今年もあと4分の一を残すのみとなりました・・・
先月は予報通り、残暑の厳しい一月になりました。そのようななか、線状降水帯による局地的豪雨がもたらされるときもあり、県内の数か所でも冠水を来した地域もありました。三重県では地下駐車場が冠水して200台余が水浸しになる事故もありましたが、当地には地下駐車場なんてありませんけど、これから台風シーズンを迎え、大雨対策は抜かりなく行いたいものです。
さて昨年の今頃はHPVワクチンの未施行世代に対する「キャッチアップ接種」の駆け込み需要が目立つ時期でした。年度が替わり定期接種に移行しましたが、駆け込み需要の賑わいもなく現在は「雨だれ接種」の状況です。一方以前本稿でお話しした妊婦さんへのRSウイルスワクチンの接種は、市町村補助がなされたことにより徐々にですが希望者も増えてきており、また今月の20日からはおなじみ?のインフルエンザの予防接種も始まります。同時に新型コロナウイルスワクチンの接種も始まりますが、これについては自費負担になってから需要がなかなかつかめません。
近々自民党の新総裁も決まるとのことですが、医療・・・特に昨今ではワクチン行政が「政争の具」にされることが少なくありません。事実HPVワクチンについてはキャッチアップ接種のもととなる「空白の8年間」がありましたし、新型コロナウイルスワクチンについてもmRNAワクチンという新たな方法によるワクチンの大量購入・接種について問題を提起している議員さんもいらっしゃいました。しかし早くからHPVワクチンを導入している国々においては子宮頸がんが制圧の方向に向かっているという事実、また集団免疫を目指した英国が結果的にワクチン接種を行っても、当初より行動制限とワクチン接種を勧奨した日本より5倍以上の死者数(英国3,44.1vs日本601/100万人)となったことをみると、「ワクチン接種は悪である」という論拠は成り立たないことは、お分かりいただけるのではないかと思います。
先のHPVワクチンのキャッチアップ接種について正式なデータはまだ出ていないのですが、対象人口約680万人のうち1回でも接種された方は59%、本年5月末までに3回接種を完遂された方は34%とのことでした。また同時期に小学校6年生から高校1年生相当への定期接種の初回接種率は22.1%で都道府県別の接種率を見ると、①山形県(37.6%)、②秋田県(32.0%)、③青森県(31.6%)で、高校1年生に限ってみても①山形県(67.3%)、②秋田県(57.1%)、③青森県(55.3%)と秋田県は全国2位の高い接種率でした。でも日常診療で現在もその高い接種率が維持されているかと問われると「?」であり、今後も引き続きワクチン接種の啓蒙が必要だと再認識するところです。
一方で男子生徒へのHPVワクチンの定期接種化への働き掛けも少しずつ動き始めています。既にオーストラリアでは男女ともに定期接種となっており、現在本邦における子宮頸がんの罹患率は人口10万人に対し16.6ですが、両性への定期接種によりオーストラリアでは2028年には10万人対4未満、2066年には1未満になる・・・10万人対4未満の罹患率のがんを「希少がん」といいますが、オーストラリアでは子宮頸がんがあと3年で希少がん、またあと40年程で世界に先駆けて子宮頸がんを撲滅する国になると考えられています。
男子へのHPVワクチン接種は肛門がんや中咽頭がんの感染予防効果が期待できるといわれています。しかし罹患率を見ると肛門がんは人口10万人対6例、中咽頭がんは1.2例(男性)とほぼ希少がんに相当する少なさで、男性のこれらのがんの予防ということを考えると子宮頸がんに比べワクチン接種の費用対効果が高いとは言えません。
現在子宮頸がん検診が新たな局面を迎えており、従来の細胞診からHPV検査単独法への移行が試みられております。HPV検査単独法の対象年齢は30歳から60歳で、性交経験が一度もないものは除外対象になっています。先のHPVワクチンの接種対象は小学校6年生相当以上であり、この年齢未満では性交は未経験と考えられるからです。以上HPV感染の契機には性交渉が前提となりますので、女性だけにワクチンを施行してもHPVの感染契機は残ります。男女ともにHPVワクチンを接種するというのは男性の希少がんの予防というよりは、女性の子宮頸がんの制圧を目指すのに重要な施策といえましょう。現在日本では年間約1万人が子宮頸がんに罹患し3,000人程が死亡しています・・・これは先進国G7でワースト1です。本方においてがん子宮頸がんを撲滅するためには、いまこそ男女両性へのワクチン定期接種という大鉈を振るう時期に来ているのではないでしょうか?(2025.10.1)
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みなさん、こんにちは
日中は暑くとも、日が陰ると過ごしやすい気候になってきました。先月末には当地の花輪ばやしも2日目興行を中止に追い込まれるような土砂崩れも危惧される程の豪雨もありましたが、これからが本格的な台風シーズンになります。今月からは日中に30℃を越えても、TVでは暖房器具やスタッドレス・タイヤのCMも始まってしまいます。まぁ毎年の事なんですけど、「これから寒くなる一方・・・」って考えると、まだ半袖の気候であるにもかかわらず、やるせない心持になってしまいます。
さて外来中心の産婦人科診療所には今までの本稿でも幾度となくお話ししてきましたように、「生理痛がきつい」「生理の量が多い」「生理以外の出血がある」「生理前の体調がすぐれない」など、生命危機には及びませんが生活の質を落とす症状で来院される方が多くいらっしゃいます。それらの症状に対して、最初は自費診療の避妊薬として1999年に、そして約10年後の2008年に月経困難症に対する保険診療のお薬として低用量ピルが発売されました。致し方ないところもあるのですが「ピル=避妊薬」ということで、服用される方はセクシャル=アクティビティーが高いと邪推されたこともあり、発売当初は日本という土壌ではなかなかすんなりとは受け入れられませんでした。しかし避妊ということよりも「保険が使える生理を軽くする薬」ということで徐々に受け入れられ、さらにコロナ禍におけるオンライン診療の浸透により発売四半世紀で市民権を得たのではないかと感じています。でも万人に100%効く薬はないように、低用量ピルの効果は期待できるのですが、一部の方には処方できない・薬が合わないという事例もないわけではありません。そのような方に光明になりうる薬剤が最近発売されましたので、簡単に紹介させていただきます。
① アリッサ配合錠Ⓡ:低用量ピル
本来「ピル」という単語は辞書を引くと「錠剤」という意味ですが、本邦では「避妊薬」とか「女性ホルモン剤」として認識されています。実際のピルは卵巣から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)が1錠に配合されている薬です。昨年末まで本邦で販売されている低用量ピルはエストロゲンとしてすべてエチニルエストラジオールという合成卵胞ホルモンが使用されており、その合成卵胞ホルモンの量と併用される黄体ホルモンによって、それぞれの製剤の特徴を出しています。しかし昨年末発売されたアリッサⓇという低用量ピルは、卵胞ホルモンとしてエチニルエストラジオールではない卵胞ホルモンを含有した初めての低用量ピルになります。生体内に存在する卵胞ホルモンには構造の違いからE1~E4までの4種類があり、従来使用されていたエチニルエストラジオールは合成されたE2(エストラジオール)です。一方今回発売されたアリッサⓇには卵胞ホルモンとして、天然型のE4(エステトロール)が含有されています。エステトロールは本来胎児の肝臓で生成され妊娠中の母体にも認められるホルモンであり、合成されたE2と異なり血管への影響が少なく、子宮・卵巣に選択的に作用することから、ピルの重要な副作用である静脈血栓症の発症リスクを軽減することが期待されています。
② スリンダ錠Ⓡ
先述しましたように低用量ピルの重要な副作用として血栓症があります。合成エストロゲンが血管に及ぼす影響のため、血栓症を発症するリスクが高いと考えられる方~~①40歳以上で初めてピルを始める方・②喫煙者・③片頭痛がある、また④母乳移行の恐れのある授乳婦さん~~などにはピルの処方は概ね禁忌となっており、一部のピルが必要な患者さんに届けることができないという忸怩ある思いがありました。最近発売されたスリンダⓇは「ミニピル」とか「POP(Progestin
Only Pill)」と言われているもので、ピルを構成する2種類の女性ホルモンのうち黄体ホルモン単剤からなる製剤です。黄体ホルモン製剤のもつ子宮頚管粘液の粘りの増加・排卵の抑制・着床先の子宮内膜を薄くする作用に加え、自身の卵巣から分泌される卵胞ホルモンと強調して、避妊効果を発揮します。黄体ホルモン単剤ということもあり、上記①~④の従来のピルが禁忌となる方にも服薬できることは光明になります。ただスリンダⓇはあくまでも避妊にのみ適応があり保険診療扱いにはならないこと、一般の低用量ピルに比べ不正出血の頻度が高いことに留意する必要があります。
以上最近発売された2製剤についてお話ししました。わずか2製剤だけと思われるかもしれませんが、私たちの日常診療にとっては、より裾野が広がった感があります。自身の症状とライフスタイルにフィットした薬剤をかかりつけ医と相談しながら選択していただきたいものです(2025.9.1)。
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暑い日が続いています。。。
先月7月5日には、国内で大災害が起こるという「うわさ」が出ておりましたが、学生時代に「ノストラダムスの大予言」を刷り込まれ、何事もなく1999年7月を迎えた者としては、「あっ、そういう噂があったのね」程度で終わってしまいました。しかしトカラ列島を中心とした度重なる地震や一昨日の太平洋岸の津波警報に、言い難い不気味さや不安感が増しています。この不安感を十分踏まえ、常日頃から発災時に適切な行動がとれるよう「脳内シミュレーション」を行っておきましょう。
先月中旬のニュースに2024年の人口動態統計が挙げられていました。それによると出生数について以前の本稿でもお話ししましたように68万6061人と1899年(明治32年)以降で過去最少を記録したのですが、その内訳を見ますと年齢別出生数において、20-24歳出生数4万2754人に対し、40-44歳が4万3463人で、40代前半の出生数が20代前半の出生数を初めて逆転しました。数字だけ見ると非常にショッキングなデータですが、少し頭をクーリングしてみてみましょう。
そもそも年々少子化が進行していますので、20代前半と40代前半女性の母集団の数が全く異なります。2024年の総務省の報告書では、20-24歳の女性人口が277万人に対し、40-44歳の女性人口は362万人と1.3倍です。一方出生率を見ると20-24歳が0.0764に対し、40-44歳は0.0021と、やはり20-24歳の方が出生率は高いのです。でも女性人口と「掛け算」すると、人口の多い40歳代前半の出生数が多い結果となってしまいます。
上で「20-24歳の方が出生率は高い」と書きましたが、これは40-44歳との比較であり、現在最も高い出生率の年代は30-34歳です。以前は25-29歳が出生率のピークでしたが、2005年からは30-34歳となっています。妊娠が好ましい身体的ピークは27歳と言われていますが、2005年というのはリーマンショックの数年前ですので、安定した妊娠・育児環境を考え妊娠を「先送り」しているのが反映され、それが今もなお続いているものと考えられます。
先の参議院選挙では、少子化問題も取り上げている政党や候補者がおられました。生殖補助医療への補助・妊娠から出産までのより手厚い経済的支援といった「入口での支援」を謳っているところもあれば、若年妊娠・出産後の安定したキャリアパスの提示・育児への経済的支援など妊娠や育児といった「出口での支援」を謳っているところもありました。これらの施策が功を奏し、「赤ちゃん欲しいな」「もう一人(二人)いてもいいな」といった想いを多くの女性~願わくはより多くの若年女性~に持っていただくことになるといいなと私も思います。
でも産婦人科医師として一つ危惧することがあります。それは「もし出生率や出生率が奇跡的に急峻にV字回復した時に、適切な産科医療を受けれるか?」ということです。少子高齢の流れで産婦人科医・小児科医のなり手が増えません。また出生数減少で分娩取り止めを行う医療施設が後を絶ちません。私が以前勤務していた病院も7年前に分娩取り扱いを止めました。私が赴任した時、スタッフの助産師はほとんど私より年上でしたので、多くの助産師が退職しています。分娩を休止すると病院でも欠員となった助産師の新規採用は行いません。お産について産科医は分娩に立ち合い、異常経過があれば速やかに対応するのが役目で、産気づいた妊婦さんが入院して、陣痛の間お世話して、分娩介助して、分娩後お部屋に戻るまでの一連に対処するのが助産師さんです。だから少子化が改善し分娩を休止した病院が再度分娩を再開するとなった時、単に産科医を招聘すれば済むという問題ではなく、分娩数に見合う十分な助産師さんが必要になります。いつの日か来るベビーラッシュ・・・ただその日のために昨今の「働き方改革」を踏まえ一定数の助産師や産婦人科医師を確保する・・・そんな「体力」は今の医療現場には全く残っていません。少子化を考える際、「産む人」を想うことはもちろん重要ですが、「産む環境」のこともセットにして是非とも考えて頂きたいものです(2025.8.1)。
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みなさん こんにちは
先月も半ばを過ぎると、一気に夏が来た感じとなりました。しかしながら前半の寒暖差のせいでしょうか、稲の生育が例年に比べ遅れがちとのことです。「令和の米騒動」のなか、あまり耳あたりの良い情報ではありません。このようななか、当地では熊の出没が活発化して、市役所からの注意報も日に5件は当たり前になってきています。人里に降りてくるメリットを知ってしまったんでしょうか・・・言葉も通じないので、こちらが気を付けるしかありませんね。
さて一気に暑くなるとてきめんに睡眠や食欲へ反映され、その結果体調にも大きな影響を及ぼします。こと睡眠に関しますと、日本の多湿という気候風土は、気温が上昇してもそれに発汗が伴わないという悪い意味での「特徴」があります。人口の多い地域では「ヒートアイランド現象」と言って日中の日射熱が建物や舗装に蓄熱され、夜間でも高めの気温が続きます。従いまして十分な睡眠を確保するために適度にエアコンを使用し、睡眠環境を整える必要があります。また十分な 水分補給が裏目に出て「水っ腹」になりかねませんし暑気負けして食が進まないと、どうしてもあっさりしたもので済ます事になりがちです。
どこも病気ではない、検査をしても異常もない・・・でもだるい・疲れやすい・頭がぼーっとする・お腹が張る・動悸・息切れする・・・などなど対応する疾患がない漠然とした症状の訴えを「不定愁訴」といいます。従来までの研究で、不定愁訴は心理社会的ストレスや不健康な精神状態が原因となるのに加え、生活リズムの崩れ、睡眠の質の低下、朝食などの欠食、偏食など、不健康なライフスタイルに関連する様々な背景要因とも関連が指摘されています。
先日国内の20代女性における食品や栄養素の摂取と不定愁訴に関し、20代女性においては「魚食(魚介類の摂取)が多いものは不定愁訴が低い」という報告がありました。栄養素で見ても食品での結果と同じく、魚介類に多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)、ビタミンD、ビタミンB12の摂取量が多いものは不定愁訴が低いという結果でした。
具体的な数値をみていきましょう。DHAでみますと理想的な1日摂取量は1~1.5gと言われています。焼きさんまであれば1尾、赤身のマグロの刺身であれば5切(約50g)くらいの量です。20代女性の1日の魚介類摂取量の平均は41.6gと目標量を下回っており、不定愁訴スコアが低い群では平均摂取量が53.8gに対して、スコアが高い群では35.9gと有意に摂取量が少ない結果となりました。さらにこの「魚介類摂取が多いと不定愁訴が少ない」という傾向は、うつ病評価スケール用いた調査でも同じであり、「魚介類摂取が多いとうつ病が少ない」結果となっています。この2つの調査のデータを組み合わせて評価した結果、「不定愁訴もうつ病評価スコアも共に低い群」では1日魚介摂取量が53.8gに対して、「不定愁訴もうつ病評価スコアも共に高い群」では12.8gと約4分の1と有意に少ない魚介摂取量となってました。
お分かりのよう日本は「島国」ですので、古来より海の幸には恵まれてまいりました。しかしこの様な結果を見るまで若年女性の魚介類摂取量がこれほど低値とは思いませんでした。今では栄養を補うため数多くのサプリメントが販売され、またメンタルなトラブルに対しても良い薬が数多く出てきています。一方報道では「獲れる魚が獲れない」「獲れない魚が獲れる」「漁業に携わる人員の減少に歯止めがきかない」など「日本の漁業の危機」が叫ばれています。日本の漁業に対し私たちがまずできることは消費量をあげることですが、それはそのまま「若年女性のメンタル・ステータスを改善させる」事に直結するといえましょう。本稿をお読みいただいて今一度「魚食」について考えて頂けると幸いです。(今回のカプリの参考文献はこちら:日本の若い女性における原因不明の愁訴とうつ病の程度は魚介類の摂取量と逆相関しているhttps://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11990306/)(2025.7.1)。
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今年も半分を迎えました。
ここ数年、ゴールデンウィークが終わると一気に初夏という気温となっていましたが、今年は幾分春を楽しめるような気候か続いていた感じがします。しかし先月の半ばには九州南部が梅雨入りし、例年よりも2週間も早いそうです。温暖化の影響もあるのでしょうけど、九州の梅雨入りが早いからと言って東日本の梅雨入りも早くなるとは言い切れないそうです。制度は向上してきているとはいえ、気象予報のむずかしさがありますね。
ほぼ1年前の本稿で、妊婦さんへのRSウイルスワクチン接種について取り上げました(2024.7.1稿)。RSウイルスとは「夏かぜ」の代表的な原因ウイルスで、大人がかかってもそれこそ「夏かぜ」で済ませられますが、生後6か月以内で初感染の場合は肺炎など重症化したり、突然死につながる無呼吸発作を起こしたりすることもあります。さらに生後1か月未満の赤ちゃんが感染した場合は、必ずしも典型的な呼吸器症状を示さないこともあり、診断の困難さから重症化に拍車がかかるともいわれています。そのため「母児免疫」といって妊婦さんがワクチンを接種することで赤ちゃんに免疫を作ってあげることで感染を防ぐことができます。妊婦さんへのRSウイルスワクチンは昨年5月に発売され、まだなじみもなく希望者は少ないですが、今年度から接種費用の半額が助成されるようになりました。これから夏に向かうので、夏かぜの代表ウイルスであるRSウイルスに対し免疫をつけることは大切ですが、その前に現時点で流行している呼吸器感染症があります・・・それは「百日咳」です。本県ではあまり目立っていませんが、先月には宮城県で感染者数が増加しておりました。岩手県でも感染が出ており、いつ本県に流行が及んでもおかしくない状況です。
近年の感染症の病名がカタカナであるところで、「百日咳」と和名であるところから、古くからの病気であることは推察できると思います。最近の呼吸器感染症の病原体がウイルスであるのに対して、「百日咳」は「百日咳菌(ボルデテラ・ペルタシス菌)」という細菌が病原体となっています。「百日咳」という名前の通り、約100日にも渡って特徴的な咳~短い咳が連続的に起き、咳が終わるとヒューと音を立てて大きく息を吸い込み、痰が出ておさまる~が繰り返し続きます。この菌の感染力は非常に強く、咳やくしゃみを通して容易に感染し、乳幼児や高齢者では重症化する懸念もあります。そのためジフテリア・破傷風との3種混合(さらにポリオを含めた4種混合)予防接種の1疾患に組み入れられています。
百日咳の症状は①カタル期(1-2週間)、②痙咳期(1-6週間)、③回復期(数週間~数か月)の3期に分けることができます。①カタル期:微熱を伴う通常の感冒症状のみで、この時点での診断は困難な場合があります。②痙咳期:痙咳(けいがい)とは百日咳に特有な咳で、咳発作の後に息を吸うとき笛声(ヒューイング)が聴取されます。連続的で止まらない痙咳発作になると、せき込んだ後に嘔吐や顔面紅潮が生じることがあります。③回復期:文字通り咳の改善と全身状態が改善してくる時期です。回復に3か月余も要することが「百日咳」の由来するところになっています。
現在はマクロライド系の抗生物質のおかげで治療することができますが、やはり予防するに越したことはありません。現在4種混合接種の定期接種は4回あり。生後3か月・4か月・5-11か月・1歳であり、5-6歳と10歳以上に2回の任意接種を勧めています。任意接種を勧めるのはワクチンの免疫効果は接種後4~12年で減弱し、ワクチンを打っていても感染することがあるからです。従いまして通常の妊婦さんにおいては幼少時の混合ワクチンの免疫効果は期待できず、また妊娠前と比べ免疫能が低いこと、また生まれてくる赤ちゃんにとっては初回接種までの期間に感染すると重症化リスクが高いことを考えますと、妊娠中に接種することで母体と生まれてくる赤ちゃんに大きなメリットがあるといえましょう。
妊婦さんに行うワクチンは以前乳幼児に使用された3種混合ワクチン(DTap:トリビックⓇ)で妊娠27~36週の間に1回の皮下注射で行います。以前お話ししたRSウイルスワクチン(アブリスボⓇ)は筋肉注射で接種経路は異なりますが、副作用発現の確認と一部で同時接種による効果減弱の恐れも指摘されておりますので、両方の接種を希望される方は1-2週間のインターバルをおいた方がよろしいでしょう(残念ながら他県での流行のため、現在百日咳ワクチンの入手が困難な状況であることを申し添えます)(2025.6.1)。
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みなさん、こんにちは GW中のカプリチョーザです
「GW中」と書きましたが、当院はカレンダー通りの診療ですので、「GWの狭間」といったほうがふさわしいかもしれません。新年度に入り肌寒い日が続きましたので、今年の桜の開花は少し遅れたようです。でもそのおかげで昨年はすでにGWは葉桜だった名所・弘前公園の桜も、今年は観桜に耐えているような感じです。GWも折り返しになり本格的な連休を迎えることになります。皆様くれぐれも事故などにお気をつけて連休を楽しんでください。
さて昨今の経済状況に加え、先月から始まった大阪万博もあり、外国人観光客の増加が続いています。円安基調で国外旅行は厳しいこともあり、国内旅行がインバウンドの増加と邦人観光客で盛況みたいです。京都等の定番観光地から今まで脚光が浴びることがなかった「ニッチ」な名所も知られるようになり、観光立国としてさらに進めるには福音かもしれません。
以前・・・といっても、もう15年以上になりますが、本稿で「妊娠中と旅行」について記載したことがあります(2009.10.1付)。その稿では「旅行」というよりむしろ「里帰り移動中のご注意」という内容が強く、移動に際しての具体的に気を付けることなどが主だった気がします。いま改めて読み返してみましても、現在の医療状況からもあまり大きな相違はないと思われますので、これからの連休中にご旅行を予定される妊婦さんはご参考にしていただきたいと思います。
近頃「マタ旅」という言葉を耳にしておりました。皆様のご推察の通り「妊婦さんの旅行」という意味です。その「マタ旅」について、某非産婦人科医師が「「妊婦の旅行はダメ」という医者は大問題!」と発言したことが、少々賑わい?を持たせています。その先生がおっしゃるには「健康や生命は貴重な価値だが、価値の全てではない。お金も、友情も、快楽も、そして旅行もいずれも大事な属性である。なにがなにより大事かは、個々人によって異なるだろう。医者が一方的に自分の価値観を押し付ける、「健康中心主義」あるいは「医療中心主義」は、一見、正しそうに見えるだけに問題が多い。」「例えば、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の渡航・妊婦の項を見ると、「妊婦は特別な配慮が必要だが、ちゃんと準備すればほとんどの妊婦は安全に旅行できる」とある」「われわれ臨床医は、重症患者という「分子」を見てしまうがゆえに、その患者の行動を危険視し、ときに全否定してしまうが、大多数は重症に至っていない。問題がある妊婦だけではなく妊婦全体という「分母」の考え方が大事、そして「比較」が大事。」とありました(一部改変)。
以前の本稿でも私自身「妊娠経過が順調で余病もなければ、特に旅行に出かけることにドクターストップをかけることはありません。それでもなお旅行中には予期せぬ事態も起こりうるので、できるだけ安全に旅行するためには事前の周到な準備と評価が大切です」とお話ししました。某先生のおっしゃるように価値観は人それぞれですので、妊婦さんの旅行は一切ダメとは言いません。ただ米国の文献を引用した「ほとんどの妊婦は安全に旅行できる」の「ほとんど」に引っ掛かってしましました。
通常一人で入院すると一人もしくは0人で退院されますが、2人以上で退院するのが産科です。だからこそ院内で一番「おめでとうございます」という言葉が多い診療科でもあります、しかしこの医療技術が進んだ現代でも年間10万出生に対し4人の「母体死亡」が起こっています。ちなみに米国では10万出生に対し22.3人と日本の約5倍です。私たち医療関係者はもちろん大変な経験をした妊婦さんは、「経過順調だったのが急にハイリスクになった」「迅速に対応しないと母児に命の危険がある」というのは理解していただいていますが、ほとんど世間の風潮が今もなお「お産は病気でない」「病気でないのに母体死亡が起きた」「医療ミスだ! 裁判だ!」となり、わが国では旅行に限らず妊婦さんに関わることは「ほとんど安全」ではなく「すべてが安全」ということを暗に要求されているのです。
ハードの面でも分娩数の減少から妊婦が入院できる施設(=分娩施設)は年々減少しており、働き方改革のため医師の労働荷重も設定されている状況です。旅先の妊婦さんが何かトラブルが生じても、それまでかかりつけの施設で受けていた同等の医療を速やかに受けることができる保証はありません。某医師は日本での「渡航医学の周知及び理解の低さ」を訴え(嘆いて?)いましたが、医学medicineが周知・理解されたからと言って、満足な医療medical
careが提供されるわけではありません。「理論と実践」が往々にして必ずしも一致しないことは、皆さますでにご理解されていることですよね(2025.5.1)。
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新年度に入りました
振り返ると大雪のシーズンでしたが、先月は結局1回も除雪も入らず4月になりました。昨シーズンのほうが圧倒的に小雪でしたが、それでも昨年の3月は2回ほど重機による除雪が必要な降雪がありました。それを考えると今シーズンは「潔く春が来たな」と妙に感心しています。「大雪の年は米が豊作」とも言われています。昨今の「令和のコメ不足問題」が今年の末には改善していることを願うところです。
さて毎年年度末には秋田県では「母体保護法指定医師研修会」というものが開催されます。「母体保護法指定医師」というのは簡潔に言うと人工妊娠中絶術や不妊手術を行うことを認められた医師で、ほぼ全員が産婦人科医です。指定医師になるには基準以上の臨床経験年数と症例数を指定された施設で経験する必要があり、それを満たしたところで研修会を受講し申請の上、指定されます。指定された後も2年に1回研修会を受講することが更新条件として求められています。当日その研修会で「母体保護法の趣旨と適正な運用」と題し講演してきたのですが、今日はその母体保護法について少し解説していきたいと思います。
母体保護法とは不妊手術および人工妊娠中絶に関する事項を法的に定めることにより、母性の生命健康を保護することを目的にしています。その内容は①不妊手術(性ホルモンを維持しつつ妊娠をできなくする手術)、②人工妊娠中絶、③受胎調節の指導(家族計画・バースコントロールの指導)の3点からなっています。この中で皆さんが見聞きすることの多い人工妊娠中絶については、適応週数や施行条件、それに伴う罰則規定が定められています。適応週数については妊娠22週まで、また施行条件は①妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害する恐れがある、もしくは②暴行、脅迫等による妊娠による場合、本人及び配偶者の同意を得て手術が行うことができる、と規定されています。
この母体保護法は平成8年に施行されましたが、それ以前の約50年間は「優生保護法」という法律が施行されていました。今では考えられないですが当時の人口過剰問題やヤミ堕胎問題を受け、優生思想の下、不良な子孫を出生することを防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的としていました。この概要の「母性の生命健康を保護」は母体保護法に継承されていますが、「優生思想」とういのはどのようなものでしょう?
「優生思想」とは進化論と遺伝学を人間に当てはめ、集団の遺伝的な質を向上させることを目的とした思想で、優良な遺伝形質を保存することを目的として生殖適性者に生殖を促したり、悪質の遺伝形質を淘汰するのに障害者や犯罪者、少数民族といった「生殖に適さない人」への結婚禁止や強制不妊手術(断種)したりを多くの先進国で19世紀末から20世紀半ばにかけて行っていました。
優生保護法の下では①遺伝性精神疾患の場合は医師の申請後に審査会で認められたもの、②非遺伝性精神疾患で保護者同意があり審査会で認められたもの、③本人のほか配偶者や血族に遺伝性精神疾患がある、もしくはらい疾患があり、すべて本人同意が得られているもの、について不妊手術や人工妊娠中絶術を行い、およそ50年でその総数は約2万5000件に上りました。
以上の障がい者差別や優生思想を排除するため平成8年に母体保護法に改正され現在に至っているのですが、その間上記の疾患の方々について人権の尊重や保護がなされなかったより、平成31年に優生手術を受けた方への一時金支給法が施行されましたが、昨年改めて「旧優生保護法に基づく優生手術を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律」が公布されました。一時金支給法と異なるところは、①受給対象が手術を受けた本人のほか、配偶者・血族・遺族も含まれる、②優生手術として不妊手術に加え人工妊娠中絶術も含まれる、ことです。法律は1月から施行されていますが、請求期間は5年間と限られています。もし該当すると思われる方が身内におられる方は、ご相談されてみてください(詳しくはこども家庭庁「旧優生保護法補償金等に係る特設ホームページ」 https://www.cfa.go.jp/kyuyusei-hoshokin にアクセスしてください)。(2025.4.1)
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弥生の三月です
昨年末の長期予報では、1月までは例年よりも降雪量が多く、2月には例年よりも高めの気温で推移・・・とありましたが、「事実は小説より奇なり」・・・先月は「今シーズンの最強寒波」が何度も「長期に居座る」日が続き、スキーよりスケートがメインの帯広で1日に120cmの降雪があったり、隣の青森県の酸ヶ湯では12年ぶりに積雪500cmを超えたりと、大雪の1ケ月でした。このような大雪の状況でしたので、先月催された国スポも無事閉会したようです。もう3月ですので、後は粛々と雪解けを待ちたいと思います。
さて年度末を迎え、国としては来年度の予算を審議しておりましたが、その中で「高額療養費制度の負担上限引き上げ」というものが物議を醸しています。総理の出身県の隣の島根県知事は「国家的殺人未遂だ」との強い批判をしています。一県の首長がそこまで言ってしまう「高額療養費制度の自己負担引き上げ」について今回は取り上げたいと思います。
そもそもの「高額療養費制度」とはどのような制度なのでしょう?私たちが医療機関で診療・治療を受けますと、多くの場合医療費の総額の3割を窓口で支払い、残りの7割が国保(=国民健康保険)や協会けんぽ(=協会健康保険 旧:社保)などから給付されます。ただ窓口支払いはいかなる場合も総額の3割を支払うわけではなく、医療機関や薬局の窓口で一か月に支払った総額(入院時の食費負担や差額ベッド代等は含まず)が上限額を超えた場合に、その超えた金額が支給されるのが「高額療養費制度」です。この「上限額」は一律定額というわけではなく、受診者の年齢や所得を参考に算出されます。例えば年収370万~770万円までの70歳の場合で窓口自己負担が3割の方では、ひとつきの外来医療費の総額が100万円の場合、窓口負担は30万円となります。でも年齢・所得による規定値80,100円に(総額医療費-267,000)の1%を加えた87,430円が「自己負担限度額」となり、差額の30万から87,430円を差し引いた212,570円が「高額療養費」として支給されることになります(年齢や所得により異なりますので、詳しくはhttps://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf をご覧ください)。
以上の「高額療養費」について、今年の8月と再来年の8月の2段階で「自己負担限度額」を引き上げる案が現在問題となっているのです。まず今年の8月の時点で年収によって自己負担額を5~15%を引き上げ、さらに現在収入の分類が5段階になっているところを、2027年8月の改正には13段階に細分化した上でさらに引き上げる案なのです。これによると月額自己負担限度額が、年収370万の方は現行80,100円が88,200円と増えますが再来年も88,200円に据え置かれます。しかし年収95 0万の方は現行167,400円が188,400円に引き上げられ、さらに再来年には220,500円の負担増となります。
「高額療養費」を受給するほどの疾患であると、それなりの身体的負担が高い状況であることは容易に想像されるでしょう。それまで普通に働いていたとしても、治療や療養のため時短勤務や休職が多くなれば、罹患する前と同額の給与が支払われるとは限りません。また年末に医療費控除が受けられるといっても、交通費など受診に関わる出費の問題もあるでしょう。この30年の間に所得の中央値は550万円から372万円に減少する一方、月当たりの社会保険料は3.5万円から6.7万円とほぼ倍増しています。この上さらに「高額療養費」の「自己負担限度額」を引き上げることは、社会的セーフティーネットがより脆弱になる心配があります。
少子高齢化が進行することで、国家予算における社会保障費の占める割合はますます増大することは明らかです。これ以上「保険料を上げる」「高額療養費の自己負担限度額を引き上げる」ことは、所得の低下が改善されない現在では、もう限界に近いかもしれません。となると家計の収支と同じように私たち一人一人が「社会保障費の無駄遣い」を控えるよう心掛けるのが肝要になります。例えば、①検診の有効活用:早期発見で早期受診 積極的な検診受診と検診結果の放置をしない、②不必要な時間外受診を避ける:時間外受診は正規の受診より費用がかさみます。3日前、果ては1週間以上前からの不調で時間外受診する方もおられるので、速やかな時間内受診をお勧めします。以上は国内の問題ですが、メディアでは日本の生活保護制度や国民皆保険制度が一部の外国人に「利(悪)用」されている事例も報告されています。本邦の社会保障費はきちんと税金を納めた方が適切な恩恵を受けられるよう配慮し「無駄遣い」を控えていただきたいものです(2025.3.1)。
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みなさん、こんにちは
年越しをまたいで先月前半は爆弾低気圧のため、暴風と大雪に見舞われましたが、月後半になると3月並みの気温の時もあり、それなりの雪解けとなりました。それまでは当地も一気に積雪が増えましたけど、鹿角から小坂、坂梨峠を越えて青森県に行くにつれて、積雪は殊更増しておりました。半径50kmそこそこの圏内ですが、積雪量の違いには今更ながら驚かされます。今月には冬の国スポ(国民スポーツ大会)が当地で催されます。現在のところ雪不足や感染症の心配も少ないので、3年前より華やかに行われることでしょう。
感染症といえば、今シーズンはインフルエンザも新型コロナウイルス感染症も、「両雄並び立って」流行しています。以前は「同系統(例:呼吸器)のウイルス感染症は複数疾患が同時に流行しない」なんて言われていましたが、その「定説」も最近では覆されている感があります。背景に新型コロナがほぼ通年感染症となっていることに加え、コロナ禍においてインフルエンザワクチンの接種率が低迷したことで、既得抗体が低下し感染者の増大につながっていることも原因かもしれません。さらにRSウイルス感染症やマイコプラズマ感染症も絡んで、今シーズンは悪い意味で「呼吸器感染症の群雄割拠状態」と言えましょう。
先日同業が集うネットフォーラムで、ある「お題」が出されました・・・「鼻毛を抜くと風邪をひきやすくなる・・・どう思う?」というものです(苦笑)。医師1,337人の回答は「なる・どちらかというとなる」が約35%、「ならない・どちらかというとならない」が約40%と、結構お互い肉迫したデータとなりました。「ならない派」の理由は、かぜ症候群をもたらす病原体のうち細菌であれば気道上皮の表面にある短い毛(線毛)が働いて、「大玉送り」の要領で喉の方に押しやって(「龍〇散ダイレクト」のCMでその様子が見られます)咳や痰で体外に排出されますが、ウイルスはそれもすり抜けて奥に入り込んでしまいます。いずれにしても鼻粘膜の部分ではウイルスはもちろん細菌も鼻毛がフィルターとしてキャッチできないということで、風邪のひきにくさには関与しないという主張です。ただあるDrの経験として、某工業地帯で勤務していた時、粉塵の影響のためか同僚の多くが咳と痰で悩まされていた時、長時間在院している研修医が鼻毛を伸ばしっ放しにしていたら咳や痰がなかったとのことで、真似して鼻毛の手入れ?を止めたところ、他の職員の咳や痰も改善したとのことでした。そのDrはコロナ流行期も鼻毛の手入れをしなかったことで一人だけ感染を免れたとのことです。あくまでも経験談で学問的な裏付けはありませんが、「生体に不要なものなど何もないと痛感させられた」とその先生はおっしゃっておりました。
コロナに関していえば既に「ポスト・コロナ」の状態に入ったこともあり、ここ数か月くらいから「おめでた」でいらっしゃる方が、少しずつ増えてきた感じがします。そのような妊娠初期の方の数人から「現在脱毛に通っていますが、引き続き処理を続けても良いでしょうか?」との質問を受けることがありました。美容脱毛については2023年3月の本稿でもお話しさせていただきましたが、こと今回は妊娠との係わりをメインにお話ししたいと思います。
そもそも論ですが、美容外科で扱う対象は脱毛も含め「病気ではない」ので健康保険は効かず自費診療となります。極論ですが施術を受けるも受けないも個人の自由です。私達から見ると、緊急性のある状態ではないので、妊娠という「特殊な体調」の時に敢えて施術を受ける必要はないと考えますので、脱毛については妊娠中には中断し、出産後改めて再開する旨お話ししております。美容外科クリニックのHPを見ても妊娠中の脱毛は避ける旨記載しているところがほとんどです。産科的にも妊娠中は「妊娠性雀斑」という「そばかす」が出る変化も来しますし、初期には黄体ホルモンの影響で吹き出物などがでて肌荒れとなり、往々にして皮膚のコンディションが不安定になりがちです。そのような状況でVIO脱毛の際ちょっとした皮膚の傷が膿んで、何かの拍子に化膿菌が子宮の方まで感染が及ぶと、最悪のケースでは「絨毛羊膜炎」という流早産を招く重篤な感染症を発症することになりかねません。赤ちゃんが生まれると育児に追われて自分自身をケアする時間が大幅に削られるのは確かですし、それゆえ妊娠中に済ませておきたいというのは心情的に理解できます。でも「生体に不要なものなど何もない」「緊急性もない」となれば、諸々の優先順位が自ずと見えてくるのではないかと私は思っています(2025.2.1)。
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新年、あけましておめでとうございます。
先の長期予報では、12.・1月は大雪になるかもとのことでした。確かに出だしは重機が入るほどの降雪はありませんでしたが、年末は重機も入るは日に3回も除雪はするはで、いささか顎が挙ってきています。昨年の正月は能登半島地震の翌日に羽田空港での飛行機事故等で衝撃的な幕開けでしたが、今年は新年から穏やかに始まることを願う次第です。
年が替わってこの職に就き35年を迎えることになります。30年の節目ではコロナ禍で同期会が開催されませんでしたが、今回は既に計画されています。「医学部(医学科)」と聞くと構えてしまうかもしれませんが、ある種「期間6年の職業訓練学校」ですから、「同じ釜の飯を食って」「艱難辛苦を耐えた」還暦を過ぎた同期と再会するのは、今から楽しみでもあります。
私がお世話になった大学は「戦後初の新設医学部」でしたので、従来のカリキュラムに比べ、柔軟的なものでした。それまでは医学部6年のうち最初の2年は教養課程、次の2年は基礎医学、最後の2年は臨床医学と区分けされていましたが、2年生から基礎医学、4年生から臨床医学が始まり最後の2年は臨床実習が主体でした・・・まぁ、今はもっと変化していると思います。2年生から基礎医学のうち生理学・解剖学・生化学の3つが始まるのですが、2年次の解剖学では実際の骨や脳を扱う「骨学」や「神経解剖学」を履修し、そして3年生になった新学期1日目から「系統解剖学」いわゆる「解剖実習」が始まります。
「系統解剖学」は3年の午後すべての曜日に入っていて、1コマ目の「講義」の後に2コマ目に座学で学習したところの「実習」となります。ただ1コマ90分の実習では到底終わることができませんので、平日は22時まで実習が可能でした。実習は前期一杯かかり、この間2度のレポートも入るので、私のときは翌日休日の場合オールナイトで解剖実習を行うことが可能でした。夏休み明けに口頭試問がありクリアすると単位認定となり、秋になり学生・学校関係者・御遺族と共に合同慰霊祭を行い、系統解剖に関してはこれで終了となります。
私が入学の頃でもまだ卒業生を1000人も輩出していませんので、ほとんどの教官が初代教授でした。系統解剖学の教授は非常に威厳に満ちた先生でしたので、講義はもちろん実習も緊張感に満ちていました。さらに解剖実習そのものが御遺体とはいえ初めて「人」と接する実習であること、また通常「死体損壊罪」になることを実習とはいえ二十歳そこそこの若造が行うということ・・・この実習そのものが医師としてのスタートであり、そしてこの思いが当時の記憶を強固にし、40年近くなった今でも色褪せないでいると思います。
昨年末に美容外科の医師が、海外で新鮮な御遺体での解剖を勉強しにいったところで、解剖実習の様子さらには解剖中の献体の頭部の画像などをSNSに投稿し大変な物議を醸しだしておりました。日本では医師といっても御遺体の解剖までできるというわけではありません。国から「死体解剖資格」を得て可能になりますし、その資格者の下で学生は実習を行えるのです。「学生の立場」で「指示通りの解剖」を行うのと「新鮮な御遺体」で「自由に自分の専門領域を研鑽する」のとでは、学問的興味が雲泥の差であることは言うに及ばないでしょう。国外で行ったとはいえ、今回の医師の対応は少なくとも日本人の倫理観や感性にはそぐわないと思いますし、ましてや同じトレーニングを受けてきた同業から辛辣な意見が出るのも当然のことだといえます。
そして個人的には「医師としてのSNSとの係わり」という問題もあると思います。仮に写真を撮ったとしてもオフラインで、せいぜい同業の知人に供覧しただけであればそれで終わりだったのではないかと思われます。日頃SNSに自己情報をUPし続けるうちに情報露出のボーダーやメディアリテラシーも下がり、そこに学問的興味の高揚感や美容外科業界特有の広告戦略などが合わさり今回の出来事になったのではと勝手に考えています。私もSNSのアカウントを持っていますが、ここ数年投稿はしていません。仕事関係の話題が続けばリテラシー低下による「ポロリ」が危惧されますし、仕事以外の話題だとプライベートまで曝すまではないだろうと考えるからです。SNSをうまく使いこなして、「壁」のない良好な関係を構築している先生もいらっしゃいます。でも私にはせいぜいこの「カプリ」でone-wayの情報発信していくのが精一杯のところです。よろしければ、この一年もご愛読の程お願いいたします(2025.1.1)。

