みなさん こんにちは

残すところ、今年もあと一か月になりました。先月中旬には長靴でないと大変なくらいな積雪がありましたが、それも例年通り?根雪にはなりませんでした。でも着々と冬は確実に近づいています。インフルエンザの集団発生もすでに報告されています。みなさんくれぐれもお身体に気を付けてお過ごしください。

さて先月の積雪もそうでしたが、今年は天災に見舞われた一年でした。8月には「これまでに経験したことのない大雨」に見舞われ、その時の本稿でもご紹介しましたが、当地では完全に交通網が寸断されました。県南の仙北市では地滑りのため何人もの尊い命が失われました。また先月には同様に土砂崩れのため県南の旧矢島町で、尊い命が失われました。これら天災でお亡くなりになられた方々に、心から哀悼の意を表したいと思います。

人の命は必ずしも病気によって失われるとは限りません。先に述べた天災もありますし、事故もあります。また犯罪に巻き込まれて命を落とす場合もあるでしょう。また命にかかわらない事件・事故であっても、予想もしていなかった病気がたまたま同時に発症して、それにより亡くなる方もいるでしょう。医学にはこのような直接的に病気によらない死の原因を究明する分野があり、それを法医学と言います。

今ではTV番組にも法医学に関するエピソードでつづるドラマがあり、皆さんも耳にしたことはあると思います。法医学とは「法律上問題となる医学的事項に対して、医学の知識を応用し、その解決に役立てる医学の一分野」です。一方で「代理懐胎(いわゆる借り腹)」で妊娠したのはいいが、その後の契約問題がこじれ、それを解決するための法的な分野を「医事法学」といって、こちらは医学ではなく法学にスタンスをおいています。法医学は医学のなかでも社会との関連が密接なため、解剖学のような基礎医学や内科学のような臨床医学とはまた別の「社会医学」という領域に属しています。

法医学をテーマにしたドラマを見ていると、どうしても死因究明のところにスポットが当たっています。ドラマの興味を増すためにそこにスポットが当たるのは仕方ないことなのですが、法医学でもそのような分野は「法病理学」いい、人の死に至る「理(ことわり)」を研究する領域になっています。そのほか外界の物質が人の身体へ及ぼす影響を研究する「中毒学」、また先の震災後に恩恵を受けた、個人を断定する「個人識別学」の分野があります。天災等により命を落とされた場合、「法病理学」により亡くなられた原因を、そして「個人識別学」に基づいて個人を断定してご遺族のもとにお戻しするという、個人や社会にとりまして非常に重要な業務を行っていることがお分かりいただけると思います。

県内で明らかな病気でなくなったとは言い難い「異状死」のケースは、秋田大学で解剖を行い死因の究明を行っております。年間の解剖数は300件以上で、その数は大都市とひけを取らない数ではありますが、その業務を3人のスタッフだけで行っているのが現状です。

ここで強調しておきたいのは、「秋田では決して異状死が多いわけではない」ということです。数少ないスタッフが昼夜を問わず、死因が明らかではない御遺体から「声なき声」を聴き、ご遺族が納得していただけるよう十分検分の上原因を明らかにしているのです。「これ以上ご遺体を傷つけたくはない・・・」というのは遺族感情として至極当然なことです。しかしご遺体が亡くなられた原因を明らかにすることは、ご遺体にとって一番の供養になるのではないでしょうか?皆様には日頃出会うことが少ない医学の一分野を知っていただき、ご理解を深めていただければ幸いです。

今年最後のカプリとしては内容的に産婦人科学と随分かけ離れたものになってしまいました。しかし社会的に大切な医学の一分野ですので、ご紹介させていただきました。本稿も含め、今年もご愛読ありがとうございました。皆様よいお年をお迎えください(なお今回は11月17日開催の秋田県北医学会での秋田大学医学部法医学教授 美作宗太郎先生の御講演を参考にさせていただきました)(2013.12.1


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

寒くなってきましたね・・・

昼夜の寒暖の差が大きくなり、濃霧に包まれる夜が多くなりました。今年は冬の訪れが早い感じで、先月末に青森に行きましたら、岩木山が冠雪していました。一方でカマキリの卵の位置・・・カマキリが草木の高いところに卵を産み付けると、その年は雪深いといわれています・・・今年は産み付ける位置が低いとのことで、冬の訪れは早くても大雪にはならないんじゃないかと踏んでいますが、いかがなものでしょうか・・・

さて先月19日の土曜に休診させていただき、日本女性医学学会およびアジア太平洋閉経学会に参加してきました。女性医学ですから、更年期〜閉経期周辺の話題はもちろん、思春期〜性成熟期にわたるまで、女性ホルモンに依存する諸問題について、いかに対応していくか活発に議論されておりました。

11歳で初潮を迎え50歳で閉経するとすれば、一生の間に女性は400回超の月経を迎えることに計算上ではなります。戦後間もないころの時代では現在に比べ初潮も遅く、また一人の女性が5回ほどお産をしていましたので、妊娠・授乳中は無月経となることを考えると50回くらいの生涯月経回数となっていました。しかし現在においては初潮年齢も低年齢化し、出生率も約1.3ポイントとなってしまっているため、総予定発来回数の約半分である200回ほどの生涯月経回数になってしまっています。

お産を経験した方であれば覚えがあるかもしれませんが、「若いときは生理痛がひどかったけど、お産をしたら楽になった」というのを感じたり、また耳にしたりしたことはありませんか?子宮・卵巣といった内性器に異常がなく月経痛がひどい状態を「機能性月経困難症」といいます。また一方で病気の一症状としての月経困難症もあり、その代表的な病気としては子宮内膜症や子宮筋腫などがあります。初潮年齢が低年齢化し初産年齢が高くなると「機能性月経困難症」に悩まされる機関が長くなり、喫煙率の上昇なホルモン環境を乱すような環境ホルモンの影響によって子宮内膜症にかかる率が上がると、それだけ月経痛に悩む女性が増えることになります。女性の社会進出が著しい現在、月経痛のために仕事ができなくなることにより生じる労働損失、また月経困難症の診断や治療にかかわる医療費などを含めると、現在の日本においては1年間で約1兆円の経済損出に相当するとの試算があがっていました・・・ポピュラーと思える「生理痛」が、ふたを開けたら日本の台所事情にまで影響を与えかねない程になっているということに驚きを隠せませんでした。

月経と上手に付き合いながら、「望まない妊娠を避ける」、「家族計画をはかる」ために思春期〜性成熟期にはピルを、また閉経後の約30年を生き生きと過ごしていただくためホルモン補充療法を・・・と女性ホルモン剤をうまく使いながら個々の女性が自分らしく生きていくためサポートを行う重要性を改めて認識しました。しかし一方で今もなお本邦では、以前から比べては大分改善しましたが、女性ホルモン剤に対する「感情的な鎖国状態」が続いています。例えば経口避妊薬としての低用量ピル・・・本邦では性行動の活発化が懸念されることを理由に先進国で最後となる1999年に認可されました。いざ処方されてみても、認可の際の懸念であった人工妊娠中絶率は他の国々と同様にわが国でもの低下が示されています(カプリ20113月記)。EUのある国では学生証を提示すれば無料でピルの処方が受けられますが、日本では病院受診と自費診療という壁が立ちはだかっています。モーニングアフター・ピルといった緊急避妊ピルもフランスでは1,000円もしませんが、日本では10,000円を優に超えてしまいます。また閉経後の外陰部の乾燥感に対して外国には局所用の女性ホルモン・ジェル剤がありますが、日本では認可されていません(更年期障害のための体表に塗るジェルはあります)・・・改めて女性のヘルスケアを実践する際にハード面が発展途上であることをまざまざと思い知らされました。私はお偉いさんが考えているよりも、現在の女性は女性ホルモン剤の使用について、以前とは比べ物にならない程知識や情報を得ていると思います。それを踏まえ、本邦でも女性ホルモン剤の導入や使用について、もう少し風通しの良い状態になってくれることを切に願うところです(2013.11.1)。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

みなさん、こんにちは

先月中旬の台風は、当地に2回目の洪水被害をもたらしました。被災された皆様には、心からお見舞い申し上げます。台風一過で秋彼岸が過ぎると、「暑さ寒さも彼岸まで」の言葉通り、夜間の冷え込みが一段と進んできています。そのせいか外来には風邪引きさんが散見されるようになりました。皆さんもくれぐれも体調管理にはご注意ください。

さて先月初めには2020年の東京オリンピック招致が正式に決まりました。事前予測ではかなり有力と言われておりましたが、こればかりは蓋を開けるまではわかりません。このような選挙や勝負・試合ともなると、イギリスのブックメーカーがすぐさま「賭け」の対象にしてしまいます。今回の招致合戦ももちろん賭けの対象になったのですが、未来の皇太子―皇太子妃の性別すらも賭けの対象にするというのは、お国柄なのでしょうね・・・ということで今回の本稿は、「赤ちゃんの性別」をテーマといたします。

その前に、超音波の機械についてですが、この半世紀で著しい進歩を遂げました。50年ほど前は今のCTのような構造でしたが、現在は携帯できるほどスリムでコンパクトになり、また体内の血流動態もカラーで描出できるようになっています。

このような超音波検査機器のおかげで、今までブラックボックスだった胎内環境が、少しずつ垣間見えるようになってきました。産婦人科の医師は、それぞれの流儀?で赤ちゃんをチェックしており、例えば私であれば赤ちゃんの性別は最後の方にチェックしています。しかしながら親御さんとしては早く性別が知りたいところでして、双方の想いがなかなか一致しているとは言い難いのが現状です。

性別の判定には赤ちゃんの股間を描出するのが、「いろは」の「い」です。すると、どのように見えるのでしょう・・・? 男の子なら「たまたまのふくろ」、女の子なら「われめちゃん」を描出させて判断します。しかし、日々の外来では、なかなか見せてくれない赤ちゃんが多いのも事実です。

赤ちゃんの性別の告知について、従来私たちの属する日本産科婦人科学会では、「性染色体に関する遺伝性疾患について検査する場合を除き、胎児の性別を両親に告知してはならない」という決まりがありました。この会告は25年前のものですが、今ほど少子化が深刻でなかった当時、性別の告知は妊娠の中断に影響を与えかねない情報であったこともあります。一昨年、会告が見直され、「胎児の性別告知は、出生前診断として取り扱う場合は症例ごと慎重に判断する」と、告知に際しややソフトな表現になっています。だからと言って、赤ちゃんの性別を告知することは、ご夫婦だけの問題にとどまらず、英国王室といわないまでも親戚一同を巻き込むまで発展しかねない場合もあります。まだ生まれ出ていない赤ちゃんに性別に基づくトラブルはあってはいけないという思いが強いため、告知に関しては当院なりの方法で行っております。皆様におかれましては、少々腑に落ちないところもおありだと思いますが、赤ちゃんの性別の告知につきましては以上をお含みおき頂ければ幸いです (バックナンバーでは本編で掲載した写真を容量の関係で掲載できませんでした)(2013.10.1)。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・9月に入りました。

梅雨が明けてムシムシした日が続いていましたが、先月の9日に当地域では「これまでに経験したことのないような大雨」に見舞われました。大雨当日は国道・高速道路も通行止めとなってしまい、一時まさに「陸の孤島」となってしまいました。規模の小さい当院でも重症な患者さんを大学病院に緊急搬送した過去もありますので、患者さんの健康を預かっている身としては、幹線道路の開通まで気が気じゃない思いをしました。現在幹線道路はほぼ問題はないのですが、JR花輪線は枕木の下がえぐられ削られてしまい、復旧までしばし時間がかかりそうです・・・震災以降薄れ掛けていた自然の猛威を改めて実感させられました。

大雨と猛暑という不安定な天候で、今年は全国的に猛暑による熱中症の発症も多く、前年比で1万人以上の発症数、そして20人以上の方が命を落とされております。9月に入っても暑さが厳しい日がありますので、適度な冷房の使用と小まめな水分摂取を心がけましょう。外気が暑いと体熱を下げるため発汗という生理現象が生じます。しかし夏場はこの汗が、ちょっとした「もめごとの種」になりうることがあります。

皆さんは「スメル・ハラスメント」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?「セクシャル・ハラスメント=セク・ハラ〜故意的な性的嫌がらせ」、「パワー・ハラスメント=パワ・ハラ〜暴力による故意的な嫌がらせ」、「アカデミック・ハラスメント=アカ・ハラ〜学術機関内での故意的な嫌がらせ」・・・以上の「ハラスメント=故意的な嫌がらせ」を含む語句はネット等で目にしたことがあると思います。そして「スメル・ハラスメント(=スメ・ハラ)」は「スメル=臭い」による暴力といえましょう。臭いの原因としては、口臭・体臭といった生体臭のほか、化粧品や香水、また最近では柔軟剤といった人工物の臭いがあります。「ハラスメント=故意的な嫌がらせ」と考えると、口臭・体臭などの自然臭は故意的と言い難いため、今回は人工物の合成臭を中心に話して行きたいと思います。

夏場で発汗が促進してきますと、どうしても汗の臭いが気になり香水等をデオドランスとして使用する機会が多くなります。それに加えて最近問題となっているのは、柔軟剤の残香性です。従来は洗濯洗剤にも若干香料が入っている分、柔軟剤の香りはほのかなものでした。しかし2000年代中頃から見た目も派手なボトルで残香性が強い海外製の柔軟剤がブームの発端となり、それ以降柔軟剤の香りはどんどん強くなっています。加えて柔軟剤入り洗剤の販売や、残香性を強化した柔軟剤(衣類を叩くと、におい成分が再度活性化する)の流行により、老若男女問わず使用する機会があるため、あの何とも言えない甘ったるい臭いを「鼻にする」機会が確実に増してきているのではないでしょうか?

私のテリトリーでの話になりますが、妊娠初期の妊婦さんは匂いについての感受性が非常に高くなっているため、妊娠していない時には大丈夫だった香りでもつわりが誘発されてしまい、体調不良の誘因に簡単になりえます。確かに香りも女性にとってはファッションの一部であるということは重々承知しています。でも妊娠というのも女性にとって、一生涯においての一大事業です。同性として暖かな心配りをお願いいたします。

匂い袋にあるように、古来日本は香料を身体に直接つけるというより衣服や扇子などの持ち物につけて香りを楽しんでいましたので、残香性が強くても衣服の柔軟剤の香りは、体温で醸し出される香水よりも受け入れやすかったかもしれません。加えて自分の臭いは自分自身気づきにくく、判断が甘くなるところもあります。つい最近のトラブルとして、お盆の長距離のバスのなか、前に座っている女性の香料が不快であるため、持っていた芳香スプレーを女性に向けて噴射し、「臭いによる暴力」によって暴行容疑で逮捕された男性もいます。「聞香」「余香」「残香」といった日本には香りに関する素敵な語句もあります。これらの言葉が良い意味で生きるような香りをまとっていただければと思っています(2013.9.1)。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

みなさん、こんにちは。

入梅してからすっきりしない天気が続いています。空模様はどんよりしていますし、洗濯物の乾きも悪い・・・でも気温がそう高くなければ、過ごしやすいですよね。でも今月に入ると暑さも盛り返してくるでしょう!こまめな水分摂取を心がけて、熱中症に気を付けてお過ごしください。

さて先月は国政選挙があり、下旬は政治の話題に事欠かない状態が続きました。今年に入り株価の上昇など、日本経済にとってポジティブなニュースも散見されるようになってきましたが、第一次産業が主体の秋田県で、かつ県都から離れた当地では、なかなかその恩恵にあずかるところまで至っていません。たぶん当地に限ったことではなく、どこもかしこも共働きのご夫婦であれば、妊娠〜出産〜子育ての間も、その就労パターンを変えることができないのが現実です。そこで今回は働きながら妊娠生活をおくるときに、妊婦さんを「守ってくれる」法律のことについてお話しします(スペースの関係上、育児に関しての法律に関しては割愛します)。

働く妊婦さんに関連した法律としては、「労働基準法(労基法)」と「男女雇用機会均等法(「均等法)」とがあります。

   解雇の制限(労基法 第19条): 産前産後休暇中とその後30日間は解雇することができません。

   危険有害業務の就業制限(労基法 第64条の3):妊産婦は重量物や有毒ガスといった危険有害物など一定の悪影響を与える業務への就業が制限されています(これは禁止条項ですので、本人が請求しなくとも制限されるものです)。

   産前産後休暇(労基法 第65条):産前休暇は予定日の6週間前、産後休暇は出産翌日より8週間です。休暇の請求は本人が行いますが、産後6週間は強制的休暇となっています。また出産休暇は出勤したものとみなします(労基法 第397項)。

   軽易な業務への転換(労基法 第65条の3):妊娠中は事業主に請求することより、他の軽易な業務に代わることができます。

   変形・時間外・休日労働・深夜業の制限(労基法 第66条):妊産婦は事業主に請求することにより、時間外労働・休日労働・深夜業(22時から翌日6時まで)が免除されます。また週40時間、一日8時間以上の変形労働時間の適用は禁止されます。

◎妊娠・出産などの不利益取り扱いの禁止(均等法第9条): 妊娠や出産、母体健康管理・保護措置、また妊娠・出産に起因する能率低下等を理由とする解雇、そのほか不利益取り扱いを禁止します。「不利益」とは解雇のほか、不利な賃金査定や人事考課、不利な自宅待機や降格、もしくは不利な労働契約の変更の強要や、契約更新の破棄などです。妊娠中〜産後一年以内の解雇は、事業主の反証がない限り無効になります。

◎通院休暇(均等法第12条):妊産婦は事業主に申し出ることにより、保健指導や健康診査を受けるために必要な時間を確保することができます(妊娠23週まで:1/4週  妊娠2535週まで:1/2週  妊娠36週〜出産まで:1/)。ただし、医師や助産師が異なる指示を出した場合は、その指示に従います。

◎通院休暇・妊娠障害休暇(均等法第13条): 妊産婦が医師などの指導を受けた場合には、その指導事項を守ることができるよう、事業主は勤務時間の変更、勤務の軽減など必要な措置を講じなければいけません。これらの措置には、妊娠中の通勤緩和・休憩に関する措置・つわりや切迫流早産といった症状に対応する措置が含まれます・・・指導内容を的確に伝達するのに、「母性健康管理指導事項連絡カード」をご利用ください。

 以上働く女性の母体健康管理の推進には、私たち主治医だけではなく、職場からの人的サポートも必要です。事業主だけではなく職場スタッフとしては産業医のほか衛生管理者(以上従業員数50人以上の事業所)、また、機会均等推進責任者の任である方もいらっしゃると思いますので、日頃から連携連絡を取るのが望ましいでしょう(2013.8.1)。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・今年も半分、終わりました。

先月は夏日のような暑い日もありましたが、入梅となり夜には過ごしやすい気温になりました。しかしもう少しすると、本格的な夏がやってきます。省エネを心がけながら熱中症に注意し、暑い夏を乗り切っていきましょう。

さて環境が良くなったといっても、梅雨時期は食べ物が傷みやすい時期です。ちょっとした油断で腐敗やカビたりしますので、目配り・気配りが肝要です。でもカビに侵されてしまうのは何も食べ物だけではありません。人の身体にもカビが巣食うことがあります。婦人科ではカンジダ菌というカビ(真菌)による感染症が、非常にポピュラーな疾患といえます。しかしその一方で「どうしてカビが入って病気になっちゃったの?」と心配される方が少なくありません。ということで今回は「いまさらながら」かもしれませんが「外陰膣カンジダ症」についてお話しします。

月経がきちんと来ている「性成熟期」の女性が、局所の「かゆみ」・・・それも「痛がゆい」感じが内側の方(小陰唇の内側)にあり・・・そしてさらに「白っぽいポロポロ」した「おりもの」も伴う・・・という患者さんがみえたら、私たち産婦人科医はまず外陰膣カンジダ症を疑って検査・治療を進めていきます。そして確定診断がついて患者さんに病状説明をするのですが、その時に患者さんから受ける「2大質問」があります・・・それは「どうしてカビにやられたのですか?」と「性病(性感染症)になったのですか?」とういものです。確かにそう思われますよね?・・・ではカンジダ菌はどこからやってきたのでしょう?

たとえば菓子パンのような袋詰めされた食品を買うとします・・・買えば袋を破って食べますよね?でも1か月も放置しますとカビに侵されてしまい食べるに値しなくなります。ではあのカビ菌はどこから来たのでしょう?・・・実は目には見えませんが、私たちはカビ菌などに囲まれて日々生活しているのです。でもそのようなカンジダ菌などが皮膚に付着しても正常の免疫機能でその増殖を抑えたり、また20084月の本稿でも述べましたが膣内ではデーデルライン桿菌という乳酸菌に似た細菌により膣内が弱酸性にキープされていたりすること(自浄作用といいます)によりカンジダをはじめとした雑菌が繁殖しにくい状態に保たれています。しかし細菌を叩く抗生物質の服用や、服装などからによる局所の蒸れ、またストレスなどによって、局所の免疫力が低下し自浄能力が落ちてしまうと、カンジダの繁殖を許すことになってしまいます。このような免疫力の低下による弱毒菌の感染を「日和見感染」と言います。

 

では局所の蒸れやストレスは男女問わずあるものなのに、性器カンジダ症が女性に圧倒的に多く発症するのはなぜでしょう?・・・それは性器そのものの構造の違いに基づきます。体温は同じでも男性は女性に比べ構造上、外性器周辺が乾燥している状態になっています。それがカンジダの繁殖に不利に働くため、男性に症状が出にくい理由といえます。このため女性がカンジダ症だからといっても男性に伝染して発症することはほとんどありませんし、一方で日和見感染症という性格上、免疫力が低下していれば性交未経験者でも外陰膣カンジダ症にかかることはあります。このことから性交渉によって必ず伝染する疾患とは言えませんので、狭い意味で性感染症とも言い難い側面を持っています。

外陰膣カンジダ症は膣錠と軟膏の外用薬で軽快する疾患です。いまでは軟膏はもちろんカンジダ用の膣錠も市販されています。しかし日常の外来では婦人科受診を恥ずかしがって市販の錠剤を挿入したところ、不十分な状態で使用したため症状はとれず、かえって診断の「邪魔」となり治療の「足かせ」となるケースがたびたび見受けられますので注意が必要です。またカンジダ症を短期で反復している場合は、その背景に糖尿病などの疾患が隠れている場合がありますので、それらについても検索することがあります(2013.7.1)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

みなさん こんにちは

雪解けがなかなか進まないため、当地の桜はゴールデンウィークを過ぎたころから見ごろになりました。今年の春はゆっくりだなぁ・・・と思っていたら、日中には20℃に上る日が普通になってきています。春は足早に過ぎて着実に夏に向かっています。皆様いかがお過ごしでしょうか?

さて先月中旬に、非常にショッキングなニュースが入ってきました。米女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、健康体であるにもかかわらず両側乳腺切除術を行ったという知らせです。本年2月に切除術を、4月に乳房再建術を施行し、今後は両側卵巣の摘出も予定しているとのことです。アンジェリーナさんが健康体にもかかわらずメスを入れた理由は、彼女の母親も乳がんであったことがあります。乳がんや卵巣がんの510%は遺伝的要因があるといわれており、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)と呼ばれています。HBOCはがん抑制に働く遺伝子であるBRCA1BRCA2に異常が生じることによって、がんが発症する「遺伝性」の病気です。母親が乳がんだったアンジェリーナさんは自身の遺伝子を検査したところBRCA1に異常を認めたため、乳がんにならないよう予防的に乳腺切除を行い、卵巣切除も予定しているのです。このニュースを契機として、最近遺伝性のがんに関することや予防的手術についてクローズ・アップされるようになってきました。産婦人科医といっても、乳がんには、そう明るくありませんので、この項では卵巣がんについて話させていただきます。

がん抑制遺伝子BRCA1BRCA2の異常を本邦で調べた結果を見ますと、乳がんもしくは卵巣がんの患者さんで、2親等以内の自分の親族にも乳がんもしくは卵巣がんの人が1名以上いるグループの約27%にBRCA1BRCA2の異常を認めたとの報告があり、遺伝子異常の頻度は諸外国と比べても少ないというデータではないそうです。BRCA1BRCA2の異常があった場合、一生涯で卵巣がんを発症するリスクは報告にも異なりますが、1162%と言われております。一見高いリスクと思われますが、BRCA1BRCA2に関する検査は卵巣がんになった方全員に行うことができるほど、廉価で簡便な検査ではありません。従いましておのずと調査対象が限られて結果が高値でありますと、どうしても高いリスクに受け止められることになってしまいます。BRCA1BRCA2の異常(変異)の出現頻度については民族ごとに若干の高低はあるみたいですが、本邦におけるBRCA1BRCA2の変異に出現頻度については不明ですので、これらのデータをみて、悲観的になる必要は全くないと考えます。

でも仮にBRCA1BRCA2に変異が見つかった場合、卵巣はどうしたらいいのでしょう?ここで考える必要があるのは「子宮と卵巣の臓器としての違い」ということです。乳腺組織は極言すれば授乳期間を過ぎてしまうと、以後の人生において、女性のシンボルとしては重要ですが臓器としての必要性はほとんど失われてしまいます。しかし卵巣は妊娠を望まない年齢になっても、閉経までのあいだ女性ホルモンを分泌し続けます。そのホルモンが骨代謝やコレステロール代謝に好影響を与えているのです。閉経を迎えると発汗やほてりといった更年期症状が出現するのに加えて、コレステロールが高値を示したり、骨粗鬆症が進行し腰が曲がったりするのは、女性ホルモンの分泌が低下することにあるのです。従いまして健康体にメスを入れるという予防的卵巣切除を行う際には、摘出することによる「がん回避」のメリットと、摘出後の人生における脂質異常症や骨粗鬆症のリスクの上昇というデメリットを、十分考えて決定する必要がありましょう。

一方で卵巣がんの9割以上は突発的な発症によるものですが、その関与で注目したいのは子宮内膜症が卵巣に発症した「チョコレート嚢腫(内膜症性嚢胞)」という良性の卵巣腫瘍です。チョコレート嚢腫は日本人女性の約15人に一人、不妊症患者さんの約3人に一人に認められる、婦人科外来ではよくみられる卵巣腫瘍です。しかし40歳以上で10cmを超えるチョコレート嚢腫では卵巣がんの頻度が1%未満程度から5%程度にまで上昇します。このためチョコレート嚢胞の場合、大きさ・年齢・症状などを考慮して比較的早期に予防的な意味を兼ね手術療法を行うことがあります。このようなチョコレート嚢胞の発見には卵巣超音波検診が有効です。鹿角市では先月末より婦人科検診が始まりました。今年度の予約をなさっていない方は、どうぞ忘れずに検診の予約をなさってください(2013.6.1)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

連休のはざま・・・5月です

先月は半ばを過ぎてもみぞれ交じりの雪が降る寒い日がたびたびありました。朝方は冷え込みも厳しく、山々の残雪も多い印象がありましたが、実際のところ秋田市の桜の開花は前年より一日早かったそうです。当地はまだ芽が膨らんできたところですが、次第に桜咲き、緑濃く暖かな日々になっていくでしょう・・・

さて最近のニュースで皆さんご存知のように、風疹が首都圏を中心に非常に流行しています。風疹の患者数の推移ですが、2010年は年間発症数が87名だったのが、2011年には371名、2012年には2,353名、そして今年になり3月が終わった時点で3,020名と既に昨年1年間の発症数を上回っています。妊娠早期に風疹に罹ってしまうと、赤ちゃんの目や耳、心臓に重い障害を残す「先天性風疹症候群」のリスクが高まります。なぜ今風疹が流行っているのか・・・?このことについては昨年8月の本稿でも取り上げましたが、再掲してみますと、「今年35歳以上の男性は定期予防接種を受けていない」。また「2634歳の男女は予防接種制度の変わり目で、任意接種のため予防接種率が低い」 ことが問題点となっています。さらに、1989H1)〜1993H5)年に行われた、麻疹・風疹・水ぼうそうの3種混合ワクチンであるMMRワクチンに関して多くの副作用報告があり、予防接種を躊躇したことが十分考えられます。その結果、およそ19801900年代にかけては、風疹ワクチンに関して「手薄な期間」であり、それがそのまま現在の風疹の流行につながっているといえましょう。従いまして、該当する年代の女性はもちろん男性も、積極的にワクチン接種をしていただきたいと思います。

 どんなワクチンを接種するにしても、皆様方が一番気にしているのは、その「副作用」だと思います。ワクチンは病気を予防するために健康な体に行うものですから、接種をきっかけに健康を損なうことはあってはならないと思われる方がほとんどではないでしょうか?私自身もワクチンを受ける立場としてはそう思ってしまいますが、でも携わる者としてはワクチンもお薬なので、ある一定の割合で副作用が出るのは認めざるを得ない立場でもあります。本年度から定期接種となる子宮頸がんワクチンですが、皮下注射で行うインフルエンザワクチンと異なり、長期間の作用を期待することもあり筋肉注射で行うため、インフルエンザワクチンに比べ痛み刺激による気分不快などの副作用が多く認められています。幸いこのような副作用は短期間で改善いたしますが、長期にわたる疼痛やしびれ等の副作用で就学が困難となった事例が報道されていたのは、皆様の記憶に新しいのではないでしょうか?この病態は「複合性局所疼痛症候群(CRPS)」といって、注射のほか外傷や骨折などからも引き起こる病状で子宮頸がんワクチン特有の副作用ではありません。昨年度まで約820万回のワクチン接種が行われておりますが、CRPSの報告は3例となっています。

「あえて女子生徒に全く無害とは言えないワクチンを接種するのはいかがなものか・・・? 定期的な検診を受けたり、思慮に欠く性行為を避ける教育を行ったりすることの方が必要なのではないか・・・?」と言われる方もおられます。しかし本稿2009.8月に示したように、当地域において検診クーポン券導入前には性活動が活発化する20代の方が婦人科検診に全く来なかったということ、また2011.3月の本稿では、当県における性教育の効果として、10代の人工妊娠中絶率の減少に寄与していたことを示しました。でもいかに優れた性教育を行っても、HPVの伝搬や拡散を抑えているかどうかを証明することはできないのです。

私個人のことですが、発売後まもなく身内に子宮頸がんワクチンの接種を行いました。現在の医学水準で十分効果が確認されて、かつ副作用の発現も納得すべきものであり、いままで子宮頸がんの患者さんに接した経験から、予防できる「がん」であれば予防を施すのが親の務めと考えたからです。子宮頸がんワクチンが定期接種になっても、個人に接種義務は生じません(あくまでも接種を受けるという「努力義務」が生じます)。確かに世に出てまだ日の浅いワクチンですので、ワクチン接種についてご心配になられることも多々あるでしょう。ワクチンをすることが / しないことが、子供さんにとっていいことなのか / 悪いことなのか、十分お考えのうえ対応していただくことを望みますし、不明な点がありましたら接種担当医にご相談なさってみてください(2013.5.1)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

4月に入りました・・・いよいよ新年度ですね。

先月は桜の便りが聞こえる時期になっても、突如嵐のような風雪に見舞われましたけど、月後半からは気温後ぐっと上昇して、雪解けが進んできました。今年は大雪だった分、本当に春の到来が待ち遠しく、日に日に春めいてくるのがうれしくなってきます。桜前線も東京を越えました・・・当地にまで前線が北上するのも、もうまもなくでしょう。

年度替りは歓送迎会、また月末になると観桜会などで酒宴が多くもよおされる時期でもあります。杯を重ねて水分そのものを多く摂ることも一因なのですが、アルコール自体にも腎臓でのおしっこの量を調整するホルモンである抗利尿ホルモン(ADH)の分泌を下げる働きがあり、結果として尿量が多くなります(飲酒後3時間以上を経過するとADHの分泌も正常化してきて多尿は落ち着いてきます)。でも男性と異なり女性の場合では、そう簡単にお手洗いに行けずに我慢することが少なくありません。また尿意を催しても、屋外ではトイレの数自体が少なく、我慢せざるを得ないときもあります。それらがツケとなって引き起こされる不快な病気・・・今回は膀胱炎についてお話します。

報告される資料によっても異なりますが、女性の約6割が膀胱炎にかかった経験を持つとも言われるほど、膀胱炎は日常診療で頻繁に遭遇する疾患です。そしてそのほとんどが細菌感染による急性膀胱炎といわれるものです。主な症状としては@排尿時痛・・・特に排尿終了時の痛み、A頻尿・・・回数の割に尿量は少ない、B残尿感・・・おしっこに行ったと思ったら、また行きたくなる、というのが特徴です。また年齢的には2040歳代と、婦人科的には性成熟期に多い疾患でもあります。

婦人科外来でも膀胱炎でいらっしゃる患者さんは多いです。診断名を告げると、「何で膀胱炎になったのですか?」、「特に不潔にしていないのに・・・」、「繰り返すのですか??」など尋ねられることが多々あります。

膀胱炎の原因は大腸菌などの雑菌がおしっこの通り道である尿路に進入することによるのですが、女性に多い理由として、女性の尿路自体が細菌感染に対していくつか不利な要素があることがあげられます。おしっこの出口である尿道口からおしっこが溜まる膀胱までの流路を尿道といいます。男性はおちんちんがあるためその距離は1520cm位ありますが、女性はそれがない分4cmほどしかありません。そのため男性より雑菌が侵入しやすい状況と言えます。おしっこをすると雑菌が侵入しかけた尿道を洗い流す働きがありますが、おしっこを我慢してしまうと、その洗浄作用の効果も低くなってしまいます。また女性の場合、おちんちんがない分、尿道口と肛門との距離が短いため、どうしても雑菌に汚染しやすくなってしまいます。おりものの産生が順調である性成熟期には局所の湿度が上がることから、他の年代に比べると膀胱炎にかかりやすい下地があるといえましょう。

以上特に不潔にしていなくとも、女性は男性に比較して膀胱炎になりやすい条件を備えています。従いまして膀胱炎にならないためにはできるだけおしっこを我慢しないことが肝要です・・・これだけでも膀胱での雑菌の繁殖を防ぐ効果があります。また月経中や性交渉後は尿道口が汚染されやすい状況ですので、清潔に留意してください。特に性交渉後は、早めの排尿を心がけてください。また排便後の清拭は後ろから前に向かって行うと、膀胱炎のリスクを高めますので改めるようにしてください。

急性膀胱炎は細菌性によるものがほとんどですので、多くは抗生物質の服用で改善します。しかし寝ている間も頻尿が続いたり、膀胱炎の診断で長期間抗生物質を服用したりしても改善しない場合は、膀胱粘膜より深いところまで炎症が及んでいる「間質性膀胱炎」の存在も否定できません。そのような場合は専門である泌尿器科へ受診し相談していただくのがよろしいでしょう(2013.4.1)。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

やっと3月に入りましたね。

 先月はとにかく・・・降りましたね。相手は自然ですから降るとなると、もう容赦しません。雪を寄せても次から次と降ってきて、寄せ場所を探すのにも、一苦労です。そんななか先月は当地で冬季国体が催されました。ここ鹿角で冬季国体が催されるのは4回目、当院が開院してからは200720112013年と3回目の国体になります。1つのスキー場でアルペン・ノルディック・ジャンプが行うことができるコンパクトさが高評価されているのでしょう。今年の国体も雪に恵まれて無事閉幕しましたので、おてんとうさまには大雪はもう勘弁してほしいところです。

さて前回のカプリは「緊急避妊法・・・モーニングアフター・ピル」についてお話ししましたが、今回は緊急性のない一般的な避妊法についてお話ししたいと思います。その前に避妊を考えるうえで「妊娠率」をみてみましょう。これは各種避妊法を選択し一般的な使用で行った場合、1年間に妊娠が成立する頻度を調べたものです(報告者により若干差があります)。

避妊なし:85

医療機関によらない避妊法:膣外射精27% リズム法(排卵期周辺の性交を回避する方法)25%  コンドーム15

医療機関で受ける避妊法:経口避妊薬(ピル)8%  避妊リング4%

手術による避妊法:女性0.5%  男性0.15

医療機関で受ける避妊法は90%以上の効果が期待でき、手術による避妊法以外は避妊を中断することによって妊娠可能な状態に戻ることができます。今までのカプリでは経口避妊法(ピル)については時々お話ししましたので、今回は避妊リングについて外来で実際患者さんからいただいた疑問点などを含みながら進めていきたいと思います。

1.     避妊リングは「リング(輪)」なのか?: 昔の避妊リングは確かに輪状でした。でも今は様々な形状がありますが、傘状が主流かもしれません。

2.     ピルと比較してのリングのメリット・デメリットは?: メリットは一旦挿入したら避妊のことを「数年間は」考えなくてもよい(ピルのように毎日服用する煩わしさ?がない) 。授乳中でも問題なく使用できる。 デメリットとしては、出産経験のある女性が対象となる。子宮の中に「異物」が入ることで、挿入前の月経と異なることがある(出血量の増加や期間の延長など)。

3.     リングを希望する場合、いつ受診すればいいですか?: 月経開始から10日以内は妊娠しづらい時期と言われていますので、当院では月経の終わりころに受診するようにお話ししています。

4.     受診当日にリングは入れてもらえるのですか?: はい 上述の条件を満たすのであれば受診当日に挿入することができます。数分で挿入できますので麻酔も使用しません。ただ産道(子宮頸管)の柔らかさや開き具合には個人差がありますので、若干時間を要することもあります。

5.     人工妊娠中絶術と同時にリングは挿入してもらえますか?: それは行っておりません。通常の方と同じように術後の月経を迎えてから行っています。月経が来るということはきちんと妊娠のホルモンが下がったという証ですので、当院ではそれを確認してから挿入しています。

6.     リング挿入後の受診はどうなりますか?: 当院では初回月経後に受診していただき、リングの位置のずれなどを確認しています。その後は婦人科検診を兼ねて1年ごとの診察を行っております(ピルのように定期採血などは必要ありません)。

7.     リング交換や抜去を希望する場合、いつ受診するといいですか?: 挿入時と同じ月経終了のころにお越しいただければ、抜去いたします。抜去後に妊娠を考えている場合は、次の月経を確認してから避妊解除するようお話ししています。また閉経等でリングが不要になった方も、そのままにしておくと感染の原因となることがありますので、抜去を勧めています。

8.     リングの交換時期は?: 最近のリングには銅やホルモン剤などを添加して避妊効果を高めているものがあります。種類によって交換時期も異なりますので担当医に相談されてください(2013.3.1


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

みなさん こんにちは

今シーズンはまだ終わってはいませんが、先月は嵐のような吹雪や大雪の日に見舞われることが多かった感じがします。鹿角〜秋田を往復していますと、鹿角はほぼ例年並みの降雪ですが、沿岸の能代〜秋田市は例年以上の積雪のように思われます。寒さもまだまだ続きます・・・ノロウイルスによる感染性胃腸炎やインフルエンザ、また当地ではおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)も流行しているようです。いずれの病気でも、基本は「うがい・手洗い」ですので、ご家庭や職場での励行をお願いします。

さて年始めであります先の一か月を振り返ってみますと、1月としては最多の妊娠中絶件数となりました。それぞれの患者さんが妊娠中絶を選択した理由をはかり知ることは私には出来かねますが、皆さんがまさに苦渋の選択をされたであろうことは想像することができますし、悲壮な決意をもって受診されていることも十分理解しております。そうではありますが中学・高校で性教育講話として「生命の大切さ」を説いている立場としては、「どうにかして望まない妊娠を回避することはできなかったのだろうか・・・?」と常々考えてしまいます。

当然ですが、望まない妊娠を回避するには「避妊する」ことになります・・・まず妊娠中絶ありきで避妊をおろそかにする人はいないでしょう。本邦におけるオーソドックスな避妊法はコンドームによるものですが、報告者により若干の数値の違いはあるとはいえ避妊効率は9697%と決して低いデータではありません。しかしながら一方で10代男性の約50%がコンドームの脱落経験をしているという報告もあり、性的活動性が高い時期での避妊には常に「避妊失敗」という危険が隣り合わせにあるといえましょう。

避妊はしていたのだけれどもコンドームが破けた・外れたなどで避妊が失敗したと思われる場合、またコンドーム装着の協力が得られなかった場合など「望まない妊娠」のリスクがある場合、それを防止する方法を「緊急避妊法」といい、そこで処方されるお薬を「モーニングアフター・ピル」と呼んだりします。緊急避妊に用いる「モーニングアフター・ピル」は薬局では販売しておらず、処方を受けるには産婦人科を受診する必要があります。

一般に妊娠の成立というのは精子と卵子とが受精した「受精卵」が子宮の中に居つく(=着床する)ことを言うのですが、「モーニングアフター・ピル」は排卵を抑制したり、受精や着床を阻止したりすることによって妊娠を回避することに働きます。「妊娠の成立=着床」を回避するものですから、「緊急避妊」はあくまでも「避妊」であり、「妊娠中絶」とは全く異なります。

「モーニングアフター・ピル」は、排卵前であればほぼ100%妊娠を回避できるとの報告があります。しかしながら服用に際しては「ゴールデン・タイム」というのがあり、不用意な性交渉が行われた「72時間以内に服薬」する必要があります。御推察のとおり、72時間ぎりぎりよりなるべく早く服用したほうがより高い避妊効果が得られます。

緊急避妊は自費診療なので医療機関によってその価格は異なりますが、今までは数千円の費用であったものが、一昨年からは1万円を超えるようになりました。その理由は今までは中容量ピルを緊急避妊法に転用していましたが、一昨年からは緊急避妊にのみ適応のあるホルモン剤が発売されたことによります。値段は高価になりましたが、@1回の服用で済む(それまでは12時間あけて2回に分けて服用)、A中容量ピルによる方法に比べて副作用が少ない、B副作用事故が起こった場合、国の救済措置がある(緊急避妊に使われた場合、中容量ピルには救済措置がない)、など利点が高いことが挙げられます。

現在県内の中学・高校で行われている「医師による性教育講話」では、「モーニングアフター・ピル」について普通に解説しています。その効果もあってか、制服のまま受診し「モーニングアフター・ピル」の処方を希望する学生さんもおります。性交渉云々はさておき、避妊についてしっかり考えていることは評価できるのではないでしょうか?むしろ30歳代以降の方々のほうが「モーニングアフター・ピル」についての知識が少ないのか、緊急避妊を理由に受診される方があまりおりません。「モーニングアフター・ピル」をはじめ避妊の失敗に対して、私たち産婦人科医はいくつかの「セィフティー・ネット」を持っています。あれこれ悩まれるより勇気をもって受診していただくのが一番の早道かもしれません(2013.2.1)。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

みなさん、あけましておめでとうございます。

平成も四半世紀の25年になりました・・・私は鹿角に赴任したときに病棟で出迎えてくれた?赤ちゃんたちが、この春受験を迎えるまでになりました。自分を中心に見ると時の流れはゆったりなのですが、赤ちゃんや子どもさんの成長を目の当たりにすると、その速さに驚いてしまいます。まずは自分が地に足をしっかりつけ、この一年を過ごしていきたいと思います。

さて最近はお正月であっても、ファミレスやコンビニは営業しているは、元旦から初売りはしているはで、長期休暇中でも日常生活に支障をきたすことはありません。年々正月風景として趣に欠けてきている感はありますが、趣は薄れたとしても子供にとってお年玉は欠かせません。年に一回の大きな臨時収入のチャンスですが、大人になったらお財布事情には厳しいものです・・・しかし世の中は「送り順」ですから仕方ありませんね。ということで今回のカプリは年始草々ではありますが、昔のお金にまつわるお話〜といってもカプリですから、産婦人科にまつわるもの・・・〜にしたいと思います。

数年前に堺雅人さんが主演した映画に、「武士の家計簿」という作品がありました。堺さん演じる加賀藩御算用者(会計の専門家)猪山直之が公私にわたって「数字」と格闘し財務状況を立て直していくストーリーですが、この映画は磯田道史先生が著した同名の作品(新潮新書刊)が原作になっています。その著書の中に昔のお産にかかわる記載がありましたので、紹介したいと思います。

その前に江戸時代の貨幣価値を現代感覚に換算しますと。小判一枚=一両が約30万円。小判一枚が銀75匁になりますので、銀一匁が約4,000円。また寛永通宝6300枚で一両になりますので、銭一文=寛永通宝1枚が約50円になります。従いまして銭形平次は50円玉を投げて、悪を懲らしめていることになります。

「原作」の「原作」である「金沢藩士猪山家文書」には猪山直之の妻、お駒(映画では仲間由紀恵)の出産にまつわる記載が細かに記されていますが、非常に興味深いものがあります。出産前には産湯のための「たらい」や晒し木綿を準備しているのは想像もつくのですが、仕事柄興味をそそるのは医療費に関する記載です。たぶん産後のお薬でしょう・・・引用してみますと安神散50文(2,500円)、安神丸100文(5,000円)、小児龍子丸100文(5,000円)などの漢方薬が費用と一緒に記載されており、書中の薬剤費の総額が445文=22,500円にかさんでいます。ちなみに産後の滋養強壮のためでしょうか?昔では高価であった甘味=三盆白砂糖を一袋購入しています。これが1匁=4,000円で、薬に匹敵するくらいの高額な値段になっています。またお駒のお産には陰婆(助産師)、医者、それに針立(鍼灸医)が呼ばれていますが、分後に支払った手当は陰婆には銀15匁(60,000円)、医者には13匁(52,000円)、また針立には5匁(20,000円)で医療従事者へおよそ132,000円を支払った計算になります。出産にかかわる費用にはこの他「御七夜」などのお祝いの費用なども含まれますが、以上出産にまつわる費用の合計は108匁(約432,000円)程にもなり、薬代とお産に関する手技料で3割を占めていることになります。 

・・・ 皆さんはこの金額をどう思われますか? 今より医療技術がはるかに未熟だった時代ですから高すぎますか? それとも武家の出産ですから、納得のいく金額ですか? 私がお産に携わっていたころ、分娩費用の総額のうち、直接医療行為への対価となる「分娩料」は12万円で算定していました。また2011年から支給が開始された「出産育児一時金」は42万円という金額です。金額だけを比較してみますと、200年前も現代も「お産」に対する対価は変わらないように見えます。

でも医療環境は知っての通り、はるかに進歩・改善しています。当時当たり前のように経験していた分娩進行中に赤ちゃんが亡くなったり、産後の肥立ちが悪くお母さんが亡くなったりすることなど、現代ではほとんどありません。そのような状況で経済的対価が大昔とあまり変わらないというのは、私個人としては腑に落ちない感じです。新年早々愚痴っぽくなってしまいましたが、最近では薄れた感のある「産科医クライシス」はいまもなお引きずっています。昨年末には政権も変わりました。新政権には今一度昼夜頑張って支えられている産科医療へのサポートを、今一度検討していただくことを切に願っております(2013.1.1)。


院長のcapricciosa(気まぐれ)