みなさん、こんにちは。

初雪は遅かったといっても、やはり11月にはしっかりやってきました。先月は上旬と下旬の気温差が厳しく、外来でも、風邪をひかれている方が多い印象を受けました。でも寒さはこれからです。皆さんはインフルエンザの予防接種はされましたか?効果を発揮するまでは、しばし時間を要します。「備えあれば憂いなし」です。予防の方はしっかりとなさってください。

さて個人的なことで恐縮ですが、今年のようにオリンピックがない年の年末には、どういうわけか携帯電話の購買意欲がふつふつと湧いてきます。そこで秋-冬のカタログを見たのですが・・・驚きました! 従来の携帯電話はグッと品数が減り、多くがPCの機能を有している「スマホ(スマートフォン)」になっているではありませんか?メイド・イン・ジャパンの携帯電話は「ガラケー(ガラパゴス・ケータイ)」といわれているそうです。ガラパゴス諸島は他の島との接触がなかったため、独自の生物の進化を遂げていました。それになぞらえ、他国のIT技術との接触がなく、独自の進化を遂げた「多機能携帯電話」を自嘲的に呼んでいるのだそうです。でも多種多様な機能をコンパクトかつ有機的に納める・・・まさに日本の技術の真骨頂ですね。

毎年最後のカプリでは、一年を振り返ってトピックとなった医療問題にスポットを当てていますが、今年はどうしても東日本大震災をはずすことはできません。震災からもう少しで9ヶ月・・・徐々にではありますが復興がなされている一方、冬になって見えてきた仮設住宅の問題、いまだ先の見えない原発関連問題・・・解決しなければならない問題は山積みです。いまもなお大変な状態ですが、10月のある日、被災地に勤務している同級生を囲んで集まる機会がありました。震災直後から経時的に変わっていく東北の原風景、また病院内の状況や救急対応を記録した貴重なDVDなどを拝見することができ、震災から半年余経過して思いが改まった記憶があります。

友人が供覧してくれた写真や動画の中にもありましたが、あのような大惨事のなかでも、人々は冷静で規律を守り、隣人を思いやり、高い相互扶助の意識をもっていたことで、苦境を乗り越えることができたと信じています。震災にあわれた方はもちろん、その惨状を我事のように憂う被災地以外の人々の思いや、起こした行動を見聞きして、私はここしばらく忘れ去られていた「日本人の底力」を垣間見たような気がします。いやそれは私だけではなく、世界中の人が、そう感じだのではないかと思います。事実、各国の報道には、「日本人の底力」を賞賛する記事を多数目にすることができました。

「不屈の日本(アメリカ)」、「本当に強い国(ベトナム)」、「静かなる威厳(シンガポール)」、「人間の連帯(ロシア)」、「武士道精神の日本が災難に打ち負かされることは無い(台湾)」・・・大震災という極限状況においての対応を見た各国の驚嘆や賞賛のコメントは枚挙をいとみません。また先日大地震の憂き目に遭ったトルコの方々からは、「日本人を見習いたい」という言葉までありました。

「栄誉を重んじ、恥を知り、礼を重んずる特性」、「敬意と品格に基づく文化」・・・このような日本人の特性や日本の文化は、島国だったことが幸いして、他国にも誇れる「美しい特性」、「美しい文化」になったということができるでしょう。科学技術だけでなく、文化等の面でも「ガラパゴス化」したため、「日本人の底力」の源流となる「美徳」が生まれたのだと考えます。

相互扶助の点から見ますと、国が礎となり相互に助け合う「国民皆保険制度」は日本人の特性を現したすばらしい社会保障制度といえるでしょう。しかし皆さんご存知のように、先月から頻繁に話題に取り上げられている「環太平洋パートナーシップ:TPP」が実行されると、この他国に誇れる健康保険制度の存続にも影響を及ぼしかねません。

今年は「日本人の底力」を実感する一年でした。島国であるが故、他国にはない「美徳」やそれに基づく「隣人に優しい制度」が生まれたのだと思います。「国外に門戸を開かない国は衰退する」と言い切る方もいらっしゃいます。それも確かに正論です。しかしガラパゴス化で生まれた類を見ない高い相互扶助制度をやめてまで開放し取り入れなければならないものなのでしょうか・・・?議論は翌年以降も活発化しそうです・・・私達も一人ひとり自らの考えをもって、その動向を注視していきましょう。今年も、ご愛読ありがとうございました。皆様よいお年をお迎えください(2011.12.1)。


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 11月 霜月です。

先月は八幡平に早くも降雪したと思ったら、またしばらくは穏やかな天候が続いて、気温の高低が著しい月でした。こういう気候だと紅葉はより映えるといわれますが、確かに今年の紅葉は気のせいか鮮やかな感じがします。でも気温差が激しい今年は、例年には見られないくらいマイコプラズマ肺炎やRSウイルス感染症といった呼吸器感染症が流行しています。先月中旬から当院でもインフルエンザの予防接種を行なっておりますが、感染症対策の「いろはの「い」」は、「うがい」と「手洗い」です。くれぐれもお気をつけ下さい。

さて気温が下がってきますと、どうしても運動不足になりがちです。軽く汗ばむような運動を習慣付けることは、生活習慣病の予防に大切なことです。そこで今回の本稿では女性に多い「成人病」といえる。「骨粗鬆症」についてお話します。

「骨粗鬆症」の「鬆(しょう)」は訓読みで「鬆(す)」と読みます。大根などの鮮度が落ちて隙間ができるときにいう、あの「鬆(す)」です。このことから想像できますように、骨粗鬆症とは「骨に粗く鬆(す)がはいる病気」なのです。人間の骨は建物の鉄骨と異なり、目に見えないレベルで毎日「骨芽細胞」という細胞から新しい骨がつくられる「骨形成」と、一方で「破骨細胞」という細胞によって古い骨を壊して吸収するという「骨吸収」とがバランスよく行なわれて、骨が維持されています。しかし「骨吸収」のスピードが「骨形成」を上回ってしまうと、その結果として骨自体に「鬆(す)」が入って脆くなってしまいます。これが骨粗鬆症です。

現在日本では骨粗鬆症の患者さんは、その予備軍を含めると1,000万人以上いるといわれており、その7割を女性が占めています。男女比で女性が圧倒的に多い理由として、その背景因子として女性ホルモンの変化があげられます。卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)は女性特有の周期を維持するのに重要であることはいうまでもありませんが、エストロゲンの働きを「骨」の方から見ますと、骨吸収を促進するホルモンの働きにブレーキをかけて骨吸収を抑制したり、骨芽細胞の増殖を促したりして骨代謝のバランスをよい方向へ導いています。しかし閉経によってこのエストロゲンの分泌が低下すると骨形成は低下し、反対に骨吸収は高まりますので、骨代謝バランスが「負」の方向に働いてしまい、結果として骨粗鬆症の進行を促すことになります。このような女性ホルモンが大きく関与する骨粗鬆症を「閉経後骨粗鬆症」と呼びます。

骨粗鬆症が進行しますと骨折に至り、大腿骨の股関節に入り込む部分や上腕骨が肩関節に入る込む部分に骨折が起こりやすくなります。また閉経後骨粗鬆症では背骨や手首の骨折が起こりやすいのも特徴で、背骨が曲がったり、1年間に1cmの身長の減少を見たりする場合は、背骨の骨折の黄信号といえるでしょう。さらに股関節回りの骨折は日常動作の低下をきたすため、高齢者では寝たきりになるリスクが1.8倍にも高まる報告もあります。

加齢による変化とはいえ、日頃の食生活や運動、また日光浴など日常生活に気を配ることによって骨粗鬆症になることを予防することができます。しかしながら骨粗鬆症と診断された場合は、日常生活の改善に加え、お薬による治療が必要になります。かつて閉経後骨粗鬆症の治療には女性ホルモンを補充する治療が行なわれていましたが、10年ほど前から骨吸収を効率よく押さえるお薬が使われるようになりました。ビフォスフォネート系薬物といって、その服用の仕方には「くせ」がありますが、骨量の改善効果は高く、現在は婦人科外来で一般に処方するような女性ホルモン剤は骨粗鬆症の治療には処方しなくなりました。

ビフォスフォネート系薬剤は、骨粗鬆症への治療効果が高いのですが、一つ注意すべきことがあります。それはこの薬剤を服用しながら歯科治療を行なっていますと、「顎骨壞死」といってあごの骨に重篤な状態になるリスクがあることが報告されています。そのため抜歯やインプラントといった大掛かりな歯科治療の際には顎骨壞死のリスクを回避するため、処置前3ヶ月および処置後3ヶ月のビフォスフォネートの休薬が必要です。口の中の病気を治しても、新たな大きな病気ができてしまったら、元も子もありません。骨粗鬆症で治療中の方で、歯科治療を行なう予定の方は、必ず主治医の医師・歯科医師に相談して、適切な対応をとっていただくようにしてください(2011.11.1)。


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今年もあと3ヶ月になりました。

 残暑は・・・と言っているうち、もう長袖がないと困るくらい涼しい季節になりました。当地では早朝には10℃を下回る気温にもなるほどです。過ごしやすくなった一方で、急激な寒暖の差で風邪をひくなど体調を崩す人を多く見かけます。皆様、いかがお過ごしでしょうか?体調管理には十分注意されてください。

さてトップ・ページにも記載しましたが、先月中旬より子宮頚癌予防ワクチンに関して、従来の2価ワクチンに加え、新たに4価ワクチンが公費補助の対象に加わりました。販売されて1ヶ月程の期間で公費補助の対象になっているためか、4価ワクチンについての情報が少ないように感じられます。そこで今回の本稿では、この4価ワクチンについて、お話いたします。

昨年11月の本稿でもお話しましたが、ワクチンの「価」というのはウイルスの「株」を示します。子宮頚癌予防ワクチンはHPV(ヒトパピローマ・ウイスル)に対するワクチンなのですが、一口にHPVといいましても、100種類以上の型(株)が存在します。100種類以上のHPVのうち、子宮頸がんに強く関与するウイルス(ハイリスクHPV)は15種類ほどあり、さらにハイリスクHPV15種類のうち、HPV16型と18型の2株だけで、HPVが関与する子宮頸がんの約60%を占めています。以上のデータを踏まえHPV16・18型という2つの型へ対応を特化したワクチンが作られ、2株に対応することから「2価ワクチン」と呼ばれます。そして後発の4価ワクチンは、2価ワクチンに含まれるHPV 16型と18型に加え、さらに6型・11型という2つのウイルスにも対応しています。

2価ワクチン(商品名:サーバッリックス) : HPV 16・18型    4価ワクチン(商品名:ガーダシル) : HPV 16・18型 + 6・11型

それでは4価ワクチンが対応しているHPV 6・11型は、どのような病気をもたらすウイルスなのでしょう?

 HPV 6型・11型が関与する代表的な病気は「尖圭コンジローマ」という病気です。尖圭コンジローマの発症には、6・11型のHPVが90%以上関与しており、性行為が主な感染経路となっています。そのため15~29歳の若年女性に好発し、外陰部や肛門周囲に「鶏のトサカ」のような隆起した病変を特徴とします。病気ができた部位によっては痛みやかゆみが出ることがありますが、ほとんどの場合、無痛性で自覚症状に乏しい病気です。病気自体は良性の病気ですが、治療を行なっても再発しやすい(3ヶ月以内の再発が25%という報告もあります)病気です。また尖圭コンジローマのある妊婦さんから経膣分娩で生まれた赤ちゃんに、まれにではありますが「再発性呼吸器乳頭腫症」といって、赤ちゃんの喉の奥にコンジローマ様の病変ができることがあります。この他、HPV 6・11型は外陰部や膣の良性腫瘍の発症にも関与しているという報告があります。

 以上お話しましたように、HPV 6・11型が引き起こす病気は16・18型と異なり「がん」ではなく、尖圭コンジローマを代表とした「良性疾患」であり、既に治療法は確立されています。ただ「見せたくないところ」の病気で、「再発しやすい」というネックがあるため、接種は十分検討に値するものです。

2価ワクチンも4価ワクチンも、ともに世界100カ国以上で使用され、安全性は十分確認されています。どの領域でもそうですが、後発の商品は先発のものよりメリットが多く認められます。しかしながら先発である2価ワクチンにもメリットはあります。ご不明な点があれば接種医から説明を受け、それぞれのメリットを十分ご検討のうえ、ワクチン接種を受けられてください(2011.10.1)。


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 みなさん、こんにちは。

今年の夏は節電という修飾が加わり、やはり「猛暑の夏」といった感じでした。でもお盆を過ぎたら急に過ごしやすくなり、夜などは半袖では肌寒いときもあるくらいです。気温の変動が短期間で激しい昨今です。皆さん、体調管理にはくれぐれもお気をつけ下さい。

さて先月ですが、左下奥歯の「かぶせもの」が「浮いた感じ」となり、歯科受診をしてきました。小さい頃から医療機関を受診するのは全くもって苦にならず、もちろん歯科医院もしかりです。歯科というのは、独特?のにおいと、独特の音が鳴り響いて、多くの人にとってはそれこそ「虫唾が走る」様な場所かもしれませんが、私にとっては自分自身が受診する立場となっても、妙に「ワク☆テカ」してしまいます ・・・ おかしいですよね? さて、一通り先生に診ていただいたところ、上記の違和感は結局「虫歯」によるものでした。ただ普通の虫歯は歯ぐきと垂直方向に進んでいきますが、今回は歯ぐきと水平方向?に進んでいくタイプのようでして、麻酔をかけていただき、「削って」「埋めて」おしまいとなり、事なきを得ました。歯科領域での「医者の不養生」になってしまい、日頃の「デンタル・ケア」の重要性が身につまされました次第です・・・ ということで、今回のカプリは「妊娠と歯」に注目してみたいと思います。

昔から「女性は子どもを生むたび、歯が一本ずつ欠けていく ~それは歯のカルシウム分が赤ちゃんに渡るためだよ~」と、あたかも真実のように言い伝えられています。でもこれは全くの「嘘」でありまして、「一旦出来上がった母体の歯のカルシウム分が溶け出すこと」はありません。でも妊娠することで歯自体が「グラグラした感じ」になるという方がいらっしゃいます。これはどうしてでしょう?

歯みがきのCMで「歯周病」という病名を聞いたことはありませんか?「歯周病」とは歯を支える歯肉が腫れる「歯肉炎」と、歯ぐきの骨(歯槽骨)が溶ける「歯周炎(歯槽膿漏)」の総称です。妊娠は、この歯周病を進展・悪化させる恐れがあります。妊娠初期に増加するプロゲステロン(黄体ホルモン)という女性ホルモンは、妊娠の維持には非常に大切なホルモンですが、一方で歯肉の血管の走行を乱したり、血液の流れを悪くさせたりします。これが局所の抵抗力を下げる引き金となり、歯肉炎に進展します。その結果、歯肉は赤く腫れて、ささいな刺激で出血しやすくなります。このようなホルモンの変化に加え、妊娠の影響により唾液が酸性化したり、粘りが減ったりすることから歯周病菌に攻撃されやすい環境となり、結果として歯周炎にいたります。従って今までに歯周病の診断や治療を受けた方は、妊娠により悪くなるリスクが高まりますから注意が必要です。

妊婦さんの歯周病は、思わぬ問題も引き起こします。それは「早産」との関連です。口の中に歯周病菌が増加すると、免疫を担当する細胞から「サイトカイン」という情報伝達物質が血液中にだされます。このサイトカインは歯周病の進行や悪化をもたらすのですが、同時に血液中のサイトカイン濃度の上昇は、妊婦さんの体内では「出産のゴーサイン」とみなされます。サイトカイン濃度が高まると、妊娠子宮の「収縮のスイッチ」が入ると考えられており、その結果早産にいたると考えられています。妊娠中の「デンタル・ケア」の低下が、妊娠経過にも悪影響を及ぼしかねません。

産婦人科も歯科も女性にとっては行きたくはない診療科かもしれません。しかし今まで述べてきたように、妊娠中は「たかが虫歯」と決してないがしろにはできないのです。そういうこともあり、自治体からの妊婦健診補助券の中には「歯科検診補助券」も含まれています。妊娠中は必ず補助券を利用して歯の健康状態も診て頂いてください。そして治療が必要だと判断されましたら、歯科の先生の指示に従って治療を受けてください。以前の本稿でも述べましたが、現在の産科は「母体の健康があって、はじめて健やかな妊娠生活を過ごすことができる」というスタンスです。歯科における治療行為も、貴女と貴女の赤ちゃんの健康を考えて行なうことですので、安心して治療にお望みください(妊娠中のおくすりとX線検査につきましては、2009.3.1と2009.4.1のバックナンバーをご参照下さい)。また治療不要というかたにも、妊娠中の口腔内には思いもかけないリスク要因が生じる場合があります。それを除去するのに効果的なのは、1にも2にも「ブラッシング」です。残念ながら産科領域では「デンタル・ケア」までの指導は十分できておりません。歯科検診受診の際は、適切なブラッシングの指導を受け「デンタル・ケア」に努めてください(2011.9.1)。

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 ・・・ 8月に入りました。

 先月上旬は、うだるような暑い日々が続きましたが、先月末には台風の接近とともに、朝夕は比較的すごしやすい気温でした。先月といえば「なでしこジャパン」の大活躍に熱くなってしまいましたが、でも夏の暑さはこれからが本番・・・熱中症にならないよう、気配りしながら暑さを乗り切っていきましょう。

さて市の婦人科検診も人数的にはピークを超え、これからは検診でチェックされ二次検診でいらっしゃる方を見受ける時期になってきます。4年前のこの時期の本稿では、婦人科検診ではどのような流れで、そんな検査を行なっているのかということについてお話しました。今回はそれぞれの検査をすることによって遭遇する代表的な婦人科疾患について、お話します(順序は2007.7月の本稿での順番に沿っていきます)。

1.       視 診 : 内診台にあがって、以後の検査を行なう直前の状態を観察します。外陰部(特に小陰唇の内側)に痛みもなく小さな鶏のトサカ状の小さな「いぼ」のような病変を見る場合、ウイルス感染による尖圭コンジローマを考えます。また閉経後のご婦人や経産婦さんで膣鏡診を行なう前に、明らかに腟壁が多少ふくらんで認める場合には子宮脱や子宮下垂といった疾患の存在が疑われます。

2.       膣鏡診 : 「膣鏡」という鳥のくちばしの形に似た器具を用いて、おりものの状態や膣の中、また子宮の出口などを観察します。肉眼的にわかる疾患としては、おりものがカッテージ・チーズのように白くぽろぽろしている状態であればカンジダ膣炎を、腟壁が赤くただれ黄色の膿のようなおりものの場合は、淋菌を代表とした細菌性膣炎の存在が疑われます。おりものの色調に変化はなくても、臭気が気になる場合はトリコモナス膣炎が疑われます。また閉経している方で腟壁がただれているのであれば萎縮性膣炎(老人性膣炎)を考えたいところです。膣鏡診と同時に子宮頚がん検診をおこないます。子宮の出口を専用の道器具で擦って細胞を取り、検査に提出します。高度な不正出血などの自覚症状がなければ、肉眼的にわかるような子宮頚がんを認めることは、まず出来ません。

3.       内 診 : 超音波検査が普及する前は、子宮や卵巣といったおなかの中に入っている婦人科の臓器(内性器)をうかがい知る唯一の方法でしたが、超音波の出現で内性器の評価としての重要性は低くなってしまいました。しかしながら子宮の後ろ側~付け根のところ(専門用語で「ダグラス窩)といいます)に「布ごしに胡麻を触るような感じ」がある場合、子宮内膜症の存在を考えます。この場合、診察された患者さんの多くは、同部の触診により鋭い痛みを訴えますが、このような小さな病変は超音波検査では描出できないので、受けたくない検査かもしれませんが、一般婦人科診察としては欠かすことのできない検査です。

4.       超音波検査 : 子宮および卵巣などに超音波をあて、モニターに形として映し出す検査です。まず子宮・卵巣ともに大きく腫れていなかいどうかを確認します。腫れていない場合、子宮の内側にある子宮内膜の厚さを評価します。年齢を考慮しても厚すぎる場合は、「子宮内膜増殖症」といった内膜を厚くさせるような病気を考えます。また子宮内膜の厚みが正常であっても、子宮の中にできる「いぼ」(子宮内膜ポリープ)を認めることがありチェックの対象としています。子宮が大きく腫れていると、子宮筋腫や子宮内膜症という病気を念頭に入れ、子宮のどういう位置にどのような大きさで認められるかをチェックします。また卵巣が腫れているとなると、どちらの卵巣がどの程度腫れていて、その中には何が溜まっているのかということも確認します。

 いろいろな病名が出てきますと、何だか心細くなり不安になるかもしれません。ただ「検診を行う側」の立場ですと、がん検診だからといって「癌だけ」をみているものではないということを、皆様にご理解いただきたいのです。従いまして、以前の本稿でもお話しましたが、二次検診の受診を勧められたからといって、決して「がん」や「がんの疑い」というわけではありません。検診でどういう理由でチェックされて二次検診を勧められたのか・・・十分納得した上で二次検診に臨まれてください。また、検診はあくまでも「病気を見つける場」ですので、「病気の経過を見ていく場」ではありません。二次検診の受診を勧められた方は、精査の後主治医の先生の許可が出るまでは、検診ではなく外来で検査を受けるようにされてください(2011.8.1)。


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みなさん、こんにちは

東北地方も先月末には入梅しました。入梅していますので当然といえば当然なのですが、多湿で不安定な天候が続いています。東日本大震災の影響で女川原発からの電力供給も停止しておりますので、東北地区も節電に努める夏になります。節電への心配りは大切なのですが、あまりにも傾倒しすぎて熱中症になってしまうと本末転倒です。節電も冷房もそれぞれ程好く行っていくことが肝要ですね。

5年以上も本稿を続けていますと、以前記したことが月日の経過とともに変更・訂正などが入って「内容の鮮度」が低下してしまいます。ということで、今回は新たなテーマではなく、以前お話しました「不妊領域における医療と行政の取り組み」について変更点や訂正などを加え、再度紹介したいと思います。

以前の本稿(2007年9月)で、不妊治療への秋田県のサポートとして「特定不妊治療費助成事業」について紹介いたしました。精子と卵子を体外で受精させて受精卵を子宮内に戻す「体外受精(IVF-ET)」や顕微鏡下で卵子の中に直接精子を入れて受精卵を子宮内に戻す「顕微授精」といった治療は、健康保険の適応にはなっていなく費用も高額に上るため、平成12年から費用の一部を秋田県がサポートする事業を展開しています。この事業の対象となる方は、①秋田県内に居住し法律上の婚姻がなされているご夫婦で、②ご夫婦の合計所得額が730万円未満であり、③行う治療は体外受精もしくは顕微授精であることで、助成内容は「5年間の助成期間で1年度あたり1回10万円までの助成が年2回まで」と以前紹介いたしました。現在も助成対象者の条件は①~③と変わりありませんが、助成内容が「5年間の助成期間で1年度あたり1回15万円までの助成が年2回まで」と1回あたりの助成金額が引き上げられ、さらに治療初年度に限り年3回の助成が受けることが出来ることになりました(助成回数の上限は5年度通算10回には変わりありません)。

県の特定不妊治療費助成事業の対象に該当する方で鹿角市に1年以上在住しているご夫婦は、本年度から始まった鹿角市の特定不妊治療費助成事業によるサポートも上述した県からの助成に加えて受けることができるようになりました。鹿角市の助成内容は、5年間の助成期間で1年度あたり1回5万円までの助成を年2回まで受けることができます。ただし県助成とは異なり、治療初年度の3回助成はありませんのでご注意下さい。

 

今までは健康保険の適応にならない不妊治療に対してのサポートについて述べてきましたが、本年度から鹿角市では特定不妊治療へのサポートに加え、主に健康保険の適応になる一般不妊治療に対しての助成事業も始まりました。居住条件や収入条件は秋田県特定不妊治療助成事業と、また助成金額と助成期間(助成上限: 1回5万円まで×年2回×5年間)は鹿角市特定不妊治療助成事業と同じですが、助成の対象が健康保険の適応になる薬物療法による不妊治療のほか、治療に際して行なう検査や保険適応外の治療である人工授精(採精した精子の濃度を高めた上で、子宮内に直接注入する治療法)も対象になります。検査を例に取りますと、医療機関によって実施内容が多少異なりますが、当院での検査費の窓口支払いは2万円くらいになっています(数日に分けて行う検査の総額です)。不妊治療に限ったことではありませんが、医療機関への受診は医療費だけがかかるというわけではありません。交通費はもちろん、予想をしていなかったような出費がかさむことも多々あります。不妊治療は長期にわたるケースもございます。県や市からの助成をうまく活用しながら、検査や治療にゆとりを持って望まれることを願っています(秋田県特定不妊治療費助成事~美の国秋田ネット~http://www.pref.akita.lg.jp/www/contents/1137209858924/index.html

鹿角市の不妊治療助成事業についてはこちらから ・・・http://www.city.kazuno.akita.jp/mpsdata/web/3377/kazunofunin.pdf)(2011.7.1)。

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6月になりました。

桜に替わってつつじや芝桜など、色鮮やかに花が咲き始めています。ここ鹿角は昼夜の温度差が15度以上という日も珍しくなく、気温の不安定な日々が続いています。先月には本稿の話題と重複しましたが、広域にわたって死に至る重大な食中毒事例もありました。皆様も健康管理には、くれぐれもお気をつけなさってください。

さて私事ではありますが、本年度から日常診療に加えて、市内の中学校の「学校医」を拝命することになりました。「学校医が産婦人科・・・」と違和感を覚える方もいらっしゃると思います。私自身も、「私が担当してよいものか・・・」と暫しの間は自問自答を繰り返しておりました。しかしながら当地域は県内でも屈指の医師不足の地域ですので、診療科の垣根を越えてできるものはやっていかないと、他の先生方の負担を増やしてしまうことになりかねません ・・・ 「学校医1年生」でありますが、しっかりと職務を遂行していきたいと考えております。

学校医としての初仕事は、全生徒さんの健康診断でした。これは年度初め早々ありましたが、生徒さんとの初顔合わせをかねた診察は問題なく終えることができました。そして今月は、1年生に「麻疹風疹予防ワクチン」の接種を行います。婦人科でワクチンというと、本稿でもしばしばお話した「子宮頚がん予防ワクチン」が代表ですが、麻疹や風疹も日常診療においては決して軽視できない疾患ですので、今回はこれらの疾患とワクチンについてお話したいと思います。

慣用句で、一時何かに熱を上げていることを「はしか(麻疹)にかかっている」ということもあるくらい麻疹はとてもなじみのある感染症です。日本では現在でも推定で年間10~20万人の麻疹患者が発症しています。しかし別項などでは既に麻疹を根絶しているため、日本を最大の「麻疹輸出国」として非常に警戒しているのです。2007年に首都圏の大学生を中心に麻疹が流行して、多くの大学で休講が相続いたことは、皆さんの記憶にもあることと思います。近頃の麻疹は小児よりむしろ成人の麻疹が問題となっており、平成13年には成人麻疹のため10名の方が亡くなっております。麻疹は決して子供の病気と侮ってはいけません。先に述べたように成人でも生命の危機に陥れることがありますし、妊婦さんでは死産や流早産のリスクを高めます。工業技術だけでなく麻疹に関しても他の先進国同様、「麻疹根絶」に向けて予防接種を着実に行っていく必要があります。

風疹は麻疹と似たような発熱や発疹が3日程度呈することから、「3日はしか」の異名を持っています。本稿をお読みの方は、既にご承知のことと思いますが、妊娠中に風疹に罹患すると少々「やっかい」なことになりかねません。

妊娠中に風疹にかかると「先天性風疹症候群」になる恐れがあります。風疹ウイルスの母児感染により、赤ちゃんに白内障などの眼の疾患、難聴といった聴力障害、先天性心疾患を生ずる病態です。妊娠早期の感染ほど赤ちゃんへの発生率、発症率および重症度は高くなり、妊娠1ヶ月以内の感染で約50%、妊娠3ヶ月以内の感染で約30%となります。(妊娠6ヶ月以降の感染であれば、発症率はきわめて低くなります。)

このように赤ちゃんへの重大な影響をもたらす感染症であるにもかかわらず、麻疹同様風疹もその疾患を「甘く見てしまう」傾向があります。その理由として、「3日はしか」という「麻疹の軽い状態」という先入観や、「確かワクチンをしていたと思う・・・」という思い込みがあるのではと考えます。しかし法改正の狭間で、1979年4月2日生まれから1987年10月1日の間に生まれた方は、風疹ワクチンを接種されていない方が多数いらっしゃいますので、非常に注意が必要です。

現在の妊婦健診では初期採血で全員に風疹の抵抗力(抗体価)を調べています。主治医の先生から抗体価が低いといわれた妊婦さんは、風疹流行中はうがい・手洗いなど、予防に注意を払ってください。そして分娩後はワクチンを打って、自分から他人に感染させないよう予防に努めてください。また子宝に恵まれずこれから不妊治療を考えている方は、治療開始前に風疹の抗体価を調べておくことがよいでしょう。せっかく妊娠が成立しても抗体価が少なかったことから風疹にかかってしまったら、後悔してもしきれません。

子宮頚がんワクチンと異なり、麻疹風疹ワクチンは「生ワクチン」で、接種により軽くかからせて抵抗力をつくるという予防注射です。そのため接種に際しては確実に妊娠を避ける必要がありますので、①接種予定1ヶ月前から避妊、②接種は月経中もしくは月経直後、③接種後2ヶ月間は避妊という約束は、必ず守ってください(2011.6.1)。


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みなさん、こんにちは

・・・東日本大震災から1ヵ月半が経過しました。今もなお体感される余震が引き続いていますし、原発の問題もなかなか落ち着きません。被害規模が大きいだけ、復興への歩みもなかなか思いの通りにいきません。でも頑張りすぎず着実に歩を進めていきましょう。

先月はほんのり雪景色になるような降雪があったり、20度近く気温が上がる日もあったりと、天候が落ち着かない日々が続きました。こんな天候ですので、先月末からは一旦終息しかけたインフルエンザも散発してきています。夜となると肌寒い日もあるので「ピン」と来ないかもしれませんが、気温差が激しいことから、今日は「食中毒」のお話しをしたいと思います。

産婦人科のHPでのコラムで、また今の季節に「食中毒」のテーマというのは、なんとも違和感があると思いますが、食中毒の中でも今回は「リステリア菌による食中毒」にスポットを当てたいと思います。専門的な話になりますが、リステリア菌というのは「グラム陽性桿菌」といってグラム染色に紫色に染まる棒状の細菌で、このグラム陽性桿菌の仲間には乳酸菌などがあります。

リステリア菌は食中毒で有名なO-157のように毒性が強くなく、健康な人の1%前後には症状もでないまま保菌状態でいるといわれています。そのような毒性の低い細菌ですので、発症するには十数時間を要し、時には数週間後に発症することもあります。また食中毒ではありますが、嘔吐や下痢といった典型的な急性胃腸症状をあまり示さず、倦怠感や発熱といったインフルエンザに似た症状のため、あまりクローズ・アップされることはありませんでした。

一方妊娠中は、お腹の中の赤ちゃんを「異物」として認識して拒絶したり攻撃したりしないように、妊娠していないときと比べて免疫力が低くなっています。そのような状態では毒性の低いリステリア菌であっても、感染して発症してしまうことがあります。妊婦さんがリステリア菌に感染しても、妊婦さん自身の症状が重くなるわけではありません。でも問題なのは「経胎盤感染」といって、胎盤を介して赤ちゃんに感染してしまうことです。お腹のなかの赤ちゃんがリステリア菌に感染すると全身に感染が及ぶ「胎児敗血症」という状態になり、流早産や死産となってしまうことになりかねません。また出産前後にリステリア菌に感染すると、「新生児髄膜炎」や「新生児敗血症」という状態になり生命の危機に瀕することにもなります。

リステリア菌は、①「ナチュラル・チーズ」などの加熱殺菌していない乳製品、②パテ・生ハムといった食肉加工品、③スモークサーモン、④生野菜といった食品を介して感染が及びます。これらの食品は通常、購入後には冷蔵庫の中で保管をするものですが、①- 4℃でもリステリア菌は増殖する、②食塩水に漬けても増殖を抑えられない、③リステリア菌に冒されても、食品の匂いも味も変わらない、など現在の食品貯蔵の「落とし穴」をついた細菌なのです。

リステリア菌も多くの食中毒の原因菌と同様に加熱することで感染を予防することが十分できるので、あまりに恐れることはありません。でもだからといって、冷蔵庫の機能をあまりにも過信して食品を貯蔵しておくのも考えものです。日頃から冷蔵庫の食品は期限内に使い切るようにして、上に掲げた食品について妊娠中はなるべく摂取するのを控えるか、摂取する場合には十分加熱することを心がけましょう(2011.5.1)。

参考:これからママになるあなたへ~食べ物について知っておいてほしいこと(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/dl/ninpu.pdf#search='リステリア食中毒'

家庭でできる食中毒予防の6つのポイント(http://www1.mhlw.go.jp/houdou/0903/h0331-1.html

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 3月11日1446分 ・・・ 未曾有の大惨事が東北を襲いました。

「東北関東大震災」とも「東日本大震災」ともいわれる大災害です。マグニチュード9.0で最大震度7と、今まで日本では経験したことの無い激震でした。このような大震災で「もし・・・」という仮定は憚られますが、「地震大国」といわれる日本です ・・・ もしも地震だけであったなら持ちこたえられたかもしれません。でも16mとも、またそれ以上ともいわれている津波が街を襲い、更には原発施設にも牙を剥き、放射能汚染といった予想を超えた災いの残した爪痕に、事態の収束の目処がなかなかたたない状況です。

当地は半日強の停電のみでライフラインは保たれ、物流も徐々にではありますが回復しつつあります。また被災地にいる同級生や先輩・後輩の安否についても、幸いにも確認することができました。しかし現在もなお身内の安否を確認すことができない知人もおりますし、被災地はなお物流が停滞し、「住」の辛さに加え、「衣」も「食」にも困窮しております。「なぜ東北に・・・」 「なぜ友人・知人に・・・」と思いを巡らすと、悔しい気持で一杯になります。

ニュースからは瓦礫で埋め尽くされた被災地の現状が連日映し出されています。仙台市では震災による瓦礫の量は23年分にも及ぶという報告もありました。震災後、各地からいろいろな形で被災地への支援が行われています。でも災害の爪痕を見ると復興までは長い時間がかかるでしょう・・・。「熱しやすく冷めやすい」という日本人にありがちな「打ち上げ花火」のような単発な支援では、とても追いつけません。東北人らしい「粘り腰」で「息の長い」支援を続けていけるよう、私個人としても心がけていきたいと思っています。

最後になりましたが、このたび被災された多くの方々にお見舞い申し上げますとともに、多くの亡くなられた人々に心からご冥福をお祈り申し上げます。また一日でも速やかな復興がなされ、元の生活に戻れますことを願っております。(2011.4.1

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みなさん、こんにちは

例年、雪も寒さも厳しい印象があるのは2月なのですが、1月の大雪があまりにもひどい一方で、2月の降雪が例年より少なかったことから春の到来が早い感じがします。春が来るのを今か今かと待ち焦がれるのは、雪国で生まれ育った者の「性」なのでしょうか?・・・でも着実に季節は春に向かっていますね。

さて本稿ではいままで、産婦人科領域における新しいお薬の話題にも触れてきました。昨年は子宮頚癌ワクチンについてお話しましたが、そのワクチンも公費助成のおかげで、年齢制限はありますが広く接種されるようになって来ました。「医療においては治療よりも予防が肝心」・・・それが生活習慣の改善といった個人の努力ではなく、お薬などによって皆さんに対応できるというのであれば、その恩恵を受けるべきではないかと私は思っています。

病気を予防するというのではありませんが、望まない妊娠を避けるために服用する「緊急避妊薬」が今春にも解禁される予定です。従来でもレイプにより、または避妊に失敗した時に服用する、一般に「モーニングアフターピル」とよばれる薬剤はありました。しかし従来のお薬に比べて作用を特化したことにより、副作用が少なく身体への負担も軽減されているとも言われており、服用する方にとっては朗報といえるでしょう。

ここで確認しておきますが、「緊急避妊」と「妊娠中絶」とは異なります。妊娠の成立とは、受精卵が子宮内膜に着床する~しっかり子宮に「根を張る」~ことを言います。緊急避妊薬は受精卵が着床するまでの間に、排卵を抑制したり、受精を妨げたり、着床を阻止することによって妊娠がしないように働きかける薬剤です。従いまして緊急避妊薬は受精卵が着床する前に服薬するものですから、一旦着床する=すなわち妊娠が成立しますと、緊急避妊薬はもはや効果がないことがお分かりいただけることと思います。

「生命の方向性」を大きく左右する薬剤ですので、今回の発売に至るまで厚生労働省でも一般の皆さんからの意見をパブリックコメントとして求めておりました。そのなかには緊急避妊薬の解禁に対して、「子供たちの安易な「性」を助長する」や「妊娠中絶の減少に繋がらない」などの否定的なご意見もありました。

1999年に本邦でも避妊薬としての低用量ピルが解禁され、また時を同じくして秋田県では高校生を対象とした産婦人科医師による性教育講話も始まりました(現在では産婦人科医師のみではなく、また対象も中学生まで広げて行っております)。ピルが解禁になったとき、また全校でも先駆けて医師による性教育が行われたときも、前述した否定的なご意見がありました。行われて既に10年以上経過しておりますが、その後の推移はどうでしょう?関連データを示しながらお話したいと思います。

女子の初体験の年次推移ですが、高校3年生までの累積経験率は2008年が46.5%と1999年の39.0%と上昇しておりますが、その上昇率は1993年の22.3%と比較し、観察期間が延びている一方で、経験率の伸び幅は小さくなっています。

 妊娠中絶率は、ピルが解禁されたあとに20歳未満、20-24歳で一時的に増加しておりましたが、2002年以降は総数で見ても、各年代で見ても徐々に減少傾向を呈しています。

以前から秋田県では20歳未満の妊娠中絶率は全国平均に比べ高値でしたが、性教育講話が開始されてからは減少に転じ、2007年のデータではついに全国平均よりも下回る結果となりました。











今までの「性」に関する医療介入をみますと、正しい知識の普及により成績が好転していると考えられますため、今回の緊急避妊薬の解禁によっても、一部の方々が心配しているような「安易な「性」を助長」や「妊娠中絶の上昇」には減少に繋がらないのではないかと思われます。しかしパブリックコメントの中には、「女性にだけ責任を負わせ、健康を害する恐れがある」というご意見もありました。緊急避妊薬の効果は100%ではなく、今までの避妊に代替するものではありません。あくまでも緊急時への対応ですので、従来から言われているようなしっかりとした知識と実践を踏まえた上でのものであるとお考えください(今回掲載の資料の一部は日本産婦人科医会報20112月号から引用いたしました 2011.3.1)。


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お寒うございます・・・

半年ほど前は「猛暑日」の連日でしたが、年が明けて低温と豪雪の毎日が続いています。今月当地では第2週にスキー国体が、その翌週には全日本学生スキー選手権が開催されます。開催地として雪が多いのに、こしたことはないのですが、大雪のため日々の除雪作業で健康が損なわれている方々が例年になく多くなっています。夜な夜な屋根の雪下ろしをしている私が言うべき立場でもありませんが、くれぐれも気をつけて行いましょう。

さて2月に入ったばかりですが、来月の1日からの1週間は「子ども予防接種週間」になっています。幼少の頃に行う三種混合ワクチンやポリオワクチンのほかにも、ワクチンをすることによって防ぐことができる病気はいくつもあります。それを総称してVPD Vaccine-ワクチン-  Preventable-予防できる- Diseases-病気- の略)といいます。VPDには麻疹・風疹・みずぼうそう・おたふくかぜといった、耳にしたことのある感染症や、小児の細菌性髄膜炎などや婦人科では子宮頚がんといった病気があります。細菌性髄膜炎などに対しては肺炎球菌ワクチンやヒブワクチン、また子宮頚がんに対しては本稿でもたびたび取り上げていました子宮頚がん予防ワクチン(HPVワクチン)により、これらの病気になることを防ぐことができます。従来からの予防接種に加えて、これら3種のワクチン接種の普及をはかるのが予防接種週間の目的です。

VPDの一つに「B型肝炎」があります。B型肝炎は血液などの体液に含まれる「B型肝炎ウイルス」に感染することにより伝播します。お産で赤ちゃんが産道を通ってくる時に、お母さんがB型肝炎ウイルスを持っています(この状態をウイルスキャリアといいます)と、産道で赤ちゃんがウイルスに感染してしまいます。この感染経路を「垂直感染」といって、輸血を介した「水平感染」と並んで、B型肝炎の感染経路として非常に重要視しておりました。従いまして、献血されたすべての血液は必ずB型肝炎ウイルスの有無を調べた上で血液製剤として供給されています。また妊娠しますと初期採血検査にはB型肝炎の項目があり、結果が陽性だった場合は、生まれてきた赤ちゃんにスケジュールを組んでワクチンを接種し予防することになっています。そのため、上に述べたVPDの中にB型肝炎が含まれていないのは、「B型肝炎母子感染防止事業」によりキャリアになりそうな赤ちゃんへ既に予防接種をしているからです。

しかし最近B型肝炎の広がりについて「第3の経路」が問題となっています。それは「性感染症としてのB型肝炎」です。

その前に、皆さんがよく耳にする「性病」という言葉は、既に「死語」となっているのはご存知ですか?その語の元である「性病予防法」は1999年で廃止となっており、性病自体も梅毒・淋病・軟性下疳・鼠径リンパ肉腫の4種類しか含まれていません。しかし性感染症STI Sexually-性的に-  Transmitted-移る- Infection-感染症- の略)には、前述のほかクラミジアやヘルペス、AIDSなども含まれまれ、広義にわたるものなのです。

性交渉に必ずしも出血が伴わなくとも、B型肝炎ウイルスは唾液や精液中にも存在が証明されています。本邦での明らかなデータはありませんが、米国でのデータでは急性B型肝炎の4050%は異性間性交渉によるものでした。また4ヶ月以内の性交渉の相手が5人以上の場合、B型肝炎の陽性率が21%に対して、5人未満の場合は6%であるという報告があります。これらから性に関して開放的になるとB型肝炎キャリアが増加することはご理解頂けると思います。

B型肝炎ウイルスに急性感染すると、約3人に1人が急性肝炎を発症します。急性肝炎になったもののうち1%以下と低値ではありますが、劇症化して死の危機に曝されることにもなりますし、また慢性化した場合は将来的に肝硬変や肝癌の危険性もあります。感染力の強さからAIDSウイルスほどコンドームの予防効果は期待できません。子供や妊婦だけでなく、市町村検診でも別枠で一般成人に対し肝炎検診が行われています。検診結果が問題ない場合でも安心するのではなく、積極的にワクチンを接種して、大人であってもVPDへの対応が必要です(2011.2.1)。

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みなさん、あけましておめでとうございます。

開業して7回目のお正月を迎えました。このカプリは開業して2年目のお正月からスタートしましたので、丸5年ということになります。書き始めは「非定期更新」などとうたっていましたが、強迫観念に駆られているのか、結局毎月毎月更新ということになってしまい、60編を越してしまいました。バックナンバーをみますと、「よくも、まぁ・・・・」と、少々あきれている(?)自分がいます。でも今年も話題を見つけながら懲りずに続けようと思いますので、よろしくお願いいたします。

1月のカプリはお正月のイベントを話の種として進めていました。昨年は「鏡餅」、その前は「水引」、更にその前は「お雑煮」・・・こうなると今年も何かお正月に関連した項目でお話を進めていきたいと考えていまして・・・結果、今年は「おせち料理」に着目してみました。

「おせち料理」の「おせち」は桃や端午の「節句」が由来となっています。年の初めに家に神様を迎え入れる間は、台所にも余計な火の気などがないよう煮炊きを慎むための料理といわれておりますが、その一方で正月3が日くらいは女性もゆっくり休養できるように配慮された風習とも言われています。しかしながら元旦から初売りが始まり、食材が購入できる現代においては、おせち料理のありがたみも薄れてきているのかもしれません。

ご存知のように、おせち料理の品々には良き思いが込められています。例えば、「ごまめ(田作り)」は五穀豊穣祈願」、「かずの子は子孫繁栄」、「きんとん(金団)は蓄財」、「黒豆はマメに暮らせるよう」などなど、それぞれの料理にはこれから始まる新しい一年がつつがなく過ごせるように、お目出度い意味が込められています。先の見えない未来に対してポジティブに考えていこうというのは、今も昔も変わりませんね。

「おせち料理」と同様な「言い伝え」は、妊娠・出産に関してもいくつも存在します。このような言い伝えは安産に向かうポジティブなものと、妊娠中は慎むよう戒めるネガティブなものの二つに大別されます。以前の本稿で、「夫の褌(ふんどし)を腹帯にすると、安産にあやかれる」という県内の言い伝えを紹介いたしましたが、産婦人科医として県北で15年ほど勤務していますと、いろいろな言い伝えを耳にします。年初めなので、今回は安産を願う「ポジティブな言い伝え」をみてみましょう。

「シシャモを食べると子沢山になる」  「杉の皮を帯に挟むと、お産が軽くなる」  「目の中に障子の骨が見えるようになったときに産むと、安産になる」  「家中の引き出しを開けておくと、お産が早い」  「棟上げ式のおにぎりをもらって食べると安産する」 ・・・ などなど、こうみますと狭い県北ですが色々な言い伝えがあります。

どれもこれも現代の医学からみると、すべて「まゆつば」と言ってもいいくらいです。でもほとんどが真剣に信じられていたのは、「お産は生まれてみないとわからなかった」からです。今でこそお産で命を落とす妊婦さんは非常に少なくなりましたが、当事は今と比較にならないほど高率でした(妊産婦死亡率(出生10万対比):2005年は5.81950年は176.1、明治時代は400ともいわれています)。お目出度いことが一瞬のうちに不幸になる・・・そのようなことにならないよう、当時の人々はわらをもすがる思いで信じていたことでしょう。

一方で、「杵を担いで3回家の周りを回ると安産する」  「トイレ掃除をすると安産する(きれいな子が生まれる)」といった言い伝えは、今の医学からみても、あながち「まゆつば」と言い切ることができません。杵を担ぐのはオーバーですが、妊娠していても適度な運動をするのは安産に有益だということです。特にトイレ掃除~昔の和式便器の掃除~では、単に適度な運動であるだけでなく、前かがみで動くことで骨盤廻りの筋肉の運動になったり、掃除中に自然と腹式呼吸の練習になったり、安産対策として現在でも理にかなった言い伝えといえるかもしれません。

暮れの紅白歌合戦には「トイレの神様」という歌をフル・コーラスで聞かれた方も多いと思います。「トイレには、それはそれはキレイな女神様がいるんやで」 ・・・ もしかしたら、その女神様は貴女の「安産の女神様」かもしれませんね。冬場はどうしても体動が少なくなります。大掃除は終わったばかりですが、お手洗いを含めたお掃除を、妊娠中の生活からの視点で今一度見直していただければと思います(トイレ掃除中はどうしても下腹部に力が入りますから、切迫早産などで安静が指示されている妊婦さんは、主治医の先生の許可の下で行ってください)。(2011.1.1)。


院長のcapricciosa(気まぐれ)