新年度を迎えると同時に平成の世から新元号を迎える年度となりました。
 私は平成2年に医師になりましたため、平成の時代ほぼそのままが、医師として過ごしてきた時代となります。平成の前半を勤務医で、後半を開業医として過ごしてきましたが、私にとって平成という時代、ありきたりですが「あっという間」の時代でした。次の御代は開業医としてのみ生きていくことになります・・・どのような時代になるのか、半ば楽しみでもあります。
 勤務医時代の前半は研修や研究に従事していた年月でした。医師としての基礎を固め、専門的な知見を深めて、産婦人科臨床医としての研鑽を積む時間でした。その間多くの先輩方から教えを請い、多くの患者さんから学ばせていただきました。勤務医後半の6年ほどは後輩と一緒に診断から治療計画を立案し、分娩や手術等を行っていました。産婦人科医として数年過ぎたころから、産婦人科の開業形態に変化を認めました。それまでの産婦人科開業といえば必ず「お産」がセットだったのですが、お産を取らず入院も置かない「外来開業」が増えてきました。そういう私も外来開業なのですが、産婦人科医が外来開業に踏み切ることができた理由の一つとして、婦人科領域の薬物療法が充実してきたことがあります。前回の本稿でもお話ししましたが、子宮筋腫や子宮内膜症に対する薬物療法という道が開けてきて、「切らずに筋腫を縮小できる」ことが、産婦人科の診療形態に大きな変革をもたらしたものと考えています。また本稿でもたびたび紹介し当院でも力を入れています、月経困難症や過多月経、避妊、性感染症や更年期障害といった疾患を取り扱う、「女性ヘルスケア」領域の発展があります。生命予後には左右されない分、女性に我慢を強いていた疾患に対する治療が、近年手厚さを増してきていることもあるでしょう。
 話は変わりますが、先月8日は「国際女性デー」でした。国際女性デー(IWD)とは、国連が定めた、女性の権利及び国際平和のための日で、世界中で女性の政治的解放や差別撤廃、および地位向上を訴え、デモやイベントが行われています。その日に合わせて報道では我が国における女性の社会進出に関するデータを諸外国と比較して紹介されていました。以下に抜粋しますが、本邦のデータは惨憺たるものといっても過言ではありません。
国会議員で女性が占める割合:日本10.2%と165位で最下位 (ちなみに仏39.7%で16位、英は32.0%で39位、米は23.5%で78位)
管理職で女性が占める割合:日本11.1%で96位 (ちなみに英34.2%で41位、米は42.7%で15位)
上場企業役員女性が占める割合:日本3.4%で最下位 (ちなみに仏37%、 英27%・・G7中)
 これら女性の社会進出に関する低い結果を見ますと、私はどうしても「低用量ピルの解禁の遅れ」が想起されて仕方ありません。我が国における低用量ピルの解禁は1999年でしたが、これもまた先進国で最も遅い解禁でした。以前は女性が主体的にできる避妊法としては避妊フィルムや女性用コンドームもありましたが、今は販売されておりません。ピルも本邦では錠剤だけですが、海外ではインプラント型(上腕の皮下に埋め込むことで3年間有効です)やパッチ型など多様な剤型が用意されています。過多月経の治療に用いられる子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS)と言われる黄体ホルモンが塗布されたリングも本邦では1剤型ですが、海外には3剤型もあり未産婦さんへの使用も拡大されています。閉経後の萎縮性膣炎の外用薬についても本邦では膣錠だけですが、海外ではジェルなど多様な剤型が用意されています。所謂先進国と言われる日本では、まるで女性の社会進出を阻むがごとく、ライフスタイルに合った剤型が、いまだ全くラインナップされていないのが現状なのです。
 若干光明となっているのは、月経困難症に対する低用量ピルの使用が拡大していることです。当院でもそうですが、成熟期の女性をはじめ、部活に熱心な中高校生、入試を見据えた受験生など、口コミもあるのでしょうか、すそ野の広がりを感じます。月経ひとつとっても女性が従うのではなく、女性自身が積極的にマネージメントする時代になっています。一人一人の女性が自分自身を適切にマネージメントして、それぞれの未来を切り開いていただくことを願っています(2019.4.1)。


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3月になりました。
 先月はバレンタインデーというイベントがありました。この年になりましても、義理とはいえ近しい方からチョコレートをいただくのはうれしいものです。近年はバレンタインよりハロウィンの方が、市場規模が大きくなっているとも言われており、この現象も少子化とリンクしていると分析している方もおられます。
 50代も半ばを過ぎても、チョコレートは好きなものです。チョコレートはもちろん、洋菓子すべてが好きなのですが、40歳を超えるようになって和菓子の魅力にも取りつかれまして・・・桜はまだまだなのですが、最近は店頭に桜餅も並びだし、垂涎のまなざしで眺めております(苦笑。菓子はもちろん料理も和食が好きなので、たまにある東京の学会出張では、「江戸前」の店々を食べ歩くのも楽しみにしています(もちろん勉強もしてきます・・・)。
 ある時無性に甘味が欲しくなることが、皆さんにはありませんか?洋生菓子の甘さに包まれたい・・・でも洋生がない時、和菓子では代償が利くかもしれませんが、なんぼ好きだといってもその気分の時にお寿司なんかで替えは利きませんよね?むしろ輪をかけてさらに甘味が欲しくなったりしかねません。
 さて・・・近日中に子宮筋腫の新しい治療薬が販売されるとのインフォメーションがありました。ご存知のように子宮筋腫は子宮にできる「こぶ」で、それがあるために経血が増量する「過多月経」から「貧血」をきたしたり、筋腫自体が増大すると周囲を圧迫するため頻尿や腰痛などの症状を引き起こしたりします。月経が来ている間、女性ホルモンのエストロゲンを「えさ」として筋腫は増加・増大していきますので、症状が重くなってくるようであれば治療しないといけません。平成に入る少し前までは子宮筋腫の治療イコール手術療法でしたが、それ以降子宮筋腫に対する薬物療法が導入され、はじめは1日3回の点鼻薬でしたが、今は月1回の注射が主流となっています。手術と異なり、できてしまった筋腫をなくすることにはできませんが、「えさ」となるエストロゲンの分泌を抑えることによって筋腫の体積を縮小し、過多月経や筋腫による圧迫症状を改善することができます。
 薬剤が効果を発揮するには、その薬剤が効果を示すための「スイッチを押す」必要があります。この「スイッチ」を「受容体(レセプター)」といいます。筋腫発育を助長する卵巣からのエストロゲンは上流をたどっていくと、脳の視床下部から出るGnRH(精腺刺激ホルモン放出ホルモン)が、下垂体にあるGnRH受容体に結合して(=スイッチを押して)分泌が増加します。従来の点鼻薬や注射といった筋腫の治療薬は「GnRHアゴニスト」といってGnRHに代わってGnRH受容体に結合しエストロゲン分泌のシグナルを送るのですが、その指令が長続きしすぎると受容体が減少して、結果的にエストロゲン分泌は減少し、月経が停止し筋腫の発育も抑制されるという仕組みです。「結果的に」と書きましたが、その「結果に」至るまでに一時的にエストロゲン分泌量が上昇する(フレアアップといいます)ために性器出血が増量するなど子宮筋腫の症状が一時的に増悪することがありました。「洋生が食べたいのに好物のお寿司を出されても気持ちはげんなりして(=受容体の減少)、甘味を欲する気持ちはさらに強まる(=フレアアップ)」という感じでしょうか?
 一方新しく発売される治療薬は「GnRHアンタゴニスト」といってGnRHと競ってGnRH受容体に結合するのですが、結合してもエストロゲン分泌のシグナルは発しないので、フレアアップすることなく速やかにエストロゲン濃度が低下し治療効果を発揮します。「洋菓子食べたいけど、手近な和菓子で満足した」という感じでしょう。
「「GnRHアゴニスト」やら「GnRHアンタゴニスト」やら似た言葉だし、結局はエストロゲン分泌を下げ筋腫に効果があるから、似たり寄ったりでしょ?」と思われるかもしれません。でも日常臨床では非常に重い過多月経をきたす粘膜下筋腫には、フレアアップを恐れ「GnRHアゴニスト」による治療をためらう場面も少なからずありました。それゆえフレアアップのない新薬は粘膜下筋腫の患者さんには朗報ですし、治療戦略上、戦う「武器」は数が多いことに越したことはありませんしね(2019.3.1)。


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 みなさん、こんにちは
 やはり暖冬なのでしょうか?先月の前半までは院内の重機による除雪も2回しか入りませんでした。でも後半となると荒れた天候に見舞われる日も少なくありませんでした。やはり一月ですね。でも小正月行事を過ぎれば、寒さも猛威を振るうということもない・・・ということを願いつつ春を待ちたいものです。
 さて冬休みが明けたと同時に外来にはインフルエンザの患者さんが目立つようになり、あっという間に猛威をふるっています。来院された患者さんは高熱などの感冒症状のほかに嘔吐といった消化器症状で苦しんでいる方もいらっしゃいます。もうワクチン・・・という時期は過ぎていますので、うがい・手洗い・マスク着用といった基本対策を十分されてください。
 ここ鹿角ではインフルエンザの流行と並行して、「りんご病」も流行しつつあります。「りんご病」は「伝染性紅斑」という感染症の俗名で、あたりまえですが、果物の「りんご」がかかる病気ではありません。「紅斑」というのは皮膚が盛り上がることなく赤く均一に色づく状態をいい、この病気にかかると「りんごほっぺ」のように頬が赤く色づくため、このように呼ばれています。ネーミングもかわいらしいし、麻疹ほど重症化しない、また水痘にくらべ後も残さないということより、そうナーバスに構える方が多くない感染症ですが、産科領域にとっては、流行が確認されると身構えてしまう感染症なのです。
 りんご病はパルボウイルスB-19というウイルスが引き起こしますが、成人の場合、先述した「りんごほっぺ」の症状が出るのは4人一人ぐらいで、ほぼ半数が「単なる風邪症状」のみで済んでしまっています。妊婦さんがパルボウイルスB-19に感染すると、通常のウイルス感染症よりも流産や死産のリスクを上昇させるのに加え、あかちゃんが「胎児水腫」という病気になってしまうことがあります。
 パルボウイルスB-19は主に患者さん咳やくしゃみから感染するのですが、妊婦さんが感染した場合、胎盤を介してあかちゃんが感染してしまいます。おなかの中で赤ちゃんがこのウイルスに感染すると、血液を作る働き(造血機能)が抑えられて、高度の貧血に陥ってしまいます。水っぽい血液になってしまうと、その水の部分が血管外に漏れ出て、それが結果的にむくみ=浮腫となるのです。浮腫は全身に現れるため、あかちゃんに重大なダメージを及ぼしかねないことになります。
 いろいろな報告がありますが、妊娠20週までの感染で約30%が胎内感染するといわれています。さらに胎内感染したあかちゃんの約30%が亡くなったり胎児水腫を発症したりしたというデータが報告されています。あかちゃんへの感染が問題となる風疹に比べ、感染に気をつけないといけない妊娠週数が長期であるというのもこのウイルスの特徴です。母体への感染は血液検査を行うことによって確認することができます(一部健康保険が適応にならない検査もあります)。ウイルス感染から胎児水腫の発症までは3週間がピークといわれていますが、検査によって感染が確認されたなら、数週間にわたってあかちゃんの超音波検査を行い、胎児水腫の発症の兆候がないか観察していく必要があります。
 本邦女性の30%前後は既にパルボウイルスB-19の抗体を持っているとの報告があります。また胎児水腫を発症したあかちゃんの1/3は自然によくなっており、そのようなあかちゃんはウイルスに感染のなかったあかちゃんと変わらない発育・発達であるという報告もあります。しかし風疹と異なりパルボウイルスB-19にはワクチンがありません。そうなると先に述べた「うがい・手洗い・マスク着用」といった基本対策が肝要となります。真冬の空気の乾燥しているこの時期は、いろいろな感染症のリスクが高まる時期でもあります。しっかり予防対策をして、この冬を乗り切っていきましょう(2019.2.1)。

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 みなさん、あけましておめでとうございます。
 新しい年が明けましたが、あと数か月で平成から次の年号にバトンタッチとなります。昭和世代の私にとって「明治~大正~昭和」と3代過ごしてきた方々へ畏敬の念をもっておりましたが、長さは違うとはいえ自分が「昭和~平成~○○」と3つの元号の時代を過ごすとは、考えもしませんでした。新たな元号を迎える今年、どのような一年になるのでしょう?でもまずは健康が第一ですね!
 新年早々に何かを行うと「初○○」「○○初め」などと言いますね。「初詣」「書初め」「出初め式」など、なんか文字を見るだけ、思い浮かべるだけで、空気が澄み切って気持ちが「ピン」となる感じがします。気持ちを新たに今年一年が佳きものになるよう願いを込めて行うことで、「初め良ければすべてよし」のごとく一年の息災に通じるのでしょう。
 しかしながらはじめもあまり芳しくなく、終わりもさらに芳しくない事案が年末にありました・・・それは皆さん既に知っておられる「妊婦加算」です。「妊婦加算」は昨年4月の診療報酬改定から導入された妊婦さんへの加算で、窓口支払い3割負担の方であれば初診だと約230円、再診だと約110円が診療費に加算されるものです。妊婦さんの外来診療に対しては通常の診療よりもきめ細やかな対応が必要であるとの考えから創設された加算ですが、その趣旨が十分周知されないまま妊娠の有無と関係がない診療でも加算されたことで、「妊娠すると医療費が上がる」という情報が拡散しました。その結果「妊娠税」とか「妊婦税」とか呼ばれ「炎上」し、さらなる少子化に拍車をかけるものだとの意見もあり、昨年末で「妊婦加算」は一旦凍結となりました。
 妊娠することによって、多くの方はそれまでとの生活では比較にならないほど病院を受診することになるので、加算の総額も馬鹿にならないとお思いになられるのではないでしょうか?しかし「妊娠」は「生理的現象」ですので、加算が関わる診療報酬とは無関係・・・つまり「保険証」が使えない場合がほとんどなのです。そのため妊婦健診では市町村などから「妊婦健診補助券」というものが母子手帳とともに発行され、健診費用の軽減になっています。従って産婦人科で実際妊婦加算をいただくのは、切迫早産などのために健診外で診察の必要があるときや、風邪や便秘などのマイナートラブルといった「妊婦健診以外に外来を受診するとき」で、妊婦健診の時に投薬があっても補助券があるため妊婦加算は発生しないのです。妊婦さんを多くみる産婦人科でも、加算をいただく機会はそう多くないのが実情です。
 さらに妊婦健診補助券に関しては、現在ほとんどの市町村で15枚以上の補助券が発行され妊婦健診での経済的負担はかなり軽減されています。一方今の妊婦さんのお母さん方が妊婦さんだった時~平成7年以前では補助券は妊娠前期と後期のたった2枚だけでした。また分娩費用も以前は一時立て替えで分娩後出産一時金を申請するものでしたが、現在は「委任払い」という形式で一時立て替えすることなく健康保険から直接病院へ分娩費用が振り込まれる制度となっています。妊婦さんのお母さん方の時代に比べ、現在はかなり「お財布には優しい環境」になっているのです。なので私的には「妊婦加算」を「妊娠税」とか「妊婦税」とかと「こきおろしする」風潮には、若干違和感を覚えています。
 だからと言って「妊婦加算」を「妊婦さん」だけに押し付ける従前の制度にも、非常に違和感を覚えます。妊娠するまで社会の一員として高齢医療の負担の一翼を負わせられ、妊娠したら今度は妊婦加算で医療費が上乗せされる・・・といったら、女性へのエコノミカルなハラスメントと受け取られても仕方ありません。また私達産婦人科医としては妊婦さんへの日々の診療がやっと評価されたと思ったら、半年ちょっとで凍結されるといういきなりの方針転換にも幻滅してしまいます。お上の皆さんには、今一度しっかりとした制度設計をしていただいて、みんなが納得するような妊婦さんへやさしい医療を提供できる制度を構築していただきたいと願っています(2019.1.1)。

2018
院長のcapricciosa(気まぐれ)