みなさん、こんにちは   2020年も師走となりました。
 COVID-19について先月は第3波の襲来となり、それと前後する形で当地域でもCOVID-19の報告がありました。この原稿を書いている現在において、幸いクラスターの発生には至っておらず、医療施設での発生でしたが、これまた幸いにも患者さんへの伝搬も報告されませんでした。他山の石とは失礼な表現かもしれませんが、当院においても油断せず感染防御に努めながら日常診療をしていきたい所存です。
さて年末になると京都の清水寺において「今年の漢字」が発表されます。例年その年の世相を表す漢字が一字選ばれ、昨年は「令」、一昨年は「災」でした。漢字は例年日本漢字検定協会において公募され、今月の6日が締め切りですので、応募もまだ間に合うかもしれません。私は例年応募しないで予想するほうなのですが、本稿では私が勝手に選んだ今年の漢字について解説していこうと思います。
私が勝手に選んだ今年の漢字・・・それは「伝」です。もしかしたら皆さんの中にも選ばれた方がいらっしゃるかもしれません。私が今年「伝」の一字を選んだ理由は3つあります。
 一つはご想像の通り「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」です。欧州同様、本邦でも第3波の襲来を受け、連日報道されない日はありません。マスコミがそうなのですから、当然本稿でも年間通してCOVID-19を半分以上題材として取り上げていました。それまで専門用語であった「クラスター」や「市中感染」といった用語が普通に使われ、「3密」「Go To~」といった新語も出てきました。有効性の高いワクチンの供給も取りざたされてはおりますが、今しばらくは健康と経済のはざまの「withコロナ」の時代を歩まなければならないのではと思っています。
 次の「伝」は「梅毒」です。秋田県では先月の時点で感染者は70人と昨年1年間の2.5倍に上昇し、第3四半期の100万人当たりの感染者数も28.4人と全国最多を記録してしまいました。COVID-19の影響で「巣ごもり傾向」が強まるのを追い風にして、流行していることが考えられます。梅毒自体、古くから知られている性感染症ですが、今も昔も厄介な感染症であることは変わりありません。その理由として①淋病やクラミジア感染症と異なり、コンドームを用いても十分回避できる感染症ではないということ、②「偽装の達人」といわれるほど、典型的な病変を伴わないことがあること、③病変部位の痛みがあまりないために、軽視して受診が遅れることが多いこと、④治療が比較的長期に渡ることで治療を中断するケースがあること、そして治療を完結しないまままた他人に感染させることがあること、です。特に②については患者さんも、また私たち治療者も、「梅毒かも?」と疑わなければ受診も検査もしないことがあります。従いまして、気になる症状がありましたら、躊躇せず受診されてください・・・しかしながらその前にリスキーな性交渉を避けるということは言うまでもありません!
 最後の「伝」は「子宮頚がん予防ワクチン」です。本ワクチンの効果について国外はもちろん、接種経歴の少ない本邦でも次々と報告されております。そのため定期接種に組み込まれてはいましたが、有害事象が疑われた事情より2013年からは積極的な接種勧奨が控えられておりました。しかし関係諸団体の熱意が伝わり、先月から接種対象者に個別の情報提供が行われるようになりました。以前から本邦においては子宮頚がん検診受診率が低値で推移しており、加えてワクチン接種が滞っておりましたため、他の先進国と比べ患者数の減少に拍車をかけれずにおりました。確かにワクチン接種は有用ですが、接種単独では子宮頸がんを根絶することは困難です。しかしワクチンを接種することから、それぞれが女性としての健康に目を向ける契機になれば何よりと私は考えています。本稿も含め、今年もご愛読ありがとうございました。皆様よいお年をお迎えください(2020.12.1)。

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 今年も残すところあと2月となりました。
 どうも11月という月は日毎に日暮れが早くなり、一雨ごとに寒さも厳しくなり、まるで「真綿で首を絞められる」ように冬へ冬へと向かっていく感じがして、私的には憂うつこの上ありません。さらに今シーズンは昨シーズンほど積雪に関して言うと「おいしい冬」というわけではなく、12月からまとまった降雪もあるとの長期予報も出ています。まぁ、昨シーズンが「突飛な冬」だったわけでありまして、今年は例年通りの心づもりをしないといけないようです。
 さて、トップページでもありましたように、今シーズンは当院におきましても「発熱外来」を開設いたします。いままではCOVID-19を主に想定して、発熱患者さんの対応は当県であれば「秋田新型コロナ受診相談センター」に相談してからとなっていました。しかしこれからの時期は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に加えて、季節性インフルエンザの流行にも対応しなければいけません。そうなると従来のコールセンターや保健所での対応では、パンクしてしまうことが十分考えられます。そこで今後発熱患者さんは、従来のコールセンターだけではなく、「かかりつけ医」などの地域で身近な医療機関に電話相談したうえで、検査や治療等を対応していく流れとなりました。従いまして、当面の間は「37℃以上の発熱があった場合は決して直接医療機関を受診することはしない」で、「身近な医療機関に相談したうえで指示を仰ぐ」ようにしてください!発熱外来は各医療機関によってその開設方法が異なりますため、当院の様式をカプリの場で説明させていただきます。
 当クリニックは無床診療所のため広くもありませんし、また妊婦さんもおりますため、通常診療時間帯に発熱外来を院内で開設することはできません。そのため発熱外来は時間帯を区切っての予約診療となります(原則予約以外の患者さんの診察はお引き受けできかねます)。診療時間は11:30~14:30までで、あらかじめ診療患者数も設定しております。また手術等が入った場合は、短縮になる場合もあります。診療終了後の十分な院内消毒が困難ですので、発熱外来は敷地内でのドライブスルー方式で行います。電話で診療予約の後は、問診や保険証などの確認を受診までの間に行うのですが、対面はもちろん電話での応対も対応するスタッフに限度がありますので、心苦しいのですがe-mailまたはFAXで事前対応することができる方のみ予約受診の対象とさせていただきます(当院はこのように行うことも県に報告し認可していただいております)。
 来院の際は患者さん単独で運転してお越しにならないでください。これは診察後の投薬や会計などを付き添いの方にお願いするためです。なので、受診の際は2人以上でお越しいただきたいのですが、車内では難しいとは思いますが、同乗者の方はソーシャル・ディスタンスをできるだけ保ちながら、しっかりマスク等をされてお越しください。
 診療は体温および経皮酸素飽和度の測定を行ってから検体採取をします。COVID-19・インフルエンザとも鼻から行いますので、検査前は鼻をかんでいただきます。検査の刺激でくしゃみや咳をすることも十分想定されますので、来院の際は厚手のタオルをご持参ください。なお先に述べました院内消毒の関係上、院内のトイレはお貸しすることができませんので、予めご注意ください。
 発熱患者さんにとっては当院の発熱外来は非常に「窮屈」な印象を与えるものと理解しております。しかしながら院長として、発熱以外でお越しいただく患者さんに安心安全な診療体制を提供する責務がございます。アポなしで発熱患者さんがちゅうちょなく院内に入ったことで休診を余儀なくされ、そのことが地域医療の崩壊に繋がることにもなりかねません。発熱患者さんにはご面倒をおかけしますが、何卒ルールを守ることで、地域の医療資源も同時に守ってください(2020.11.1)。

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 みなさま、こんにちは
 今年も4分の3が終わってしまいました。先月は暑いやら寒いやら気候が非常に不安定な1か月でした。そのような中、先月中旬には秋田県輩出の初の内閣総理大臣が誕生しました。ここ鹿角は菅総理の故郷の湯沢市とは秋田県といっても全く対極に位置するところではありますが、それでも非常に喜ばしいことには変わりありません。新型コロナウイルス感染症が未だ収束しきれていない現在、菅総理の前には多くの難局が控えておりますが、健康に留意して乗り切っていただきたいものです。
 さて新内閣誕生と同じころ、私たちが属している「日本産婦人科医会」から「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についての実態調査」が発表されました。COVID-19の第1波がほぼ収まりつつあった2020年6月末までの段階における妊産婦さんの感染実態についての報告で、ニュースでご覧になった方もいらっしゃると思います。Yahooニュースの見出しだけ見て、「妊娠後期 コロナ症状重い傾向」と書かれていると、さぞかし不安になることと思われます。しかし変な言い方ですが、同じ不安になるのであれば「やみくもに」ではなく、「きちんと理解して」から「不安に対処する方法を実行すること」を考えていきましょう。
 著作権等の関係ですべてのデータは出すことができませんが、私たちには当然ニュースで発表されている以上のデータが来ています。まず今回解析されたのは本年6月末まで報告された72症例で、その間の分娩数から見るとCOVID-19の妊婦有病率は約0.02%でした。私は以前本稿で「かぜ症候群を含め、すべてのウイルス感染症は流産や早産のリスクを押し上げることは間違いありません」と書きましたが、流産例は4%と通常の自然流産率の10~15%よりも上回るものではありませんでした(早産率は17%で一般的な6%より高率でしたが、2例だけでしたので高率と言い切ることはできないと考えます)。また感染しても症状が出る妊婦さんと出ない妊婦さんもいますが、年齢が高い方と同様に、症状の出た妊婦さんには高血圧や糖尿病、また喘息といった背景疾患を持つものがある一方、無症状の妊婦さんには背景疾患を有する者はいませんでした。
 ニュースでは「CT検査で肺炎などと診断されたのは、妊娠28週までの初期と中期では10%だったのに対して、29週以降の後期では53%、酸素投与が必要だったのは、初期と中期では8%だったのに対して、後期では37%といずれも妊娠後期で高くなっていた」とありました。一方インフルエンザで心肺機能が悪化するのは産後と比較し妊娠初期では1.4倍、妊娠後期では4.7倍というデータがあります。単純に比較はできませんが、「COVID-19だから」と特別視する必要はないのではと考えます。また肺炎所見があれば当然酸素投与の必要性も上がりますので、それを反映した結果といえましょう。流行地からの旅行者で入国後すぐに発症した1例を除いて、全例後遺症なく生存で、出生した赤ちゃんへの感染もありませんでした。
 観察期間が延びると以上のデータも変わってくるかもしれませんが、問題にしたいのはその感染経路です。有症状-無症状に関わらず妊婦さんの感染経路は家庭内感染で共に57%であるため、家庭内での感染予防が非常に重要となります。「感冒様症状での⾃宅療養中の家族内感染の予防策:10カ条」を掲げましたが、その要点は①空間的隔離(部屋を分ける)、②時間的隔離(食事等の接触を避ける)、③物品の共有を避け細目な消毒、になります。これはCOVID-19だけでなく、インフルエンザなどの予防にも有効ですので、ぜひ実践してください。経験的に1シーズンの間に大きな感染性の熱性疾患が2つ以上流行することはまずありませんでした。でもCOVID-19はまだまだ不明点が多い感染症です。一つでもリスクを減らすために今シーズンにおいては、インフルエンザワクチンの接種を積極的に考えていただきたいと思います(2020.10.1)。

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暑い日が続いています
 ここ北東北はあいまいなまま梅雨が明けて、夏本番を迎えました。COVID-19のため夏の甲子園も、また当地の花輪ばやしも、暑い夏を彩る行事はすべて中止になりました。しかし報道では連日「命にかかわる危険な暑さ」が連呼されており、東京では熱中症による死亡者が100人を超えてしまいました。梅雨入り前の長期予報では残暑厳しいことも報じられており、9月に入ったからといっても、まだまだ油断はなりません。皆さん、くれぐれもお体ご自愛ください。
 暑さのためもあるのでしょうか?例年以上にクマが里に降りてきて、スイカだのトウモロコシだの、食い散らかしているようです。クリニック周囲にはこのような作物の畑はないのですが、それでも周囲1Km以内のところに、たびたび現れています。いささか国道沿いの当院には来ることはりませんが、先月かわいい「居候さん」が当院にやってきました。職員玄関に面したひさしの下に、ツバメが巣作りしたのです。どうも秋田県内では6月頃に巣作りするケースが多いようで、8月竣工というのは遅すぎるのでは?とも案じていましたが、抱卵の末、先月中旬には3羽の雛も見ることができました。ネットで調べてみますと、ツバメの巣作りに関する言い伝えがいろいろあります。「ツバメが巣をかける家は子宝に恵まれる」「ツバメが巣を作る家は病人が出ない」などありますが、産婦人科クリニックとしてはどうなんでしょう?今のところ院長の自家用車が若干の糞害に見舞われている程度ですので、好意的にとらえたくなってしまいます。
 さて、コロナ禍の中の生活支援という名目で特別定額給付金が行われましたが、皆さんは受け取られましたか?多くの市町村では8月末までが締め切りだったということですので、受け取られていない方は速やかに問い合わせされてください。この給付金の受け取りに際し、マイナンバーカードによるオンライン申請が可能となっていました(ただ開始後のトラブルのため、途中で取り扱いを中止した市町村もありました)。皆さまの中にもこの給付金の知らせを契機にマイナンバーカードを申請された方もいらっしゃるのではないでしょうか?また給付金が終わってもマイナンバーカードとキャッシュレス決済と紐づけして、マイナポイントとして還元されるキャンペーンも行われております(ただしキャンペーンに係る予算がなくなった時点で終了とのことです)。このように国としてはマイナンバーカードの所持率を上げて、日々の生活に浸透させたい目的がありそうです。
 その一つの施策として、医療機関や薬局の受付でマイナンバーカードの使用が来年3月から始まります。今までは医療機関を受診する際、健康保険証を持参して、かかった医療費の3割を患者さんから、7割を加入している保険より確認の上支払いを受けるシステムになっています。しかし来年3月からはマイナンバーカードにより加入している保険証情報がオンラインで確認できることになるため、端的に申せば「マイナンバーカードが健康保険証として利用できる」ことになります(医療機関ではマイナンバーを利用するのではなく、カードのICチップから情報を読み取ります)。
 さらに受診された方の保険証情報に加え、特定健診のデータや薬剤情報もオンラインで閲覧できることができるようになり、重複した検査や投薬を避けることが今まで以上にできるようになります(閲覧は有資格者のみで、薬剤情報の閲覧は来年10月から)。これらの情報がマイナンバーカード1枚で得られるので、大規模災害被災時においても、最低限の医療情報を速やかに得るメリットがあります。また受診される方においても、限度額認定証の申請も不要になるメリットもあります。
 いちいち医療機関にかかるたびに、「検診はいつ受けたか?」「どんな薬を飲んでいるのか?」とか毎度毎度尋ねられるのにうんざりしている方も多いと思います。伺う私たちも少々心苦しいところもありますが、でも診療上必要な情報ですので伺わないわけにはいきません。最低限の情報がマイナンバーカードにより得られるのであれば、診療もスムーズに進むことが期待できます。しかしプラスチックのカード1枚に膨大な個人情報が集積されますので、その取扱いについては私たちもまた皆さまも最大の注意を払わなければいけません(2020.9.1)。

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 みなさん、こんにちは
 ・・・なかなか梅雨が明けない夏を迎えています。熊本を中心として九州では豪雨のために甚大な被害がもたらされています。首都圏ではCOVID-19の流行がなかなか沈静化せず、Go Toキャンペーンも「東京抜き」という結果になってしまいました。停滞している経済を動かして「国力」を高めたいところですが、「エンスト」となる要因が浮かび出てきて、なかなか前に進めない日が続いています。みなさん、「自粛疲れ」にはなっていませんか?
 さて前回の本稿では「COVID-19での自粛中に感じたこと」ということで、妊娠中絶数の増加についてお話ししました。「妊娠」というエピソードについて、最終的な結果の一つである「中絶」ということに着目しましたが、今回の本稿ではその端緒である「受精」についてお話ししたいと思います。
 立場上、中・高校生へ性教育講和をする機会があるのですが、そういう場では「sexをするということは常に妊娠の可能性があるということ」とお話ししています。確かに性周期が確立していない思春期の女性では、月経も機能性子宮出血も明確に区別がつかないこともありますから、そのようにお話しします。しかし性周期が確立できていれば「妊娠しやすい時期」と「妊娠しにくい時期」が存在します。世界的な産婦人科医師である荻野久作先生が提唱した理論では、妊娠しやすい時期は「予定月経日の12~16日前」となっており、またそこから派生して「予定月経日の1~7日前が妊娠しづらい」ことで避妊する仕方を「リズム法」といいます。また「10 days rule」といって、以前は月経開始から10日以内には妊娠の可能性はないので、女性のレントゲン検査にふさわしい時期とされておりました(注:現在は診療用放射線検査が胎児に影響を及ぼすとは考えられず、また10日以内のsexでは妊娠の可能性がないわけではありません)。
 ご存じのように精子と卵子が出会って受精し妊娠が成立しますが、1回の射精で放出される精子は約1~4億で、その生存期間は3~5日と言われています。一方の卵子は排卵するまで「原始卵胞」という形で卵巣にストックされており、その数は胎児のときは200万個、初潮の頃で20万個、以後月経周期ごと1個が排卵されていきます。射精された精子は3~5日の生存期間の間に秒速2~3mmで移動していきますが、およそ約半数が子宮内に進めません。子宮内に進めても卵管の端まで到達するのが約1,000、卵子まで到達するのが約250、そしてそのうち受精能を有するのが約10%という、気の遠くなるような「生存競争」が働いています。一方原始卵胞は1周期あたり3~4個が発育して排卵に備えます。卵胞液に満ちた袋の中に卵子を含んだ原始卵胞が発育すると、その袋がはじけて噴出した卵胞液の推進力に乗じて卵子が飛び出ます。この現象を排卵といい、排卵された卵子が妊娠できるのは24時間ほどと言われてております。妊娠可能な時期にこのようなプロセスで妊娠が成立する割合は20代で30~50%と言われており、1年間励んでも妊娠成立しなかった場合、医学的には不妊症の定義となります。
 ここまで見ると受精卵が成立する過程はまるで「竹取物語」のように、殿方のみが必死になっていて、姫君は「座して待つのみ」で何もアクションを起こしていない風に見れますが、最近の研究ではあながちそうとは言い切れないみたいです。卵子を育み排卵に推進力を与える卵胞液が、精子を誘導させる力があるという報告がありました。複数のカップルにおける研究で、どの女性から採取された卵胞液も、ある特定の精子だけ強く引き付ける(=卵子に向かって真っすぐ泳ぐようになる)ことが観察されたということです。この研究で残念なことは、カップル同士だからといって、ミクロの世界ではそのカップルの精子と卵子が必ずしも引き付けられてはいないということです。
 なので卵胞液の働きが妊娠成立において何らかの形で関与しているのかもしれませんが、それについては未だブラックボックスであり、また現在の高度生殖医療においては、手技や操作においてその関与は極めて小さいと考えられます。この論文を読んでミクロの世界においてでも「女性(卵子)が男性(精子)を選り好みしている」という事実を目の当たりにして、数億の精子の製造責任者の一人(?)としては、せつない気持ちになってしまいました(興味のある方は原著論文です:Fitzpatrick JL, et al.Proc Biol Sci. 2020 Jun 10.)(2020.8.1)。

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今年も半分が過ぎました。
 ここ数日は湿っぽい天気になりましたが、それまでは梅雨入りも不確かな天候が続いていました。天候の崩れがない中、先月半ばのゲリラ豪雨のため内装の損傷で臨時休診となり、受診を予定されていた皆様にはご迷惑をおかけいたしました。北極圏のシベリアでは38度の気温上昇があったとのこと、気象の世界では想像を超える事象が起こっているのかもしれません。
 さて新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19と省略)が席巻した上半期でしたが、先月より緊急事態警報が解除され、後半からは県をまたぐ移動の制限もなくなりました。プロスポーツも遅い開幕を迎え、今日からはTDL/TDSなどのテーマパークも制限付きながら開園となりました。ここ秋田県は、4月14日以降新規患者発生はなく、安定した状態が続いております。しかし経済活動の再開に伴い、アメリカ南部や北京では再び感染者が増加に転じています。この傾向から日本も逃れることはできないでしょう。感染抑制と経済活動の向上・・・このバランスの「かじ取り」が今後非常に重要になることでしょう。
COVID-19が席巻したこの約半年・・・日々の日常臨床で感じたこと、そしてこれからの「withコロナ」の時代において明記しなければいけないこと・・・今月の本稿ではそれらについてお話ししたいと思います。
 1. インフルエンザの低調な流行
 このことについては皆さんも耳にしたり感じられたりしたのではないでしょうか?昨シーズン(2018/19)では罹患者が1,200万人越えで、3,400人ほどの方がお亡くなりになりました。しかし今シーズン(2019/20)は死亡者のデータは不明ですが、罹患者は730万人弱と3割ほど減少しておりました。詳細を分析すると昨シーズンに比べ警報発令の時期は若干早めでしたが、1月は前年度の3分の一ほどのピークでしかなく、そのまま収束に至りました。当地域においても、当院でのインフルエンザ治療者数は昨年度と今年度では人数の差がほとんどありませんでしたが、2月下旬以降にインフルエンザで受診した患者さんはほとんどいなく、同時期から増加してくるインフルエンザBの流行もありませんでした。私が学校医を務める中学校では、昨シーズンはインフルエンザによる学年閉鎖がありましたが、今シーズンは1つの学級閉鎖もありませんでした。COVID-19への対応である「3密回避」の行動が流行の歯止めに寄与したとは、時間的理由から困難であると言えます。しかし今後予想される第2波の到来が冬場ということになれば、インフルエンザに加えマイコプラズマ肺炎といった発熱性呼吸器疾患の予防・流行防止には、引き続き「新しい生活様式」の順守が求められるでしょう。
 2. 人工妊娠中絶数の増加
 この問題については他県においてもweb上に掲載されていましたが、本県のデータでも1~5月の人工妊娠中絶数は前年と比べ1割ほど増加しております(296件vs 337件)。単月で見ると県内全体では4月が前年と比べほぼ倍増(40件vs74件)ですが、当院では6月が前年と比較し倍増しておりました。当院の症例を検討してみますと、排卵時期が緊急事態宣言中であることから、活動自粛のストレスなどが増加の背景としてあることが考えられました。少子高齢化の先鋒である本県において、中絶数の増加はそのまま県の土台を揺るがしかねないといっても過言ではありません。また身体的な負担に加え、経済状況が不安定なときに、中絶手術への出費は少なからず家計への負担にもなることでしょう。現在のところ「withコロナ」の時代の終焉は見通せません。適切な避妊をもって、各々の家族計画を行ってください(適切な避妊についての相談も産婦人科外来では行っております)(2020.7.1)。

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 みなさん、こんにちは
 今年は若干桜が遅かったせいか、ゴールデンウィークの頃が丁度見頃でした。しかし新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)によるイレギュラーなGWだったため、桜を愛でる間もないまま散っていった感があります。加えて5月は「五月晴れ」という言葉があるくらい穏やかな晴天の日があるものですが、今年は例年にないくらい日照時間が短い5月だったということです。COVID-19も第一波が過ぎようとしています。季節も生活も徐々に輝きが増すことを願っています。
 マスコミをはじめとして現在もなおCOVID-19に関する話題で事欠きません。本格的に流行してから3か月は経過しておりますが、幸いにも妊婦さんが感染して重症化したという報告はほとんど聞かれませんし、インフルエンザと異なり子供たちにも大流行を認めておりません。比較的早期から休校措置などの対処をしたこともあるかもしれませんが、インフルエンザをいったこれまでの感染症と若干「毛色が異なる」様相を呈しております。それは症状においても同様で、呼吸器症状に加え、小児では皮疹・リンパ節の腫れ・血管病変をきたす「川崎病」と類似した症状を呈する例を認め、成人でも血管が目詰まりする「血栓症」の発症が報告されています。COVID-19が重症化すると体内で炎症関連物質が猛威を振う「サイトカイン・ストーム」という現象が生じ、それが血栓症の「引き金を引く」と考えられておりますが、まだほかにも解明されていない原因がありそうです。
 産婦人科の日常臨床で「血栓症」というと、ピルの副作用の一つとして挙げられます。ピルと血栓症については昨年10月の本稿でもお話ししましたように、非常に重大な副作用であることは確かなのですが、「深部静脈血栓症」という病態で見てみると、対象女性1万人のうち1年間に深部静脈血栓症になるリスクは健常女性で1~5人である一方、ピル服用者の血栓症のリスクは同じ条件で3~9人と言われております。ピルを服用してもリスクを上げるとは考え難いデータですが、「未知のウイルスによる血栓症の発症」という報道がなされると、当然ですがピルを服用される方々にはいろいろな不安が生じることは当然だと思われます。
 「COVID-19が流行しているのにピルを服用していて大丈夫か?」「服薬を中止したらいいのではないか?」「ピルを飲み続けるのならば、PCR検査を受けたほうが良いのではないか?」という疑問も散見されております・・・では実際のところ、どうなのでしょうか?
 この問題について、実はすでに回答がWHOから発せられており、「全ての家族計画・避妊法はCOVID-19パンデミックに際し、安全に使用できる」となっております(https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/question-and-nswers-hub/q-a-detail/contraception-family-planning-and-covid-19)。従いましてピルも前文の「全て」に含まれておりますので、COVID-19流行下でも休薬の必要はありません(ただ中等度以上のCOVID-19では、血栓症予防措置を講ずる必要があります)。むしろ服薬と休薬を頻繁に繰り返すことが血栓症のリスクを助長という報告もあります。コロナ血栓症を恐れるあまり、不規則な服薬になることがかえってリスクを増すことにもなりかねませんので注意が必要です。
 むしろこの時期、テレワークやステイ・ホームなどで家にこもりっきりになり、運動不足やそれに伴う体重増加などが、むしろ血栓症の呼び水になりかねません。家にずっといるからこそ、食事や運動に気を配り、また水分もこまめにとるように心掛ける必要があるでしょう。
 また上で述べたように非感染者や非発症者のピル服用は問題ないので、「コロナ血栓症を心配してPCR検査を受ける」ということも必要ありません。処理数は増加したといっても、COVID-19のPCR検査はインフルエンザのように簡便に行える検査ではありません。すべての病気に言えることですが、正しい知識を得ることは不安を軽減します。やみくもに恐れるのではなく、正しい知識を得て、それでも不安なことがあればかかりつけの先生にご相談されてください(2020.6.1)。

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5月・・・皐月です
 突然ですが、私の住んでいる鹿角は、高速道経由で弘前市に30分程で行くことができます。例年この時期は、診療が終わってから防寒準備をして弘前城の夜桜見物に行くのが常でした。今年は弘前観桜会(弘前さくらまつり)100周年の節目でしたが、新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)のため観桜どころ弘前城近辺への近寄りもはばかられております。弘前さくらまつりはゴールデンウィーク中、東日本で一番の人出があるイベントですが、全国一律の緊急事態制限のため、例年にない慎ましやかな連休にならざるを得ない状況です。先月の本稿でもお話ししましたが、「春の来ない冬」も「明けない夜」もありません・・・引き続き一人一人が「3密(密接=がやがや ・ 密閉=ムンムン ・ 密集=ギュウギュウ)」を回避するよう意識した行動をしていきましょう。
 COVID-19に関しては、日々知見が蓄積されていくため、その情報がどんどん更新していきます。3月の本稿で私は「妊婦さんがCOVID-19に感染すると糖尿病や心疾患の基礎疾患のある方や高齢者と同様に重症化になるリスクと考えられます」とお話ししましたが、4.1に厚労省から発出された発出された「妊婦の方々向けのリーフレット」には「妊娠後期に新型コロナウイルスに感染したとしても、経過や重症度は妊娠していない方と変わらない」という記載がありました。それを踏まえHPの訂正も考えましたが、4.10にまたも厚労省から発出された発出された「妊婦中の女性労働者などへの配慮に関する企業向けリーフレット」には、「妊婦の方が肺炎にかかった場合には、妊娠していないときに比べて重症化する可能性があります」との記載となっておりました。国際成育医療センターのHPでも同様のことが記載されておりますので、これもまた再掲になりますが、妊婦さんにおかれましては、「①不眠などの身体的ストレスを避ける、②徹底した手指消毒、③無症状時でもマスク着用、④不要不急の外出はしない」ことが、ことさら重要になるでしょう。また厚労省からは「妊娠中の女性労働者が休みやすい環境の整備に資する助成金のリーフレット」「妊婦の皆様へ~外出自粛のお知らせ」というのも発出されておりますので、ご参考になさってください。
 緊急事態制限によって移動の自粛が求められることで、「里帰り分娩」についても考慮せざるを得ない状況になりました。4.21に日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は、「妊婦さんへの“里帰り(帰省)分娩”につきまして」と題したコメントを発出しました。そこには「急な帰省分娩の検討はぜひ避けてください」、「帰省分娩の予約をすでにされた皆さまもぜひ、予約されている施設とご相談の上、状況によっては現在お住いの地域での出産をご考慮いただきたい」とあります(詳しくはこちらをご覧ください)。現在の状況としてCOVID-19の流行地域から里帰りする妊婦さんは、帰省後2週間自宅で問題ないことを確認してから、里帰り先の医療施設を受診するようにしています。ニューヨークの分娩施設での報告では無症状の妊婦の13.7%にPCR検査が陽性と出ました。このことからも帰省後2週間は経過観察する必要があることがお分かりいただけると思います。
 先月末にCOVID-19の流行地域から無感染地域に一時帰省した妊婦さんが帰省先で破水したところ、引受先病院がなく難渋したという報道がありました。この事案について、受け入れの対応をしなかった病院を非難する意見もありました。「医は仁術なのだから、病める者がいれば救いの手を向けるのは当然だ」という意見は至極当然だと思います。しかし私も一時地域の産婦人科医療を担ったこともありますが、人道的観点から引き受けたせいで、それまで妊娠管理を行っていた妊婦さんがお産できなくなれば、自ら地域の産科医療を崩壊させることになります。この問題は数年前の「産科医不足による「たらいまわし」」とは次元が異なります・・・地域の産科医療を守りつつ、このような状況に対処するには、時間も情報も少なすぎるのです。(この問題についてコメントしている産婦人科医師のブログも参照してみてください)
 核家族化の現在で学会と医会が「里帰り分娩に一考を」とコメントを出すこと自体、現在の状況が極めて危機的であるといえます。新しい命を生む妊婦さんを、みんなで大切にしていかなければいけません。しかし一方で8人に一人の妊婦さんがウイルスを保有していると考えると、それを踏まえた厳格な感染管理もしていく必要もあります。学会・医会のコメントにあるように、里帰らずに実家から来てもらう「里が行く(来る)分娩」も考慮する段階かもしれません(2020.5.1)。

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新年度となりました。
 入進学・就職と新たに動き始める時期なのですが、今年はそういう躍動感が全くと言っていいほど感じられません。ご存じのように新型コロナウイルス感染症がそうさせています。国内感染者が出て2か月以上経過しておりますが、今もなお朝のワイドショーはコロナ関連の話題でいっぱいです。人の動きが停滞すると、それはすなわち経済にも影響して、国内に元気がありません。ある感染症専門医の先生は国内の現状を「濡れた地面の下の枯れ草を這うように火が回り始めたところだと思います。一気に燃え広がることはなく、あちこちで燻ぶっています。ところどころ乾いたところがあって、そこから火の手があがるでしょう。クルーズ船のようなメガ・クラスターが発生することも想定しておくべきです。そして、次のクラスターへと火が燃え広がる。それをいかに防ぐか、あるいは早期に発見して封じ込めるかが課題です。」と話しておりました。メディアは連日大騒ぎをしていますが、データを見ますと日本のコロナ感染対策は頑張っていると思います(PCR検査の実施数が注目されておりますが、諸外国と比べ死亡者数が圧倒的に少ないのです)。その根底には日本人特有の「きれい好き」「几帳面」さがあるのではないでしょうか?「明けない夜」はありません・・・手洗い・咳エチケットを励行して、身近なところから感染拡大を抑えていきましょう。
 さて西暦の偶数年度には「診療報酬改定」が行われます。「診療報酬」とは、保険診療における医療行為の「公定価格」です。2年に1回の割で価格の見直しを行ったり、新たな医療技術に対する価格を設定したりします。前回の改定では「妊婦加算」という項目が新設されましたが、「妊娠税」とか「妊婦税」と受け止められない風潮が起こり、非常にまれでしたが途中で凍結されました。今回の改定で凍結された「妊婦加算」は復活することはありませんでしたが、産婦人科関連で新設された項目がありますので、お話しします。
 一つ目は「診療情報提供料(Ⅲ)」です。診療情報提供料とは、いわゆる「紹介状」です。提供料(Ⅰ)は普通の「紹介状」、提供料(Ⅱ)はいわゆる「セカンド・オピニオン」のための紹介状です。通常提供料は紹介元の施設が算定する・・・つまり紹介状をもらった病院に患者さんが払うのですが、提供料(Ⅲ)はそれとは異なります。妊婦さんがかかりつけの病院から紹介状を持参して紹介先の病院を受診して、診察後の報告を書面にして紹介元の施設に情報を診療提供した場合に提供料が発生します。よく経験することなのですが、妊婦さんに皮膚のトラブルが生じて自院でなかなか改善しない時、皮膚科専門医に紹介して専門的な診察・治療を行った情報を返信していただいたときに、紹介先の専門施設に支払うというものです。窓口支払いは450円になりますが、以前の「妊婦加算」の精神?であった「産婦人科以外の診療科でも妊婦さんを細やかに診察する」という理に適うものとして新設されました。情報提供を受ける私たちにとっても今後の妊娠経過を診ていく上で非常に有益であり、ひいては妊婦さんのためになるものと考えています。
 二つ目は「婦人科特定疾患治療管理料」です。子宮筋腫や子宮内膜症といった病気のため生理が重くなる「器質性月経困難症」の患者さんの治療にホルモン療法行っている場合、3か月に1回の割で管理料を算定することが可能となりました。昔は器質性月経困難症の患者さんには、「痛み止め、それが効かなければ手術」という二択しかありませんでしたが、いまは病勢を抑え症状を緩和する薬剤がいくつも出てきました。それらの薬剤を患者さんのライフスタイルによって使い分け、副作用にも配慮するといった「きめ細やかな対応」が要求されています。患者さんには将来の妊娠を希望される方も少なくないので、管理料の算定に際しては経験ある医師が適切な研修を受けることが条件となっています。
 受診される皆さんにとってはお財布を直撃する問題で、非常に頭が痛いことと思われます。今回の「婦人科特定疾患治療管理料」の窓口支払いは3か月に1回で750円=ひと月当たり250円になりますが、高血圧症や糖尿病などに対する「特定疾患療養管理料(診療所)」は1か月670~1350円です。確かに高血圧症や糖尿病と比べ器質性月経困難症は生命予後を左右する疾患ではありません。しかし女性のライフスタイルを増悪する疾患に対し積極的に治療を行うことに国が目を向けていただけたのは評価したいですし、管理料を算定する立場としては今まで以上によりきめ細やかな対応と医学的管理が要求されると身を引き締めなければなりません(2020.4.1)。

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3月に入りました
 今シーズンの暖冬は先月も継続しており、降雪しても根雪として継続するものではありませんでした。先月末のインカレのスキー大会は何とか終えることができましたが、来年は冬季国体が催されます。今年以上の暖冬になるとすると・・・なかなか頭が痛いところです。
 さて昨年末から中国湖北省武漢市を中心に発生した新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19と省略します)ですが、日本でも流行の兆しを見せつつあります。外来感染症なので、水際対策の是非についていろいろ言われてはおりますが、アフリカの一部の国からではなく隣国の中国から、それも人の行き来も物流も激しい現代においては、100%の水際対策など不可能であると私は考えております。今の私たちに必要なことは、やみくもに恐れるのではなく、「相手をしっかり理解して、それにどう対応するか」ということが、大切になります。
 まず理解しておくことは、私たちが普通にかかる「かぜ症候群」の原因ウイルスの約15%がコロナウイルスによるものです。今回のCOVID-19の初発症状は、さむけ・発熱・咳・・・それも専門用語で「乾性咳」という痰の少ない咳を特徴とします。普通のかぜと同様にウイルスにさらされても発症しない人もいるし、発症しても83%の人は軽症で終わってしまいます。しかし呼吸苦や胸痛といった肺炎症状が重症化してしまうと7日目から入院、9日目位から人工呼吸器管理となり、全体の3%程度といわれております。死亡率は約1%程度とこれだけ見るとインフルエンザの10倍ほどですが、すべての軽症例を含んでいるわけではないので、インフルエンザと同等程度と考えられています。そしてその診断ですが、インフルエンザのような簡便な診断キットはなくPCR法による行政検査になりますので、当院を含め一般の診療所ではできません。検査をすべき対象かどうかを保健所の相談センターに確認してから、自車で移動して検査を受けていただく流れになります。なので「心配だから念のため」という感じで行う検査ではありません。
 仮にCOVID-19の診断がついたとしても、インフルエンザのような治療薬もなく、重症化を予防できる薬もありません。また当然ワクチンもなく、東京オリンピックにも間に合わないでしょう。すると肝心なのは「予防」ということになります。その2本柱は「手指消毒」と「咳エチケット」です。COVID-19はアルコール消毒の効果が確認されておりますので、しつこいくらいの手洗いと、それができない時には速乾性のアルコール消毒剤による手指消毒が大切です。また咳症状のあるときのマスク着用(マスクがないときは腋で覆う)ですが、無症状であればマスクよりも徹底した手指消毒の方が効果が高いという報告もあります。
 風疹やリンゴ病は妊娠中にその病気にかかると、先天性風疹症候群や胎児水腫といった赤ちゃんに大きな影響を及ぼしますが、COVID-19はかぜ症候群を引き起こすコロナウイルスの1種なので、妊婦さんが感染したからと言って風疹やリンゴ病などのようにおなかのなかの赤ちゃんへ問題を起こすということはなさそうです。ただしかぜ症候群を含め、すべてのウイルス感染症は流産や早産のリスクを押し上げることは間違いありません。また妊娠中は「免疫寛容(めんえきかんよう)」といって免疫機能が若干低下いたします(2015.4.1の本稿参照)。このため妊婦さんがCOVID-19に感染すると糖尿病や心疾患の基礎疾患のあるかたや高齢者と同様に重症化になるリスクと考えられます。従いまして重症化が懸念されるハイリスク例では、通常であれば37.5度以上の発熱が4日以上継続のところ2日継続でかかりつけ医に相談とのコメントが出されました。
 しかしながらかぜ症状で37.5度以上の発熱が2日以上の妊婦さんがすべてCOVID-19感染症疑いとして対応すると、多分日常外来はストップしてしまいます。また妊婦さんがCOVID-19になっても、全員が重症化するわけではないでしょう。今すぐできることは不眠などの身体的ストレスを避け、徹底した手指消毒、あと無症状時でのマスク用もあるでしょう。加えて不要不急での感染地域はもちろん人混みへの立ち入りは行わないということ・・・渡航歴など関係がなく感染経路が不明なまま発症する例も報告され、診断も特殊で治療薬も予防薬もない、また妊婦はハイリスク群に相当するということが不安を募らせますが、冷静に見ると結局インフルエンザ流行時の妊婦さんの対応と変わりないものです。以上を励行して、感染予防に努めてください(2020.3.1)。


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みなさん、こんにちは
  ・・・本当に雪の少ない冬です。天気予報でも1日まると「雪マーク」がつく日は、ほとんどありませんでした。一日中気温が氷点下になる真冬日になる日もほとんどないため、地熱が保たれているせいか、雪が降ってもなかなか積もることができない様子です。例年小正月行事までは寒さが厳しいのですが、この状況を見ると今年は本当に春が来るのが早そうです。
  さて以前の本稿でもお話ししましたが、5年ほど前から性感染症である梅毒の流行が確認され、20代を中心に女性の梅毒報告数が増え続けています。梅毒はそれを診察した医師が7日以内に届け出を求められる「全数報告対象感染症」ですが、若年女性の患者数の増加を踏まえ、昨年より届出の際に妊娠の有無や直近6か月以内の性風俗産業の従事歴が、新たに項目して追加されました。この期間に届け出られた女性梅毒症例は1,117例で、このうち「妊娠症例」は106例でした。年齢別では、10歳代が10例(9%)、20歳代が68例(64%)、30歳代が27例(26%)、40歳代が1例(1%)であり、診断週数は19週までが74例(74%)、20週以降が26例(26%)でした。また全体の72%の76例が目立った症状のない「無症候梅毒」で、性風俗産業従事歴については、「あり」が5例(8%)、「なし」が56例(52%)で45例は不明という結果でした。
  女性梅毒患者さんの約10人に一人が妊婦さんであったというのは、驚くべき結果かもしれません。通常妊娠4か月までの初回健診において公費負担により感染症検査の一環として梅毒を全妊婦さんに対して調べますので、梅毒と診断された妊婦さんの7割以上が「無症候梅毒」として見つかったということは、妊婦健診において梅毒のスクリーニングが有効に機能しているといえましょう。しかしながら妊娠20週以降で梅毒の診断を受けた妊婦さんが4分の一を占めるということは、何らかの事情で妊婦健診の受診が遅れ初期スクリーニングが受けられなかったケースかもしれませんが、初期の梅毒スクリーニングののちに性交渉を再開してパートナーから感染したとも考えられます。いずれにしても胎盤を介して赤ちゃんが梅毒に感染してしまう「先天梅毒」のリスクを高めることになりかねません。
  妊娠中に梅毒が診断され適切に治療されていないと、おなかの中で赤ちゃんが感染して「先天梅毒」を発症してしまいます。女性の梅毒患者数の増加に伴い、先天梅毒症例の報告も多くなってきていますが、一方で数字として出てはいませんが、梅毒感染が分かった時点で妊娠中絶を選択している例もあるでしょう。確かに母体が無治療の場合、先天梅毒の発症のリスクは約40%と報告されていますが、適切な抗生物質での治療により発症を回避することが可能ですので、早急な中絶の決断を下さないようにして頂きたいです。
  妊娠梅毒症例の約4分の3は20歳未満で占められており、また性風俗産業従事歴の回答では半数近い45例が「不明」と回答していました。その背景に出会い系サイトやSNSを介して不特定多数と性交渉を持つという、近年の性風俗・性産業の多様化に起因していることが考えられます。先に述べた先天梅毒の撲滅には初期だけでなく妊娠中期や後期に再度検査を行うという医療側からの強い介入も有効でしょうが、「妊娠したからこそコンドームを使用する」という個人レベルでの意識改革がことさら重要です。今回は妊婦梅毒にスポットを当てましたが、近年の性意識の低下、および性産業に対するハードルの低下と裾野の広がりを改めることが、梅毒をはじめとする性感染症を抑制するファースト・アクションではないでしょうか(2020.2.1)。

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 みなさん、あけましておめでとうございます。
 令和初のお正月を迎えます。事前の予報通り、本当に雪の少ないお正月です。確かに風情には欠けますが、でももうこの年になると、大雪はもう「ごちそうさま」という感じです。今年はいよいよ東京オリンピック、また個人的には卒後30年と区切りのいい年でもあります。何か今年は賑やかな年になるのではと思っています。
 さて新年の本稿では、お正月に絡んだテーマでいろいろお話してきました。振り返ってみますと、「一年の計は元旦にあり」ということで2015年と2016年にお話ししましたが、今回は1年というスパンではなく、もう少し長いスパンでのお話をしてみたいと思います。
数年前「秋田県の2040年問題」というのがありました。団塊ジュニアが65歳になる2040年には秋田県の人口が70万にまで減少するというレポートです。以前もお話ししましたが、私が北海道から秋田に来た約35年前は秋田県の人口と札幌市の人口はほぼ同程度の130万人でしたが、現在札幌市はおよそ200万人で、一方の秋田県は昨年とうとう人口100万人を割り込みました。本邦の人口問題でまず語られるのが「高齢者人口の増加」ですが、秋田県ではその高齢者人口も減少傾向に転じ、県全体の人口減少に拍車をかけているのです。今住んでいる鹿角市も、赴任当初は4万人以上の人口でしたが20年余りで3万人を割り込むところまで来ています。出生数も赴任当初の1998年は350人位でしたが、現在は150人程と半数以下になっております。このままのペースで行きますと、2040年には鹿角市の人口は19.422人と2万人を割り込み、15歳未満の年少人口は10から8%とさらに減少し、一方高齢化率は40から47%とさらに上昇するとのことです。
 現在当地域の医療はかづの厚生病院さんを中核病院として行っております。20人近い常勤医の先生が8診療科(非常勤医師の診療科を除いて内科は一つに統一)で約200床を有する病院で日夜診療にあたっております。では現在よりさらに人口が減少し2万人ほどになった時、どうなるのでしょう?あくまでも参考ですが、北日本で人口2万人の市民を対象とする中核病院を5施設ほどみてみますと、①常勤医師数は10人ほど、②常勤医のいる診療科は4科で、その内訳は内科(総合内科と掲示)・外科・整形外科の3診療科が共通、あとの1科は小児科・泌尿器科・麻酔科など、③一般入院病床は60床程度で、あとは40~80床の療養病床・・・となっておりました。その5施設のある市の産婦人科医療についてみてみましたが、3市では中核病院で週2日ほどの外来診療のみで、あとの2市では市内に産婦人科施設がありませんでした。
 偶然かもしれませんが、他地域の中核病院の状況を参考にしますと当地域の中核病院の規模は2040年には現状の「半分」になる・・・というか、ならざるを得ないところに来てしまうようです。現在の広さで人口が減ると人口密度は現在の42人から4割減の27人程度まで減少し、隣接する八幡平市や北秋田市の人口密度と匹敵します。以上のような人口減少やスケールデメリットの問題をいかにして克服するか・・・そのカギの1つとして「連携」があります。市内の医療機関同士、県北地域の市町村同士、さらには隣接した県同士が、垣根をとって制限を緩和することにより、地域医療の悪化にいくらかでも歯止めをかけることが期待できます。そのことを「二十年の計」として、今から少しずつでも考えていかなければいけないところまできています。
 クリニックのHPなので医療についてお話してきましたが、以上のことは医療だけの問題にとどまりません。今時期問題となる除雪のことや、日常のごみ収集の問題、また小中学校・高等学校の生徒数減少の問題など未来に向けての問題が山積しております。新年早々眼をそむけたくなる問題を提起しましたが、いつまでも放置しておくわけにも行けません。今年最初の本稿ではありますが、これらの問題を皆さんに考えていただく契機になれば幸いです(2020.1.1)。

2019
院長のcapricciosa(気まぐれ)