新年度に入りました
振り返ると大雪のシーズンでしたが、先月は結局1回も除雪も入らず4月になりました。昨シーズンのほうが圧倒的に小雪でしたが、それでも昨年の3月は2回ほど重機による除雪が必要な降雪がありました。それを考えると今シーズンは「潔く春が来たな」と妙に感心しています。「大雪の年は米が豊作」とも言われています。昨今の「令和のコメ不足問題」が今年の末には改善していることを願うところです。
さて毎年年度末には秋田県では「母体保護法指定医師研修会」というものが開催されます。「母体保護法指定医師」というのは簡潔に言うと人工妊娠中絶術や不妊手術を行うことを認められた医師で、ほぼ全員が産婦人科医です。指定医師になるには基準以上の臨床経験年数と症例数を指定された施設で経験する必要があり、それを満たしたところで研修会を受講し申請の上、指定されます。指定された後も2年に1回研修会を受講することが更新条件として求められています。当日その研修会で「母体保護法の趣旨と適正な運用」と題し講演してきたのですが、今日はその母体保護法について少し解説していきたいと思います。
母体保護法とは不妊手術および人工妊娠中絶に関する事項を法的に定めることにより、母性の生命健康を保護することを目的にしています。その内容は①不妊手術(性ホルモンを維持しつつ妊娠をできなくする手術)、②人工妊娠中絶、③受胎調節の指導(家族計画・バースコントロールの指導)の3点からなっています。この中で皆さんが見聞きすることの多い人工妊娠中絶については、適応週数や施行条件、それに伴う罰則規定が定められています。適応週数については妊娠22週まで、また施行条件は①妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害する恐れがある、もしくは②暴行、脅迫等による妊娠による場合、本人及び配偶者の同意を得て手術が行うことができる、と規定されています。
この母体保護法は平成8年に施行されましたが、それ以前の約50年間は「優生保護法」という法律が施行されていました。今では考えられないですが当時の人口過剰問題やヤミ堕胎問題を受け、優生思想の下、不良な子孫を出生することを防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的としていました。この概要の「母性の生命健康を保護」は母体保護法に継承されていますが、「優生思想」とういのはどのようなものでしょう?
「優生思想」とは進化論と遺伝学を人間に当てはめ、集団の遺伝的な質を向上させることを目的とした思想で、優良な遺伝形質を保存することを目的として生殖適性者に生殖を促したり、悪質の遺伝形質を淘汰するのに障害者や犯罪者、少数民族といった「生殖に適さない人」への結婚禁止や強制不妊手術(断種)したりを多くの先進国で19世紀末から20世紀半ばにかけて行っていました。
優生保護法の下では①遺伝性精神疾患の場合は医師の申請後に審査会で認められたもの、②非遺伝性精神疾患で保護者同意があり審査会で認められたもの、③本人のほか配偶者や血族に遺伝性精神疾患がある、もしくはらい疾患があり、すべて本人同意が得られているもの、について不妊手術や人工妊娠中絶術を行い、およそ50年でその総数は約2万5000件に上りました。
以上の障がい者差別や優生思想を排除するため平成8年に母体保護法に改正され現在に至っているのですが、その間上記の疾患の方々について人権の尊重や保護がなされなかったより、平成31年に優生手術を受けた方への一時金支給法が施行されましたが、昨年改めて「旧優生保護法に基づく優生手術を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律」が公布されました。一時金支給法と異なるところは、①受給対象が手術を受けた本人のほか、配偶者・血族・遺族も含まれる、②優生手術として不妊手術に加え人工妊娠中絶術も含まれる、ことです。法律は1月から施行されていますが、請求期間は5年間と限られています。もし該当すると思われる方が身内におられる方は、ご相談されてみてください(詳しくはこども家庭庁「旧優生保護法補償金等に係る特設ホームページ」 https://www.cfa.go.jp/kyuyusei-hoshokin にアクセスしてください)。(2025.4.1)
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弥生の三月です
昨年末の長期予報では、1月までは例年よりも降雪量が多く、2月には例年よりも高めの気温で推移・・・とありましたが、「事実は小説より奇なり」・・・先月は「今シーズンの最強寒波」が何度も「長期に居座る」日が続き、スキーよりスケートがメインの帯広で1日に120cmの降雪があったり、隣の青森県の酸ヶ湯では12年ぶりに積雪500cmを超えたりと、大雪の1ケ月でした。このような大雪の状況でしたので、先月催された国スポも無事閉会したようです。もう3月ですので、後は粛々と雪解けを待ちたいと思います。
さて年度末を迎え、国としては来年度の予算を審議しておりましたが、その中で「高額療養費制度の負担上限引き上げ」というものが物議を醸しています。総理の出身県の隣の島根県知事は「国家的殺人未遂だ」との強い批判をしています。一県の首長がそこまで言ってしまう「高額療養費制度の自己負担引き上げ」について今回は取り上げたいと思います。
そもそもの「高額療養費制度」とはどのような制度なのでしょう?私たちが医療機関で診療・治療を受けますと、多くの場合医療費の総額の3割を窓口で支払い、残りの7割が国保(=国民健康保険)や協会けんぽ(=協会健康保険 旧:社保)などから給付されます。ただ窓口支払いはいかなる場合も総額の3割を支払うわけではなく、医療機関や薬局の窓口で一か月に支払った総額(入院時の食費負担や差額ベッド代等は含まず)が上限額を超えた場合に、その超えた金額が支給されるのが「高額療養費制度」です。この「上限額」は一律定額というわけではなく、受診者の年齢や所得を参考に算出されます。例えば年収370万~770万円までの70歳の場合で窓口自己負担が3割の方では、ひとつきの外来医療費の総額が100万円の場合、窓口負担は30万円となります。でも年齢・所得による規定値80,100円に(総額医療費-267,000)の1%を加えた87,430円が「自己負担限度額」となり、差額の30万から87,430円を差し引いた212,570円が「高額療養費」として支給されることになります(年齢や所得により異なりますので、詳しくはhttps://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf をご覧ください)。
以上の「高額療養費」について、今年の8月と再来年の8月の2段階で「自己負担限度額」を引き上げる案が現在問題となっているのです。まず今年の8月の時点で年収によって自己負担額を5~15%を引き上げ、さらに現在収入の分類が5段階になっているところを、2027年8月の改正には13段階に細分化した上でさらに引き上げる案なのです。これによると月額自己負担限度額が、年収370万の方は現行80,100円が88,200円と増えますが再来年も88,200円に据え置かれます。しかし年収95 0万の方は現行167,400円が188,400円に引き上げられ、さらに再来年には220,500円の負担増となります。
「高額療養費」を受給するほどの疾患であると、それなりの身体的負担が高い状況であることは容易に想像されるでしょう。それまで普通に働いていたとしても、治療や療養のため時短勤務や休職が多くなれば、罹患する前と同額の給与が支払われるとは限りません。また年末に医療費控除が受けられるといっても、交通費など受診に関わる出費の問題もあるでしょう。この30年の間に所得の中央値は550万円から372万円に減少する一方、月当たりの社会保険料は3.5万円から6.7万円とほぼ倍増しています。この上さらに「高額療養費」の「自己負担限度額」を引き上げることは、社会的セーフティーネットがより脆弱になる心配があります。
少子高齢化が進行することで、国家予算における社会保障費の占める割合はますます増大することは明らかです。これ以上「保険料を上げる」「高額療養費の自己負担限度額を引き上げる」ことは、所得の低下が改善されない現在では、もう限界に近いかもしれません。となると家計の収支と同じように私たち一人一人が「社会保障費の無駄遣い」を控えるよう心掛けるのが肝要になります。例えば、①検診の有効活用:早期発見で早期受診 積極的な検診受診と検診結果の放置をしない、②不必要な時間外受診を避ける:時間外受診は正規の受診より費用がかさみます。3日前、果ては1週間以上前からの不調で時間外受診する方もおられるので、速やかな時間内受診をお勧めします。以上は国内の問題ですが、メディアでは日本の生活保護制度や国民皆保険制度が一部の外国人に「利(悪)用」されている事例も報告されています。本邦の社会保障費はきちんと税金を納めた方が適切な恩恵を受けられるよう配慮し「無駄遣い」を控えていただきたいものです(2025.3.1)。
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みなさん、こんにちは
年越しをまたいで先月前半は爆弾低気圧のため、暴風と大雪に見舞われましたが、月後半になると3月並みの気温の時もあり、それなりの雪解けとなりました。それまでは当地も一気に積雪が増えましたけど、鹿角から小坂、坂梨峠を越えて青森県に行くにつれて、積雪は殊更増しておりました。半径50kmそこそこの圏内ですが、積雪量の違いには今更ながら驚かされます。今月には冬の国スポ(国民スポーツ大会)が当地で催されます。現在のところ雪不足や感染症の心配も少ないので、3年前より華やかに行われることでしょう。
感染症といえば、今シーズンはインフルエンザも新型コロナウイルス感染症も、「両雄並び立って」流行しています。以前は「同系統(例:呼吸器)のウイルス感染症は複数疾患が同時に流行しない」なんて言われていましたが、その「定説」も最近では覆されている感があります。背景に新型コロナがほぼ通年感染症となっていることに加え、コロナ禍においてインフルエンザワクチンの接種率が低迷したことで、既得抗体が低下し感染者の増大につながっていることも原因かもしれません。さらにRSウイルス感染症やマイコプラズマ感染症も絡んで、今シーズンは悪い意味で「呼吸器感染症の群雄割拠状態」と言えましょう。
先日同業が集うネットフォーラムで、ある「お題」が出されました・・・「鼻毛を抜くと風邪をひきやすくなる・・・どう思う?」というものです(苦笑)。医師1,337人の回答は「なる・どちらかというとなる」が約35%、「ならない・どちらかというとならない」が約40%と、結構お互い肉迫したデータとなりました。「ならない派」の理由は、かぜ症候群をもたらす病原体のうち細菌であれば気道上皮の表面にある短い毛(線毛)が働いて、「大玉送り」の要領で喉の方に押しやって(「龍〇散ダイレクト」のCMでその様子が見られます)咳や痰で体外に排出されますが、ウイルスはそれもすり抜けて奥に入り込んでしまいます。いずれにしても鼻粘膜の部分ではウイルスはもちろん細菌も鼻毛がフィルターとしてキャッチできないということで、風邪のひきにくさには関与しないという主張です。ただあるDrの経験として、某工業地帯で勤務していた時、粉塵の影響のためか同僚の多くが咳と痰で悩まされていた時、長時間在院している研修医が鼻毛を伸ばしっ放しにしていたら咳や痰がなかったとのことで、真似して鼻毛の手入れ?を止めたところ、他の職員の咳や痰も改善したとのことでした。そのDrはコロナ流行期も鼻毛の手入れをしなかったことで一人だけ感染を免れたとのことです。あくまでも経験談で学問的な裏付けはありませんが、「生体に不要なものなど何もないと痛感させられた」とその先生はおっしゃっておりました。
コロナに関していえば既に「ポスト・コロナ」の状態に入ったこともあり、ここ数か月くらいから「おめでた」でいらっしゃる方が、少しずつ増えてきた感じがします。そのような妊娠初期の方の数人から「現在脱毛に通っていますが、引き続き処理を続けても良いでしょうか?」との質問を受けることがありました。美容脱毛については2023年3月の本稿でもお話しさせていただきましたが、こと今回は妊娠との係わりをメインにお話ししたいと思います。
そもそも論ですが、美容外科で扱う対象は脱毛も含め「病気ではない」ので健康保険は効かず自費診療となります。極論ですが施術を受けるも受けないも個人の自由です。私達から見ると、緊急性のある状態ではないので、妊娠という「特殊な体調」の時に敢えて施術を受ける必要はないと考えますので、脱毛については妊娠中には中断し、出産後改めて再開する旨お話ししております。美容外科クリニックのHPを見ても妊娠中の脱毛は避ける旨記載しているところがほとんどです。産科的にも妊娠中は「妊娠性雀斑」という「そばかす」が出る変化も来しますし、初期には黄体ホルモンの影響で吹き出物などがでて肌荒れとなり、往々にして皮膚のコンディションが不安定になりがちです。そのような状況でVIO脱毛の際ちょっとした皮膚の傷が膿んで、何かの拍子に化膿菌が子宮の方まで感染が及ぶと、最悪のケースでは「絨毛羊膜炎」という流早産を招く重篤な感染症を発症することになりかねません。赤ちゃんが生まれると育児に追われて自分自身をケアする時間が大幅に削られるのは確かですし、それゆえ妊娠中に済ませておきたいというのは心情的に理解できます。でも「生体に不要なものなど何もない」「緊急性もない」となれば、諸々の優先順位が自ずと見えてくるのではないかと私は思っています(2025.2.1)。
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新年、あけましておめでとうございます。
先の長期予報では、12.・1月は大雪になるかもとのことでした。確かに出だしは重機が入るほどの降雪はありませんでしたが、年末は重機も入るは日に3回も除雪はするはで、いささか顎が挙ってきています。昨年の正月は能登半島地震の翌日に羽田空港での飛行機事故等で衝撃的な幕開けでしたが、今年は新年から穏やかに始まることを願う次第です。
年が替わってこの職に就き35年を迎えることになります。30年の節目ではコロナ禍で同期会が開催されませんでしたが、今回は既に計画されています。「医学部(医学科)」と聞くと構えてしまうかもしれませんが、ある種「期間6年の職業訓練学校」ですから、「同じ釜の飯を食って」「艱難辛苦を耐えた」還暦を過ぎた同期と再会するのは、今から楽しみでもあります。
私がお世話になった大学は「戦後初の新設医学部」でしたので、従来のカリキュラムに比べ、柔軟的なものでした。それまでは医学部6年のうち最初の2年は教養課程、次の2年は基礎医学、最後の2年は臨床医学と区分けされていましたが、2年生から基礎医学、4年生から臨床医学が始まり最後の2年は臨床実習が主体でした・・・まぁ、今はもっと変化していると思います。2年生から基礎医学のうち生理学・解剖学・生化学の3つが始まるのですが、2年次の解剖学では実際の骨や脳を扱う「骨学」や「神経解剖学」を履修し、そして3年生になった新学期1日目から「系統解剖学」いわゆる「解剖実習」が始まります。
「系統解剖学」は3年の午後すべての曜日に入っていて、1コマ目の「講義」の後に2コマ目に座学で学習したところの「実習」となります。ただ1コマ90分の実習では到底終わることができませんので、平日は22時まで実習が可能でした。実習は前期一杯かかり、この間2度のレポートも入るので、私のときは翌日休日の場合オールナイトで解剖実習を行うことが可能でした。夏休み明けに口頭試問がありクリアすると単位認定となり、秋になり学生・学校関係者・御遺族と共に合同慰霊祭を行い、系統解剖に関してはこれで終了となります。
私が入学の頃でもまだ卒業生を1000人も輩出していませんので、ほとんどの教官が初代教授でした。系統解剖学の教授は非常に威厳に満ちた先生でしたので、講義はもちろん実習も緊張感に満ちていました。さらに解剖実習そのものが御遺体とはいえ初めて「人」と接する実習であること、また通常「死体損壊罪」になることを実習とはいえ二十歳そこそこの若造が行うということ・・・この実習そのものが医師としてのスタートであり、そしてこの思いが当時の記憶を強固にし、40年近くなった今でも色褪せないでいると思います。
昨年末に美容外科の医師が、海外で新鮮な御遺体での解剖を勉強しにいったところで、解剖実習の様子さらには解剖中の献体の頭部の画像などをSNSに投稿し大変な物議を醸しだしておりました。日本では医師といっても御遺体の解剖までできるというわけではありません。国から「死体解剖資格」を得て可能になりますし、その資格者の下で学生は実習を行えるのです。「学生の立場」で「指示通りの解剖」を行うのと「新鮮な御遺体」で「自由に自分の専門領域を研鑽する」のとでは、学問的興味が雲泥の差であることは言うに及ばないでしょう。国外で行ったとはいえ、今回の医師の対応は少なくとも日本人の倫理観や感性にはそぐわないと思いますし、ましてや同じトレーニングを受けてきた同業から辛辣な意見が出るのも当然のことだといえます。
そして個人的には「医師としてのSNSとの係わり」という問題もあると思います。仮に写真を撮ったとしてもオフラインで、せいぜい同業の知人に供覧しただけであればそれで終わりだったのではないかと思われます。日頃SNSに自己情報をUPし続けるうちに情報露出のボーダーやメディアリテラシーも下がり、そこに学問的興味の高揚感や美容外科業界特有の広告戦略などが合わさり今回の出来事になったのではと勝手に考えています。私もSNSのアカウントを持っていますが、ここ数年投稿はしていません。仕事関係の話題が続けばリテラシー低下による「ポロリ」が危惧されますし、仕事以外の話題だとプライベートまで曝すまではないだろうと考えるからです。SNSをうまく使いこなして、「壁」のない良好な関係を構築している先生もいらっしゃいます。でも私にはせいぜいこの「カプリ」でone-wayの情報発信していくのが精一杯のところです。よろしければ、この一年もご愛読の程お願いいたします(2025.1.1)。