今年も師走・・・最終月になりました。

長期予報では今年は暖冬とのことですが、先月も積雪があったのは1日のみで、現在までのところ予報通りに日中は10度を超える日が続いております。しかし数日後には真冬日の気温で雪マークが並んでいます。満を持して冬将軍到来となりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

毎年年末の本稿は、その一年を総括するような医療問題を提起して終わるのですが、今年は消費税の引き上げや、STAP細胞への疑義、またデング熱やエボラ出血熱といった感染症への脅威など、何かしら閉塞感を漂わせる出来事に遭遇することの多い一年でした。なので今年最後の本稿は視点を変えて、この一年を個人的に振り返ってみたいと思います。

本年7月に開院して10年を迎えましたが、大きな問題もなくスタッフ一同来院された患者さんに、より良いと思える医療を粛々と提供いたしております。電子カルテに変更し、早いもので5年経過しておりますが、震災の時を除き遅滞なく診療ができております。ただ最初の本稿でお話ししたお香については、最近ではアロマオイルに変えて、待合の空間がよりフレッシュなものになるよう努めております。

私的な一大事としては・・・50歳にして、ペットを飼いました♪ ペットはウサギ♂で、「ネザーランド・ドワーフ」といい、キャラ クターの「ピーターラビット」を思い浮かべていただければ・・・想像しやすいと思います。来たときは3か月でしたが、もうそろそろ1歳になりますので人間でいうと20歳くらいになります。どうしてウサギ・・・?と問われますが、幼少のころ犬を飼っていた以来のことで、自分が責任もって飼育するにあたり、①室内で飼える、②極力鳴き声を抑えたい、③排泄物の処理に手間がかからない、④多くの病原体を有しない・・・などなど考えた結果、結局自分の干支である「うさぎ」ということになりました。で、実際飼っていて・・・当たり前ですが、院長は毎日毎日甲斐甲斐しくお世話をいたしております。性別がオスということもあり、皆さんがウサギに対してのイメージを根底から崩すぐらい、やんちゃでワイルドな一面もありますし、草食で被捕食動物であることを忘れるくらい、呑気に過ごしていることもあります。予想外に感情豊かで、懐いてくれるときなど、院長先生は一人でメロメロになっています。

メロメロとまではいきませんが、このようなペットによる心身の癒しによって、生活の質の向上を図る手法を「アニマルセラピー」と呼んでいます。「アニマルセラピー」という言葉は、実は日本における造語で、医療従事者が治療の補助として用いる動物介在療法(Animal Assisted Therapy, AAT)と、動物とのふれあいを通じて生活の質の向上を目指す動物介在活動(Animal Assisted Activity, AAA)、 そして動物の飼育を通じて学童に思いやりの心などを育てる動物介在教育(Animal Assisted Education, AAE)などを合わせた日本独自の概念といえます。アニマルセラピーの利点としては以下の3点が挙げられています。すなわち、①生理的利点:体内においてプラスの生理学的な効果(ホルモンや脳内の伝達物質、神経系の変化)が生じること、②心理的利点:動物との接触によって人の内面や行動がプラスの恩恵を受けること、③社会的利点:動物と接することにより、人と人との交流が円滑になること、です。上述のように人間にとってアニマルセラピーの有効性は多々論じられてはいますが、関与する動物の観点から見ると、人間に飼われているプラスαのストレスがのしかかるリスクが危惧されています。しかし現在のところアニマルセラピーを行う事業者および携わる人も動物取扱業の法的な括りで扱われているだけであって、アニマルセラピーに特化した法的整備はなされていません。

アニマルセラピーで一番活躍している動物は犬です(ウサギはリアクションが薄いということで頻用されないとのことでした)。しかし残念なことに、今年はペット販売の目論見が潰えて、多数の犬が放置されたり、亡くなったりという悲しい事件が何件もありました。クリニックのコラムですからどうしても人命にスポットが当たりがちですが、新しい年には一人一人が身近な小さな命にも心配れるような社会になることを祈念するところです。本稿も含め、今年もご愛読ありがとうございました。皆様よいお年をお迎えください(2014. 12.1)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

みなさん、こんにちは

11月に入り、霜月のごとく先月末からは急に冷え込みがきつくなり、当地でも霜注意報が発令されるようになりました。先月中旬は八幡平も紅葉真っ盛りでしたが、今は落葉し冠雪を待つだけの状態になりつつあります。皆様お身体おかわりありませんでしょうか?

さて今年初めの本稿で低用量ピルについて少々つぶやかせていただきました。もともと低用量ピルは15年前に避妊を目的として販売が解禁されましたが、その目的ゆえ当初は自費診療による取扱いとなっていました。しかし解禁以前から経験的に「ピルを服用すると生理が軽くなる」ことは十分理解されていましたので、その後月経困難症の治療薬としての低用量ピルが発売されるようになりました。それと類似した状況が昨今もたらされ、婦人科治療の裾野が若干広がりましたので、今回のカプリでご紹介させていただきます。

それは子宮内避妊システム(IUS)というものです。子宮内避妊システムとは従来の避妊リングである子宮内避妊具(IUD)に女性ホルモン剤が添加されているものをいいます。商品名はミレーナ®といい、レボノルゲストレルという黄体ホルモン製剤が添加され、避妊効果を高めています。販売当初は避妊具という自費診療での取り扱いのため、当院でも装着時にはかなり高額のご負担をいただいておりました。しかし高い避妊効果もさることながら、経血量が多い「過多月経」の患者さんの改善効果も認められていたため、9月上旬より健康保険の適応となりました(従来通り避妊目的の場合は健康保険が適応されません)。健康保険が適応されることによって、3割負担で1万円ほどの実費負担に抑えられております。

では過多月経とはどんな状態なのでしょう?20083月の本稿でもお話ししましたが、定義では1周期あたりの経血量が250gを超えるものとなっています。目安としては、レバーみたいな塊がおりる・ 昼間でもパットを2枚以上当てたりナイト用でないと漏れたりする ・ トイレ毎のパット交換では間に合わない、などの状態です。子宮筋腫や子宮内膜症といった疾患が背景にあることが多いですが、子宮に何も病変を認めないのに過多月経をきたす方も多くおられます。

 月経そのものは「せっかく妊娠してもらおうと準備した、フカフカ厚くなった子宮内膜が、妊娠が成立しないため用済みとなり、血液と一緒に剥がれ落ちる」現象ですが、子宮内膜をフカフカに厚くするために、子宮内膜には卵巣からの卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)が働きます。エストロゲンは子宮内膜を厚くしていきますが、排卵後に産生されるプロゲステロンは過度の厚みにならないよう妊娠をしやすい状態にします。これを専門用語で「脱落膜化」といいます。ミレーナ®に添加されているノボレノゲストレルという黄体ホルモン製剤は、持続的に放出されることで脱落膜化を促進し子宮内膜をより薄くなることによって、結果として過多月経が改善されることとなります。

今回保険適応になったミレーナ®は、すでに世界130カ国以上、のべ2,000万人を超える女性に安全に使用され、ヨーロッパ諸国では子宮内膜症の病型の一つで、内膜症組織が子宮の筋肉の中に「飛び火」する「子宮腺筋症」の治療にも保険適応になっています。内膜症病変にとって、エストロゲンは「アクセル」、プロゲステロンは「ブレーキ」として病気の進行に働きます。ミレーナ®に添加されているレボノルゲストレルというプロゲステロン製剤が5年間かけてゆっくり放出され「ブレーキ」優位の環境になることで、子宮腺筋症の症状を軽減すると考えられています。

初潮の低年齢化・初産の高齢化・少子化・・・どれも女性を長期間に高エストロゲン状態に暴露する要因となっていて、そのため子宮内膜症に悩む女性は200万人とも250万人とも言われております。従来子宮内膜症の治療薬にはGnRHa製剤の注射で月経をとめる偽閉経療法や、本稿でもたびたびお話ししている低用量ピル、黄体ホルモン製剤のジェノゲスト(ディナゲスト®)があり、今回ご紹介したIUSであるミレーナ®も場合によっては治療の一手段になりうるものと考えられます。しかしどの治療も長期にわたって行っていくものです。病気の程度や進行度に加え、自身の年齢や妊娠歴、病変の程度などを主治医の先生に多角的に評価していただいた上で、自分の病状に適切な治療を受けられてください(2014.11.1)。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

10月に入りました。

本日から前後2週間は祝祭日のため、連休が多い週となっています。連休が明けるたび、気温が徐々に下がり夜間の気温も10度そこそこになってきました。外来でも暑気あたりから風邪をひいて受診する患者さんが散見されるようになりました。気温の変わり目です・・・体調管理には十分お気を付けください。

さて発熱を伴う感染症としては、かぜ症候群が非常にポピュラーなのですが、8月から今まで耳慣れない熱性感染症の発症例を経験いたしております。病名はデング熱dengue feverといい、東南アジア・南アジア・中南米での発症が多く、本邦ではそれらの地域で感染し帰国した症例が年200例ほど報告されていました。純粋な国内感染例は60年以上経験がなかったのですが、8月末に渡航歴のない方の感染例が報告されて以来、現在まで70名以上の国内感染例が報告されています。

デング熱はヒトスジシマカの吸血によりウイルスが感染し発症する病気です。気候的には徐々に気温が低くなってきて蚊の活動性も低下してきており、ヒトスジシマカは冬を卵の状態で越す(卵越冬)のですが、その卵を通じてウイルスが次世代に移行するという報告はありません。それなので一冬越すと流行は沈静することは十分考えられます。しかしながら蚊に煩わされる時期でもない今、あえてデング熱についてお話しするのは、①ヒトスジシマカは北海道・青森県を除く日本全土に分布しているということ、②活動時期は5月中旬から10月下旬くらいまでだが、暖房環境の改善により必ずしも卵越冬しないケースが想定されるということ、によります。

デング熱は3~7日の潜伏期間の後に症状を呈します。本邦で発症したデング熱の症状は頻度順に、38度以上の発熱・頭痛・発疹・骨~関節~筋肉痛であり、採血検査では炎症で増加する白血球や止血に働く血小板の減少をきたします。現在のところ、発症したデング熱に有効な治療法は確立されていませんし、インフルエンザのような予防ワクチンもありません。従いましてデング熱にならないためには、①感染の流行地域にはいかない、②蚊に刺されないよう皮膚の露出は少なくする(ヒトスジシマカはむしろ日中に活動しています)、③虫よけスプレーなどの使用により蚊を寄せ付けない、といった対策が必要となります。

ではもし妊婦さんがデング熱にかかった場合はどうなるのでしょう?非妊時に比べ妊娠中は免疫能が若干低下している(そのため半自己-反非自己=夫の結晶である赤ちゃんを安全に宿すことができます)ため、デング熱をはじめとした感染症が重症化するリスクがありますし、分娩周辺で罹患した場合、垂直感染といって赤ちゃんへの感染のリスクが増大するといわれています。ことデング熱に関して、妊娠初期にはつわりの症状と似ていたり、妊娠後期には妊娠中毒症の重症化したHELLP(ヘルプ)症候群と似ていたりしているため、鑑別が大切になってきます。また妊娠後期~分娩周辺で発症した場合には、入院の上母児双方への厳重な管理が必要になります。

耳慣れない病気ですから、さぞ心配に思われかもしれませんが、報告によるとデングウイルスに感染してもおよそ半数くらいの方が何も発症しない「不顕性感染」という形をとるということ、また重症化するのは1%もなく予後良好な疾患であります。しかしこれから冬を迎えると、デング熱への心配も雪溶けとともになくなるかもしれません。以前の本稿でもつぶやきました通り、地球温暖化の影響で「あと80年もすると、通年気温が四国並みになり当地の名産が「りんご」から「みかん」になる」とも言われています。それに伴い今まで南国だけではやっている病気が本邦に蔓延することも十分想定されます。最新で正確な情報を得て、適切に対応する姿勢が今後とも必要になることでしょう(2014.10.1)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

みなさん、こんにちは

先月は月初め早々、全国的に大雨が続き、広島の土石流災害をはじめとして、大雨による被害が続出した月でした。被災された皆様には、お見舞い申し上げます。お盆も過ぎ、当地の気温はむしろ寒いくらいに過ごしやすくなってきましたが。お変わりありませんでしょうか?

さて日常診療を行っておりますと、時節柄、局部のかゆみを訴え受診する方が少なくありませんが、「かゆみ」と双璧をなす外陰部の主訴として「できもの」があります。患者さんは下着で隠れている部位の隆起している病変に気づいて婦人科にお越しいただくのですが、婦人科疾患ではなく皮膚病変であることも多々あります。そこで今回は比較的日常診療で遭遇する外陰部の「できもの」について、お話ししていきます(周辺→局部に向かって遭遇しやすい疾患の順で進めていきます)。

1.     胼胝腫 : 「胼胝」とは医学用語で「たこ」のことです。比較的以前から色素沈着を伴って存在し、楕円形でほぼ下着のラインに一致して認めます。下着のラインが擦れる刺激で誘発されてできたもので、擦れたわずかな傷から二次感染をおこし、痛みや熱感を伴って来院される方もいらっしゃります。日頃より締め付けのきつい下着の着用は回避したほうがよいでしょう。

2.     毛包炎 : 陰毛部の毛穴に雑菌が侵入することにより生じます。一見ニキビ様で軽度の痛みを伴います。炎症が周囲に及ぶと癤腫症(フルンクラ)といい、痛みに加え腫れも認めます。治療としては排膿と雑菌に対し抗生物質の投与になります。

3.     粉瘤 : 皮膚の新陳代謝でできた老廃物がうまく排出されないで、腫瘤化したものです。比較的硬い表面平滑な球形の腫瘤が皮下に触れるのが特徴で、悪性疾患でないか?と思われて来院する方も少なくありません。腫瘤感以外の症状もない場合は経過をみることもありますが、増大して来たり、また感染が生じて痛んだりすると、局所麻酔下で摘出とします。多発例や再燃例なども比較的よくみられる疾患です。

4.     線維腫 : 大・小陰唇に付着存在する、あたかも「干しブドウ」のような病変です。大きさも様々で腫瘤感以外の症状に乏しい疾患ですが、治療としては局所麻酔下での摘出となります。

5.     バルトリン腺嚢胞 : 「腺」とは人体で水分を出すところをいいますが(目→涙腺 乳房→乳腺)、バルトリン腺は性交渉に際しての分泌液を出すところです。この分泌液が内部に貯留していった結果がバルトリン腺嚢胞で、そこに二次感染が起こしたものがバルトリン腺膿瘍です。動きが良くて張りのある腫瘤を膣の入り口の右もしくは左斜め下の皮膚越しに触知することができます。無症状であれば経過をみることもありますが、腫瘤感が強い場合や膿瘍で疼痛などが強い場合は、穿刺のうえ内容物を排液したり、局所麻酔下で人工的に別の分泌物排出口をつくる開窓術という手術療法を行ったりします。

6.     尖圭コンジローム : ヒト・パピローマ・ウイルス:HPVの感染によって、膣口~小陰唇下部~肛門周辺に、「鶏のトサカ」様の隆起性病変をきたす病気です。痛みもかゆみもありませんが、性感染症の一種ですので、軟膏による薬物療法や、局所焼灼といった手術療法により治療します。なおこの病気は4価の子宮頸がん予防ワクチンで回避することが可能です(カプリ2011.10.1)。

7.     骨盤臓器脱 : 昔から「茄子降りた」といわれている疾患で、「陰唇から何か出ている!」という訴えで、患者さんがお越しになられます。多くはお年を召された方で、未産の方には発症しにくい病気です。脱出している本体は子宮や、膣粘膜越しの膀胱や直腸などです。脱出感のほか、残尿感や頻尿など排尿異常などの症状をきたすこともあります。治療としては手術療法のほか、矯正リングの挿入による非外科的治療もあります。

皆さんがご心配されるように、確かに外陰部にも悪性疾患は存在します。しかしその頻度は全女性悪性腫瘍の3%にも満たない頻度です。悪性疾患の可能性は極めて低いとはいっても、部位的に非常に気になると思いますので、適切な治療を受けられるのが望ましいでしょう(2014.9.1)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

お暑うございます・・・

例年と比べ若干梅雨明けが早い夏となりました。その分気温の高い日も続き、首都圏を中心に熱中症の発症が多数報告されています。毎年毎年熱中症のリスクについてはお話ししているのですが、室内でも油断ならないこと、水分摂取とともに塩分の摂取も欠かさないことを心がけてください。

7月が終わりますと、市の婦人科検診もピークを超えることになります。検診前からマスメディアを中心に、がん死亡率ワースト1を回避するため、がん検診へのすすめがなされていましたが、7月終了時点で当院における婦人科検診受診者数は例年の4分の3程度に減少しています。受診を勧める広報がいろいろなされているのに、受診者数が目減りしているのは残念な限りです。

以前の本稿(20098月)で、20歳代の婦人科検診受診者数の伸び悩みの件をお話ししましたが、あれから現在も目を見張るほどの受診者数の増加はみられていません。それでも検診クーポン券の効果も徐々に出てきておりますし、若年者の場合、妊娠~出産を契機として必然的に産婦人科を訪れる機会があることが想像できます。しかし閉経をはるかに過ぎてしまいますと、表現がおかしいかもしれませんが、どうも婦人科に「疎く(うとく)なる」方々が往々にしていらっしゃるようで、このことも検診受診者数の低迷の一因になっていると考えられます。そうでなくとも婦人科という診療科は、なかなか足が向かない診療科です。でも60歳を超え老年期という時代に入りますと、その時期特有の婦人科疾患に見舞われることもあるのです。

代表的な疾患としては萎縮性膣炎があります(以前は「老人性膣炎」といっていましたが、どうもネーミングが不評のようで改称されました・・・)。以前の本稿(20084月)でもお話ししましたが、女性はその膣内にデーデルライン桿菌という善玉の乳酸菌に似た細菌を膣内に飼って?おり、この菌は新陳代謝で生じた「腟の垢」を栄養分として繁殖し、同時に乳酸様物質を産生します。これにより膣内は弱酸性に保たれますので、他の雑菌や病原菌の繁殖を防いでいます。これを「自浄作用」というのですが、閉経してしまうと新陳代謝が低下してデーデルライン桿菌の栄養分が減ってしまい、自浄作用が低下する結果として雑菌の繁殖を許してしまい、黄色や血液様のおりものを来してしまいます。これらの症状はホルモン剤の投与で劇的に改善するのですが、腰が重いのか「おりものぐらい」で、なかなか外来に受診されるという方は少ない感じを受けます。

老年期に認める婦人科疾患として、当地の俗称で「茄子下がる」「茄子が出る」という病態があります・・・子宮を茄子に見立てている「子宮脱」という疾患です。子宮というのは骨盤内に「すじ(靭帯)」で支えられているのですが、分娩を経験することにより支持靭帯にもいくらかのダメージが生じます。月経がある間は無症状でも、そこに閉経後の女性ホルモンの低下に伴って靭帯そのものの伸縮性の低下がさらに加わると、結果として骨盤内に入っていた子宮が重力方向に従って脱出してしまうのです。股間から出てきますので当然違和感はありますし、下着に擦れて出血することや、下がった子宮のため膀胱の位置も不安定になり尿失禁などの排尿トラブルに見舞われることもあります。

 萎縮性膣炎も子宮脱も共に生命を脅かす病気ではありませんが、日常生活をとても不愉快にする疾患です。しかしながら適切な治療を行うことによって、以後の生活が快適になるのも事実です。また今回は省きましたが、お年を召した方では、受診が遅れた結果として、婦人科悪性疾患が進行した状態で発見されることも珍しくありません・・・そうでなくとも婦人科悪性疾患は初期の段階だとなかなか自覚症状が出にくいものなのです。ある患者さんの言葉を借りれば「月のものが上がれば、もう婦人科は関係ないと思っていた・・・」とのことですが、いくつになっても「女」は「女」、恥ずかしがらず、かつ億劫がらずに受診することにより、閉経後の30余年を快適に過ごしていただきたいものです(2014.8.1)。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

みなさん、こんにちは。

先月は寒暖の差が際立った一ヶ月でした。月初めは熱中症が報告されるほど暑い日が続きましたが、いつもより早い梅雨に入ると、夜では長袖が必要になるほど肌寒くなっていました。長期予報では今年は冷夏とのこと。しかし油断せず、暑さ厳しい日には、しっかりとしたクーリングと、十分な水分補給を行いましょう。

さて本日71日で、当院は開院して10年を迎えることとなりました・・・「やっと10年・・・」、「あっという間の10年」・・・いろいろな気持ちが交錯します。でも秋田での生活の半分をここ鹿角で、そして3分の一を自身のクリニックで仕事ができたことは、自分にとって良い巡り会わせでしたし、幸せだったと思っています。ありきたりではありますが、これからもよろしくお願いいたします。

10年ひと昔」と、よく言いますが、産婦人科医療でも制度や事業の変更により、新たな対応を求められたり診療方針などの変更を余儀なくされたりすることがありました。そこで本日のカプリでは産婦人科における制度の変化「10年ひと昔」ということで、開業当時の2004年から現在までの制度の変遷を振り返ってみたいと思います。

初めに周産期分野(産科)では、2009年より14回の妊婦健診に対して補助券が発行されるようになりました。1994年度までは緑色と橙色の2枚の補助券しかありませんでしたが、次第に増発され2002年度には5枚、2003年度からは9枚となり現在に至っています。また分娩費についても以前は分娩後に各健康保険の団体に請求していたので、自費で一旦医療機関に支払う必要がありましたが、2006年からは出産一時金を各健康保険団体から直接医療機関へ支払う流れができたため、予め分娩費を用立てる必要がなくなりました。そしてその一時金も現行では42万円と事業当初の35万円より引き上げられています。前々回の本稿でお話ししました様に、『赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいるときから「地域ぐるみの子育て」を』をキーワードに、産婦人科と県内市町村の行政機関がタッグを組んで、妊婦さんのうちから将来に向けての子育てをサポートしていくという「妊娠中からの子育て支援事業」というプロジェクトも本年度から立ち上がりました。

 次に内分泌分野ですが、以前の本稿(2007.9.1および2011.7.1)でも紹介しました様に、県では2000年より不妊治療へのサポートとして「特定不妊治療費助成事業」を行なっております。この事業の対象となる方は、①秋田県内に居住し法律上の婚姻がなされているご夫婦で、②ご夫婦の合計所得額が730万円未満であり、③行う治療は体外受精もしくは顕微授精であること、と事業当初より変更はありせんが、助成内容が時折変更されています。現在の助成内容は「通算5年間の助成期間で1年度あたり120万円(内容により10万円)までの助成が年3回まで(助成回数の上限は5年度通算15回)」と以前と比べ、助成金額も年度あたりと通算の助成回数も引き上げられました。しかし本年度から初めて助成を受け治療を開始する女性の年齢が40歳未満の場合は、通算助成回数は9回までとなりました(詳しくは、秋田県特定不妊治療費助成事~美の国秋田ネットhttp://www.pref.akita.lg.jp/www/contents/1137209858924/をご覧ください)。

 最後に腫瘍分野ですが、がん検診事業の見直しにより2007年度より子宮頸がん検診は隔年施行になりました。秋田県内の婦人科検診では子宮頸がん検診に加え、内診・超音波検査による卵巣腫瘍検診も兼ねて行っていますので、その点から見ますと隔年検診につきましては、いまだ県内でも議論のあるところです。また2009.8.1の本稿でも述べましたが、若年者の検診受診の掘り起こしにと子宮頸がん検診 無料クーポンが発行されたのも5年ほど前のことでした。確かに受診者の掘り起こしの一助とはなっていますが、目を見張るほどの増加にはなっておりません。それでは予防ということで2010年から子宮頸がん予防ワクチンの公費補助も行われるようになりましたが、副作用報告の検討中で接種の再開はいまだ望めておりません。婦人科検診低受診率の本邦においては、予防ワクチンは子宮頸がん撲滅への一縷の望みでありましたが、頓挫しているといっても過言ではないでしょう。

 10年間の産婦人科に係わる制度等の変遷について駆け足で縦覧しました。手厚い保護が入っている領域もあれば、手薄感が否めない領域もあります。さらにもう10年・・・医療システムや制度はどのように変わるのでしょう?・・・それは予測がつきませんが、今後も制度の変化に柔軟かつ適切に対応し、地域に根付いた医療を提供していきたいと思っています。(2014.7.1)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今年も六月に入りました。

夜はまだまだ長袖ですが、大分あたたかくなりました。先月から、田んぼにも水が入り田植えも始まりました。気候が穏やかになり、田んぼの水面が鏡のようになる今が個人的には一番好きな時期です。皆様いかがお過ごしでしょうか?

学生さんであれば1学期も半分終わり、体育系の部活に入っている方では、各種大会を見据えて活動している時期ではないでしょうか?目標に向かって日々汗を流すというのは、まさに「青春の1ページ」にふさわしいシーンといえましょう。しかし競技の成績や試合結果が専ら優先され。その結果健康な身体自体が蝕まれることがあっては、スポーツ本来の意義を見失うことになりかねません。

日々産婦人科の臨床に携わっていますと、過度のスポーツ活動によって正常な月経周期が障害される場面に遭遇することが多々あります。少し昔のデータですが、思春期女性の月経異常について運動活動の有無について検討したものをみてみますと、正常月経周期(2438日)にあるものが運動活動なしが62.4%に対して運動活動ありが48.6%であり、周期異常について検討しますと、稀発月経(38日以上の月経間隔)は運動活動なしが3.4%に対して運動活動ありが14.3%、さらに続発性無月経(60日以上の月経間隔)をみると運動活動なしが3.3%に対し運動活動ありが11.4%と、運動活動が活発な方に月経間隔が延長し不順になっていることが報告されています(目崎 1986)。

特に種目の特性として低体重が求められる長距離走などの陸上競技や、美的要素が問われる器械体操や新体操などを行う若年選手やトップ・アスリートに上述した月経不順が多く認める傾向にあります。その月経不順の背景としては運動による所費エネルギーに対し摂取エネルギーが長期にわたって相対的に不足していたり、また過度の運動ストレスがβエンドルフィンといった脳内の快楽的神経伝達物質の濃度を上昇させたりすること(=ランナーズ・ハイ)で、脳内中枢における性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌の停滞を招いて不順になると考えられています。GnRHの分泌不全は女性ホルモンの低エストロゲン状態を招き、それが長期化するということは閉経女性と同様のホルモン環境となりますので、骨粗鬆症のリスクが増大し運動活動時の疲労骨折を引き起こしかねません。このような「相対的な摂取エネルギー不足」、「無月経」および「骨粗鬆症」の3つを、「女性アスリートの三主徴:female athlete triad」といい、女性スポーツ医学における重要課題と最近では位置づけられています。

中・高校生の場合、思春期という身体の未熟さの理由から月経不順の問題が処理されることが往々にしてあります。しかしながら時代が時代なら、妊娠~分娩を経験していた年齢でもあります。月経周期が障害されるということイコール周期的な排卵が障害されていうことであり、それは取りも直さず妊娠しては危険なほどに身体に余裕がない状態と理解することができます。20107月の本稿でも述べましたが、無月経の状態から投薬で月経を起こすには健康体重(BMI 22になる体重のことで、22×(身長m)2で算出します)の70%以上が必要ですし、また妊娠を希望するには健康体重の80%以上に回復していることが必要です。

現役のアスリートであっても月経周期を適切なホルモン療法によって維持することは、その後の妊娠分娩といった生殖活動にも有益であり、ひいては高齢になった時の骨粗鬆症のリスクを回避することにもなります。事実、骨粗鬆症は寝たきりになるリスクを1.83倍に高め、特に骨粗鬆症からの太腿骨骨折で寝たきりになった方の1020%は1年以内に死亡しているというデータもあります。本来健康に有益なスポーツがその取り組み方によっては、引退後の女性の健康を蝕み、その一生に影を落としかねません。人生というマラソンを無事完走するためには、近視眼的な視野に偏ることなく、全体を見渡し適切に対応することが必要といえましょう(今回のカプリは日本医師会雑誌の特集[スポーツ障害の診かた・治し方]を参考といたしました)(2014.6.1

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

みなさん、こんにちは

先月前半は寒暖の差が激しく、4月に入っても夜間には氷点下を示していた当地域ですが、下旬になりますと日中には汗ばむくらい気温が上がるときもあり、桜も色づきはじめ一気に春がやってきたという感じです。皆様いかがお過ごしでしょうか?

気候の変動が大きかったせいか、4月の半ばを過ぎても、当地ではB型のインフルエンザが猛威を振るっていました。新学期早々でなくとも、子供が発熱し体調不良になってしまうと、御両親の苦労が心身ともに絶えません。ましてや身内や近所のヘルプが常にお願いできる状況でなければ、時間や体力を犠牲にしても看病に充てなければならなくなります。核家族化がすすみ両親共働きが一般的となった現在、自治体や地域からのサポートによるセィフティー・ネットがいろいろ作られ、両親への荷重がいくらかでも軽減するような支援がなされていますが、決して十分であるとはなかなか言えない状況でもあります。

以上のように今までの子育て支援は乳幼児が中心でありましたが、新年度より県産婦人科医会が中心となって、「妊娠中からの子育て支援事業」というプロジェクトを立ち上げました。『赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいるときから「地域ぐるみの子育て」を』がキーワードに、産婦人科と県内市町村の行政機関がタッグを組んで、妊婦さんのうちから将来に向けての子育てをサポートしていくという事業です。

大家族の昔なら、妊娠中のトラブルや育児の悩みを父母・祖父母、また近所の方に相談することができたでしょう。しかし現代ではなかなかそのような環境にいる方は多くなく、またネット等で相談しても、必ずしも適切な回答が得られるとは限りません。そのような状況が重なり育児への不安が増大するのを防ぐために、赤ちゃんを身ごもっているうちから「不安の芽」を見つけて、摘み取っていこうというものです。具体的には妊婦健診が始まりそうなころと、出産が終わったころに医療機関でアンケートを行い、心配なこと・困っていること・悩んでいることなどがないか、そして仮にピック・アップできるものあれば関係機関と連携して、問題の解決に臨むことになります。また仮に里帰り分娩などのために県内で病院を移っても、引き続き遅滞なく問題への対応ができるようなシステムにもなっていますので、病院が変わることによる心配もありません。

 

さらに今回のプロジェクトでは、妊婦さん自ら相談しやすいような「妊娠・出産・育児に関する悩み相談コーナー」を各産婦人科医療機関に設けることになりました。相談された内容は医師のみが回答するだけでなく、助産師・看護師といった各医療機関のスタッフが回答したり、院内で対応が難しいと判断された場合は関係機関への橋渡しもしたりします。一人一人の妊婦さんや赤ちゃんにより良い道筋をつけることができるよう各施設で対応しますので、お気軽にご相談されてみてはいかがでしょうか?(なお「悩み相談コーナー」の具体的な状況は、各医療機関によって異なりますので、詳しくはかかりつけの施設にご相談ください)(2014.5.1)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

4月・・・新年度です。

「暑さ寒さも彼岸まで」と言いますが、先月の彼岸の中日は除雪車も出動するような大雪に見舞われました。しかしその後は春に向かう陽気に着実になってきています。桜前線はまだまだですが、長かった冬にもめどがつきましたね。

雪を割ってフキノトウが顔を出してくると、次第に山菜のシーズンに近づいてきています。私が北海道に住んでいたころ山菜と言えば、姫竹・フキ・わらび・ぜんまいくらいでしたが、ここ秋田は山菜王国・・・みず・タラの芽・しどけ・ぼんな・こごみ・あいこ・・・数えだしたらきりがありません。食卓にも目で鼻で、そして舌で春を愛でることができるのも、もう少しです。この時期でしか食すことのできない素材ですから、スーパーで販売されている食材とまた違い、味にも個性がありますし、またあく抜きとかの下準備を怠ると、せっかくの素材も苦味だけになってしまいます。ということで、本日は味覚についてお話しします。

味覚について・・・以前は「甘味・苦味・塩味・酸味」の4つの味覚について、「舌先は甘味」「手前脇は塩味」「奥脇が酸味」「舌奥が苦味」というふうに味覚に対応した舌の部位が決まっていると考えられていました。これを「味覚地図」といい、みなさんも挿絵とかで一度は目にしたことはあるのではないでしょうか?・・・でもその「味覚地図」の考えが否定されているのはご存知ですか?「味覚地図」という考えは、1940年代の医学ではなく心理学によって提唱された考えであり、この考えはすでに20年ほど前に否定されています。

味覚を感じるセンサーを「味蕾(みらい)」といいます。味蕾で感じる味覚は「甘味・苦味・塩味・酸味」の4つの味覚に加え「うま味」の5種類の味質を感じることができます。その味蕾は舌先~脇の「茸状乳頭」、舌の脇の「葉状乳頭」、そして舌奥の「有郭乳頭」に存在しています。つまり味覚の感じる場所は過去の理論と同じなのですが、場所によって感じる味覚が異なるのではなく、すべての場所で5つの味質を感じることができるのです。ちなみに山菜に個性を持たせる「渋味」や「えぐ味」、また辛味や金属味などは味蕾ではなく、その脇にある神経端末で受け入れられるといわれています。

さて・・・話は産婦人科に移します。よく妊娠すると「酸っぱいものが食べたくなる」というのは、皆さんもご存じと思います。しかし実際のところはどうなのでしょう?非妊婦-妊婦、妊娠初期-後期について味覚の感じ方について比較しましたところ、①妊娠すると5基本味すべてについて感じ方が低下している=妊娠すると味覚は鈍感になる傾向がある。②23週を境に妊娠前期-後期を分けると、甘味・塩味・うま味の感じ方が妊娠前期で鈍化している、という結果が得られています。

以上の結果を見ますと、特に妊娠初期に酸っぱいものを欲するからといって、酸味センサーが低下しているわけではなさそうです。しかし酸味ばかりではなく全般としてセンサーのレベルは低下していますので、どうしても味が濃い傾向に陥る心配がありますので注意が必要でしょう。身近にある味覚について、妊娠中になぜこのような変化をとるのかというのもいまだ解明されていません。妊娠という現象は味覚ひとつとってもブラックボックスであり、まだまだ分かっていないことが多いことばかりです。(今月のカプリは、日本医師会雑誌3月号「味覚・嗅覚診療の最前線」を参考にさせていただきました)(2014.4.1)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3月になりました。

例年3月に入りますと、もう大雪には悩ませられることはないだろうと安堵しますが、2月が終わってみますと、今年は雪の少ないシーズンでした。例年は除雪で寄せていた雪山を数回排雪するのですが、2月は一度もありません。昨年11月の本稿でカマキリの産卵する高さと降雪量は比例し、昨年末は産み付け位置が低いことを書きましたが、まさにその通りのシーズンとなりました。自然に生きるものの本能というものは、ある意味恐ろしいものですね。

降雪量は少ないといっても、翌朝の除雪のことを考えると夜更かしはできません。先月はソチ・オリンピックが開催され、深夜にライブ映像が配信されましたが、一度も見ることがなく閉会となりました。とはいえリアルタイムではない映像でも選手の皆さんは熱気と十分な感動を与えてくれました。メダルの有無は別にして、選手の皆さん 本当にお疲れ様でした。

夏季オリンピックほど耳にしないのではないかと思いますが、冬季オリンピックでも、競技に際して違法薬物の検索=ドーピング・チェックが行われます。当地には県内でも有名な競技スキーが行える施設がありますので、服用薬物について選手の方々から尋ねられた経験もございます。ドーピング・リストは原則毎年見直されますが、2013年度版で産婦人科関係の薬剤でドーピングに「引っかかる」薬剤を挙げてみましょう。

排卵誘発剤のクロミッドや骨粗鬆症の治療に使われるエビスタは抗エストロゲン作用を有するため、禁止医薬品となっています。ただクロミッドは多くが妊娠を希望されている方が服用する薬であり、またエビスタは骨粗鬆症の治療薬ですので、運動音痴の私が言うのもなんですが、トップ・アスリートで競技出場中の方が服薬している薬剤とは考え難い感があります・・・

一方、婦人科診療でエストロゲン製剤、プロゲステロン製剤、および卵胞・黄体ホルモン混合製剤は使用可能薬剤となっています。こと卵胞・黄体ホルモン混合製剤=ピルについては、健康保険適応の有無はもちろん、中容量・低用量といった含有ホルモン濃度に関係なく使用可能になっています。従いまして、競技と月経がかち合って月経調節する場合はもちろん、月経痛のため低用量ピルを常用している方も、ドーピング・チェックには問題なくクリアするものと考えられます。

しかし今年に入り、ショッキングなニュースが入りました。月経困難症治療薬で、ある低用量ピルを服用されていた3名の方が血管が目詰まりする血栓症という病気で亡くなられたという報告です。本邦ではおよそ18万人がその薬剤を服用していますが、若い女性が生死にかかわる疾患ではない治療薬の服用中に亡くなられたということもあって、多くのマスメディアにも取り上げられ、皆さんもすでにご存じのことと思います。3名の方の背景を見ますと、年齢も、服薬期間も、また血栓ができた位置もまちまちですし、また3名とも非喫煙者でした(ピルを服用している喫煙者には血栓ができやすいのです)。

当院を含めピルを処方する施設は、問診や診察および検査などでピルが服用できるかどうかを判断し、服用してからも定期的な診察・検査で異常の早期発見に努めております。しかし薬の性格上、一回処方すると次回は約1か月後の受診になってしまうため、服薬中の自己管理が非常に重要になってきます。

ピル服薬中の血栓症の自己診断としてACHES(エイクス)というチェック項目があります(ACHEは英語で「痛み」という意味です)。

AAbdominal pain(激しい腹痛)   CChest pain(激しい胸痛) HHeadache(頭痛)  EEye problem(視野障害)  SSevere leg pain(激しい下肢痛)

上で述べましたようにピルによる血栓症というのは、頻度的には非常に低い発症率ではあります。しかしながら現在ピルを服用されている方におかれましては、この「ACHES」の症状をしっかり覚えておくことが、自分の健康を守る意味で非常に重要になります。そしてこの5つの症状が起こった場合は、速やかに主治医へ連絡~救急外来への受診をされてください(2014.3.1)。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

みなさん、こんにちは

今シーズンの本県は、県南を中心に県中央部が豪雪による雪害に見舞われています。私のいる県内陸北部は、例年通り冷え込みは厳しいのですが、今のところ積雪は例年ほどではありません。秋田市中心として半径150Km圏内でも、大きく違うものです。除雪も間に合わない程降り続く雪・・・まるで「白い悪魔」ですよね。連日大変でしょうけど、くれぐれも事故にはお気を付けください。

毎月毎月本稿を仕上げていきますと、正直言いまして「ネタ」悩むことが多々あります。ということで昨年の同月にどのようなことをテーマにしていたかと振り返ってみますと、「緊急避妊薬=モーニングアフター・ピル」について、お話ししてみました。今日は再度「モーニングアフター・ピル」について、当院でのデータを示しながらお話ししたいと思います。

以後は20046月から20141月までの当院でのデータです。

まずは当院での「モーニングアフター・ピル」の処方数を示します。

04

05

06

07

08

09

10

11

12

13

14

人数

2

5

6

9

11

8

11

6

14

30

3

1

3

0

0

0

0

3

2

2

7

0

※年:2004-2014年   人数:処方数   経:処方人数のうち、経産婦の数

処方数はのべ106例で、2011年までは大体年間新患数の0.5%程度でしたが、2012年から新患数の12%の受診数となっています。2011.9月より緊急避妊の専用薬が採用され、「モーニングアフター・ピル」という言葉も認知されてきたのが受診数の増加に関係しているのかもしれません。

次に受診者の年齢分布を見てみましょう。

年 齢

19

2024

2529

3034

35

1538

23

43

24

11

5

20歳台までで85%を占めています。2000年から秋田県では高校生を中心に産婦人科医からの性教育講話が始まり、講話の中に「モーニングアフター・ピル」の話も織り込まれることあると思います。当時高校3年生だった方は今30歳くらいですので、それ以下の方には記憶の片隅に「モーニングアフター・ピル」の存在があったのかもしれません。

お産の経験

な し

あ り

人 数

8883.0%)

1817.0%)

うち中絶経験あり

1112.5%)

527.8%)

晩婚化もあるでしょうが、「モーニングアフター・ピル」を利用している年齢層が若いということは、やはり未産婦さんの割合が高いといえましょう。一方で経産婦さんの利用頻度は低く、そのためかそれまでの産科歴で中絶の既往が未産婦さんより高いデータとなりました。これを中絶手術の点から見てみましょう。

お産の経験

な し

あ り

中絶件数

92

252

さらにその後も中絶

77.6%)

2911.5%)

当院で中絶手術を受けた女性は経産婦さんが未産婦さんの2.5倍以上であり、中絶手術後さらに当院で再び中絶を受けた方は経産婦さんに多いというデータが示されました。

以上からお分かりの通り、およそ30歳以下の女性に「モーニングアフター・ピル」という対処法はある程度浸透していて、望まない妊娠を回避するために積極的に対応している一方、30歳以上、経産婦の方々で従来の避妊法を踏襲し、万が一それが失敗した場合は、自ずと中絶を選択しているのではないかと推察されます。これまで性教育の一環で中高生に「緊急避妊薬=モーニングアフター・ピル」のお話をしてきましたけど、本来家族計画をしっかり考えなければならない30歳以上、経産婦さんへの「緊急避妊薬=モーニングアフター・ピル」を周知していただくという、大げさかもしれませんが「パラダイム=シフト」が来ているのかもしれないと、私自身これらのデータから深く考えさせられました(2014.2.1)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

みなさん、あけましておめでとうございます

晴れて平成26年の元旦を無事迎えることができました。昨年は異常気象に多く見舞われた一年でした。新年を迎え、昨年の漢字である「輪」のように、人と人とのつながりや、みんなの気持ちが輪のように丸くなる一年であるといいですね。

新年を迎えるに当たり、家中の大掃除をして清め、年が明けると初詣にいらっしゃる方も多いと思います。家内安全・商売繁盛・無病息災・学業成就・・・願掛けの内容は人によりそれぞれでしょう。でもお産を控えている妊婦さん、ご家族の皆さんは、まずは安産祈願ですよね。そこで新年最初のカプリは安産信仰について、お話ししたいと思います。

お産について願掛けする場合、秋田県では「産神」そのものを信仰する場合と、身近な神を「産神」として信仰する場合があるそうです(・・・お産に関連した生業をしてはいますが、何せ私も生れは秋田県ではないので、成書の受け売りになってしまいます・・・)。

本県で「産神」として皆さんもご存じなのは、協和町の「唐松神社」であると思われます。唐松様の祭神は香具土神(かぐつちのかみ)・宮毘姫命(みやびめのみこと)・息長帯姫命(おきながたらしひめのみこと)であり、息長帯姫命は神功皇后~十四代 仲哀天皇の妃で、 5年前の本稿でお話ししました「腹帯」のルーツにあたる方です。唐松様は産神だけではなく、子授け、子育てをも司る「女一代の守り神」として信仰されており、そのため女性は唐松様を一生で三度参るものだともいわれています。唐松神社に安産などを祈願することを「唐松講」といい、特に子授けの願掛けは毎月八日に行うことから「唐松講」は「八日講」とも言われています。この「八日」というのは、どうも月経期間とオーバーラップしていると考えられており、女性の持つサイクルと関連が深いことが、殊更「八日講」が女性に浸透しやすい理由であったとも言われています。

一方県内で産神として信仰する身近な神としては、「山神様」、「厠神(かわやかみ)」そして「箒神(ほうきかみ)」があるそうです。なまはげで有名な男鹿の「真山神社」をはじめ、県内には多くの山神様の碑があります。県内各所での言い伝えからみると、産神としての山神様には下記の特徴があるとのことです。

   山神様は醜く好色な女神であることが多く、山の男の保護神である。

   山神様は多産の女神であり、産婦と赤子に助力を与え殊に産死を嫌う。

   山神様は産神として産室に降臨して、産室の忌を避けない神である。

他方、「厠神(かわやかみ)」は3年前の本稿でも触れた「トイレの神様」で、産室に来臨し産婦と赤子を守る性格を有しているといわれています。また「箒神(ほうきかみ)」も産神として信仰されていて、箒の動き・機能から魂を招き入れることが期待されていたようです。「厠をよく掃除すると美しい子が生まれる」、「箒をまたぐな」というのは、これらの神様を敬い、ぞんざいな扱いを戒めることもあったのかもしれません。

医学が自然科学である以上、産神への信仰とは相入れないことは十分理解しています。しかしIT全盛の現代人でも、初詣は厳かな気持ちで行うのではないでしょうか?年始は一年で一番「神を意識する」時だと思います。そんなときですから、産神を初め古の神々に思いを馳せてみるのもいいのかもしれません(今月のカプリは、「女―婚と産―」石郷岡千鶴子著(民族選書~秋田文化出版)を参考にさせていただきました)(2014.1.1)。


院長のcapricciosa(気まぐれ)