今年も1か月を切りました。

冷え込みが一気に駆け抜けていったせいか、紅葉を愛でる間もなく落葉になった1か月でした。でも根雪になるまでには、まだまだ時間がかかります。圧雪になる前のアイスバーンは、一番事故が起きやすい路面状況です。皆さん、車の運転にはくれぐれもお気を付けください。

さて年末か近づきますと、いろいろ「統計もの」の発表がマスコミからなされます。厚生労働省の医療施設調査によると「病院の小児科と産婦人科(産科)が18年連続で減少」との報告があり、また全国医師ユニオンの調査によると「医療機関で働く勤務医の6割が「職場をやめたい」と考えている」という結果が出ていました。新しい年をあと数日で迎えるというのに、気持ちを落ち込ませる結果ばかりでてきますが、今回は秋田県や私のいる県北地域のデータを皆さんと一緒にみていきたいと思います。

平成22年の医師数の調査を見ると、人口10万人対の数字で230.0という値でした。ちなみに秋田県全体では213.0、大館鹿角圏内では154.8です。昭和45年、人口10万人体医師数を150人に増やしましょうということで医師数増加政策が立案され、その政策に基づいて最初に設立されたのが秋田大学医学部でした。その数値目標は昭和58年には既に達成され、現在県内でも医師数が少ないといわれる当地域でも10万人対比では150人は超えていて、前年比でも増加しています。しかし医療従事者である私たちも、医療を受けている皆様方も、その実感はわかないと思います。数字上では医師は増加しているのに、実際の病院では医師数の減少や、ともすると常勤医の引き上げによる診療科の閉鎖もあるのは、なぜなのでしょう?

大館秋田圏内の医師数は185人と実数では減少しております。しかし「人口10万人対」というのがポイントなのです。皆さんご推察の通り、圏内の医師の減少数より、少子高齢に伴う地域住民の人口減少がはるかに上回るため、住民感情と乖離した結果になっているのです。このようなことは今回発表された「医療施設調査」の結果にも見て取れます。平成23年度の各施設に常勤として勤務している医師数は人口10万人対で全国平均156.1人という値なのですが、秋田県では153.6人と全国平均に匹敵しており、東北でも一番高い値でした。でも秋田市をはじめ県内各地域でも医師数が充足しているという実感は薄いのではないでしょうか?

年度の条件など違いますが、先の人口10万人対比でみた、(医師数)から(常勤医師数)を引いた数を比較しますと、全国平均では約80人、秋田県は約60人、また当地域でみますとやっと1人程の差を認めます。これが各病院で勤務している医師を「サポートする」非常勤医師などの数と考えることができますが、秋田県は全国平均に比べ常勤医師をサポートする医師数が少なく、さらに県庁所在地の秋田市から大きく離れている当地域では圧倒的に少ないことがお分かりいただけると思います。

地域で尽力している常勤医師のサポート体制が脆弱であれば、日常臨床に疲弊し退職を願うお医者さんも出てくるでしょう。また産婦人科を考えると、お産には小児科との先生のタイアップが必要ですし、婦人科では麻酔科や外科、内科の先生のサポートが必要なことが多々あります。少子化とはいえ充実した産婦人科医療を提供できる環境に乏しければ、その施設から産婦人科がなくなることも想像つくことでしょう。当地域でもここ10年の間に1病院、2診療所で分娩の取り扱いがなくなりました。

次年度に向けた地域医療連携の検討会では「いつでもどこでも受けられる医療体制づくり」を目指していますが、マンパワーの充足がネックになっていることは、いなめません。でも秋大に地域医療に貢献すべく入学した医学生も卒業し、現在研修医として奮闘中であります。「お医者さんが戻ってきた」と実感するにはまだ時間を要しますが、遠くに灯はしっかり見えています。それまで今しばらくの間は、今ある「医療資源」が枯渇しないよう一人ひとりが意識していくことが大切になるでしょう。今年も、ご愛読ありがとうございました。皆様よいお年をお迎えください(2012.12.1)。

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11月を迎え寒くなってまいりました。

10月上旬は20℃を越える日もあったのですが、月半ばから冷え込みが厳しくなり、夜更けともなると平気で5度を下回り気温になっています。回りの木々も急いで色づいているのですが、ゆっくりと紅葉を愛でるまもなく冬が到来しそうです。先月もお話しましたが、体調管理にはくれぐれもご留意されてください。

さて前回の本稿ではマスコミでスポットライトが当たった出生前診断のお話をしましたが、その話題と前後する時期にまたまたマスコミから発信されたワードがありました。それは「卵巣年齢」というものです。朝の情報番組で取り上げられたAMHというホルモンから「卵巣年齢」を知りうるというものです。これもかなりショッキングな内容であり、放送直後には当院にも「卵巣年齢の測定について」の問い合わせがありました。今回はちょっと長くなり、難しくなるかもしれませんが、この「AMH」について取り上げてみます。

ご存知のとおり、妊娠が成立するためには精子と卵子が必要です。男性の精子は年齢に関係なく毎日造られてはいますが、卵子に関しますと、まるで貯金を切り崩すかのように年々減少していく「卵子の元」のなかから、月1回排卵という現象で得られるものなのです。卵子の元を原始卵胞といい、胎児の卵巣には500万ほどの原始卵胞が存在しますが、出生時にはいきなり200万ほどに減少、初潮のころには30-50万、30歳では5万前後にまで減少します。そして女性の一生の間で成熟した卵子として排卵されるのは400-500個なのです。

従来から卵巣機能の評価の一つとしてFSH(卵胞刺激ホルモン)というホルモンがあります。このホルモンが高いと卵巣機能が低下していると考えられますが、さらに進んで卵巣に含まれる卵胞に着目したのがAMHなのです。

AMHとは「抗ミュラー管ホルモン」の頭文字をとった名称です(ミュラー管というのは、妊娠間もない時期で卵管などの女性器の元の元になるものです)。卵子の元になる原始卵胞は前胞状卵胞→胞状卵胞→成熟卵胞と成長し、その成熟卵胞から卵子が排卵されにいたるまで原始卵胞の成熟から120日ほどかかるといわれています。AMHはこの成熟過程の前胞状卵胞から分泌されるホルモンで、「AMHが高い→前胞状卵胞がたくさんある→卵巣の中に卵子の元が多くある(卵巣の予備能が高い)→卵巣年齢が若い」と、また逆に、「AMHが低い→前胞状卵胞が少ない!→卵巣の中に卵子の元が少ない(卵巣の予備能が低い)→卵巣年齢が高い→妊娠しにくい・・・」と考えられています。検査会社からの明らかなデータはありませんが、30歳までは50M35歳までは40M40歳までは20M45歳までは10pM50歳までは5pMとの参考値があり、20pMを下回ると「卵巣年齢が高い」とか「妊娠しにくい」とか「積極的な不妊治療を」とかの流れになっているようです。

ではAMHの値が低い場合、妊娠成立に悲観的にならざるを得ないのでしょうか?・・・必ずしもそうではありません。あくまでもAMHは前胞状卵胞のみが分泌するので、それ以前の原始卵胞が育ってくるとAMHは上昇するので1回きりのAMHの測定ではすべてを語ることはできません。また先日参加してきた学会の発表の中でも、「40歳以上の不妊症例で治療継続群と治療終結群で比較してもAMHの値に大きな差は認められなかった」という報告がありました。

そしてまた大事なことがあります。それは卵子の「質」です。AMHはあくまで前胞状卵胞からの数を予測するものであって、卵子の「質」を見抜くものではありません。数が多くてもそれに見合った卵子の「質」が保持していなければ受精は難しいといえるでしょう。さらに受精卵が得られても、その受精卵が子宮の中に「居つく」という「着床」の環境がよくないと、妊娠継続にはいたりません。

技術の進歩によりAMHという新たなホルモンの測定が可能になりました。不妊治療などにAMHの情報は有用ではありましょう。しかしながらすべてがAMHで説明できるわけではありません。検査結果が低値であっても肩を落とすことはありません。強い想いをもって治療に望まれていただきたいと思います(注:AMHの検査は健康保険の適応とならず自費検査になります。詳しくは測定を望まれる医療機関にご相談ください)(2012.11.1)。

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みなさん こんにちは

「暑さ寒さも彼岸まで」・・・という故事のように、彼岸を迎えるまでは残暑厳しい日が続いていましたが、彼岸のころからやっと秋らしい気候になってきた感じがします。しかし一方で、外来をみてみますと「風邪引きさん」がちらほらいらっしゃっています。気温の変動が激しい時期です・・・体調管理には十分お気をつけください。

さて・・・先月、産科領域に関して重大なニュースが飛び込んできました。皆さんも既に知っていることと思いますが、「ダウン症の出生前診断 - 妊婦の血液で99%の精度で判明」というニュースです。妊婦さんの血液を調べるだけでほぼ確実にわかる新しい診断技術を、国内の5施設で導入するというものです。そこで今回のカプリは出生前診断をテーマにお話していきたいと思います。

出生前診断~特に妊娠前半期に行うもの~とは、胎児が遺伝性の病気の可能性がある場合に行われる検査をいいます。解析・診断するためには遺伝情報がある23対の染色体を分析することになりますが、その検査材料としては、①母体由来のものと、②胎児由来のものに大別されます。①による検査には母体血性マーカー検査(トリプルマーカー・クアトロマーカー検査)があり、検査材料が低リスクで得られる反面、検査精度が劣るというデメリットがあります。一方②による検査には羊水穿刺といって、子宮に細い針を刺して羊水中に含まれる胎児細胞の染色体を解析する検査ですが、高い検査精度である反面、検査に伴うリスクも高いというデメリットがあります。

今回報道されている検査は、お母さんの血液中にごく僅かに混じっている赤ちゃんのDNA断片(cell free DNAといいます)を調べる方法です。お母さんから採血するので低リスクであり、直接DNAを解析するので精度が高い検査であるといえましょう。お母さんから採血し母児のDNA断片のうち、赤ちゃんのだけ選別して10日ほどかけて検査を行います。羊水穿刺がだいたい妊娠16週以降に検査可能であるのに対し、この検査は妊娠10週ころより検査が可能であるといわれています。

この検査で診断を行うのは現在のところダウン症だけです。ダウン症とは23対ある染色体のうち、21番目の染色体が1対=2本ではなく3本存在している状態で、21トリソミーとも言われております。最も頻度が高い染色体異常であり(およそ800分娩に1例)、出産年齢上がるごとに頻度が上昇します(20歳:1/1,667 30歳:1/952 35歳:1/378 40歳:1/106・・・以上海外でのデータ)。少子高齢化の昨今、より高い診断精度を求められる疾患ともいえましょう。

非常に低リスクで高精度の検査ですが、希望すれば誰にでも行える検査ではありません。前述したように行われる施設は限定されていますし、あらかじめ児に染色体異常のリスクが高いと疑われる方のみが対象になります。

通常の病気は「まず病気ありき」で、それに追随する形で診断技術や治療技術が進んでいます。しかし染色体異常に関しては診断技術が先行し、「さらにその先」の対応が不十分であることはいがめません。優れた検査でも、検査前後のカウンセリングの受け入れが不十分であれば、その後のご夫婦の心に大きな爪痕を残しかねません。

健康診断にたとえるのは不遜ですが、検査を受ける際、だれも病気を望んで受けているわけではなく、心の中では「異常なし」という結果を期待して受けているものだと思います。出生前診断も同じような心持ちで結果が出るまで待つことになるでしょう。でもその結果によっては我が子に対する生命倫理まで問われることにもなりかねません。さらに受診者皆さんの不安を十分カバーできる遺伝カウンセリングなどの「セィフティー・ネット」もまだまだ構築されてはおりません。今後出生前診断をお考えになる皆様には、以上の問題点を今一度ご夫婦でお考えの上、検査に望まれることをお願いいたします(2012.10.1)。

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9月に入りましたが、まだまだ暑い日が続いていますね。

先月はロンドン・オリンピックで歓喜に沸いた前半でした。時差もあり観戦は大変でしたが、女子サッカーをはじめ、アーチェリーや卓球など、いままでメダルに届かなかった競技で数多くのメダルを獲得することができました。一方で、今回よりルールが変更された柔道では、なかなか力を発揮することができず、予想に反した結果になってしまいました。大一番の大会に万全なコンディションで臨んでも、ちょっとした競技ルールの変更が、大きな影を落とすことになることを目の当たりに見た思いでした・・・

さて話は変わりますが、皆さんはEBMという言葉を耳にしたことがあるでしょうか?EBMは「evidence-based medicine」の略で、直訳すると「根拠に基づいた医療」といい、昨今の日常診療においてよく使われている言葉です。日々遭遇する患者さんの問題点を浮き彫りにして、その問題点を解決する資料(=根拠)を求め・検討し、結果を患者さんへ適応できるか検討しつつ医療を実践していく方法です。臨床医学とは、経験がものを言う一面がありますが、一人の医師が経験できるケースというのは限られています。そこで同じような症例を遭遇した、また診療を行った先人や同輩の意見を参考にしつつ、目の前の患者さんにより適した医療を行っていく姿勢がEBMなのです。

しかし最近EBMの捉え方が若干異なってきている傾向にあります。それは「病んでいる患者さん(患者さん中心)」というより、「患者さんが患っている病気(疾患中心)」へとスタンスが傾いているということです。限られた時間とマンパワーで、すべての患者さん一人ひとりに適切なEBMを実践するのは現実的に困難ともいえます。したがって患者さん個人の性格や体質は置いておいて、「あの病気の診断には、この検査が有効である」、「この病気はこうやって治すとよい」などなど、病気についてのみ問題点を絞って解決する方策が各学会を中心として示されています。こういった各病気への対応の指標を「診療ガイドライン」といいます。

私が従事している産婦人科でもガイドラインが存在しています。ガイドラインの利点は、ある病気になったとき、どこの医療機関を受診しても「ある一定の医療」を受けられるということがあげられます。受診される皆様にとっては、偏向した医療(というものが存在するかはわかりませんが)を回避できるというメリットがあります。

しかしながら医療者の立場からみますと、現在はガイドラインが「一人歩き」して、「ガイドライン至上主義」になっているのではないかという危惧を抱くことがあります。医師には「裁量権」というものがありまして、国から免許を受けたことで、「専門的知識をもって、患者さんの健康という利益のため医学的な問題を判断する」という権利を有しています。しかし裁量権を行使して万が一患者さんにデメリットが生じた場合、それがガイドラインより逸脱した医療行為であれば、医療訴訟などの問題に発展しかねません。

このような潮流のため、どの患者さんでも杓子定規にガイドラインに記載されたままの医療を提供する風潮がでてきています。それはまるで料理本を見ながら料理をして、出来上がりは誰が作っても同じ料理のような画一的な医療内容となるため「料理本医療cookbook medicine」とも例えられています。また同様に医療訴訟にならないようにと、専門の医学書に記載されている医療より、過去の医療裁判の判例に基づいて訴訟にならないような医療を行うことを、EBMevidence-based medicine)をもじってJBMjudgment-based medicine)とも揶揄されています。こうなると、患者さん個人に合わせた本来のEBMとかけ離れた医療が主となり、結果として患者さん自身の個性を生かした医療を展開できないことになりかねません。

名医の例えに出てくる「赤ひげ先生」の時代は、「先生にお任せします・・・わかった、任せておけ」という、よく言えば「阿吽の呼吸」ですが、日本人らしい「曖昧さ」でうまくいっていました。しかし現代はいろいろなルールの縛りで、医師の「裁量権」も患者さんの「自己決定権」もうまくかみ合わない状況がしばしば生じてきています。患者さんの「個」を生かした本来のEBM、すなわち「テーラー・メード医療」が提供できるよう、私達も「診療ガイドライン」を生かしていきたいものです(2012.9.1)。


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東北も夏祭りの時期を向かえ、暑さも本格的になってまいりました。

入梅しても、そうだらだらとした長雨とはならず、ゲリラ的な降雨に見舞われた7月でした。九州北部では大雨で甚大な被害がもたらされました。被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げます。暑さもまだまだ油断なりません。皆様におかれましては熱中症に気をつけてお過ごしください。

さて先月、大雨や原発のニュースにまぎれて(?)、風疹に関したニュースが報道されていたことはご存知でしょうか?今年に入り国内で大人の風疹感染が首都圏や関西を中心に増加し、全症例把握が開始された2008年以降、最も患者数が多い状況となっています。本稿でも昨年の同時期に風疹についてお話しましたが、再度注意喚起を図るという意味で、内容の重複もありますが風疹についてお話したいと思います。

風疹は麻疹やインフルエンザ同様、ウイルスで移る病気です。風疹は麻疹と似たような発熱や発疹が3日程度呈することから、昔から「3日はしか」といわれています。感染力は麻疹よりも弱いのですが、発症すると特効薬がなく、さらに大人では重症化しやすいとも言われています。従いまして「大人の風疹」は「治療より予防が重要」ということになるのですが、その「予防」に落とし穴があるのです。風疹の予防にはワクチン接種が非常に有効であり、現行ではその接種を「2回行う」のですが、現在働き盛りで生殖年齢にある方々においては、ワクチン接種が不十分な方が多いのです。

それでは風疹ワクチンの歴史をみてみましょう。

     1962S37)年41日以前に出生 : 風疹ワクチン接種はなし

     1962S37)年4月2日~1979S54)年41日に出生 : 女子中学生だけに1回接種(学校内で集団接種)

     1979S54)年4月2日~1987S62)年101日に出生 : 各自任意の医療機関で1回接種

     1987S62)年10月2日~1990H2)年41日に出生 : 生後1290ヶ月の間で1回接種

     1990H2)年4月2日~出生 : 現行制度(幼児期 + 1回の2回接種)

 このことから、

「今年34歳以上の男性は定期予防接種を受けていない」

2533歳の男女は予防接種制度の変わり目で、任意接種のため予防接種率が低い」     ということが、問題点となっています。

 そして潜伏期間(ウイルスが入って発症するまでの期間が)が3日前後と短いインフルエンザと異なり、風疹の潜伏期間は1618日と長く、忘れたころに急激に発症して驚かれる方も多くいらっしゃいます。また1回のワクチン接種では十分な免疫を得られていない方もおられます。

 以上から生殖年齢にある男性には風疹罹患のリスクがあり、もしかすると風疹を発症した夫から妊娠中の妻へ伝染してしまうという事態にも発展しかねません。妊娠中に風疹にかかると赤ちゃんに「先天性風疹症候群」を引き起こす恐れがあります。以前の本稿でもお話しましたが、風疹ウイルスの母児感染により、赤ちゃんに白内障などの眼の疾患、難聴といった聴力障害や先天性心疾患を生ずる病態です。妊娠早期の感染ほど赤ちゃんへの発生率、発症率および重症度は高くなり、妊娠1ヶ月以内の感染で約50%、妊娠3ヶ月以内の感染で約30%となります。(妊娠6ヶ月以降の感染であれば、発症率はきわめて低くなります。)

現在の妊婦健診では初期採血で全員に風疹の抵抗力(抗体価)を調べていますが、主治医の先生から抗体価が低いといわれた妊婦さんは、風疹は咳やくしゃみで移る飛沫感染ですので、流行中はうがい・手洗いなど予防に注意を払ってください。そして分娩後はワクチンを打って、自分から他人に感染させないよう予防に努めてください。また風疹感染が疑われる場合は、地区ごとに二次相談施設があり、カウンセリングや胎児感染を調べる精密検査などの対応が可能なシステムもできていますので、深く悩まず主治医の先生にご相談ください。

またこれから妊娠を考えているご夫婦では、今一度各自の母子手帳を御覧になって予防接種の有無を確認してください。もし不確実であれば、ご夫婦そろって妊娠前に風疹の抗体価を調べておくことがよいでしょう。風疹ワクチンは「生ワクチン」で、接種に際しては確実に妊娠を避ける必要があります。①接種予定1ヶ月前から避妊、②接種は月経中もしくは月経直後、③接種後2ヶ月間は避妊という約束は、必ず守ってください(2012.8.1)。


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7月に入り、今年も半分おわりました。

先月は入梅に加えて、季節はずれ?の台風発生もあり、天候的に落ち着かない水無月でした。外来診療をしていても、調子を崩して風邪を引いたり、また嘔吐を中心としたウイルス性胃腸炎になったりして受診される方が多かった一ヶ月でした。梅雨が明けると暑さは本番です。皆さんには健康管理に引き続きご留意ください。

さて当院では先月から市の婦人科検診が始まっております。受診者の皆さんには、年中行事?とはいえ院内が何かと慌しく申し訳なく思っております。ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。この時期のカプリは、何とはなしに婦人科検診に関係する内容になってしまいます。今年も例年同様、婦人科検診に関連する内容 ・・・ 子宮頚がんについてお話します。

子宮頚がんは子宮の出口にできるがんで、近年2030代での患者数が増加しているがんです。子頚頸がんの発症にはヒトパピローマ・ウイルス(HPV)が強く関与しており、本稿でも何度かHPVと予防ワクチンについてお話してきました。子宮頚がんのトピックとして、2点ほどお話いたします。

1. 検査細胞の判定 : クラス分類からベセスダ分類へ

子宮頚がん検診では、子宮の出口の細胞をこすって調べます。こすり取った細胞の見え方で5段階評価を行っていたのが「クラス分類」という方法です。クラス分類は数値化されているので、検査結果を参照する私たちには非常にクリアカットなデータであるため、「重宝」していました。しかしながら分類の仕方がクラスⅠ~Ⅴという評価のため、検査する技師さんは、見えた細胞をとにかくどれかに分類せざるを得ない評価法でありましたし、患者さん側から見れば後に述べる子宮頚がんの病状の進行期分類のⅠ~Ⅳ期と混同しがちな評価法であったのがネックとなっていました。それに替わり新しく検査細胞の評価法として用いられたのがベセスダ分類です。ベセスダ分類の特徴は、細胞それ自体の評価もさることながら、細胞が採取された状態も含め評価することです。同じように細胞を採取していても、受診者のコンディションによっては十分採取されないこともありますし、採取した後に細胞が乾燥したりしますと、細胞自体が変形してしまって正確な評価をすることができません。このような状況でもクラス分類では何とか評価しておりましたが、ベセスダ分類では「標本不適切」の扱いで再採取が必要となります。従いまして(精密検査ではない)「再採取のための再受診」が以前より必要になるケースが考えられます。ここ数年は移行期ということでクラス分類とベセスダ分類が併記されていましたが、そろそろベセスダ分類単独表記となる傾向になってきています。皆さんにおかれましては、再採取による再受診の可能性につきましてもご承知おきいただきたいと思います。

2. 子宮頚がん進行期分類の改訂 : 0期(上皮内癌)の削除

子宮頚がん進行期の分類は数年に一度改訂されるのですが、今年がその年になりました。以前の進行期分類と一番異なるのは「0期」が削除されたということです。子宮頚がんの0期は「上皮内癌」といって、イメージとしては子宮をたまねぎにたとえると、表面の茶色い皮のみが傷んでいる感じです。たまねぎ本体はまったく問題ないように、子宮頚部の上皮内癌の5年生存率は100%で、救命可能ながんといえましょう。がんといっても生命予後を左右しない、また数年前より上皮内癌の取り扱いは前がん状態である「子宮頚部高度異型成(これは悪性疾患ではありません)」と同じ対応となっていたため、今回の改訂より進行期分類からはずされました。

例年受診されている方であれば、検診を受けていても例年と変わりない順序で進んでいると思われるかもしれません。しかしながら舞台裏では、検診精度をさらに上げ、不幸にしてがんであった場合はしっかりとした診断をつけ、適切な治療を行えるようなきちんとした進行期分類を整備しております。さらに県内の一部では、従来の細胞診に加え子宮頚がんの原因ウイルスであるHPVも検査する「二頭立て」の検診のトライアルも始まりました。少ない負担で効率よく診断できることで、治療成績の更なる向上に期待が持てそうです(2012.7.1)。

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みなさん こんにちは

 

6月の声を聞き気候も落ち着いてきたように感じますが、先月は気候の変動が激しい一ヶ月でした。大きな寒暖の差のため、広範囲で雹(ひょう)が降ったり、北関東では突然の竜巻で甚大な被害がもたらされたりしました。また平安時代以来932年ぶりに広範囲で観察可能な金環日食もおこりました。雲を見下ろす高さの東京スカイツリーも開業して、地学・天文の話題に事欠かない5月でした。

5月なのに気温が高い日が続きますと、今年の夏は猛暑となるという予報も真実味を帯びてきます。幸い当地域は数値的に高い節電目標は掲げられませんでしたが、昨年の夏同様、地道な節電努力が今年も必要となることでしょう。

「心頭滅却すれば火も亦た涼し」・・・これを転じて多少の暑さでも精神力で乗り切ろう・・・というのが古来より日本人には染み付いているようです。でもこれは山水深く、土の香り豊かな時代のことでありまして、地球温暖化に加え、緑少なく土壌はアスファルトに替わった現在、ヒートアイランド現象により気温の上昇は更に増幅されています。さらに東日本大震災による津波が影響し、電力供給は低下しているためエアコンなどの使用も控えざるを得ません。そこで今回は婦人科から少し離れますが、「熱中症」についてお話したいと思います。

昔は「日射病」という言葉が使われていました。しかし皆さんもメディア等でご承知のように、日差しを浴びなくとも日射病と同じような暑熱による身体障害が室内にいても起こることから、「熱中症」という病名が使われるようになりました。熱中症は仕事やスポーツなどの活動中に発症する「労作性熱中症」と日常生活の中で起こる「非労作性熱中症」と、発症する状況から更に2分類されています。病状もめまい、失神、頭痛、発汗といった軽度の状態から、病状の進行により逆に汗をかかなくなり、体温調整機能も破綻して生命に関わるほどの重症に至ることもあります。

では熱中症になりやすい因子には、どのようなものがあるのでしょう?まず個人的な因子としては①幼児・高齢者、②性別では60歳までは男性の方が圧倒的に多いのですが、それ以上になると女性の発症者が増加してきます(高齢者の男女比の影響を受けているため)。③体型では肥満の方に多く、④下痢や発熱などの脱水傾向にある方、⑤体調的には睡眠不足・・・といった以上の要因が発症のリスクといわれています。更に環境因子として、①前日との寒暖差が激しい、②多湿 (汗をかいて体熱を発散できない)、③運活動の始め(部活動の初心者や、作業労働開始の数日間)、④1日のうちでは1014時頃・・・が発症のリスクになるともいわれています。

そこで熱中症にならないための予防としては、次のような対策があげられます。①十分な水分摂取:発汗後体重が2%以上落ちている(50Kgの方であれば1Kg減)であれば水分摂取不足ですので、そうならないようにこまめに水分を摂りましょう。②暑さに身体を慣らす:本格的な夏を向かえる前に活動量を一旦落として徐々に慣らしていく。③軽装で吸湿・通気性がよい服装とする。④十分な体調管理:下痢・発熱。・睡眠不足があるときは無理せず、活動中少しでもおかしいなとおもったら、速やかに休息と水分補給を行うことが大切です。

熱中症のお話は少し早いかなとお思いの方も多いかと思います。でも熱中症患者は梅雨明けから急速に増加してきますので、それ以前からの対策が重要です。熱中症対策の基本である水分補給の際、同時に塩分の補給も大切です。塩分の補給には「味噌汁」が極めて有効であるとも言われております。お母さんのおいしいお味噌汁で、家族全員でこれからの暑さを乗り切っていただきたいと思います(今回のカプリは日本医師会雑誌の特集を参考といたしました)(2012.6.1)。


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5月・・・ゴールデンウィーク、真っ只中ですね。

先月は月初め早々になっても、除雪が必要なくらいの降雪を見ました。2週目に入りやっと冬将軍も観念し、白鳥も北に向かう姿が少なくなったかと思っていたら、月半ばを過ぎると15度以上の気温の日が続き、春が駆け足でやってきたような感じがします。皆様、いかがお過ごしですか?

ここ県北の鹿角も待ち焦がれていた桜花咲く、気持のいい季節になってきました。私が生まれ育った北海道の小樽市は、ゴールデンウィークが終わりしばらくしてから桜が開花するため、「桜花咲く入学式」とか「満開の桜の下での花見」などは、秋田に来るまでイメージがなかなか湧きませんでした。なにせ桜の開花のあとには、「つつじ」が間髪いれず今か今かと待っているような土地柄でしたから・・・

学生時代、桜の花咲く頃は、それぞれの部活で観桜会を新人歓迎会と兼ねて行われる時期でもありました。ビール・日本酒・ウィスキー・・・と、若さにかまけて無茶飲みしたことも、今となっては恥ずかしい思い出です。秋田の飲み会といえば日本酒がメインでしたが、昨今はここ秋田でも焼酎の勢いが強力で、日本酒もうかうかしていられない感じですね。

さて一口に焼酎といっても、芋焼酎もあれば麦焼酎もあり、また黒糖焼酎もあれば米焼酎もあります。ただ「焼酎っ!」と言って頼んでも、きちんとリクエストを伝えなければ、「芋」が好きなのに「麦」が来ることになりかねません。

~ 話をお酒から医療の話に戻します ~

年度が替わって先月から、院外薬局にお薬をもらいに行くときに発行される処方せんには、お薬の「商品名」ではなく「一般名」を記載することが推奨されるようになりました。

そのわけは、20081月の本稿でもお話した「後発医薬品=ジェネリック医薬品」の流通や使用を、より促進するためにあります。テレビCMにもありますように、ジェネリック医薬品はかなり周知されてきている一方で、1つの先発医薬品に対して、十数社からジェネリック医薬品が販売されていることもあります。そのそれぞれに「商品名」がついていますが、商品名が多くなることが、かえって無用な混乱を招いて誤った処方になる恐れもありますので、「一般名」による処方が推奨されることになったのです。

上でお話していたお酒の話をかりまして、不謹慎ではありますがたとえますと ・・・ 今までは「麦焼酎」とか「スーパードライ(商品名)」で注文したので、「麦焼酎」・「スーパードライ(商品名)」が出てきました。でも4月からは「焼酎」や「ビール(一般名)」で注文するので、焼酎でも「麦」が来るかもしれないし「芋」くるかもしれません。「スーパードライ」が希望でも「ラガービール」が来るかもしれません。焼酎やビールには違いないのですが、銘柄が異なる・・・これが一般名処方で起こりうることなのです。

お酒の銘柄が異なると味は確かに異なりますが、十分酔うことはできます。同じようにジェネリック医薬品の製薬会社が異なっても、先発医薬品と同等な効果が期待できます。また後発品に変更して、万が一身体へのトラブルに見舞われた場合でも、先発品使用時と同等に「医薬品副作用被害救済制度」の対象になり得ますので、その使用には、あまり構えなくてもよいと思います。しかし従来服用しなれている先発医薬品から変更したくない方は、もちろん現状のままでの投薬が可能です。わからないこと・心配なことがありましたら、かかりつけの先生やかかりつけ薬局の薬剤師の先生にご相談されてください(2012.5.1)。


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  4月 ・・・ 新年度を迎えました。

3月は彼岸を迎えても、当地は除雪が必要なほどの降雪でした。四国や九州では桜の開花の報告もありましたが、春にはまだ少し時間がかかる感じがします。インフルエンザの猛威は過ぎましたが、一日の気温の変動の激しい日が続きます。皆様には体調管理に十分気をつけてください。

さて前回の本稿では婦人科に関連した腰痛についてお話しましたが、今月は産科に関連した腰痛についてお話します。

前回もお話しましたとおり、男性と比較して女性には「腰痛持ち」が多いということをお話しました。さらに妊娠という負荷がかかることによって、約6070%の妊婦さんに腰痛が出現するとの報告があります。妊婦さんの腰痛は初期から出現することは少なく、中期~後期にかけて出現し、また以前からの腰痛持ちの方は、症状が重くなる傾向があります。妊婦さんの2/3以上に認められる腰痛・・・その原因を探っていくと、3つに絞られます・・・①体重の変化、②姿勢の変化、そして③ホルモン環境の変化、です

最初の体重の変化ですが、これについては2010.8月の本稿でお話しましたが、再掲しますと・・・①赤ちゃんや胎盤・羊水などで約5.5Kg、②母体の脂肪蓄積で約4Kg、③母体の水分増加で約2Kg・・・ということで、妊娠末期までに10Kg超えの体重増加になります。体重増加の負担は背骨にくるのですが、前回もお話しましたように女性は背筋力が弱く、しかも妊娠中であれば運動も思うようにできないことから、ますます背筋力が低下し腰痛に向かうものと考えることができます。

妊娠中の体重増加の半分以上が妊娠子宮に関連する部分ですから、お腹がせり出した分、身体の重心がどうしても前方に移動してしまいます。そのため、ある国では「妊婦さんの歩き方はアヒルのよう」とも例えられています。ご存知のように背骨の彎曲は腰の部分が凸となるような軽くS字を描いていますので、重心が前方に移動すると凸の部分の負担が増し、腰痛を招き起こすことになります。

さらに妊娠が進行してきますと、胎盤から「リラキシン」というホルモンが分泌されます。赤ちゃんが通ってくる骨盤は2つの腸骨(いわゆる腰骨(こしぼね))と仙骨(尾底骨を含むお尻の骨)の3つから成っています。これらの骨は靭帯という「すじ」で結合して骨盤を作っているのですが、リラキシンというホルモンがこの靭帯に働くと靭帯が軟化して、その結果赤ちゃんが通りやすくなるというメリットがあります。しかし同時に靭帯が軟化すると骨盤まわりが不安定となり、ひいては腰痛を引き起こすことになります。

お腹まわりの負担は増える、運動はできない、薬は避けたい・・・でも腰痛は改善したい・・・ではどうすればよろしいでしょう?

1.                日常生活動作に気を配る: 日頃の姿勢が前かがみにならず、また反り返ったりせず、立っているときは「頭を上から引っ張り上げる感じでいる」ことがポイントです。下から物を持ち上げるときも腰を下ろしてから持ち上げたり、寝ているときから起き上がるときも一旦横を向いてから起きあがったりして、腰への負担を少なくするようにしましょう。

2.                適度な体操: 妊娠していないときと同じ感じで体操を行うことは無理ですが、ラジオ体操のような前屈-後屈運動や側屈運動、また横になったときは足を軽く曲げて仰向けになり、お尻を軽く浮かして5-10秒固定するようなヒップアップ運動、四つんばいになって背中をそらす背筋運動などを無理しない程度に行い、背筋力の維持に努めましょう。また疲れたら、足を軽く開いて右脇が下になるように横になる「シムスの体位」をとるのがいいでしょう。

3.                骨盤まわりの安定化: ジッパータイプの妊娠帯(コルセット)などで、骨盤まわりを安定させるのも効果的です。またくれぐれも体重増加にも気をつけましょう。

腰痛になれば湿布を張って痛みを楽にしたいところですが、近年では薬局でも鎮痛剤入りの湿布が販売されていますので、湿布の使用の前には必ず主治医の先生に相談されてください。また下肢のしびれや歩行障害などが腰痛に伴って出現した場合、妊娠という負荷が加わり今まで「鳴りを潜めて」いた椎間板ヘルニアなどの「整形外科的疾患」が発症することもあります。そのような場合は、整形外科の先生と二人三脚で診療することにもなりますので、痛みや不具合を我慢せず主治医の先生にお教え下さい(2012.4.1)。

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 みなさん こんにちは

今シーズンは大雪で、雪かきしても直ぐに積もってくるという日々が続きました。お隣の大館市では毎年2月中旬に「あめっこ市」と呼ばれる小正月行事が催されます。当地域ではこの行事が終わると寒さもチョット緩むと言われており、先月末からは日差しも心なしか強まってきた感じがします。しかし今シーズンでは雪にまつわる事故で亡くなった方が既に100人を超えています。これから気温が上がってきますと、屋根からの落雪やなだれによる事故のリスクが高まります。日々の除雪作業には、引き続き注意なさって下さい。

雪寄せも気温が低いと雪が軽いので幾分は楽になるのですが、日々大雪に見舞われますと、軽めの雪でもさすがに肩・腰への負担となります。連日の除雪のため、恥ずかしながら私も腰への湿布が欠かせない日が続いています。「腰」という漢字は、「月(にくづき=身体)」に「要(かなめ)」と書き、文字通り「身体の「要」」です。従いまして、腰痛というのも日常生活に結構差し障りとなる症状といえましょう。今回はその腰痛について、お話したいと思います。

人間は二足歩行する動物であり、さらに他の動物に比べて大きく重い頭を安定させる必要があるため、背骨に負担が及ぶ結果として腰痛になりやすいのは十分想像できると思います。男女を比べますと、男性より女性の方が体幹の筋力が弱いため、背骨の支える筋力の弱いことが女性に腰痛が多い理由の一因と考えられています(ちなみにお腹側では腹筋の弱さが排便時の「いきみ」の弱さに繋がるため、女性に便秘が多い理由となっています)。また女性にしばしば見られる「O脚」、「X脚」といった姿勢の悪さも、腰痛に関与しているとも言われています。

女性に「腰痛持ち」が多いことをお話しましたが、その発症原因は多岐に渡っています。それは、①腰周りを支持する筋肉や靭帯などの損傷(例:腰部筋肉痛)、②関節の炎症や損傷(例:脊椎症)、③椎間板の損傷(例:・椎間板ヘルニア)、④脊髄神経がおよぶ内臓の疾患などです。①~③は整形外科領域の原因ですが、④となると婦人科も関与してきます。

月経が順調に発来する性成熟期には、月経時に腰痛を訴える方も少なくありません。月経時には子宮を収縮させるプロスタグランディンというホルモンの作用により、下腹痛や腰痛をきたすことがあります。これらの症状には鎮痛剤といった薬剤のほか、温浴といった局所の保温も症状の改善に有効です。一方腰痛をもたらす主な婦人科疾患には、「子宮筋腫」と「子宮内膜症」があります。子宮筋腫のため子宮そのもの自体が大きくなりますと、周辺の臓器を圧迫して腰痛の原因となります。また子宮内膜症でも子宮筋腫同様、子宮が大きくなって周囲を圧迫することで腰痛になりますが、骨盤内にできた子宮内膜症組織が癒着の原因となることで腰痛をもたらします。これら2つの疾患は、腰痛に加え月経血が増量する過多月経を伴うことが多いですが、腰痛のほかに不正性器出血を伴う場合は子宮頚がんや子宮体がんといった婦人科悪性疾患が背景にある場合もありますので、注意が必要です。

子宮と同じく、卵巣が大きくなって周辺臓器を圧迫することで腰痛となることがあります。月経が順調に来ている時期では、卵巣は親指くらいの大きさですが、卵巣腫瘍のため卵巣が腫大すると、上述した子宮の場合と同様に腰痛をもたらします。子宮に起因する腰痛は性成熟期が発症のピークですが、卵巣腫瘍による腰痛は、卵巣があれば幼児期から老年期に至るまで、その発症に年齢を問わないのが特徴といえましょう。また閉経~老年期になりますと卵巣からの女性ホルモンの分泌が著しく低下するため、子宮・卵巣が正常の大きさでも、骨密度の低下による骨粗鬆症が関与する腰痛も起こりえます。

今回は「産婦人科と腰痛」のお話しをいたしましたが、改めて内容をみますと、婦人科との関連で目一杯になってしまいました。今回話しきれなかった「産科と腰痛」については、また来月お話したいと思います(2012.3.1)。

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2月・・・如月となりました

12月はクリスマスに大雪でしたが、正月三が日は除雪も入らないくらいの降雪でしたし、中旬には気温も上がりアスファルトが乾くくらいの暖かい日もありました。でも今月いっぱいは気が抜けません。これからも大雪の日もあるでしょう。みなさん除雪作業で身体など痛めないよう気をつけてください。

大雪と暖気がかわるがわるやってきますと、路面状況がなおさら悪化します。中途半端に緩くなってしまうと、轍(わだち)ができてハンドルがとられ危険ですし、また雪が溶けてしまっても路面がぬれていれば気温が下がって「ブラック・アイスバーン」になり大事故を招きかねません。大雪なら視野が取りにくいですし、気温が緩めば前記のように路面状況が悪化する・・・いずれにしても雪道走行は、事故を起こしたり事故をもらったりするリスクが非常に高まりますので、気を抜くことができません。

自動車事故から乗員の危険を回避するのに有効なのは、シートベルト着用であることは、言うまでもないことでしょう。1971年から運転席および助手席のシートベルト着用が義務化されましたが、昨年の調査では運転手の一般道の着用率が99.5%、高速道での着用率が100%と、秋田県はともに全国1位の着用率です。でも2007年から義務化された後部座席のシートベルト着用率は一般道では22.5%、高速道では74.8%と運転者の着用率に比べ低い値となっています。着用率の向上には、今後更なる啓蒙が必要といえましょう。

さて「妊娠中はシートベルトをしなくてもよい」ということを耳にしたことはありませんか?なぜこのような「除外規定」が生まれたのでしょう?それは40年ほど前のシートベルト着用義務初期の頃にさかのぼります。当時のシートベルトは、腰ベルト1本だけで固定する「2点固定式シートベルト」というものでした。この固定方法で事故がおこると、着用していた妊婦さんが衝撃で前にかがむことによって、子宮への強い圧迫が懸念されたことによります。しかし現在の肩から掛ける「3点固定式シートベルト」では、装着によって母児の安全性を高めると考えられています。従って2008年には警察庁より「自動車に乗車する妊婦は、原則として正しく3点式シートベルトを着用すべきである」と明記されています。妊婦さんのシートベルトについては、イギリス・ドイツ・イタリア・オランダ・スイスのように、着用免除の診断書があるときのみ例外とする以外は、ほぼすべでの先進国で通常人と同様に一律にベルト装着を義務付けられています。

 

現在ではシートベルト以外でもエアバッグ等の安全装置が搭載している車も多いため、どうしてもシートベルトはなおざりにされるところがあります。しかし過去の交通事故例の解析によると、エアバッグの装着の有り無しにかかわらず、シートベルト着用の有無がおなかの中の赤ちゃんの予後と密接に関連しており、また衝突実験からはシートベルトが直接、衝突時の子宮内の圧力の上昇を抑える結果も出ています。

それでは妊婦さんのシートベルトの正しい装着法について・・・ということになりますが、ポイントは「すべてのベルトは妊娠子宮の上を横断しない」ということです!そのためには、

1. 常に腰ベルトと、肩ベルトをともに着用しましょう。

2. 腰ベルトはおなかの膨らみを避け、腰骨のできるだけ低い位置を通しましょう。

3 肩ベルトは「おっぱいの間」を通して、おなかの側面に通します ~ このときシートベルトが決しておなかのふくらみの上を横切らないように注意しましょう。

4. 肩ベルトは首にかからないように、また頭側にずれて首をこすることもないように注意しましょう。

5. 運転する場合は、おなかのふくらみとハンドルの間には若干の空間ができるよう、座席シートの位置を調節しましょう。

 

具体的数値はありませんが、日本では年間1万人ほどの妊婦さんが交通事故により負傷し、それにより約1,000件の流・早産が発症し、20人前後の妊婦さんが死亡しているという試算があります(いずれも歩行中によらない交通事故です)。運転する・しないに関係なく、あらゆる妊娠週数で正しいシートベルトの装着により、乗車中の事故を軽減するよう努めましょう(2012.2.1)。

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みなさん、あけましておめでとうございます。

平成24年になりました・・・今シーズンは雪が遅く、先月は半ばを過ぎて初めて除雪が入るほどの降雪でした。でもクリスマス寒波ですっかり景色は一変し、結局は例年と同じ風景で新年を迎えています。皆様はどんな新年を迎えておりますか?

自分では「恒例」と思っているのですが、年頭のカプリはお正月にまつわる事項に「引っ掛けて」お話してきました。詳細はバックナンバーをご覧いただきたいのですが、昨年は「おせち料理」、一昨年は「鏡餅」、その前は「水引」、更にその前は「お雑煮」・・・実のところ、そろそろ「ネタ」が尽きてきて、今年はどうしよう・・・?と、先月初めから頭を悩ましておりました。考え悩んだ結果、今年はお正月の「お遊び」に絡めてお話したいと思います。

さて童謡の中で歌われているお正月の遊びというと、「すごろく」「福笑い」「凧揚げ」「こま回し」「羽根つき」・・・といったところでしょうか?でも、もう一回りで還暦を迎える私の子供時代には、正月といっても「こま回し」「羽根つき」をしている子供はいなく、「福笑い」「凧揚げ」は「絶滅危惧種」状態で、「すごろく」も「人生ゲーム」に取って代わっていました。手を変え品を変え人生ゲームは現在まで存続していますので、「すごろく」が一番息の長い遊びかも知れません。ご存知のようにすごろくは「さいころ」だけを頼りに、様々なイベントやアクシデントを経て「あがり」を目指すゲームですが、浮き沈みしながらゴールを目指す・・・内容によっては人生の縮図をみる思いになるのは私だけではないでしょう。

当然ながら実際の人生も幾多の山坂を越えて進んでいくものですが、婦人科的に女性の一生は、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌の程度から、一つの「山」に例えることができます。ある山の形を連想して頂きたいと思います・・・すると、そのふもとは女性ホルモンの分泌が少ない時期・・・これが小児期です。山の頂上~山なみは女性ホルモンが順調に分泌される時期・・・これを性成熟期といいます。そして頂上から下ったふもとが、またも女性ホルモンの分泌が低下する時期・・・これが老年期です。小児期~性成熟期にいたる上り坂が「思春期」、性成熟期~老年期にいたる下り坂が「更年期」にあたり、ホルモンレベルから見た女性の一生というのが、「山」にたとえられるのがお分かりいただけたと思います。

このように一生の間にホルモンレベルがダイナミックに変化する女性の健康や疾患に関して、産婦人科では従来から3つの角度からアプローチしていました。それは、「子宮・卵巣などの腫れ物=婦人科腫瘍学」、「卵巣などから分泌される女性ホルモンに関する問題=内分泌学」、そして「子宮本来の子供を宿す機能について=周産期学」です。

以上の「婦人科腫瘍」「内分泌」「周産期」という産婦人科の3つの分野に、最近新たな視点が加わりました。それは「女性のヘルスケア」という分野です。この分野は「子宮」「卵巣」といった臓器ごとのトラブルではなく、「小児期」「思春期」「性成熟期」「更年期」「老年期」といった、女性の一生の5つの時期(フェーズ)それぞれに起きるトラブルに対応する分野といえます。例をあげますと、「思春期」では月経の問題や食行動のトラブル、「性成熟期」では性感染症・避妊といったセクシャリティーに関わる問題、「更年期」では皆さんご存知の「更年期障害」、また「老年期」では頻尿や尿漏れなどの「ウロギネコロジー(婦人泌尿器科といいましょうか・・・)」・・・以上の問題にそれぞれ対応するのが、「女性のヘルスケア」といえましょう。

「女性のヘルスケア」に関連する疾患のほとんどは女性であれば誰しも思い当たったり、悩んだりするようなものでしょう、しかしながら、それらの疾患のほとんどは生命を脅かすものではありませんし、長期入院や大掛かりな手術などを必要とするものではありません。そして「大きな病院にいくほどのトラブルでもない」ことが多いのが実際です。現在は「オフィス・ギネコロジ-」といって、入院施設のない外来専門の婦人科施設が多くなってきています。どこの施設でも「女性のヘルスケア」には対応しておりますので、お悩みの方は一度ご相談され溌剌とした一年をおくっていただきたいと思います(2012.1.1)。


院長のcapricciosa(気まぐれ)