みなさん、こんにちは・・・ いよいよ師走に入りましたね。

11月下旬に、思いもよらない大雪に見舞われましたが、今はすっかり融けてしまって、例年通りの初冬の光景が広がっております。でも今年はインフルエンザの流行が早いとのことで、当院においても予防接種の出足は例年に比べ早い感じがします。皆様、インフルエンザの対策は大丈夫でしょうか?

さて今年も残り少なくなりました。今年は私達産婦人科医にまつわる話題に事欠かない一年だったのではないでしょうか?産婦人科医不足や分娩施設の減少は連日のように報道されております。また分娩事故について初めて刑事事件として裁判として扱われたり、代理母についての問題も表面化したりしたのも今年でした。そんななか、私達産婦人科医が仲間内で使う「飛び込み分娩(出産)」という言葉がマスメディアに当たり前に出るようになったのも今年かもしれません。

「飛び込み分娩」とは通常1314回受診する妊婦健診を全く受けず、産科の「かかりつけ医」もなく予定日もわからないまま産気づいて初めて病院を受診して分娩してしまうことをいいます。今年8月に奈良県の妊婦さんが早産に至るところ、9施設に受け入れを断られ「たらい回し」にされたという事例をきっかけとして一般の方にも知れ渡るようになりました。この事例があって県内でも調査を行いましたが、幸いにも「飛び込み分娩」に対しての「たらい回し」はありませんでした。しかし過去の調査をみますと、月1件の頻度で飛び込み分娩が県内のどこかの施設で起こっています。

通常「飛び込んで」来る妊婦さんは産気づいて病院に来るわけですが全く情報がないため、私達としてはその妊婦さんが「本当にお産をしてもよいものなのか?」というところから診察を始めなければいけません。妊婦さんによっては、お産はおろか妊娠もしてはいけない持病を持っていることもありますし、胎盤の位置異常などのため通常のお産ができないこともあります。また予定日がわからないため、小さい赤ちゃんが生まれても週数が満たないため小さいのか、発育異常があって小さいのかもわかりません。さらにお産で出血を避けることはできないので、母体が肝炎などの感染症を持っていると、分娩を扱う医療スタッフに撒き散らしたり、赤ちゃんへの適切な予防ができなくなったります。

このような「飛び込み分娩」は赤ちゃんや医療スタッフへの大きなトラブルになっていますが、最近は「飛び込み分娩」による「玉突き医療事故」が問題になっています。「玉突き医療事故」とはその「飛び込み分娩」にかち合った、もともと予約をしている妊婦さんの診療や分娩へのトラブルです。「飛び込み分娩」は何も医療情報がない「ハイリスク妊娠・分娩」の扱いになりますので、現状の慢性的な産婦人科医不足の状況で「飛び込み分娩」が入ると、日常の診療業務に大きな支障を与えます。事実、「飛び込み分娩」のため、分娩予約をしていた妊婦さんの診療対応が後手になり、死産という不幸な結果になった事例もありました。このような「玉突き医療事故」の責任はいったい誰にあるのでしょうか?

私達医師には医師法の中に「応召義務」というのがあり、「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」という義務があります。しかし義務があるとはいえ、「飛び込まれた方」に通常の妊婦さんと同等な医療を提供することはできません。また私達医師同様に、妊婦さんには母子保健法の中に「母性は、みずからすすんで、妊娠、出産又は育児についての正しい理解を深め、その健康の保持及び増進に努めなければならない」という努力義務が明記されています。「病院に行けば、何とかしてくれる」・・・現在の医療現場はもうそのようなリクエストにはお答えできないような状況です。むしろ今ある医療資源が失われないよう、受診者である皆様方にもそれぞれの立場でお考え頂けることを望んでおります。

 今年最後のカプリチョーザになりましたが、重い話題になってしまいました。多くの問題が山積したまま年を越しそうです。でもそのような中でも日々の診療を通して、少しでも光明を見いだせる翌年になればと期待しています。今年も、ご愛読ありがとうございました。皆様よいお年をお迎えください(2007.12.2)。

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・・・11月に入りました。

朝夕の寒暖の差が激しく、ここ鹿角の早朝は深い靄(もや)が立ち込めています。靄と霧(きり)・・・似ておりますが、視界の利き方で区別されるそうです(霧のほうが靄に比べ視界が悪い)。霞(かすみ)というのもありますが、これはあくまでも文学的表現だそうで・・・確かに霞は食料にもなり得る?こともありますからね。

こう寒くなると布団から出たくなくなるのと同じ感じ・・・なのかな? 今月はすっかり更新が遅れてしまいました。話の種に悩んでいたのも一つで・・・なかなかすっきり出てこなくて、今日まで来てしまいました。悶々として「すっきり出ない」となれば、あのお話になりますね。ということで、今回は「お通じ」のお話にさせていただきます(苦笑)。

男性に比べ女性のほうが便秘の方が多いといわれ、「4人に一人」という報告もあれば、「2人に一人が便秘」と言う方もおります。なぜ女性に便秘体質の方が多いのでしょうか?医学的な面では、男性と比べ腹部の筋力が弱く腹圧をうまくかけにくいことがあります。また排卵後から月経前に増加するプロゲステロンという黄体ホルモンは腸管の動きを弱くさせ便通の悪さに拍車をかけることになります。生活行動の面では、排便を我慢することが続くと便意に欠け直腸の蠕動運動が低下することによる「直腸性便秘」を招き、また過度なダイエットは食物残渣と水分のバランスを欠いて便秘の原因となります。

「たかが便秘・・・」と軽く考えてはいけません。夏の暑い盛りに生ゴミをためたらどうなりますか?腸内温度は真夏の気温と同じくらいです。腸内で起こる腐敗・発酵を適切に処理しないと、健康を損なうことになりかねません。また10年ほど前ですが、20歳過ぎの女性が便秘による腸閉塞で亡くなっております。その方の腸内には実に6.7Kgのうんちが溜まっておりました・・・

それでは便秘体質を改善するにはどうしたらいいのでしょう?対策を立てるためには、「戦う相手」を知ることが大切です。排便を我慢したり浣腸が癖になったりして引き起こす「直腸性便秘」の方は、朝食後に排便することに心がけることが大切で、腹式呼吸や運動療法も効果的です。大腸の蠕動運動が弱く便意に乏しい「弛緩性便秘」の方は運動療法に加え、野菜や海草などの食物繊維を多く摂るのも有効です。また大腸の運動が激しすぎるため逆に便通を滞らせる「痙攣性便秘」の場合は、食事でも逆に繊維質を避け白身魚や葉野菜といった消化によいものを摂り、香辛料やストレスを避ける生活習慣を身につけることが大切です。これらの対策を講じてもなかなか「頑固」な場合は、いよいよお薬の出番となります。しかし今述べてきたように、便秘にはさまざまなタイプがあるので、薬の服用については専門家に相談してからのほうがよろしいでしょう。

もともとお通じがよい人も、また元来便秘がちの方も、妊娠によって便秘になったり、輪をかけてひどくなったりする傾向があります。その理由として、①妊娠によるホルモンの変化(前述した黄体ホルモンの増加)で腸管の動きが悪くなる、②妊娠子宮の増大が腸管の動きを妨げる、③妊娠する前に比べてからだを動かすことが少なくなる、などがあげられます。妊娠中の便秘は痔や静脈瘤(血管の「みみずばれ」)といったトラブルを招くことになるうえ、おなかの張りを便秘のためと勘違いすることで、切迫流早産の発見を遅らせる恐れもあります。従って妊娠中に便通を整えておくことは、とても大切なことといえます。ただお通じのお薬のなかには、妊娠中に服用するにはふさわしくないものもありますので、「便秘は医者よりも詳しい」って自負?して「お気に入りの便秘薬」がある方も、妊娠中の服用に際しては、一度主治医の先生に相談していただきたいと思います(2007.11.9

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みなさん、こんにちは。

10月に入りました・・・本格的な秋に突入ですね。読書の秋、食秋、芸術の秋・・・いろいろありますが、今年秋田では、929日より「秋田わか杉国体」が催されています。ここ鹿角は卓球競技の開催地になっていまして、今日は最終日で決勝戦が行われましたが、その最終日に大会救護班の一員として参加して来ました。といっても競技中に多数の選手が怪我や病気になるはずもなく、役得?でしょうか、かなり間近で選手たちの熱戦を観ることが出来ました。・・・恥ずかしながら秋季国体競技を観戦するのは初めてのことでして、しっかり閉会式まで参加してきました。たった一日だけの「大会関係者」でしたが、日々の診療ではなかなか経験できない充実感とすがすがしさを、いっぱいもらってきたところです。

そこで今回のカプリチョーザは「スポーツの秋」ということで、「妊婦さんとスポーツ」についてお話したいと思います。

生活環境の欧米化と利便性の向上により、一言でいいますと昔に比べて妊婦さんは動かなくなったというか、動かなくてよくなってきました。洗濯一つにしても、一昔前は洗濯するための水汲みから始まりましたが、今は「ボタンでポンッ!」ですものね。秋田県には「便所掃除をすると、きれいな子が生まれる」とか「便所掃除をすると、お産が楽になる」といった妊婦さんにまつわる言い伝えがありました。言い伝えなんて根拠ないものと考えがちですが、腰を落としてせっせせっせと和式便器を掃除するというのは、お産のときに重要な腹式呼吸の訓練になると同時に、産道を構成する骨盤底の筋肉を鍛えることになりますので、あながち「まるっきり嘘っぱち」とは言いきれないですよね。

「おめでた」とわかって「安静」まではいかなくとも、妊娠前より「おとなしく」するのは悪くはないのですが、一方で妊娠前と比べ運動量が減ることで、体重の増えすぎによるトラブルに見舞われたり、腰痛などを訴えたりする妊婦さんが増えてきました。このため最近では、妊婦さんでも身体を積極的に動かすほうが妊娠中の経過やお産によい影響を与えることが言われています。皆さんも「マタニティー・スイミング」「マタニティービクス」といった妊娠中のエクササイズを耳にしたことがあるでしょう。なんか耳障りもよくて、妊娠したのをきっかけに、私もやってみようかなぁ~~って思われている妊婦さんもいらっしゃるのではないでしょうか?でもちょっと待ってくださいね。

妊婦さんにふさわしい運動の条件として、①有酸素運動であること、②全身運動であること、③母児にとって安全であること、④長続きする楽しさがあること、などがあげられています。具体的な種目としては水泳・エアロビクス・ヨーガなどがあります。ここで大切なことは、妊娠したからといってエアロビや水泳を始めるというのではなく、スポーツが得意な方は日ごろからやり慣れたスポーツを続けて、スポーツをしていなかった方は、まずウォーキングから始められたほうがよろしいでしょう。やり慣れた運動といっても、バスケットボールのような瞬発性を必要とする運動やロッククライミングのような危険な運動、水上スキーのようなアンバランスな運動は妊婦さんには不適とされています。

運動は義務ではありませんから、常に自分が妊婦であるという意識を持って決して無理をしないでください。また妊娠していないとき以上に休息をとることと水分を補給することに留意していただきたいです。ついつい運動にのめりこんでおなかの張りに気づかず早産になってしまったり、お母さんの酸素や栄養分の消費量が上がって赤ちゃんの体重が伸び悩みになってしまったりする例もないわけではありません。運動を始める前には必ず主治医の先生から診察していただき、運動を始めるのに問題のないことを十分確認した上で行ってください。

妊娠中の運動は体力の維持・向上に役立つだけでなく、妊娠中のストレスから開放されたり、サークルなどに参加される方では妊婦さん同志の交流ができたりなど、妊娠中という閉ざされた生活から開放され気分転換が図れるメリットもあります。でも先に述べましたように、あくまでも運動は義務ではありません。継続することは大事ですが、妊娠途中でやめる勇気も必要であることを心に留めておいてください(2007.10.3)。


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みなさん、こんにちは。

記録的な猛暑となった今年の夏も、稲の穂が頭を垂れるに従い、気温も下がり過ごしやすくなってきました。九月は陰暦で「長月」・・・諸説ある中、夜がだんだん長くなる「夜長月(よながつき)」からきたといわれています。「秋の夜長」に、「実りの秋」を満喫するのも、この時期の楽しみかもしれませんね。

ここ数回のカプリチョーザでは秋田県における産婦人科と行政との「協働」について述べてきましたが、今回は不妊領域における医療と行政の取り組みをご紹介したいと思います。

「生殖年齢の男女が妊娠を希望して、およそ2年以上努力をしても妊娠の成立を見ない状態」を不妊症と定義しております。日常臨床において、不妊症の診療は若干通常の産婦人科診療と異なる点があると私は思います。一つは「子供がなかなかできない」ということ以外、明らかな症状がないことです。人によっては軽度の月経不順などがありますが、「かゆい」「痛い」など一般的な症状がありません。次に「来院までかなり悩んでおられる」ということです。自分の内なる悩みのこともありますし、周囲からのプレッシャーもあるでしょう。また「女性単独の検査や治療だけではない」ということです。不妊原因の約40%は女性単独因子といわれておりますが、男性もしくは双方に原因がある場合が約50%ありますので、その検査・治療には当然ですが男性の協力が必須となります。

他の婦人科疾患に比べ不妊症の診療では、個人のプライバシーに立ち入る項目も多く、そういうことも産婦人科の受診が「敷居の高いもの」にさせていると思います。また慌しい外来での診療に不安を覚えることがあるかもしれません。そこで秋田県では平成12年から「不妊とこころの相談センター」を開設しております。センターは県の委託により秋田大学医学部附属病院内に開設されており、不妊症の説明や、精神的ケアを目的としたカウンセリングなどを行っております。平成15年度からは電話による相談も行っております。「治療していてもゴールは見えない」「主治医に尋ねる時間がない」「まわりに相談できる人がいない」など不妊でお困りのことがありましたら、一度相談されてみてはいかがでしょうか?

不妊症の治療には体外受精や顕微授精といった高度な生殖補助医療技術も選択されます。県内でも体外受精が行われ20年近く経過し、その技術は一般的になりつつありますが、健康保険の適応とはなっておりません。治療の精神的・肉体的負担に加え、高額な医療費は経済的な負担にもなっているのが実情です。そこで平成12年度より県では体外受精や顕微授精といった健康保険の適応にない特定の不妊治療を受けたご夫婦に援助を行う「特定不妊治療費助成事業」を行っています。

助成対象者は、①秋田県内に居住し法律上の婚姻がなされているご夫婦で、②ご夫婦の合計所得額が650万円未満であり、③行う治療は体外受精もしくは顕微授精であることで、2年間の助成期間で1年に1回あたり10万円までの助成がなされていました。この助成事業の対象者や内容が昨年から徐々に拡大し、本年度からは、①ご夫婦の合計所得額が650万円未満から730万円未満に引き上げられ、②助成期間が2年間から通算して5年度と延長し、1年度あたり110万円までの助成が年2回まで支給されるようになりました。これらの治療は薬剤の投与などスケジュールを決めて行われておりますが、薬剤を投与しても卵胞が発育しないなど必ずしも期待した結果が出ないことがあります。このような場合は卵子採取以前に治療を中止することになりますので助成の対象とはなりませんが、皆さんの負担をいくらかでも軽減したいと始まった県の事業です。該当なさる方は積極的に申請していただきたいと思います(2007.9.2)。

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八月の声を聞いて、東北もやっと梅雨が明けました。ブーメランのように台風5号が再上陸して、今が盛りの東北の夏祭りの邪魔をところどころでしているようにみえます。再上陸前はフェーン現象のため猛暑でしたが、いまはそう気温は高くはないものの、むしむし湿度が高い状態です。台風や夏祭りなど・・・いよいよ東北も夏本番を迎えてきました。

夏の気温や行事などは、(今に限ったことではないですけど)ついつい人々の気持ちを開放的にさせますよね。さらに学生さんは夏休み中ということもありますから、そういう気持ちに拍車を欠けるかもしれません。暑い夏の一時期に背伸びをしてした一夜の経験が、その後の女性として生き方・・・美しい思い出になるか? 影を落としていくか?・・・に様々な影響を与えることはお分かりいただけることと思います。

「性」に関する話題というのは、どうしても「避けることができるのであれば避けたい」話題ですし、今もなおタブー視している方も、多くいらっしゃるのではないでしょうか? 私たち大人が子供達に「性」のことについて「躊躇」している間に、歯止めがかけられなかった事案がいくつもあります。例えば初交の平均年齢はますます低下しており、高校3年生までに初体験を済ませた女子は10年前は34%と3分の一でしたが、ここ10年でその率は10%程度上昇して約二人に一人は高校卒業までに初交を済ませているというデータが出ています。性的活動が活発化し、簡単に学生さんも携帯端末を所有できる現在、多種多様な情報が容易に入手することが可能になってきました。そうなるとさらに憂慮しなければないことがいろいろと出てきました。

1.  性感染症の蔓延(まんえん): 現在一番蔓延が危惧されている性感染症はAIDSです。現在もなお有効な治療法はなく、いまAIDSに対しての薬剤はキャリア(ウイルスを持っているが発症いない)状態を延長するのが目的です。発症してしまうと救命も困難ですので、いかに予防が重要であり、世界中でAIDS対策を国を挙げて行っていることが理解できると思います。しかしながら先進国の中でAIDS発生が右肩上がりで増加しているのは日本だけであり、昨年のHIVキャリアおよびAIDS患者数は合わせて1358件と前年より159件増加の過去最高となっています。また20代女性においては、およそ4人に一人が保有しているというクラミジア感染症の拡大も問題です。クラミジア感染症はあまり目立った症状はないため、罹患しているのを気づかず他人に移してしまう恐れがあります。また骨盤内に炎症を及ぼすため、卵管性不妊症の大きな原因となっています。少子化が叫ばれている現在、妊娠しやすい体内環境に整えておくためにも、不特定多数を相手にするとかコンドームを使用しないなどのクラミジアに感染するような性交渉を避けるが大切なのです。

2.  人工妊娠中絶率の増加: 人工妊娠中絶率は年を追う毎に減少してきておりますが、年代別に検討しますと10代の中絶率のみ増加傾向を示しています。初回妊娠を中絶した場合の後遺症については、後の月経異常や流産、不妊症のリスクを上げる報告もありますが、10代女性が妊娠すると、およそその3人に2人が妊娠中絶を選択しています。このような現状で、望まない妊娠を回避することは、その後の女性としての健康を損なわないためにも重要なことなのです。

本県の10代の人工妊娠中絶率をみると、全国平均と比較し5ポイント(人口1000人対比)ほど高値を推移していましたが、2001年をピークとして2004年には人口1000人対比11ポイントとほぼ全国平均レベルにまで低下してきました。以前の本稿で妊婦健診無料券のことについてお話しましたが、1999年より教育庁との協働で私たち産婦人科医が県内の高校・中学校へ出向き「性」についてのお話をするようになりました。仕事柄、「性」のお話といってもどうしても臨床的なことに傾倒してしまいます。性教育は単に生殖性や快楽性の話にだけに留まりません。異性を理解しあう社会性など人が生きていくうえに重要な事柄を内包しています。私達産婦人科医も人に「教育」するトレーニングを積んできたわけではありません。こと性教育については学校や医者任せにせず、各家庭でも取り上げていただけることを望んでおります(2007.8.6)。

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今宵は七夕です。年に一度、天の川で織姫と彦星の逢瀬がありますね。時間的には、深夜の1時頃が天の川 ・ 牽牛星(わし座のアルタイル) ・ 織女星(こと座のベガ)の3つが最も見ごろになるとのことです。今日の鹿角は雲ひとつない好天ですので今宵の夜空が楽しみですが、一方で七夕に降る雨を「酒涙雨(さいるいう)」といい、織姫と彦星が流す涙と伝えられています。九州では記録的な大雨になっているとのことで、大雨で被災された方には災害お見舞い申し上げます。

毎年当院では、この時期が鹿角市の子宮がん検診のピークになっております。トップページにも記載しましたが、待合も混雑し診療も通常より遅れがちになっており、皆様にはご迷惑をおかけしております。検診と平行して、検診後の精査受診に見えられる方も、ちらほら見受けられるようになりました。がん検診に「ひっかかる」と、青ざめて受診される方を多くみます。でもちょっと待ってください。「がん検診」で「ひっかかった」といって、イコールがんというわけではありませんよ。

では改めて「子宮がん検診」では、どんな検査をしているのかを、「おさらい」してみましょう。

1.   内 診 : 婦人科ならではの診察です。以前は子宮や卵巣の大きさをみる目的でしたが、後で述べる超音波検査のほうが計測には優れています。むしろ超音波検査ではわかりにくい所見、たとえば子宮などを内側から押したり動かしたときの痛みの具合などを調べて、子宮内膜症などの病気の有無を調べます。

2.   子宮頚部細胞診 : 子宮の出口・・・お産のときに「5cm開いた」などという部位ですね・・・そこを専門用語で子宮頚部というのですが、その子宮頚部の表面をこすって細胞を採取します。これを子宮頚部細胞診といい子宮頚がんを見つけるための検査で、狭い意味での「子宮がん検診」といえましょう。

3.   超音波検査 : 子宮および卵巣などに超音波をあて、ブラウン管に像として映し出す検査です。皆さんが図鑑などで見るような子宮や卵巣の形態を痛みを伴わないで観察することができますので、子宮筋腫や卵巣腫瘍の発見に優れています。

 

このことから「子宮がん検診」に「ひっかかった」といっても、それは子宮筋腫を認めたのかも知れないし、卵巣が腫れていたのがチェックされたかも知れません。また細胞診の標本でおりものの汚れが見つかって受診を勧められることもありますので、二次検診の受診を勧められたからといって、決して「がん」や「がんの疑い」というわけではありません。どういうことで検診にひっかかって、二次検診を勧められたのか?・・・ということを、受診先の産婦人科の先生からお話していただいて、十分納得した上で二次検診を検査に臨まれてください。

一方で、二次検診を受診するよう通知をもらっていても、受診されない方もいらっしゃいますω`)。せっかく(多分無症状の)早い状態でトラブルが見つかった「ラッキーな方」ですので、その「幸運」を活かして「火種」の小さいうちにぜひとも対処して頂きたいと思います。また検診という場は、原則として病気を見つける場ですので、子宮筋腫などで婦人科に定期通院されている方は、子宮がん検診の申し込みについて予め主治医の先生にご相談されてください。

今月末には参議院選挙があります。いろいろ争点がありますが、増税?もその一つになりそうです。皆さんが受診される検診にも、少なからず税金が使われております。効率よい検診の受け方をなさって、自身の健康管理にお役立て頂ければと願っております(2007.7.7)。

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 6月に入りましたね。暦では6月は水無月といいますね。この水無月の「無」は「の」という意味で「水の月」、すなわち田んぼに水を入れる月という意味だそうです。しかし先月末の四国の水不足や、今日のような30度近くの気温を目の当たりにすると、「水の無い月」とうっかり受け入れそうになります。

 さて先月末に日本の将来人口推計というものが発表になりました。それによると今から28年後の2035年には秋田県の人口は現在の約3分の2である783000人になり全国で最も人口減少幅が大きくなると推計されました。内訳を見ると2035年には65歳以上の老年人口の割合が41.0%2005年は26.9%)と全国で最も高くなる一方、15歳未満の年少人口は8.7%2005年は12.4%)と全国45位になり、当県では少子高齢化が一段と進行する深刻な結果となっています。このような少子高齢化に対し、私たち産科医がアプローチできることは限られていますが、秋田県では行政との協働で妊婦健診無料券の増発が進んでいます。「お産は病気でない」という考えがあるため、お産に関係する受診は原則として健康保険がきかない自費診療になり、全額妊婦さんの負担になります。妊娠4ヶ月から始まる妊婦健診は、はじめは4週間に1回ですが、7ヶ月からは2週間に1回、10ヶ月からは生まれるまで毎週になりますので、予定日頃に産まれたとしても1314回の妊婦健診を受けることになります。これら妊婦健診について、以前は妊娠前期(みどりの券)と後期(オレンジの券)の2回の公的補助しかありませんでしたが、秋田県では平成9年からは超音波健診の無料券(水色の券)、平成12年からは感染症(C型肝炎・エイズウイルス・成人T細胞白血病ウイルス)検査の無料券(ピンクの券)、平成14年からは10ヶ月以降行うNST検査(赤ちゃんの心拍と子宮収縮の検査)の無料券(黄色の券)が出され、さらに平成15年からは健診4回分の無料券(白色の券)が増発されました(但し県内一律の枚数ではありません)。多くの自治体が前後期2枚の無料券しかないのに比べ、秋田県ではその発行枚数が多いことがお分かりになると思います。
 4年前から健診無料券の枚数は大きく増えましたが、その効果は出ているのでしょうか?赤ちゃんを産んだばかりのお母さんにアンケートをとったところ、次のような結果が出ております。
  ①健診を受けない妊婦さんが少なくなりました:妊婦健診を7回より受けていない妊婦さんの割合は3.2%1.1%→0.9%(平成16年→平成17年→平成18年)と減少しています。また同時に妊婦健診を全く受けない妊婦さんも減少しています。
  2人目・3人目の妊娠にも好影響を与えているようです:前回の妊娠で増発券を使用した方の半数以上の方(平成17年は62.5%、平成18年は51.4%)が、次の妊娠を考える上で無料券の増発を好意的に考えておりました。
 このように有力な力ということはできませんが、妊婦健診への補助は少子化の歯止めに少しは働きそうです。でもここで気になるデータもあります。それはアンケートに答えたお母さん方・・・それも初めてお産した初産婦さんの多くが、妊娠前にこのような健診補助が増えたことを知らなかったということです(無料券が増えたと知っていた人の割合は、20歳代初産婦で12.2%、20歳代経産婦で65.3%、30歳代初産婦で17.5%、30歳代経産婦で44.2%でした)。妊娠・出産以上に育児にはお金がかかるものですので、妊娠時の補助で少子化が簡単に解決できるわけではありません。それは十分理解できますが、このような妊娠中の補助が秋田県では積極的に行われているということも(特にこれから妊娠を考えていますような女性が集まる場で)皆様方の話題に積極的に取り上げられていただければと希望しております(2007.6.4)。

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連休も今日でおしまいです。暖冬・暖冬といっていた割には桜の開花はほぼ例年通りで、花見が早まるわけでもなくクリニック近くの桜並木もこの連休でほぼ満開な状態です。今年はお花見にいかれましたでしょうか?
 桜が咲くと「春本番」。服装も軽やかに外出する機会も増えることと思います。気温・粉塵・紫外線など皮膚や髪にダメージを与える要因にさらされることも多くなるでしょう。さらに妊婦さんの場合、妊娠そのものの影響で身体に大きな変化がもたらされますが、お肌や髪にも変調をきたす場合があります。今回は連休?ということで、医療の本道からはチョッと寄り道して、妊娠中のスキン・ケアとヘア・ケアについて、(なにせ本職ではありませんし男性ですので・・・)おさわり程度にお話したいと思います。
 妊娠中に増加するホルモンの影響によりメラニン色素も増加し乳輪やわきの下、陰部などの皮膚の色が濃くなります。このような色素沈着は個人差もありますが、妊娠中のお肌のトラブルでよく知られているものとして、妊娠性雀斑(じゃくはん)と妊娠線があります。「雀斑」というのは医学用語で「そばかす」のことで、妊娠により頬や目の周りなどにそばかすが多くなります。また妊娠後半になると皮下脂肪が増えたり子宮も大きくなるため、お腹の皮膚が引き伸ばされ妊娠線の誘引となります。
 これらの皮膚のトラブルにまったく遭わないということは出来ませんが、適切なスキン・ケアでいくらかでも回避することは可能です。スキン・ケアのもっとも大切なことは、自分のお肌のタイプ=「肌質」を知るということです。肌質は、お肌の水分量と皮脂量によってN肌(普通肌)・O肌(脂性肌)・D肌(乾燥肌)・DO肌(乾燥型脂性肌)の4つのタイプに分類できます。自分の肌質を見極めたうえ、スキン・ケアを行うことが重要です。
 ◎ スキン・ケアの基本
 1)汚れを落とす:お肌の表面に汚れがついたままでは、どんな化粧品を使っても、お肌はいい状態になりません。
 2)バランスを整える:化粧品や乳液、クリームで水分・皮脂・保湿成分を補い、お肌を潤いのある状態に整えます。
 3)活力を与える:マッサージや入浴は新陳代謝を高め、血行を促してお肌の活力を引き出してくれます。妊娠線の予防にも効果的です。
 4)環境から守る:必要に応じて日焼け止めやUVカットの乳液を用い、紫外線や乾燥などからお肌を守ります。特に紫外線対策は妊娠性雀斑の進行を抑えるのに効果的です。

ヘア・ケアとは、毛髪と頭皮を健やかに保つ手入れのことをいいます。妊娠中のヘア・メイクは薬剤の刺激に要注意です。よくヘアカラーについて質問を受けるのですが、つわりの時期には薬剤のにおいだけで具合が悪くなることがあります。ヘアカラーをしたい方は、医薬部外品の酸化染毛剤は避け、刺激の少ない酸性染毛料(ヘア・マニキュア)や着色染毛料(スティックタイプのものなど)などを使用します。

  ヘアスタイルについては、洗髪などの手入れの簡単さを考えるとショートカットですが、出産前にショートにしても、授乳時期に美容院にいけないと中途半端な長さになって、髪が授乳中の赤ちゃんにかかることがあります。やや長めにしておいて後ろでまとめるようにすると、しばらくカットに行けなくても困らなくてすみそうです(今回は日本産科婦人科医会のリーフレットを参考にしました) 2007.5.6)。

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  暖冬のおかげで例年になく順調に雪解けが進んでいます。でも4月に入っても、真冬を思わせるような吹雪も鹿角ではありました。でも路肩の雑草に少々積もるくらいで、温みのあるアスファルトまで隠すような勢いはありません・・・ゆっくりとゆっくりと春は着実にやってきていますね。

さて新年度を迎えました。進学・就職のため新たな環境となりいろいろなイベントの予定が入ってくる方もいらっしゃると思います。また在校生の方の中には修学旅行などの楽しいイベントも控えている方もいるでしょう。でも一方でそのようなイベントと月経がどうも「かち合う」ことが予想され、今から憂鬱になっている方もいるのではないでしょうか?

初潮を迎える思春期は女性の身体としてはまだまだ「一人前」とは言えず、車で言うとまだ「新車」の状態といえます。購入したばかりの車がいろいろマイナー・トラブルに出くわすように、思春期では月経のマイナー・トラブルが付きものであるといっても過言ではありません。特に初潮から間もないころよりも、むしろ体型が成人女性に近づく16歳以上の年齢で、下腹痛などの不快な症状の総称である「月経随伴症状」の出現が多くなる傾向があります。

月経随伴症状のうちでも、月経時(あるいはその直前から)の日常生活が著しく乱されるような強い下腹痛や腰痛をきたすものを月経困難症といいます。月経困難症には子宮内膜症などの背景となる病気が存在する器質性(続発性)子宮困難症と、特に原因となる疾患が存在しない機能性(原発性)子宮困難症の2つに分けられます。思春期の月経痛症のほとんどが後者の機能性子宮困難症であり、思春期特有の疾患ともいえます。

思春期における機能性子宮困難症、いわゆる生理痛とどう付き合い、どう乗り越えるか・・・? 大切なことは月経を明るく肯定的に受け止めるという「ポジティブ・シンキング」であるといえます。月経は生理的な現象で健康な女性の毎月の経験であり、月経痛はその一つの現れであると前向きに捕らえることが大切です。また月経期間の骨盤内の充血を解消するために、適度な運動療法も効果があります。

しかしながらこれらの健康教育や運動療法も効を奏さない場合、鎮痛剤などの薬物療法を行うことになります。この薬物療法に関して、「鎮痛剤は癖になるからできるだけ痛みは我慢して、我慢しきれなくなったら使うように」とよく言われますが、これって本当のことなのでしょうか・・・?

答えはNoです。月経痛のきつい方は、月経が始まったら直ちに(時に開始数日前から)服薬を開始することが大切です。いったん激しい痛みが生じてから服用しても、十分鎮痛ができないことから鎮痛剤への不信感が増大したり、月経へのネガティブ・イメージが膨らんで、月経前から体調不良を起こす月経前症候群の発症を誘発しかねないからです。このことより、月経痛に対する鎮痛剤の使用については、躊躇することなく服用していただきたいと思っています。

旅行や受験といった予め計画されている行事に月経が重なりそうな場合、その行事に月経が重ならないように調節することが可能です。その調節には女性ホルモン製剤を用いますが、数十年前から安全に使用されている薬剤です。そのような薬剤・回避の方法があるのに月経調節をしないせいで、楽しいはずのイベントが月経痛のためにつまらなくなるのは悲しいことです。月経の調節は予定される月経を早く来させる(早発)ことも、遅くずらす(遅発)こともできます。しかし月経周期の安定しない思春期の方には、私としては予定月経を早く来させて調節するほうをお勧めしています。薬剤は決められたスケジュールどおり服用するものですので、余裕を持って受診されたほうがよろしいでしょう(2007.4.6)。


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みなさん、こんにちは。

 「爆弾低気圧」がもたらした大雪も今年の暖冬には勝てず、クリニックの周りには全く積雪を認めません。3月に入ったばかりだというのに、九州のとある地方では、夏日を記録したとのことです。本当に今年の暖冬には、驚かされてしまいます。

さて早いもので今年度ももう終わりとなります。妊婦健診で県内の産婦人科に通院された妊婦さんは既にご存知だと思いますが、今年度・・・といっても昨年の秋口くらいからですが、県内で妊婦健診を受けている妊婦さんには妊娠中に緊急帝王切開の手術同意書を頂くようになりました・・・手術とは無縁で母児ともに健やかに妊娠が経過していても、またお産はまだまだ先のことであっても、妊娠中に帝王切開術の同意書を頂くとはどういうことなのでしょう?

ご存知のように、帝王切開術とは赤ちゃんを手術でとりあげる分娩方法です。手術の仕方は同じですけど、通常の分娩が期待できない理由があるため産気づく前に手術でとりあげるのを選択帝王切開術(昨年の紀子様がなられた前置胎盤などの病気などがあります)と、お母さんもしくは赤ちゃんに突発的なトラブルが生じて急いで分娩させる緊急帝王切開に二分されます。その緊急帝王切開の背景になる病気も多々あるのですが、①赤ちゃんが生まれる前に胎盤がはがれてしまう(普通は赤ちゃんが生まれてから、後産といって胎盤が出てきます)常位胎盤早期剥離という病気と、②赤ちゃんがお母さんの子宮の中で苦しがる胎児ジストレス(胎児機能不全)という状態は、赤ちゃんに重い後遺症を残したり、時に赤ちゃんはおろかお母さんの生命をも脅かす病気ですので、一刻を争って緊急帝王切開術を行わなければいけません。

しかしながらこれらの病気というのはほとんどの場合、何の前ぶれもなく突然発症するため、主治医をはじめとした医療スタッフは手術など治療や高次医療施設へ移る(母体搬送といいます)準備に全力を注がなければいけません。そのため妊婦さん御本人や御家族の方に十分説明を施す時間的余裕がない場合がほとんどです。みんながみんなこの病気になるわけではありません。でも妊婦さんとご家族の皆さんがこれらの病気について事前に理解をしていただくことによって、治療の進行が円滑に進んで、ひいては妊婦さんや赤ちゃんにもよい結果がもたらせるものであると、私達県内の産婦人科医は考えまして、昨年から事前同意書の作成を始めております。

妊婦さんがお読みいただくこれら緊急帝王切開術の同意書は、全県同一のフォーマット(書式)のもので、どこでお産をするにせよ県内で妊婦健診を受けている妊婦さんにそれに従いお話しております。そしてご理解していただければ同意書に署名を頂いております。不幸にしてこの2疾患になった場合は、口頭でのお話のみで緊急帝王切開をさせていただきます。県内であれば病院が変更になっても同意書は有効なものとさせていただいておりますが、これら2疾患以外で帝王切開になったり、またこの2疾患になった場合でも、県外に母体搬送され帝王切開術になる場合などは、この事前に頂いた同意書は無効になる旨はご承知おき下さい。

あまりにも先回りした対応でびっくりされる妊婦さんも中にはいらっしゃいます。でも「転ばぬ先の杖」で「石橋をたたいて渡る」のは産科にとって非常に大切なことなのです。同意書に関して疑問に思ったり不安に思ったりしたことがありましたら、主治医の先生にご相談されてください(2007.3.6)。

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近年まれに見る暖冬で、ここ鹿角も今月10日からの冬季国体の開催に雪不足が影を落としかけておりましたが、2月に入ったとたんに、30cm以上のまとまった降雪がありました。やはり2月は侮れませんね。これから身体の芯から冷える日も多くなりそうです。

熱燗や熱いコーヒーや紅茶など、どれも冷えた身体を内から温めるもので、寒い季節にはグッと惹きつけられるものばかりです。でも妊娠しますと、これら嗜好品の摂取というのは気になることではないかと思います。

1. 妊婦さんとコーヒー

コーヒーに含まれるカフェンインが問題となります。本邦における研究はありませんが、スウェーデンの研究では1日に5杯以上のコーヒーを飲むと、 飲まない人と較べて、子作り(受胎能)に影響を及ぼしかねない上、流産のリスクが2倍に上昇することが報告されています。一方、デンマークでの研究では、妊娠後期に1日に3杯のコーヒー、これはカフェンイン量として317mgでカフェイン入りのインスタントコーヒー4杯、もしくはレギュラーコーヒー2杯半に相当しますが、それだけのコーヒーを飲んだ妊婦さんと、同量のカフェインの入っていないコーヒーを飲んだ妊婦さんを較べても、早産率や生まれてきた赤ちゃんの体重に際立った差を認めませんでした。

カフェインも薬物の一種なので、摂らないのならそれに越したことはありませんし、仮にカフェインを完全に断つことができれば、おそらくそれが理想的であろうとも言われています。でも1日に1~2杯のコーヒーであれば、ほとんどの妊婦にとって問題とならないとも考えられております。でも受胎能への影響は問題として残っていますので、妊娠しにくかったり流産を繰り返す場合は、生活習慣を改めるという意味でカフェインを断つことも一考していただければと思います。

2. 妊婦さんとアルコール

どうも秋田県はお酒に関して「寛大な」土地柄ということもあり、社会生活の潤滑油として、ほかの地域以上にお酒の役割は大きいのではないかと思います。ついつい飲みすぎて・・・後で妊娠が発覚!となって、急に青ざめた思いをした女性もいらっしゃることでしょう。一般に一日のアルコール摂取量が15ml未満の場合、胎児への影響が少ないといわれています。アルコール量15mlというのはワインであればグラス1杯、日本酒であればコップ半分、ビールであれば350ml1本の量です。しかしながらアルコール(エチルアルコール)もカフェイン同様一種の薬物なので、「これ以下の飲酒量であれば胎児に影響はない」という安全量は残念ながら確立されておりません。妊娠が判明したら、すぐに禁酒するのが賢明と言えましょう。蛇足ですが、妊娠中に多量のアルコールを常用したお母さんからは生まれた赤ちゃんには胎児性アルコール症候群(FAS)の発症が認められています。その一症状に多動などの精神障害があるのですが、それが母体の多量のアルコール飲用によるものなのか、それとも母体が多量に飲酒をするという劣悪な環境に依存するものなのかはいまだ十分解明されてはおりません。いずれにしても「妊娠中は飲まないことに越したことはない」ということです(2007.2.5)。


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みなさん、あけましておめでとうございます。

一昨年末の大雪とは対照的に、ここ鹿角でも積雪がまったくない、アスファルトが乾いたままのお正月でした。長年雪国に住んでいる私も、初めての経験です。除雪しなくて楽は楽なのですが、こういうのも地球温暖化の影響なのでしょうか?当地は県内でも指折りの「りんご」の産地なのですが、あと80年もすると、通年気温が四国並みになり名産が「りんご」から「みかん」になるとも言われています。今年の冬をみますと、あながち絵空事とは思えませんね。

さてまれに見る暖冬ですので、前々回から連載している「冷え性」についても例年と比べ難儀なさっている方が少ないのではないかと思われます。でもこれからが冬本番! その本番に向けて、今うちから対策を練っていきましょう。

先の本稿にもありましたように、「冷え性」というのは西洋医学において病態としての認識がありません。一方、東洋医学的なアプローチを施しても、私達が通常服用している熱さましや痛み止めなどの薬のように、数時間で効果を発現するというものではありません。「冷え性」の薬物治療は「かぜ」の治療と相通ずるものがあると私は考えています。よく「風邪の特効薬ができたらノーベル賞ものだ!」といいます。巷にある風邪薬は風邪をおこすウイルスをやっつけるのではなくて、風邪によって生じた咳・鼻水などの不快な症状を緩和するのが目的です。そのためうがい・手洗いなどの予防が重要となります。「冷え性」も似ており、薬剤は「冷え性」を治すのではなく、「冷え」を緩和するのが目的で、その効果を高めるには日頃の対策が必要と考えています。では、どのような対策があるのでしょう。

1.       身体を冷やさない

 ・・・「そんなの、当たり前でしょ」といわれそうです。でも外来でお話していると、「えっ?」と思うくらいの薄手のいでたちで「冷え」を訴える方がいらっしゃいます。薄着を避ける・下半身を冷やさない等の基本的な対応はしていただきたいと思います。

2.       血行をよくする

 寒いと身体を動かすのがおっくうになりがちですが、適度の運動は冷え性の改善には効果的です。また血行をよくするといえば、入浴がまず頭に浮かぶと思います。確かに血行はよくしますが、全身浴では湯冷めまではいかなくとも、効果が短い方もいらっしゃいます。そのような方には入浴面積の少ない「足湯」や「腰湯」のほうが効果的でしょう。また締め付けのきつい衣類などは、血行を悪くしますので要注意です。

3.       食べ物に気をつける

 「医食同源」ではないですが、「冷え性」の方は「身体を温める」作用のある「陽性」の食品を摂るように心がけ、「身体を冷やす」作用のある「陰性」の食品を摂るのは避けましょう。「陽性」の食品の代表としてはねぎ・しょうがなどの香味野菜、ごぼう・にんじんなどの根菜類があり、「陰性」の食品としては砂糖を多く含んだ甘味・チョコレート・スナック菓子、またタバコなどがあります。また脂溶性ビタミンのビタミンEには血行促進作用があり、アーモンドや落花生などに多く含まれています。

このような生活習慣にも気配りしても難儀する場合、いよいよお薬の出番となります。しかし一口で冷え性といっても十人十色。どの部分に強い冷えがあるのかなど、十分な問診や診察をしたうえでの処方になります。それが見つかるのがすんなりいくか、紆余曲折するか・・・いずれ主治医の先生と二人三脚で貴女に適した治療を見つけることになると思います。(2007.1.8)。





院長のcapricciosa(気まぐれ)