みなさん、こんにちは

 ・・・なかなか梅雨が明けない夏を迎えています。熊本を中心として九州では豪雨のために甚大な被害がもたらされています。首都圏ではCOVID-19の流行がなかなか沈静化せず、Go Toキャンペーンも「東京抜き」という結果になってしまいました。停滞している経済を動かして「国力」を高めたいところですが、「エンスト」となる要因が浮かび出てきて、なかなか前に進めない日が続いています。みなさん、「自粛疲れ」にはなっていませんか?

 さて前回の本稿では「COVID-19での自粛中に感じたこと」ということで、妊娠中絶数の増加についてお話ししました。「妊娠」というエピソードについて、最終的な結果の一つである「中絶」ということに着目しましたが、今回の本稿ではその端緒である「受精」についてお話ししたいと思います。

 立場上、中・高校生へ性教育講和をする機会があるのですが、そういう場では「sexをするということは常に妊娠の可能性があるということ」とお話ししています。確かに性周期が確立していない思春期の女性では、月経も機能性子宮出血も明確に区別がつかないこともありますから、そのようにお話しします。しかし性周期が確立できていれば「妊娠しやすい時期」と「妊娠しにくい時期」が存在します。世界的な産婦人科医師である荻野久作先生が提唱した理論では、妊娠しやすい時期は「予定月経日の12~16日前」となっており、またそこから派生して「予定月経日の1~7日前が妊娠しづらい」ことで避妊する仕方を「リズム法」といいます。また「10 days rule」といって、以前は月経開始から10日以内には妊娠の可能性はないので、女性のレントゲン検査にふさわしい時期とされておりました(注:現在は診療用放射線検査が胎児に影響を及ぼすとは考えられず、また10日以内のsexでは妊娠の可能性がないわけではありません)。

 ご存じのように精子と卵子が出会って受精し妊娠が成立しますが、1回の射精で放出される精子は約1~4億で、その生存期間は3~5日と言われています。一方の卵子は排卵するまで「原始卵胞」という形で卵巣にストックされており、その数は胎児のときは200万個、初潮の頃で20万個、以後月経周期ごと1個が排卵されていきます。射精された精子は3~5日の生存期間の間に秒速2~3mmで移動していきますが、およそ約半数が子宮内に進めません。子宮内に進めても卵管の端まで到達するのが約1,000、卵子まで到達するのが約250、そしてそのうち受精能を有するのが約10%という、気の遠くなるような「生存競争」が働いています。一方原始卵胞は1周期あたり3~4個が発育して排卵に備えます。卵胞液に満ちた袋の中に卵子を含んだ原始卵胞が発育すると、その袋がはじけて噴出した卵胞液の推進力に乗じて卵子が飛び出ます。この現象を排卵といい、排卵された卵子が妊娠できるのは24時間ほどと言われてております。妊娠可能な時期にこのようなプロセスで妊娠が成立する割合は20代で30~50%と言われており、1年間励んでも妊娠成立しなかった場合、医学的には不妊症の定義となります。

 ここまで見ると受精卵が成立する過程はまるで「竹取物語」のように、殿方のみが必死になっていて、姫君は「座して待つのみ」で何もアクションを起こしていない風に見れますが、最近の研究ではあながちそうとは言い切れないみたいです。卵子を育み排卵に推進力を与える卵胞液が、精子を誘導させる力があるという報告がありました。複数のカップルにおける研究で、どの女性から採取された卵胞液も、ある特定の精子だけ強く引き付ける(=卵子に向かって真っすぐ泳ぐようになる)ことが観察されたということです。この研究で残念なことは、カップル同士だからといって、ミクロの世界ではそのカップルの精子と卵子が必ずしも引き付けられてはいないということです。

 なので卵胞液の働きが妊娠成立において何らかの形で関与しているのかもしれませんが、それについては未だブラックボックスであり、また現在の高度生殖医療においては、手技や操作においてその関与は極めて小さいと考えられます。この論文を読んでミクロの世界においてでも「女性(卵子)が男性(精子)を選り好みしている」という事実を目の当たりにして、数億の精子の製造者の一人(?)としては、せつない気持ちになってしまいました(興味のある方は原著論文です:Fitzpatrick JL, et al.Proc Biol Sci. 2020 Jun 10.)(2020.8.1)。

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院長のcapricciosa(気まぐれ)