みなさん、こんにちは

 前回の本稿の掲載時期は東京五輪の最中でしたが、本稿はパラリンピックの最中にHPに上げてます。今回もリアルタイムではなく、開会式当日に本稿をまとめています。オリンピックでは日本選手団の活躍が日々伝えられておりましたが、パラリンピックではいかがでしょうか?メダルには表すことができない感動に満ちた大会になるといいですね。

 会期中、オリンピックそのものの関係者内にクラスターが頻発して競技の運営に悩まされるということはないように思えました。しかし専門家会議の尾身会長がお話ししていました通り、五輪開催そのものが、暗に人々に何かしらの意識を催し、デルタ株の猛烈な流行になったことは否めません。首都圏を中心に、適時に適切な入院対応が困難となり、罹患した妊婦さんが早産となって赤ちゃんを救命することができなかった事例は、皆さんの記憶にも新しいことではないかと思います。この事例についてはまだ詳細を理解しておりませんので、今回の本稿では触れないで現在の第5波の問題を別の側面から見てみたいと思います。

 首都圏では中等症Ⅱの患者さんも入院するまで数日待機しなければならない状況で、東京都では入院までの状況悪化を回避する目的で、酸素ステーションの運営も始まりました。現在軽症であると、ある程度の治療戦略が確立されているので、早期回復が期待できるようです。しかしデルタ株の場合、従来型と比べ入院のリスクが2.2倍、集中治療室の入室が3.8倍になるという報告があります。そうなるといくら医療施設に重症例管理病床の増床をお願いしても、既存のICU病床の対応にスタッフが寝食を削らければならないほど忙殺されているため、そう容易に対応できるわけではありません。

 重症病床が満床となり医療スタッフの疲弊も増して医療崩壊の危機が叫ばれている中、皆さんは「医師の2024年問題」というのはご存じでしょうか?早い話、今巷で言われている「働き方改革」を、医師の労働にも適用し「時間外労働時間の上限制限」を設けるという話です。その背景には皆さんもご存じの通り、過重労働による「医師の健康被害」があり、その状況を打破するために規制を設けるということです。

 一般的な時間外労働の上限は原則「年360時間以下/月45時間未満」ですが、今回の上限制限では医師の時間外労働時間は休日労働を含んで原則「年960時間以下/月100時間未満」となっています(これをA水準といいます)。しかし地域で緊急性の高い医療を提供している医療機関(B水準)や、研修医などが症例研鑽を積むような大学病院のような医療施設(C水準)では、「年1,860時間以下/月100時間未満」に規制が緩くなっています。これらの労働条件を満たすためには、イメージとして地域の基幹病院においては当直明けの医師はそのまま休むということになり、「当たり前の労働者の生活」を送ることが期待できます(それまでは当直明けも通常勤務でした)。

 産科医療は母児に予想だにしない「落とし穴」があるため、自ずと年1,860時間以下のB.C水準の医療施設扱いになります。そこで2024年問題を受け日本産科婦人科医会で調査したところ、分娩施設勤務の産婦人科医の時間外労働は月平均5.4回の当直を含め年2,034時間に及び、現状の勤務では規制水準を大きく上回るものになっていました。産婦人科という昼夜問わない分娩に携わる診療科としては、年1,860時間というハードルのクリアが非常に難しい問題であることがわかります。

 私の勤務医の頃は、「分娩100件につき医者一人」の考えで関連病院の配属がされておりました。でも私が当地に来た頃は、年間分娩220件を私一人で対応しておりました。その頃は大学より月8日の診療応援をいただいていましたが、それ以外はすべて私ということで、夜中のお産が終わっても翌日の朝から外来、午後は手術、そしてお産・・・そんな勤務の時代でした。今鹿角市の分娩数は年間120件ほどです。先の理論でいうと産科医一人で切り盛りすることになります。でも「働き方改革」に従うと2~3人増員しないと医師の労働環境は守られない・・・でもそれだけの人数となると病院としてペイできない・・・するとやはり集約化するしかない、ということはご理解いただけるのではないでしょうか?ここ数か月、当地における分娩施設再開の要望の声を耳にしましたが、働き方改革の問題を見据えると、なおさら困難ではないかと私は考えております(2021.9.1)。



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院長のcapricciosa(気まぐれ)