今年も半分を迎えました。
ここ数年、ゴールデンウィークが終わると一気に初夏という気温となっていましたが、今年は幾分春を楽しめるような気候か続いていた感じがします。しかし先月の半ばには九州南部が梅雨入りし、例年よりも2週間も早いそうです。温暖化の影響もあるのでしょうけど、九州の梅雨入りが早いからと言って東日本の梅雨入りも早くなるとは言い切れないそうです。制度は向上してきているとはいえ、気象予報のむずかしさがありますね。
ほぼ1年前の本稿で、妊婦さんへのRSウイルスワクチン接種について取り上げました(2024.7.1稿)。RSウイルスとは「夏かぜ」の代表的な原因ウイルスで、大人がかかってもそれこそ「夏かぜ」で済ませられますが、生後6か月以内で初感染の場合は肺炎など重症化したり、突然死につながる無呼吸発作を起こしたりすることもあります。さらに生後1か月未満の赤ちゃんが感染した場合は、必ずしも典型的な呼吸器症状を示さないこともあり、診断の困難さから重症化に拍車がかかるともいわれています。そのため「母児免疫」といって妊婦さんがワクチンを接種することで赤ちゃんに免疫を作ってあげることで感染を防ぐことができます。妊婦さんへのRSウイルスワクチンは昨年5月に発売され、まだなじみもなく希望者は少ないですが、今年度から接種費用の半額が助成されるようになりました。これから夏に向かうので、夏かぜの代表ウイルスであるRSウイルスに対し免疫をつけることは大切ですが、その前に現時点で流行している呼吸器感染症があります・・・それは「百日咳」です。本県ではあまり目立っていませんが、先月には宮城県で感染者数が増加しておりました。岩手県でも感染が出ており、いつ本県に流行が及んでもおかしくない状況です。
近年の感染症の病名がカタカナであるところで、「百日咳」と和名であるところから、古くからの病気であることは推察できると思います。最近の呼吸器感染症の病原体がウイルスであるのに対して、「百日咳」は「百日咳菌(ボルデテラ・ペルタシス菌)」という細菌が病原体となっています。「百日咳」という名前の通り、約100日にも渡って特徴的な咳~短い咳が連続的に起き、咳が終わるとヒューと音を立てて大きく息を吸い込み、痰が出ておさまる~が繰り返し続きます。この菌の感染力は非常に強く、咳やくしゃみを通して容易に感染し、乳幼児や高齢者では重症化する懸念もあります。そのためジフテリア・破傷風との3種混合(さらにポリオを含めた4種混合)予防接種の1疾患に組み入れられています。
百日咳の症状は①カタル期(1-2週間)、②痙咳期(1-6週間)、③回復期(数週間~数か月)の3期に分けることができます。①カタル期:微熱を伴う通常の感冒症状のみで、この時点での診断は困難な場合があります。②痙咳期:痙咳(けいがい)とは百日咳に特有な咳で、咳発作の後に息を吸うとき笛声(ヒューイング)が聴取されます。連続的で止まらない痙咳発作になると、せき込んだ後に嘔吐や顔面紅潮が生じることがあります。③回復期:文字通り咳の改善と全身状態が改善してくる時期です。回復に3か月余も要することが「百日咳」の由来するところになっています。
現在はマクロライド系の抗生物質のおかげで治療することができますが、やはり予防するに越したことはありません。現在4種混合接種の定期接種は4回あり。生後3か月・4か月・5-11か月・1歳であり、5-6歳と10歳以上に2回の任意接種を勧めています。任意接種を勧めるのはワクチンの免疫効果は接種後4~12年で減弱し、ワクチンを打っていても感染することがあるからです。従いまして通常の妊婦さんにおいては幼少時の混合ワクチンの免疫効果は期待できず、また妊娠前と比べ免疫能が低いこと、また生まれてくる赤ちゃんにとっては初回接種までの期間に感染すると重症化リスクが高いことを考えますと、妊娠中に接種することで母体と生まれてくる赤ちゃんに大きなメリットがあるといえましょう。
妊婦さんに行うワクチンは以前乳幼児に使用された3種混合ワクチン(DTap:トリビックⓇ)で妊娠27~36週の間に1回の皮下注射で行います。以前お話ししたRSウイルスワクチン(アブリスボⓇ)は筋肉注射で接種経路は異なりますが、副作用発現の確認と一部で同時接種による効果減弱の恐れも指摘されておりますので、両方の接種を希望される方は1-2週間のインターバルをおいた方がよろしいでしょう(残念ながら他県での流行のため、現在百日咳ワクチンの入手が困難な状況であることを申し添えます)(2025.6.1)。