揮しますが、粘膜には使用できないという不利な点もあります。

ほとんどの病原菌に効果を有する消毒用エタノールですが、本邦は清潔に関して民度は高いとはいっても、さらにエタノール消毒を省いても直接注射針をさしてもかまわないという根拠がいくつかあります。まず①感染が起こるのには痛んだ組織(壊死組織)や異物の存在が必要で、病原菌単独では困難である、②正常の皮膚表面のpH5.5の弱酸性である一方、体内はpH7.4と弱アルカリ性であるため、環境の急激な変化で増殖することができない、③1回の注射で皮下に入る細菌数は10以内であるけど、感染が成立するためには1,000以上必要である、ということがあげられています。実際問題として、アレルギーによるショック状態に行うアドレナリンの自己注射薬(エピペン)の接種では、症状が出たら消毒はおろか服の上からでも速やかに注射をすることが救命率の向上につながります。

以上、注射時にアルコール消毒は不要と考えられる理由を挙げましたが、消毒もなく安全に注射できるのは、あくまでもインフルエンザワクチンのような「皮下注射」やせいぜい「筋肉注射」までで、採血や血管・関節内への注射については「消毒不要」と断言できかねる状況です。日常の臨床では、医療スタッフが、病状に応じて検査・治療目的に注射針によるアプローチを患者さんに行っています。「患者Aさんは皮下注射なので消毒不要」「患者Bさんは点滴なので消毒すること」などなど細分化されていれば、業務の停滞を起こしかねません。しかしだからといって不要な消毒をいつまでも継続していってよいという理由にもなりません。私達医療者の意識も変える必要がありますが、「注射前にはアルコールで消毒」という一般の方々の強く染み込んだ概念も変えていかなくてはいけないでしょう(2015.2.1)。

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みなさん、あけましておめでとうございます

先月は例年にない豪雪で、除雪で寄せた雪を大型ダンプで排雪する作業を2回も行わなければなりませんでした。排雪作業は通常1月にあるので、いかに先月の積雪が多かったことかと推察していただけると思います。このような気候においても、無事平成27年の元旦を無事迎えることができました。今年一年、皆様よろしくお願いいたします。

さて・・・「一年の計は元旦にあり」ということわざは、新年によく聞かれます。その出典は諸説あり、戦国武将 毛利元就の言葉という説や、中国の書物である「月令広義」の一節という説があります。いずれにしても、「一年間の目標や計画は元旦に決めることが良い」、「一年のスタートという節目は新しい目標や計画を立てるのに最適なチャンスである」と、今後一年の行動計画を立てるのに元旦はふさわしい機会であるといえましょう。

一年に計画されている事案として検診事業があります。平成24年度、および平成25年の速報値も出ましたので、そのデータを見て一年の計を考えたいと思います。

TV等よりすでにご存じかもしれませんが、秋田県のがん死亡率は人口10万人あたり392.8人と昨年の386.7人と増加し、1997年から17年で連続第一位という不名誉な記録を更新しています。婦人科関連で死亡率を見ますと、子宮がんは人口10万人あたり9.5人と全国24位(平成24年は11.7人と4位)、乳がんは20.1人と全国19位(平成24年も19.6人と19位)でした。がん死亡率を下げるには、「早期発見→早期治療」が何よりであること、そしてその早期発見をするためには、積極的にがん検診を受けることであるのは言うまでもありません。そこでがん検診の受診状況について、すべて結果が出ている平成24年度のデータをみてみましょう。

現在、がん検診受診率を50%に引き上げるべく各種アクションが行われておりますが、平成21年度より始まった「子宮頸がん検診クーポン」もがん検診率向上の一役を担っています。5年ごとに配布される「子宮頸がん検診クーポン」の平成24年度の利用率は全国平均23.5%であったのにくらべ、当県では26.8%と利用率は悪くありませんでした。しかし平成24年度の子宮頸がん検診受診率は全国平均で23.5%であった一方、秋田県の受診率は22.1%と全国平均より若干低く、その受診率は全国32位と秋田県内の他のがん検診の受診率の順位(胃(11位)、大腸(6位)、肺(20位)、乳(15位))と比べ、最も低いという結果でした。

それでは子宮頸がん検診について、県内25市町村のデータをもう少し詳しく見ていきましょう(当院の医療圏のデータを示しますが、小坂町に関してはデータが出ていないので、割愛しました)。

   受診率(子宮頸がん検診の受診率:目標50%以上--秋田県:22.1%):大館市23.2%(15位) 鹿角市21.2%(16位)

   要精検率[精密検査が必要になったものの割合--秋田県:1.4]:大館市0.9%(7位) 鹿角市1.5%(18位)

   精検受診率[精密検査対象者のうち、どのくらい二次検診へ受診したか:目標90%以上--秋田県:78.5]:大館市70.4%(13位) 鹿角市57.9%(17位)

   精検未把握率[精密検査対象者のうち、精検結果不明などのもの:目標5%以下--秋田県:15.7]:鹿角市0%(1位) 大館市29.6%(20位)

   精検未受診率[精密検査対象者のうち、二次検診を受診してないもの:目標5%以下--秋田県:15.7]:大館市0%(1位) 鹿角市42.1%(19位)

ご覧のとおり、当院の医療圏の子宮頸がん検診受診率は県平均を前後するものであり、大館市も鹿角市も産婦人科に関しては病院・診療所各1施設という同条件でしたが、精検未受診者が当鹿角市でほぼ半数近い結果となっていました。折角がん検診を受けても、二次検診の指示が出たのに未受診のままであれば、検診を受けた意味が全くありません。検診は受けて終わりというものではなく、火事に例えると延焼させず、「ぼや」のうちに消火するのと同じことです。一年の計として今年がん検診を予定されている方で、もし要精検の指示がありましたら、必ず二次検診を受けてください。そして二次検診の結果が出るまで、検診は終結していないということを銘記していただければ幸いです。(2015.1.1)。


院長のcapricciosa(気まぐれ)