みなさん、こんにちは

 先月は記録的な大雨で、本県をはじめ北東北の各地域に大きな爪痕を残しました。当地区もかつてないほどの降雨量となり、隣接する大館市とを結ぶJR花輪線の復旧には1年を要するとのことです。この度の大雨で被災された皆様には、心からお見舞い申し上げます。

 さて先日、アメリカ合衆国連邦最高裁判所は1973年に人工妊娠中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド」判決を覆す判断を下しました。この問題は銃規制と並び米国国民の注目を集めていましたが、結果は時流に抗ったともとられるものでした。判決の背景には国内の社会的・政治的問題もあるのでしょうけど、現状日本のシステムで診療を行っていますと、なかなか消化できない問題であると受け止めざるを得ません。

 女性の生命および心身の健康を守るためには、人工妊娠中絶が必要な場合があります。日本では「母体保護法」という法律により人工妊娠中絶の安全が守られてきました。母体保護法は1996年に制定された法律で、2017年5月の本稿でも取り上げております。中絶手術を行う際には本人の同意はもちろんですが、①相手が死亡した場合、②相手が不明で特定できない場合、③性暴力下で妊娠させられた場合を除いて、同意書には「配偶者同意」の記載が必要になります。先日ニュース番組で、この「配偶者同意」について取り上げておりましたので、今月のテーマとしました。

 番組では産婦人科医師に対して行った「配偶者同意」についてのアンケート結果を紹介しておりました。そもそもですが「配偶者同意」という文言自体、「母体保護法」の前身である1948年に制定された「優生保護法」を踏襲していますので、現代の社会情勢にはそぐわないと感じられていると思います。

Q1:未婚者の中絶手術の同意書に胎児の父の同意を・・・?
    (未婚なので法律でいう配偶者がいない)
 →求める:32.5% 求めないこともある:62.4% 求めない:5.1%
Q2:既婚者の中絶手術の同意書の「配偶者同意」の記載には・・・?
    (胎児の父が配偶者とは限らない)
 →配偶者:54.1% 胎児の父:18.2% 空欄にする:30.7%
Q3:強制性交要件による中絶手術の同意書に「配偶者同意」の記載を・・・?
 →求める:9.9% 強制性交の確証なくとも求めない:47.1% 強制性交の確証あれば求めない:26.6% 当該案件手術は回避する:16.4%
という結果で、各質問での自由記載を見ると、それぞれの医師がイレギュラーな症例毎に、法的解釈に苦慮している実態が垣間見られました。

 最近よく目に耳にする「SDGs(詳しくは2021.4.1の本稿を参照)」にともない、「SRHR」という言葉も見かけるようになりました。「SRHR」は「セクシャルリプロダクティブヘルス&ライツ」の略で、以下の4つの柱からなっています。
・ セクシャル・ヘルス:自分の「性」について、心身ともに満たされ、社会的にも認められていること。
・ リプロダクティブ・ヘルス:妊娠したい/したくない、産む/産まない、いずれにおいても心身ともに健康でいられること。
・ セクシャル・ライツ:自分の「性」のあり方を、自分で決める権利。
・ リプロダクティブ ・ライツ:産む/産まない、いつ/何人子どもを持つか、妊娠、出産、中絶について 十分な情報を得て、自分で決める権利。
 
  「配偶者同意」の案件は、「SRHR」における「産まない権利」の「足かせ」になっていることは否めません。でも「権利」には「義務」が表裏一体にあると思うのです。私はそれが「胎児の父」が「妊娠を見届ける」義務だと考えています。「妊娠」という現象は女性にとって心身ともに多大なストレスになる一方で、ややもすると何もストレスのない男性は自身の責任で生じた妊娠を「他人事」としてみてしまうかもしれません。それゆえ「胎児の父」が中絶を選択する女性の気持ちに少しでも寄り添う証になるのであれば、法的拘束力のレベルを「努力義務」へ落としても、(記載条件を満たしていない症例では)同意書にサインしていただきたいと一産婦人科医として思っています。(アンケートの詳細は「人工妊娠中絶の“配偶者同意” 産婦人科医たちの戸惑い」 https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0029/topic082.html をご参照ください)(2022.9.1)。

院長のcapricciosa(気まぐれ)
バックナンバー