バックナンバー


 新年度になりました

 敷地内の融雪が進むにつれ、1月の豪雪の記憶も薄れながら着実に春を迎えています。先月も初旬に降雪はあったのですが、積もるほどの力はなく、昼頃にはすっかり溶けてしまいました。帳簿の記録では、3月にも重機がないと困ってしまうような積雪に見舞われる日もあったのですが、2020~2021年の記録的小雪以降、3月に重機による除雪はほぼ経験しなくなりました。生涯雪国におりますと、春が早くやってくるのはそれなりに嬉しいのですが、短期集中型の豪雪は勘弁したもらいたいものです。季節は着実に「四季」から「二季」に変化している・・・その速さに不安を覚えてしまいます。

 さて新年度を迎えまして、このカプリに手を染めだし20年が経過しました。内容の多くが医療的なことですので、20年という月日は医療の世界においてパラダイムシフトが起きるには十分な期間でもあります。私が学生の頃、白血病の治療というと多剤による複合的な化学療法のみでしたが、卒業数年で骨髄移植という有力な治療法が導入され、予後の改善に大きく寄与していることは皆さんも知っていることと思います。当初より本稿では産婦人科の医療について、つらつらと書き留めてきましたが、最近Lancetという有名な学術雑誌で重度のつわり(妊娠悪阻)について種々の論文を検討したレヴュー(文献検討)が掲載されていました。そこで以前の本稿(2015.11.1)のリニューアルを兼ね、一部ご紹介したいと思います。

1. 「つわり」から「妊娠悪阻」へ : 以前の本稿でも述べましたが、妊娠することで出現する食思不振・吐き気・嘔吐などを一括して「つわり」と呼んでいます。発症の多くは赤ちゃんの心拍が観察される6週くらいから立ち上がって、12~16週(4~5か月)には自然におさまります。この「つわり」が重症化し体重減少、脱水症状、電解質異常、栄養欠乏を招いた状態を「妊娠悪阻」といいます。一般的な「つわり」が7~8割の妊婦さんに認められますが、妊娠悪阻まで至るのは全妊婦の0.3~3.6%と言われています。吐き気や嘔吐は朝に起きがちと思われておりますが、意外と吐き気の91%、嘔吐の47%は午後に発現しております。また次回妊娠での再発リスクは15~81%と論文によって大きな幅があります。

2. 精神的なダメージ : 妊婦さん自身の心理的要因でつわりが重症化するのは否定的であり、むしろつわりの重症化がより妊婦さんのメンタルに大きな大きな影響を与えているようです。論文によると妊娠悪阻により①5%の妊婦さんが妊娠中絶希望を持っている、②自殺企図を常に持つ妊婦さんが7%、時に持つのものは25%にものぼっているとの報告がありました。

3. 原因はホルモン? : 今までは妊娠初期に急増するヒト絨毛ゴナドトロピン(hCG)や妊娠初期から高値を維持する黄体ホルモン(プロゲステロン)などが考えられておりましたが、最近の研究でサイトカインというたんぱく質の1つであるGDF15(成長分化因子15:Growth Differentiation Factor 15)の関与が注目されています。GDF-15は平時ではほぼ産生されていませんが、加齢やがんといったストレスが大きくかかった時に増加し、その働きの一つとして脳にある嘔吐中枢を刺激し吐き気や嘔吐を促すことがわかってきました(過度の緊張で吐きたくなる・・・というのにも関与していそうです)。hCGと同様に妊婦さんでは妊娠初期にGDF15濃度は急上昇しており、その由来が胎児側由来であることも研究により判明しました。さらに妊娠する前の血中GDF15が低値ほど妊娠悪阻になりやすい傾向であること、つわりが軽い群より重い群でGDF15が高値であることより、GDF15とつわり~妊娠悪阻との高い因果関係が示されています。

4. 治療は・・・?:以前の本稿にも記載しましたが、ビタミンB6とドキシラミンというアレルギーの合剤(ボンジェスタ®)というお薬がこのレビューでも第一選択薬として推奨されています。しかし現在に至るまで本邦で保険収載される薬剤として認可されておりません。

 このような感じで「ぐだぐだ」しているうちに、先述したGDF15の作用機序に着目した妊娠悪阻の新薬が創薬され、本邦における悪阻の治療は世界レベルで2周りの周回遅れになりそうです。低用量ピル・緊急避妊薬・HPVワクチンなど、どうも女性の健康に関する薬剤の導入は牛歩の遅さです・・・どうにかならないものでしょうか? (2026.4.1)。 


院長のcapricciosa(気まぐれ)